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Last updated 05/06/2015(ver.2-5)
渋谷栄一翻字(C)

  

行 幸

凡例
1 本稿は、『大島本 源氏物語』(1996(平成8)年5月 角川書店)を翻刻した。よって、後人の筆が加わった現状の本文様態である。
2 行間注記は【 】− としてその頭に番号を記した。
2 小字及び割注等は< >で記した。/は改行を表す。また漢文の訓点等は< >で記した。
3 合(掛)点は、\<朱(墨)合点>と記した。
4 朱句点は「・」で記した。
5 本文の校訂記号は次の通りである。
 $(ミセケチ)・#(抹消)・+(補入)・&(ナゾリ)・=(併記)・△(不明文字)
 ( )の前の文字及び( )内の記号の前の文字は、訂正以前の文字、記号の後の文字が訂正以後の文字である。ただし、なぞり訂正だけは( )の前の文字は訂正後の文字である。訂正以前の本行本文の文字を尊重したことと、なぞり訂正だけは元の文字が判読しにくかったための処置である。
6 朱・墨等の筆跡の相違や右側・左側・頭注等の注の位置は< >と( )で記した。私に付けた注記は(* )と記した。
7 付箋は、「 」で括り、付箋番号を記した。
8 各丁の終わりには」の印と丁数とその表(オ)裏(ウ)を記した。
9 本文校訂跡については、藤本孝一「本文様態注記表」(『大島本 源氏物語 別巻』と柳井滋・室伏信助「大島本『源氏物語』(飛鳥井雅康等筆)の本文の様態」(新日本古典文学大系本『源氏物語』付録)を参照した。
10 和歌の出典については、伊井春樹『源氏物語引歌索引』と『新編国歌大観』を参照し、和歌番号と、古注・旧注書名を掲載した。ただ小さな本文異同については略した。

「みゆき」(題箋)

  かくおほしいたらぬことなく・いかてよからむ
0001【かくおほしいたらぬ】−玉
0002【いかてよからむ】−\<朱合点>
  ことはと・おほしあつかひ給へと・このをとなし
0003【このをとなしのたき】−\<朱合点> 「とにかくに人めつゝみをゝ(ゝ$せ)きかねて/したになかるゝをとなしの瀧」(付箋01 出典未詳、源氏釈・奥入・異本紫明抄・紫明抄・河海抄) いかにしてイカヽ(イカヽ#イカヽ)よからん小野山の上よりおつる音なしのたき(出典未詳、河海抄・弄花抄・一葉抄・細流抄・紹巴抄・岷江入楚)
  のたきこそ・うたていとおしく・みなみのうへ
0004【みなみのうへ】−紫
  の御をしハかり・ことにかなひて・かる/\しかるへ
  き御なゝれ・かのおとゝなにことにつけても・き
0005【かのおとゝ】−致ー
  はきはしうすこしもかたはなるさまの
  こと越・おほししのはすなとものしたまふ・御
  心さまをさて思ひくまなくけさやかなる
  御もてなしなとのあらむにつけてハ・おこかまし
  うもやなと・おほしかへさふ・そのしはすに大原」1オ
0006【大原野の行幸】−醍醐御門延長六ー十二月五日大原行幸

  野の行幸

て・よにのこる人なくみさハ
  く越・六条院よりも・御かた/\ひきいてつゝ
  みたまふ・うの時にいてたまうて・朱雀より
  五条のおほちをにしさまにおれたまふ・かつ
  らかハのもとまて・物見くるまひまなし・行
  幸といへと・かならすかうしもあらぬを・けふハ
  みこたち・かむたちめもみな心ことに・御むま
  くらをとゝのへ・すいしんむまそひの・かたち
  たけたち・さうそくを・かさりたまふつゝ・めつ
0007【たけたち】−セイ高
  らかにおかし・左右大臣・内大臣・納言より・しも」1ウ

