旅とバイクのページ |
温泉といっても山の一軒宿から超豪華リゾートホテルまでいろいろあるけど、湯治
場の雰囲気を味わえる秘湯と言ったらやはり東北である。その数といい、イメー
ジといい東北が温泉のメッカだと断言しても異論は殆ど出ないだろう。
もう数年前になるが、ゴールデン・ウィ−ク直前に妻とオートバイで東北の秘湯巡りに出たことがある。その時泊まった3軒の宿は今もそれぞれに思い出深く心に残っている。
89.4.27
十和田市より奥入瀬に入り、八甲田へ向かうと、途中「蔦温泉」を経て「谷地温泉」に至る。そこはすでに八甲田山中。4月下旬とは思えぬ残雪の量も、雪中行軍遭難の地に程近い事を知れば自ずと納得できる。東北では雪に閉ざされる冬季は閉鎖する宿も多い。私達が冷雨の中到着したときも、谷地温泉は再開したてらしくまだ化粧直しに追われていた。
冷え切っていた私達は早く風呂に入りたく、さっそく宿泊予約していた旨告げると、予約など聞いていない、しかも営業は明日からの予定なのだと返答された。何の手違いがあったのだろう、予約したはずの宿が泊まれない事を知り私達は力が抜け途方に暮れてしまった。
ところが宿の人は好意からか、同情からか、何のためらいもなく開業を一日早め、私達に宿を提供してくれたのだった。(相手にも責任があるわけで当然といえば当然だけど・・・)
もうその時の嬉しさと言ったらない。天にも昇る気持ちとはこういうことか、みんないい人ばかりで、濡れた雨がっぱや靴下はどんどんストーブに干してくれるし、ずぶ濡れの私達にイヤな顔一つせず心から歓迎してくれた。お手伝いの人達は皆かっぽうぎ姿でいかにも東北のおばちゃんと言ったふう、本当に人なつっこく話好きだ(上の写真左の人物もその一人)。なにしろ宿泊は私達だけ、貸し切りみたいなものである。上げ膳下げ膳もおばちゃんたちが団体でどやどやとやって来たりして驚くやら、恐縮するやら、準備中とは言えサービスも満点。
雨は夜更け過ぎに雪へと変わり、静かな夜が訪れた。翌日が気掛かりだったが、料理は温かくおいしかったし、とにかく貸切りの温泉は最高の一言。湯治場そのものと言った混浴の湯船は熱いのと微温いのと2つあり交互に浸かって楽しむ。ついでに女湯ものぞいたら家族風呂みたいな小ささで、温泉全体を妻と2人で独占できた幸運を感謝しつつ、ゆっくり、じっくり、旅の疲れを癒した。
翌日、雪は20cmも積ったが幸い除雪車も入りオートバイでも走れそうなので予定通り出発することにした。みんな名残惜しそうに見送ってくれ、しかもワインを一本お土産にもらってしまった。私達は本年度第一号の記念すべき客だからということだった。
私達は至れり尽くせりのサービスに謝意の言葉も見つからず、満足感一杯で、小雪舞う中思い出深い宿を後にしたのだった。
89.4.28
その日、八甲田山を彷徨い、雪化粧した奥入瀬、十和田湖を見物した私達は、深い谷底へ10kmも砂利道を下り、ランプの宿として知られる青荷温泉に泊まった。ここも、山奥の一軒宿で知る人ぞ知るという人気の宿。全館照明は石油ランプのみという趣向も楽しい。ほんのり暖かみのあるンプの灯りの下での食事や入浴は風情があって旅情をくすぐられること請け合いだ。ただし、夜中に便所へ入るのにはきもだめし以上の度胸が要る。(便器の真下は谷川に直結の超水洗便所で音が物凄かった)
最高なのは川沿いの露天風呂だ。真っ暗な中、ランプ一つで湯船につかり満天の星を見上げれば、大自然の中にどこまでも自分が溶け込んでいって、その浮遊感といったらたまらない。極上の酒や、音楽以上の至福がそこにはある。
ただ一つ、興醒めなのは非常口だ。これだけは発電機を回してまで螢光灯の明かりを使っている。安全管理上仕方のないことなのだろうが、非常口はランプの照明より数段明るく周囲を照らし、その部分だけがやけに白々しく浮き上がってしまっていた。
89.4.30
夏油と書いて(げとう)と読む。岩手県花巻市から、細い山道を延々1時間以上も走り続けてやっと着くわりには温泉自体は開けていて、秘湯のイメージは少ない。○○ホテルと名のつく旅館やクアハウスもある。とはいえ、木造の古い棟並が残っていたり、宿が自炊部と旅館部とに分かれていたりと、昔ながらの湯治場の雰囲気はたっぷり味わえる。もちろん歓楽街など一切ない。(もちろんこれは1989年当時の話だ、今はスキー場もある)
私達の泊まった旅館は、料理や旅館自体に取り立てて言うことは何もなかったが、風呂だけは文句無しの立派さであった。この時もほとんど貸切り同然で、数十人は入れそうな大浴場を2人で独占してしまった。泳ごうが歌おうが自由であり、男湯であろうが女湯であろうが勝手に入れる(小さな衝立で仕切られているだけ)というのは最高の気分。露天風呂こそ整備中で入れなかったが内湯だけでも十分満足し、楽しんでしまたのであった。
Rider
Shigeo ::GXR-1100-R SUZUKI
Yumiko::ZXR-400 Kawasaki
制作著作
ぷにぷに新報社
copyright by shigeo kimura