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Fantasist 2

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Fantasist 2

                            Green-Blue tales

                              斎木 直樹

     7 親迎

 弥生の姿がすっかり見えなくなったのを確認すると、みどりはゆっくりと歩き始め
た。いくらか行くと、黒い瞳、黒い髪、黒い翼の男女が彼女を取り囲んだ。若者と中
年の間の者が多い。闇の精の、おそらくはグヴェンダリンの者に違いないだろう。
 みどりは彼らに向かって、にっこりと笑いかけた。用心していた者たちは、ぎくり
と身を固めた。
「グヴェンダリン・ウィザードのところまで、案内してもらえるかしら」
「案内するまでもない。私はここにいる――女王陛下」
 そう言って、ゆっくりと前に出てきた女は、魔女の印である黒衣を身につけていた。
身のこなしは穏やかだが、中には激しすぎる情熱を抱えているのだろう。中年と呼ぶ
には若すぎるその女は冷たい、だが驚きのこもった目でグリーン女王を見つめている。
「まさか、女王ご本人がいらっしゃるとは。それだけあの娘が重要というわけですね」
 冷ややかな声にも、みどりは動揺は見せなかった。
「ニャーオは私の友人だもの」
 グヴェンは、皮肉に笑みを浮かべた。その髪は、ごく実用的にまとめてある。こぼ
れ髪が気になるように、彼女は言った。
「結界を解いてくれたということは、こちらの指示に従っていただけるということな
のでしょうね、陛下」
「ニャーオを返してくれるのならね」
 みどりは、ふ、と空中に現れたピアスを受けとめると、それを素直に左耳にはめた。
人間界ではめていたものだ。
 彼女たち双子は、人間界では魔力を使えない状態にするために、魔女達の魔力の封
印に似たものを施されていた。あるものを身につけていると、魔力が使えない状態と
なるのだ。あおいの封印はだて眼鏡であり、みどりの封印は左耳のピアスであった。
この封印の作業は長老、そしてグヴェンダリンが行った。
 みどりはおとなしく魔女達と歩いていった。しかし、その目は彼女のことを、じっ
と見つめていた。


 とりあえずみどりに教えられた方へと歩いてきた弥生だが、彼は立ち止まっていた。
 どうしよう。今ならまだ、追いつけるかもしれない。リィンは、みどりは人質にな
るつもりだ、と言っていた。人質なんて、殺さなければ何をしてもいいものだ、と。
 弥生は、みどりのことが心配だった。そして、ニャーオのことも。彼女は今まさに、
人質にされているんじゃないのか。いいや、ニャーオ自身が目的なら、彼女を行方不
明にさせるのが目的なら、一番簡単なのは、殺してどこかに捨ててしまうことなので
はないのか。みどりは、ニャーオは傷つけられてはいないだろうって言ってたけど、
そんなこと、誰にも判らない。
 そんなことをもんもんと考え込んでいると、視界に一人の女が入ってきた。
「みどりっ」
 そう叫ぶほど、それはみどりに酷似していた。そのように見えた。が、彼女の笑い
方に、弥生は違和感を覚えた。
「いや……あおい、さん?」
 みどりと同じ長さに髪を切ったあおいは、まっすぐに弥生に近づいてきた。いつも
の大人らしい笑みはなく、やや無愛想な表情だ。
「そうよ。さ、行きましょう」
「あおいさんだけで、ニャーオの方は大丈夫だろう。俺は」
 あおいは、駄々っ子をからかうように笑った。
「駄目、よ。私は、ニャーオを助けたらすぐにでもみどりのところへ行きたいの。あ
なたには、ニャーオについていて欲しい」
 けれど、弥生は必死だった。
「俺が、みどりのところへ行くよ」
 真剣な目に、あおいは笑いをもらした。