  はた・ましてのこらすつかうまつり給へり・あ
  を色のうへのきぬ・ゑひそめのしたかさねを・
  殿上人五位六位まてきたり・雪たゝいさゝ
  かつゝうちゝりて・みちのそらさへえむなり・
  みこたち・かむたちめなとも・たかにかか
  つらひたまへるハ・めつらしきかりの御よそ
  ひともを・まうけ給・このゑのたかゝいとも
0008【まうけ】−儲ナリ
  ハ・ましてよにめなれぬすり衣をみたれき
0009【めなれぬすり衣】−左鷹飼ハ赤白鶴ハミノ摺衣右青白橡三公卿ミナ布狩衣ニ摺文アリ付餌袋巻冠姿
  つゝ・けしきことなり・めつらしうおかしき
  ことにき越ひいてつゝ・その人ともなく・かす」2オ

  かなるあしよはきくるまなとわ越・おしひ
  しかれ・あはれけなるもあり・うきハしのもと
  なとにも・このましうたちさまよふ・よきく
  るまおほかり・にしのたひのひめきみも・た
0010【にしのたひのひめきみ】−玉
  ちいてたまへり・そこはく・いとミ・つくし給
  へる人の御かたちありさまをみ給に・みかとの
  あか色の御そたてまつりて・うるハしう・うこ
  きなき御かたハらめに・なすらひきこゆへ
  き人なし・わかちゝおとゝを・人しれす・め越つ
  けたてまつり給へと・きら/\しう物きよけに」2ウ

  さかりにはものしたまへと・かきりありかし・いと
  人にすくれたる・たゝ人とみえて・御こしのうち
  よりほかに・めうつるへくもあらす・ましてかた
  ちありや・おかしやなと・わかきこたちのき
  えかへり心うつす・中少将なにくれの殿上人
  やうの人ハ・なにゝもあらすきえわたれるハ・
  さらにたくひなうおはしますなりけり・源氏の
  おとゝの御かほさまハ・こと物ともみえ給ハぬを・
  おもひなしのいますこし・いつかしうかたしけ
  なく・めてたきなり・さハかゝるたくひハ・おはし」3オ

  かたかりけり・あてなる人ハみな物きよけにけ
  ハひことなへい物とのミ・おとゝ・中将なとの御に
0011【おとゝ】−源
0012【中将】−夕
  ほひにめなれ給へるを・いてきえともの・か
  たハなるにやあらむ・おなしめはなともみえ
  す・くちおしうそをされたるや・兵部卿宮
0013【兵部卿宮】−蛍
  もおはす・右大将のさハかりをもりかに・よし
0014【右大将】−ヒケ
  めくもけふのよそひいとなまめきて・やなく
0015【やなくひ】−箙
  ひなと・おひてつかうまつり給へり・いろくろ
  く・ひけかちにみえて・いと心月なし・いかて
  かハ(ハ+女の<朱>)つくろひたてたるかほの色あひにハにた」3ウ

  らむ・いとわりなきこと越・わかき御心地にハ・見を
  としたまうてけり・おとゝの君のおほしより
  ての給ことを・いかゝハあらむ宮つかへハ心にもあ
0016【宮つかへハ】−玉
  らて・みくるしきありさまにやとおもひつゝ
  ミ給うを・なれ/\しきすちなと越ハ・もて
  はなれておほかたにつかうまつり御らむせら
  れんハ・おかしうもありなむかしとそ思より
  たまうける・かうてのにおハしましつきて・御こ
  しとゝめ・かむたちめのひらハりに物まいり・御さう
0017【ひらハり】−アクノ座
  そくとも・な越し・かりのよそひなとにあらた」4オ

  め給ほとに・六条院より御みき・御くた物なと
0018【六条院より】−模延長六ー六条院ハ宇多御門也今ハ源ー
  たてまつらせ(△&せ)給へり・けふつかうまつり給へて(て$く<朱>)・か
  ねて御けしきありけれと・御物いミのよしを
  そうせさせ給へりけるなりけり・くら人の右(右$左<朱>)
0019【左衛門のせうを】−是ハ模延長四ー小野行幸
  衛門のせうを御つかひにて・きしひとえたた
0020【ひとえた】−梅作枝紅葉等ヲシ折也不付一双産所へ遣根引松雀付竹
  てまつらせたまふ・おほせことにハなにとかや・
  さやうのおりのこと・まねふにわつらハしく
0021【さやうのおりのこと】−作者詞
  なむ
    雪深きをしほの山にたつきしの
  ふるき跡をもけふハ尋よ太政大臣のかゝる野」4ウ
0022【太政大臣の】−光孝ー仁和二ー十二月昭宣基経太政大臣奉供

