Fantasist 2

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あらすじ
高校生の弥生が同じクラスのみどりのあとをつけていくと、グリーン=ブルーに
行ってしまった。ニャーオが行方不明になっているときいた弥生は、助けに行こ
うとする。

 本作品は、「Fantasist」 を読んだあとでお読みになることをお勧めします。


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Fantasist 2

                            Green-Blue tales

                              斎木 直樹

     プロローグ

 中間試験も文化祭もやっと終わった、某都立高校の一教室の中。時は折しも五時間
目。彼女は頭を急いで上下に動かしていた。と、言っても勿論、一生懸命黒板の字を
書き写しているわけではない。目は半分閉じ、頭はもうろうとしている。つまり、食
後のいい天気に誘われて、うとうとしているわけだ。
        みどり
 彼女の名は水越碧。この高校の二年生だ。学業成績は良くはなく、今は帰宅部に在
籍中という、あまり模範的とは言えない生徒である。彼女にそう言えば、きっとこう
返してくるだろう。それは副業のせいだ、と。その副業のせいかどうかは判らないが、
彼女は普通ではなかった。
 高校生の副業、と言われてモデルかアイドルか、と思った方には残念ながら、みど
りはそんなに可愛い顔とは言えない。眉はくっきりとしていて目はぐりぐりのどんぐ
り眼、ただしよく見ると黒に少しだけ緑がかっているのが判る。鼻は決して高いとは
言えないし、口は大きすぎるほどだ。肌は日に焼けていて浅黒く、健康的と言えるだ
ろう。髪は、ついこの間まではばさばさのショートだったのだけれど、近頃伸ばし始
めたのかおかっぱ――みどりに睨まれたので訂正する――やっとボブくらいになって
きた。けれど、ぱっと見はまだ元気な子、という感じだ。
 前回の倫理のテストでは赤点ぎりぎりだったみどりは、授業を聞いていなくてはい
けないはずなのだが……ま、努力は認めよう。
 その時、みどりに小さな声が聞こえてきた。学校では聞こえるはずのない、声だっ
た。
「グリーン様」
 小さな鈴のような、甲高い声の持ち主に思い当たり、みどりは珍しくも女の子のよ
うな叫び声をあげた。
 神経質そうな教師の眼鏡の向こうの冷ややかな目と、クラスメイトのひそやかな笑
い声に、みどりは適当な笑いで答えると座りこみ、ふてくされた顔でリィンを睨んだ。
 すると、きらきら輝きながら皮の筆入れに腰かけている、全長十センチメートルほ
どの、羽がついたお人形のようなものは、気まずそうな顔をして見せた。みどりは仕
                   ライト
方ないな、となるたけ独り言のようにして光の精に話しかけた。うまいことに、周り
の連中は既に寝入っている。
「何かあったの。学校には来るなって、あれほど言っておいたのに」
 その嫌みな調子が聞いたのか、その光の精は光を弱めてしゅんとなった。が、次の
瞬間には任務に目覚め、すっかり立ち直ってしまった。リィンは小さな握り拳を作っ
て口を開いた。
「最長老殿よりの御伝言です。大魔女ミオ・ウィッチ様が行方不明になられました」
「ニャーオがっ」
 思わず立ち上がってそう叫んでしまったみどりが、ゆっくりと顔を上げた先には、
口の端を上げたまま凍りついている男の顔があった。


 何とか言い訳をすると、みどりは教室から脱出した。授業が終わるまで待ってなん
かいられない。みどりは左耳のピアスを外しながら、リィンを促した。
「この建物の裏に、装置を設置してあります。どうぞお早く」
 みどりは、何気なく外したピアスを空中に放り投げた。すると、それは宙に消失し
た。
 セイトさんが越界装置まで用意させるということは、事態は相当ひっぱくしている
ということだ、とみどりは判断した。
 駆け出そうとはやる気持ちを抑え、早足で歩くみどりの耳に、今出てきたばかりの
教室が騒ぐ音が聞こえてきた。けれど、みどりにはそれよりもニャーオのことが気に
なった。
 来年に改築する予定のとても綺麗とは言えない、所々天井が破けていたりもする廊
下を、いつものように光の精を肩に乗せ、できるだけ音を立てないように小走りで走
り抜け、みどりは上履きのまま校舎の裏に出た。
 そこでは、三人の妖精が真剣な顔で正の結界を張っていた。正の結界とは、その内
側に存在する魔力を強めるもののことだが、人間界では普通の人間は結界の中のもの
に注意を向けられなくなる、つまり人間、普通の人間はその中のものが見えなくなる
という効果も備えている。
         ホールド
「休んでいいわよ。把持は私がするから」
と、みどりが声をかけると、妖精達はほっと息をつき、汗を拭った。
 結界を作ること自体は、道具を使えばある程度簡単なのだが、それを維持するには
大きな魔力を必要とする。貴族でさえ、長くは難しい。
 その結界を、みどりは微動だにせず受けとめ、把持した。家臣たちのさすが陛下、
という目に出そうになる溜息を押さえ、みどりは言った。
「さ、じゃ耳をふさいで。高等言語を使うから」
 皆が急いで手を耳にやるのを見届けると、みどりはそっと目を閉じ、集中するため
に手で印をつくった。
『古からなるグリーンブルーの名において命ず。神聖なるグリーンブルー、天と地を
治める王家の血を継承する者、正当なる末裔たる我、グリーン・グリーンブルーが命
ず。今ここへ幻想界への、我が王国妖精国グリーン=ブルーへの扉を開き賜え』
 高等言語、またの名を神聖言語は一語で約一千語を意味するので、本来ならば一時
間あまりかかる越界の儀式も、これくらいに省略できる。ただし、王族または魔女以
外の、普通の妖精には発音すらできない上に、聞くだけで発狂することもあるという。
 みどりが唱え終わると、正の結界内でしか臨時に設置することはできない越界装置
が作動し、辺りがゆっくりと暗くなってきた。結界外のものがうっすらとぼやけて見
えるようになってきた時。
 ぐらりと、空間全体が揺れたような感触がした。
「きゃあっ」
「グリーン様っ」
 耳元で叫ぶリィンの声に、みどりは顔を引き締めた。
「大丈夫。何か異物が入ってきたようだけれど、調整されたから。虫か何かでしょう」
 そう言っている間にも、視界は再び明るくなってきていた。懐かしい一面の緑と青。
「着いた」
 みどりは息をつくと、辺りを見回した。人工物らしいものは一切見あたらない。東
京とは違う、どこまでも青い空。緑の群。今だけではない、一年中花が咲き乱れる、
常春の美しい国。あたし達の、あたしの国。
 その額には汗が輝き、手は固く握りしめられていた。いくら国王のみどりであって
も、越界装置を一人で動かすのは大仕事だ。
 その時、聞き覚えのある声が聞こえた。
「ここは、一体」
 幻想界では聞こえるはずのない、声だった。
「弥生?」

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Last modified 2007.6.12.
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