分離派建築博物館--蔵田 周忠 --

郊外にたたずむ民家 〜初期木造作品〜 -2-


旧 聖シオン会堂 (現 日本聖公会ミカエル教会)

設計:蔵田 周忠.........................場所:東京都渋谷区...........................建築年代:1926(大正15)年.....................現存しない(1966年建替えの為取壊し)




建築当初(「建築画報」(1926年5号)より)

内部に露出させた木製トラス構造を持つ簡素な教会堂。三角形の尖った屋根と傾斜した板張り
の外壁によるシンプルな立体の建物で、大正期の田園風の作品群のひとつとして位置づけられ
る。その外観から信者の間では「箱舟教会」というニックネームで親しまれていた。

蔵田は建物だけでなく家具やステンドグラスなどと共にトータルにデザインしたことを建物の
解説記事の中で語っており、戦後に建て替えられた教会の内部にも会衆席(2脚)などの一部
の家具とステンドグラスが残されている。

蔵田は家具の設計に際して、同僚の東京高等工芸学校教授森谷延雄から塗装や制作業者につい
てのアドバイスを得たことも記されている。
森谷延雄はあくまでもアドバイスしただけで、この建物のデザインを直接行ったわけではない。
しかしながらここ最近、森谷延雄展が行われた際に森谷の現存作品が皆無であったため、少し
でも関与した意味でこの会衆席が展示された。どうもそれが原因で家具の作者が森谷であると
いう誤った情報が定着してしまった感がある。
家具類をデザインしたのは間違いなく蔵田である。


内部−長老座席(「建築画報」(1926年5号)より)


老朽化の為1966(昭和41)年にシオン会堂は建替えられ教会名称も変更された。(奇しくも取壊さ
れた年は、蔵田の没年でもあった)しかし建物本体のうち木製トラス梁は他の教会堂を新築す
る際に再利用された(今ではその建物も現存しない)。     

移設再利用された旧シオン会堂の梁

現ミカエル教会に残る長椅子


蔵田によるステンドグラス(教会堂建替えの際の記念の写真葉書)
このステンドグラスについて、分離派の仲間からクリムトの作風に似ているとの評を得たと伝え
られる。