  の行幸に・つかうまつり給へるためしなとやあ
  りけむ・おとゝ御つかひを・かしこまりもてなさせ
0023【かしこまり】−不参故也
  給
    小塩山みゆきつもれる松原にけふはか
0024【小塩山】−源氏返し
  りなるあとやなからむと・そのころをひ・きゝ
0025【そのころを】−作者詞
  しことの・そハ/\思いてらるゝハひかことにやあ
  らむ・又の日おとゝにしのたいに・きのふうへハ・
0026【おとゝ】−源
0027【にしのたい】−玉
  みたてまつりたまひきや・かのことハおほしな
0028【かのこと】−参内
  ひきぬらんやときこえ給へり・しろきしき
0029【しろきしきしに】−源ヨリ
  しに・いとうちとけたるふミこまかにけしき」5オ

  はみてもあらぬか・おかしきをみたまうて・あい
0030【おかしきを】−源氏文也詞のおほき也
  なのことやとわらひたまふ物から・よくもおし
  ハからせ給物かなとおほす・御返にきのふハ
    うちきえしあさくもりせしミ雪にハ
0031【うちきえし】−玉かつら文返し
  さやかに空の光やはみしおほつかなき御
  ことともになむとある越・うへもみたまふさゝ
0032【うへも】−紫
  のことをそゝのかしかと・中宮かくておはす・こゝ
0033【中宮】−秋
  なからのおほえにハ・ひなかるへし・かのおとゝに
0034【かのおとゝ】−致
  しられても・女御かくて又さふらひ給へハなと・思み
0035【女御】−弘ー
  たるめりしすちなり・わか人のさもなれつ」5ウ

  かうまつらむに・ハゝかるおもひなからむハ・うへをほ
  のミたてまつりて・えかけはなれて思ふハあ
  らしとの給へハ・あなうたてめてたしとみたて
  まつるとも・心もて宮つかひ思たゝむこそ・いと
  さしすきたる心ならめとてわらひたまふ・いてそ
  こにしもそ・めてきこえたまはむなとのた
  まふて・又御返
    あかねさす光ハ空にくもらぬをなとて
0036【あかねさす】−源氏
  ミ雪にめ越きらしけむな越おほしたて
  なとたえすすゝめ給・とてもかうても・まつ御」6オ

  もきのこと越こそハとおほして・その御まう
  けの御てうとのこまかなるきよらともく
  はへさせたまひ・なにくれのきしきを・御心
  にハいともお(お+も)ほさぬこと越たに・をのつから・よた
0037【よたけく】−長ー
  けくいかめしくなる越・ましてうちのおとゝ
  (+に<朱>)も・やかてこのついてにや・しらせたてまつりて
  ましとおほしよれハ・いとめてたう所せきまて(う所せきまて$く<朱>)
  なむ・としかへりて二月にとおほす・をむなハき
  こえたかく・なかくしたまふへきほとならぬ
  も・人の御むすめとてこもりおはするほとハ・かな」6ウ

  らすしも・うちかミの御つとめなと・あらハならぬ
  ほとなれ(△&れ)ハこそ・とし月ハまきれすくし給へ・この
  もしおほしよることもあらむにハ・かすかのかみ
  の御心たかひぬへきも・つゐにハかくれて・やむま
  しき物から・あちきなくわさとかましきのち
  の名まて・うたゝあるへし・な越/\しき人
  のきはこそ・いまやうとてハ・うちあらたむる
  ことのたハやすきもあれなと・おほしめくら
  すに・おやこの御ちきりたゆへきやうなし・お
  なしくハ・我心ゆるしてを・しらせたてまつら」7オ

  むなと・おほしさためて・この御こしゆひにハ・かの
  おとゝをなむ・御せうそこきこえ給ふけれハ・
  大宮こそのふゆつかたより・なやミたまふこと
  さらにをこたりたまハねは・かゝるにあはせて・
  ひなかるへきよしきこえ給へり・中将の君も・
  よるひる三条にそさふらひ給て・心のひまな
  くものしたまうて・おりあしきを・いかにせま
  しとおほす・よもいとさためなし・宮もうせ
  させ給ハゝ・御ふくあるへきをしらすかほにて
  ものし給はむ・つミふかきことおほからむ・お」7ウ