「あなたじゃ無理よ。あっちにはウィザードがいるのよ。捕虜を増やすのが落ちだわ」
 弥生はしばらくあおいを睨みつけていたが、全く動じないあおいに、ふっと力を抜
いた。
「判ったよ。みどりは言わなかったけど、俺は邪魔なんだな」
「その通りよ。足手まといは切り捨てたいの」
 弥生は、綺麗な顔してきついこと言うな、と顔をしかめた。しかし、これがあおい
の本性なのだろう。そして本性が出るということは、それだけ余裕が無くなっている
ということなのかもしれない。
 あおいは、弥生に手早く指示を出した。
「あなたの周囲二メートルに、負の結界を張るわ。その中では魔力が効かなくなるか
ら」
「え、姿が見えなくなるってのは。そういえばあおいさん、俺のこと見えるんだな」
「みどりがしていたのね。でも、もうあなたの姿は誰にでも見える。離れすぎたか、
封印されたか。ま、そんなところよ。で、後は後遺症が残らない程度に好きなように
して。鍵とかは、私が壊すから。質問は?」
 なんか、口調がみどりと似てるな、と弥生は笑いたくなった。似てないように見え
ても、姉妹ってとこか。環境が同じなんだから、仕方ないよな。
「好きなようにって、あおいさん」
 面食らっている弥生に、あおいはずけずけと続けた。
「私はそんな野蛮なことはしないけれど、弥生君はけんか強いんでしょう?ま、お仕
置きぐらいしてあげてもいいと思うわよ。弥生君、剣道やってる?」
 弥生は目をしばたたかせて、体育の選択は柔道だから、と答えた。するとあおいは、
どこからか洋風の剣を取り出して、至極残念そうに言った。
「そうか。じゃ、これいらなかったわね」
「な、それ真剣じゃ。あおいさん、一体何考えてんだよっ」
 少し赤くなってまくしたてる弥生に、あおいはきょとんとして見せた。どうやら本
気で困惑しているようだ。
「何って、使ってもらおうと思って」
「そんなもん使ったら死んじまうだろっ。第一、真剣なんて重すぎて、使えやしねえ
って」
 一瞬使おうと思ってるところが怖い。
「そう言えばそうね。これ、結構重くて。残念だわ」
と、あっさり言うと、あおいは宙に剣を消し、手をぱんぱんと叩いた。
「残念ってねー、あおいさーん」
 続けて説教しようとすると、弥生は目の前に一軒の小屋があることに気付いた。小
屋と言っても平屋なだけで、いくつか部屋がありそうに広い。
 弥生がぎくりと身を固くすると、おもむろにあおいは手を出し、その戸をノックし
た。こんこん、といい音がした。
「な、何」
 あおいは、真剣な顔で人差し指を立てて唇に当て、小さな声でこう言った。
「入るときは、ノックしなきゃ」
 弥生が何か言おうと口を開けた時、戸が太い声とともに開いた。
「おう、早かったな。さっきの、何だったん」
 見覚えのない男女に、戸を開いた男は顔をしかめた。が、若い美女の無邪気そうな
笑みに、その顔はあっけなくも崩れた。
「こんにちは。ちょっとおうかがいいたしますけれど」
「はあ、何でしょう」
「少し眠っててもらえます?」
 男が聞き返そうとしたとき、がん、という鈍い音とともに、彼の意識は消え去って
いった。
 弥生は、脚を下ろしながら言った。
「あおいさーん。無茶苦茶なことしないで下さいよー」
 困った顔をしつつも、結構楽しそうである。
「そんなに無茶かしら。でも、急いでるから」
 その語尾に、ひゅんっと風を切る音が重なった。弥生が、はっと音のした方を見る
と、大きな火の玉が二人の向かって飛んできていて、そしてきっかり二メートル前で
消えた。
 あおいは、むっとした顔をして言った。
「いきなり炎弾とは、ご挨拶ねえ。弥生君、お仕置き」
「俺、あおいさんの召使いじゃないんだけどなあ」
とか、ぶつぶつ言いながらも、弥生は壁の陰に隠れていた、少しひ弱そうな赤毛の男
の腹を思いっきり殴り、とどめにと首根っこをがつんと打った。男はがく然としたま
