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 本作品は、世界設定ばらしが非常に多く含まれています。他のGreen-Blue talesシリーズを読んでからの方が、いいかもしれません。


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   碧


                            Green-Blue tales

                              斎木 直樹

     終章 二つの冠

 軽く、ノックがあった。
 はいと返事をすると、彼が入ってきた。あたしは、微笑もうと努力をしなくてはな
らなかった。
「髪、切ったんだね」
 ナイトの髪は、人間界の男性にしては長めと言うくらいに切られていた。
 彼は軽く頭を振って髪をなびかせると、綺麗な顔を微笑ませた。その瞳には、もう
あの哀しみは残っていない。あたしも、やらなくちゃ。
「ああ、これ。今まで、父さんのことや何かで切れなかったんだけれど、やっと切れ
たんだ。全部、みどりとあおいのおかげだ」
 あたしはにっこりとした。今度は、素直に笑えた。
「そんなことない。ナイトが頑張ったからだよ。あたし達は、手伝っただけ」
「いいや。二人がいなかったら、全て駄目になっていた。俺も、この国も。サマンサ
に聞いたんだ。もうずっと人口が減っているんだって。生まれてくる子は少なく、死
ぬ者は多い。確実に滅びへ向かっているって」
「そう」
 ナイトは今日も黒い服を着ているが、それは闇の精の正装だからだ。この頃は他の
色の服も着ている。彼はじきに闇の精の長となり、ゆくゆくはセイトさんの跡を継い
で最長老兼相談役になってもらうことになるだろう。
「知っていたのか?」
 あたしは頷いた。
「あおいと話した。この国の人口は、外敵も天災もない割には少なすぎるから」
 ナイトは心を打たれたような表情を、にこっとさせた。ああ、綺麗だ。
「やっぱり二人のおかげだ。ありがとう」
 あたしが言い返すのを、ナイトは遮った。
            ヒーリング          シンパシー
「それにしても、みどりは治癒能力だけじゃなくて、同調能力もあんなにすごかった
なんてな」
「それは言わないでって、言ったでしょう。恥ずかしい」
 どうやら、あたしはあの黒玉が天に昇って感情が高揚したとき、他の人を同調させ
ていたらしい。きちんと言うと、自分の感情をそこにいた人たち全てに伝え、同じ気
持ちを味あわせていたと。今考えても恥ずかしい。
「恥ずかしいなんてとんでもない。あんなに強い同調能力なんて、前代未聞のものな
んだよ。それに、あれがあったからみんなは君の気持ちを本当に理解できたんだ。そ
れこそ、痛いほどにね」
 セイトさんは言った。この恐ろしく強い同調能力のために、あたしは黒玉を媒介し
てダイの心象を受け取ることができたのだろうと。そしてこの能力は野放しにすると
ひどく危険なので、みっちり訓練いたしましょうね、とも。
 あたしは、力無く首を振った。
「そんな力使わなくても、判ってもらえる方法はいくらでもあるはず。あたしは、そ
の方がいい」
 ナイトは明るく吹き出した。あたしは、切ないような気分になった。
「そう言うところが、いかにもみどりだ。あ、もう行かなくちゃ。今日は戴冠式なん
だから、主役が遅れちゃ駄目だよ」
「あ、ナイト」
 ナイトはふいと振り返った。眩しい笑顔。うん。
「あのね」
 あたしは、ゆっくりとつばを飲みこむ。
 判ってる。あたしは、あの子を殺したりはしない。どちらもなくさないために、あ
たしは勇気を出して進まなくてはならない。大切なものを、なくさないために。勇気
を。
「あのね。あたし、ナイトに言わなくちゃいけないことがあるの」
 ナイトは少し不思議そうにしてから、思い当たったような表情になった。そして、
目を緩めてあたしを見た。
「それって、俺の喜ぶこと?」
「――うん」
 ナイトは、本当に笑った。
「じゃ、聞かせて」




 戴冠式のあと、あたし達は国民に挨拶をしてくれと相談役のセイトさんに言われた。
出番を待っているとき、あおいがふと、
「うまくいったみたいね」
と、言った。あたしはきっと、真っ赤になっていただろうけど、その時は頭が真っ白
になって何も言えなかった。
 そんなあたしを見て、あおいはにやりとしてとんでもないことを言い出した。
「あのね、ナイト。みどりには、五つの時から好きだった子がいたの」
「あおいっ?」
 あおいはすました顔で続けた。
「その子は黒髪に深い青の瞳の王子様で、みどりを王女にしてあげるって約束したの
よ。もっとも、私達は王女だったんだから、お笑いだけどね」
「何言って……」
 黒髪に深い青い瞳?王子様?小さな赤紫の花畑。学校に行っていない――王になる。
そんな、ばかな。
「覚えていたのか」
 ぼそっとナイトが言った。
「え」
「もう、忘れているんだと思っていた」
 何、何のことなの。判らない。
「俺はずっと、覚えていた。一度だけ遊んだ、あの女の子のことを」
「そんな」
 判らない?本当に?最初から、そうだといいと思っていたんじゃないの?
「あのあと、俺は一生懸命に勉強した。王になるためなら、何でもしようと思った。
あの子は、父に言われるままにしてもいい、たった一つの理由だった。たとえその子
が、現女王の孫であっても」
「うそ」
「私は、覚えてたわよ」
 あおいは、いつもの意地悪顔でにやりとした。あたしはもう、何も考えることも言
うこともできず、酸欠状態だった。
「一度、ここに来たことがあるのよ。セイトさんに聞いたんだけれど、前はあの箱を
開けるだけでここに来れたんですって。あたし達がここに間違って来てから、呪文と
鍵の二つの鍵をつけたんだそうよ」
「そんな、でも」
 あたしはまだ、夢の中にいるような心地だった。もしかしたら全てが、幻想界に来
てからのことは全部夢だったと言われるのではないかと、恐れさえした。
 現実から呼ぶ声がした。セイトさんだ。
「両陛下、どうぞ」
 あたしがナイトの顔を見ると、彼は軽く頷いた。
 前に出るて見下ろすと、実際にはない熱気がむんと押し寄せてくるのを感じた。ざ
わめきが更に大きくなる。でも、もう気圧されたりしない。この人たちは、あたし達
と共に歩む人たち。
 私達の名を呼ぶ声がする。顔には、自然と笑みが浮かんでくる。すう、と深く息を
吸う。にっこりと笑う。
「皆さん。あたし達は、この国を愛しています」

 

         おわり

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Last modified 2007.6.12.
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