  ハする世に・このことあらはしてむと・おほしとり
  て・三条の宮に御とふらひかてらわたりたまふ・
  いまはましてしのひやかにふるまいたまへと・
  みゆきにおとらす・よそほしくいよ/\ひかりを
  のミそへ給ふ御かたちなとのこの世にみえぬ
  心ちして・めつらしう見たてまつり給にハ・いとゝ
  御こゝちのなやましさも・とりすてらるゝ心
  ちしておきい給へり・御けうそくにかゝりてよは
  けなれと・物なといとよくきこえ給・けしうハ・
  おはしまささりけるを・なにかしのあそむの」8オ
0038【なにかしのあそむ】−夕

  心まとハして・おとろ/\しう・なけきゝこえ
  さすめれハ・いかやうに物せさせたまふにかとな
  む・おほつかなかりきこえさせつる・うちなとに
  も・ことなるついてなきかきりハ・まいらす・おほ
  やけにつかふる人ともなくて・こもりはへれは・
  よろつうゐ/\しう・よたけくなりにてはへ
  り・よはひなとこれよりまさる人・こしたへぬ
  まて・かゝまりありくためし・むかしもいまも
  ハへめれと・あやしくおれ/\しき本上に・そふ
  ものうさになむはへるへきなときこえ給・と」8ウ
0039【としのつもりの】−大宮詞

  しのつもりのなやみとおもふ給へつゝ・月ころに
  なりぬるを・ことしとなりてハ・たのミすくな
  きやうにおほえはへれは・いまひとたひかく
  みたてまつりきこえさすることもなくてや
  と・心ほそく思たまへつるを・けふこそ又・すこ
  しのひぬる心ちしはへれ・いまハおしミとむへ
  きほとにもはへらす・さへき人/\にもたち
  をくれ・よのすゑにのこりとまれるたくひを・人
  のうへにていと心月(月$つき<朱>)なしと見はへりしかは・
  いてたちいそきをなむおもひもよをされ」9オ

  はへるに・この中将のいとあはれにあやしき
  まて・おもひあつかひ心越さはかいたまふ見
  はへるになむ・さま/\に・かけとめられて・いまゝ
  てなかひきはへると・たゝなきになきて
  御こゑの・わなゝくも・おこかましけれと・さるこ
  とゝもなれハ・いとあはれなり・御物かたりとも
  むかしいまのとりあつめきこえたまふつい
  てに・うちのおとゝは・日へたてすまいりた
0040【うちのおとゝ】−源詞
  まふことしけからむを・かゝるついてにたいめむ
  のあらハ・いかにうれしからむ・いかてきこえしら」9ウ

  せんと・思ふことの侍を・さるへきついてなくて
  ハ・たいめんもありかたけれハ・おほつかなくてな
  むときこえたまふ・おほやけことのしけき
  にや・わたくしの心さしのふかゝらぬにや・さしも
  とふらひものしはへらす・のたまはすへからむ
  ことは・なにさまのことにかハ・中将のうらめし
  けに・おもはれたることもはへるを・はしめの
  ことハしらねと・いまはけにきゝにくゝもてなす
  につけて・たちそめにし名のとりかへさるゝ物に
0041【たちそめにし】−\<朱合点> 古今 村鳥のたちにし我名今更に(古今674・新撰和歌272・古今六帖4330、異本紫明抄・河海抄・孟津抄・岷江入楚)
  もあらす・おこかましきやうに・かへりてハよ人」10オ

  も・いひもらすなるをなとものしはへれハ・
  たてたる所むかしより・いとゝけかたき人の本
0042【たてたる所】−致ー
  上にて・心えすなんミ給ふると・この中将の御こ
0043【この中将】−夕
  とゝおほしての(の+た)まへハ・うちわらひ給て・いふかひ
0044【うちわらひ給て】−源ー
  なきにゆるして(て$<朱>)すてたまふこともやときゝ
  はへりて・こゝにさへなむ・かすめ申やうありしか
  と・いときひしう・いさめ給よしを見侍しの
  ち・なにゝさまて・ことをもませはへりけむと・人
  わるう・くいおもふたまへてなむ・よろつのこと
  につけて・きよめといふことはへれは・いかゝハ」10ウ