ま、抵抗しようとさえもしなかった。負の結界の中で結界を維持するなどということ
は、彼の知識の範ちゅうを越えていた。
 弥生が息をついていると、背後で物音がした。振り返ると、剣が真上から降りかか
ってきていた。
 弥生が奇声をあげて目をつぶると、ぱきゃ、と妙な音がした。目を開くと、剣の刃
は粉々になっていた。男は、剣が砕けた衝撃と、弥生が目を閉じると同時に必死で繰
り出した蹴りとで打ちのめされて、壁に寄りかかってうめいた。
「ちょっとダメージがたんなかったか」
と、いう声に上を向いた時には、既に弥生の拳が振りかざされていた。
 いてて、と弥生が開いた手を振っていると、突如、目の前二メートルのところに女
が現れた。彼女は、短剣を構えていた。目も真剣だ。
 ひっ、と弥生は何とか避けた。
「ちょっと、あおい、さん、女の人は、俺」
 避けるのに精一杯の弥生にあおいは、のんびりとした声で言った。どうやら、短剣
がよく見えないのでさっきのように割ってはくれないらしい。
「あら、男女差別はいけないわよ、弥生君。同じように扱ってあげなくちゃ。それに、
魔女は護身術も習ってるから、なめてかかるのも失礼よ」
「それを早く言ってよ」
 弥生は刃をすれすれのところで避けると、少し顔をしかめて彼女の刀を握った方の
腕を後ろにねじりあげ、急所を一撃した。
 弥生が、女の身体に手を合わせて軽く謝るのを見て、あおいは意外そうにしていた。
「フェミニストだったとは、知らなかったわ」
「俺の甘いマスクが、そう言ってたと思うけど」
 軽く前髪を払って言う弥生に、あおいは思いっきり明るく、きゃははと笑った。こ
ういう笑い方は、あおいには珍しい。
「甘いってところはカットした方がいいわね」
 弥生は唇をかみ、失礼なと返した。
「だって、たかが人間にそんなこと言われてもねえ。こっちは毎日、ナイトみたいな
美形を見てるのよ」
 ナイトと聞いて弥生は少し考えたが、すぐに思い出した。みどりの彼氏か。
「ナイトって、そんなにかっこいいのか」
「みどりは自分が醜いからって、面食いなのよ。それに、かっこいいって言うより、
綺麗ね」
 あおいはそう言いながら、次の扉を勢いよく開けた。中には二人の女と、一人の男
がいた。
「何もするな。妙なことをすれば、ミオの命はないぞ。結界を解け」
 椅子に縛り付けられた少女の首には、アーミーナイフくらいの大きさの刃物が突き
つけられていた。そしてその顔には、何の表情もなかった。まるで死人のように。
「ニャーオっ」
 弥生は叫んだ。しかし、それに答える声はなかった。
 緊迫した表情の弥生とは反対に、いまだにのんびりとした声であおいは言った。
「何もさせないか、何かさせるかどっちかにしたらどうなの」
 ニャーオに短剣を突きつけた、ブルーの母親ほどの年の焦げ茶の髪の女――黒衣は
着ていないが、おそらく魔女なのだろう――は、一瞬顔を赤くしたがすぐに冷静にな
った。
 ブルーは笑みも脅えも見せずに、ただ立っていた。しかしそれだけでも、女は彼女
の与える圧迫感に異常なほどのあせりと、そのあせりに対する戸惑いを覚えていた。
「私がその気になれば、そんな刃などすぐに壊せるということも判っているのでしょ
う」
「ええ、グリーン陛下。あちらからどうやって抜け出したのかは判りませんが、あな
たがあまり魔力のコントロールが良くないことは聞いています。そんなことをすれば、
間違ってミオに取り返しのつかないことが起こるかもしれませんよ」
 弥生がかたずを飲んでニャーオの首筋を見つめていると、背後から男に身体をつか
まれた。大男は、彼を軽々と宙に持ち上げてしまう。抵抗しようとも思わなかったが、
正直、抵抗できなかった。
 あおいは、弥生の方を振り向きもせずに、にこっと笑った。こうしているととても
可愛らしいのだが、あおいの場合この笑顔がくせものだ。
「それはどうかしら」
 ブルーが手を振り上げようとするのに気付くと、女はナイフを持った手に力を入れ
ようとした。が、その手はただ握られただけだった。
 女がはっとブルーを見やると、彼女は、先ほどまで女が手にしていたに違いない刀
に口づけを与えていた。女がそれに気付くと同時に、大男は弥生をつかんでいた手を
放した。手を上げたまま目をひんむき、震えながら青筋を立てている。
 弥生は落ちたときに打った腰の痛みに顔をしかめながら、男のこめかみを思いっき
り体重をかけてぶっ叩いた。すると、それまでびくともしなかった男の身体は後ろに
勢い良く倒れた。
 女は手ぶらのまま首を振り振り、一歩、後ずさった。
「そんな、ばかな」
「もう一人の誰かさんと、勘違いしたみたいね」
 女は目をしばたたかせた。彼女は、両女王を間近に見たことがあった。その顔に、
笑みに似たものが浮かんだ。
「まさか、ブルー女王?」
 彼女の目がブルー女王の美しい笑みをとらえた時、彼女の腹部を強烈な痛みが襲っ
た。気を失うまでまでのわずかな時間に、女はごめんね、という少年の声を聞いた。
それは、里に来て以来会っていない、手紙の返事もくれない兄の声を思い起こさせた。
 あおいが手に入れた短剣で、ニャーオを椅子に縛り付けていた縄をほどくと、ニャー
オはそのまま横に倒れ込み、二人は彼女をそっと床に寝かせた。
 弥生は、じっとニャーオのことを見ていた。
 ニャーオの背は伸び、全体的にいくらかふくよかになっていた。頬の肉がなくなっ
ているが、それは食物をとっていないからだろう。身体は魔女の黒服で隠されていた
が、胸も目だつほどに成長している。と、そこまで見て、弥生は目を逸らした。うう、
こんな時に。俺ってやましい。
 ニャーオは、部屋に入ったときと同じ血の気の失せた無表情な顔をしていて、うつ
ろな目はどこも見ていなかった。しかし浅くとも息はしているし、脈もしっかりして
いる。
「ニャーオは、どうしたんだ」
 あおいはひとところに魔女達を集めると、しばらく目が覚めないように施した。気
を失っている者にこの術を使うのは、たやすいことだ。
 あおいの振り返った顔に、弥生はぎくりとした。あおいは、静かな声で答えた。
「感覚遮断されているようね。なんて危険な術を……彼女は、相当頭にきてるみたい
ね。しかも、的を射ている」
「そんなこと言ってる場合かよっ。一体、どうすればいいんだ」
 かっとなった弥生に、あおいは極めて冷静に言った。それがまた、弥生には憎たら
しく思えるのだ。
「大丈夫よ。後遺症が残るのは、解く人が失敗したらだから。ニャーオなら上手くや
るわ。少し、目と耳を閉じててもらえるかしら」
 弥生が素直に従うのを確認すると、あおいはある一連の動作と共に微かな声で呪文
を唱えた。ニャーオにかけられた、魔力の封印を解くためのものだった。彼女の脳は
理解はしていないが、感覚の信号は伝わっているはずだから効き目はある。
 魔女の長老は、即位の前日に彼女たち二人をわざわざ魔女の里に呼び出し、魔力の
封印を解く方法を教えた。それは、まだ魔力を使い始めたばかりの彼女たちには難し
いものだったが、長老はどうしても、と何回も何回も根気よく教えた。まるで、すぐ
に使う時が来ると判っていたように。
 あおいは軽く首を振ると、弥生に大きめの声で言った。
「これで五分もすればニャーオは自分で遮断を解いて気がつくわ。青玉をニャーオに
持たせて」
 弥生は、みどりに渡された青く丸い石を急いで取り出した。青玉っていうのか。
「ニャーオが起きたら、城にナイトがいるからって伝えて」
「あおいさん」
 気を付けて、と言いかけた弥生に、あおいはいきなり言った。
「私が、みどりにグヴェンのところへ行くように言ったの」
「あおいさん?どうして。あおいさんは、みどりのことを」
 そこまで言って、弥生は止めた。あおいがみどりのことを思っていないわけがない。
あおいは、いつもみどりのことをどんな風に見ていた?どんな風に語っていた?
「それが、一番ニャーオが安全になる方法だから。グヴェンダリンにとって、今やみ
どりのほうが重要な駒となった」
「でも、みどりは怖がってた」
「けれど、そうしなければいけないことも判っていた。弥生君。私達は、ただの高校
生が事件に巻き込まれたんじゃないの。私達は国王として、国民を守る義務がある」
 弥生は顔をゆがめた。それを持ち出されては、たまらない。しょせん自分は、この
世界では異邦人なのだから。
「最初から、あなた達をついて行かせるべきではなかったのよ。魔女の里までならま
だしも、出たらすぐに帰すべきだった。そうしなかったのは、あの子の弱さよ。そん
な時でも冷静でいられることは、みどりにはできない」
 それがみどりのいいところなのだ、とあおいの表情は語っていた。
「それにね、みどりには『力』があるわ」
「ニャーオにだってあった」
「私達は、魔女じゃない。ニャーオにかけられたような強い魔力の封印はないの。そ
れにしょせんウィザードごときが、私達に魔力で対抗することなど、無理なのよ」
 根拠のない自信ではない。あおいは事実を語っていた。
「さっき言われたとおり、みどりはまだコントロールが上手くない。できるかぎり使
わないようにとは、言っておいたわ。あの子の仕事は、ニャーオを送り返すまでの時
間稼ぎ」
 あおいは、悪戯っぽく弥生に微笑みかけた。
「みどりはそれをなすべきだと判っているし、できる。そうでしょう?」
 弥生は肯定した。そうだ。そして、どちらにしろ、俺には何もできない。
 弥生は、死んだように横たわっているニャーオを見つめた。ここに来るのだって、
みどりとあおいさんに連れてきてもらっただけなんだ。俺には、何の力もない。
 ふ、とあおいの方を見ると、彼女は意外な顔をしていた。思い詰めたような、悲し
いような、嬉しいような。弥生には、理解不能な表情だった。
「今のニャーオには、弥生君が必要なのかもしれない」
「え?」
 あおいは、思いっきり情けない顔をしている弥生に、微笑んでみせた。とても綺麗
だった。けれど、どこか細く見えた。
「あなたのことを、足手まといだと言ったけれど、それはあちらへ行ったらという意
味よ。ここでは、あなたは立派に役に立った」
 とらえどころのない人だな、と思った。見ている分には美しいが、その美しさは常
に変わっていく。ある時には非情なほどに冷たく、ある時には暖かく包み込む。
「でも、あおいさんは一人でも」
「私はできるだけ魔力を消費したくなかったから、あなたがいてくれて助かったわ」
 あおいのはかなげな微笑みに、弥生は照れたようにうつむいた。
「そして、あなたには腕力以外の力がある。人間に与えられた、魔力とは違う『力』
が。それが、今のニャーオには必要なのかもしれない。もう行くわ。じゃあ、また後
で」
 弥生に何も言う隙を与えず、あおいは消え去った。影も形も残さずに。

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Last modified 2007.6.12.
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