  さもとりかへし・すゝいたまハさらむとハ・思たまへ
  なから・かうくちおしき・にこりのすゑにまち
  とり・ふかうすむへき水こそ・いてきかたかへい
  よなれ・なにことにつけても・すゑになれは・お
  ちゆくけちめこそやすくはへめれいとほし
  うきゝたまふるなと申たまうて・さるハかのし
  り給へき人をなむ・おもひまかふることはへり
  て・ふいにたつねとりて侍を・そのおりハ・さる
0045【ふいに】−不意
  ひかわさとも・あかし侍らすありしかハ・あなか
  ちにことの心をたつねかえさふ事もはへら」11オ

  て・たゝさるものゝくさのすくなきをかこと
  にても・なにかハとおもふたまへゆるして・おさ/\
  むつひもみはへらすして・とし月はへりつる
  を・いかてかきこしめしけむ・うちにおほせら
  るゝやうなむある・ないしのかみミやつかへする
0046【ないしのかみ】−尚侍
  人なくてハ・かの所のまつりこと・しとけなく
0047【かの所】−賢所
  女官なとも・おほやけこと越△(△#)つかうまつるに
  たつきなく・ことみたるゝやうになむありけ
  るを・たゝいまうへにさふらふ・こらうのすけ
  二人・又さるへき人/\さま/\に申さする越・」11ウ

  ハか/\しうえらはせたまはむたつねに・た
  くふへき人なむなき・猶いへたかふ人のおほえ
  かろからて・いへのいとなミ・たてたらぬひと・なむ
  いにしへよりなりきにける・したゝかに・かしこき
  かたのえらひにてハ・その人ならても・とし月の
  らうになりのほるたくひあれと・しかたくふ
  へきもなしとならハ・おほかたのおほえをたに・
  えらせたまハんとなむ・うち/\におほせられ
  たりしを・にけなきことゝしも・なにかハおもひた
0048【にけなきこと】−御返ニ
  まはむ・宮つかへハ・さるへきすちにて・上も下」12オ

  も・思ひをよひいてたつこそ・心たかきことなれ・
  おほやけさまにて・さる所のことをつかさとり・
  まつりことのおもふきを・したゝめしらむことは・
  はか/\しからす・あはつけきやうにおほえた
  れと・なとか又さしもあらむ・たゝわか身のあり
  さまからこそ・よろつのことはへめれと・思よわり
  侍しついてになむ・よはひのほとなとゝひ
0049【よはひの】−玉
  きゝはへれハ・かのおほむたつねあへいことに
0050【おほむ】−御
  なむありけるを・いかなへいことそとも・申あ
  きらめまほしうはへる・ついてなくてハたい」12ウ

  め侍へきにも侍らす・やかてかゝることなんとあ
  らハし申へきやうを・思めくらして・せうそこ
  まうしゝを・御なやみにことつけて・ものうけに
0051【御なやみに】−三条
  すまひたまへりしけに・おりしもひんなう
  おもひとまり侍に・よろしうものせさせ給けれ
  ハ・猶かうおもひおこせるついてにとなむおもふ
  給ふる・さやうにつたへものせさせたまへときこえ
  給ふ・宮いかに/\侍けることにか・かしこには・
0052【宮いかに/\】−三条詞
0053【かしこには】−致ー
  さま/\にかゝるなのりする人をいとふことな
  く・ひろいあつめらるめるに・いかなる心にて・かく」13オ

  ひきたかへ・かこちきこえらるらむ・このとし
  ころうけたまはりてなりぬるにやときこえ
  たまへハ・さるやうはへることなり・くハしきさ
0054【さるやう】−源
  まハ・かのおとゝもをのつから・たつねきゝた
0055【かのおとゝも】−致ー
  まうてむ・くた/\しきな越人のなからひ
  に・ゝたることにはへれは・あかさんにつけても・らう
  かはしう・人いひつたへはへらむを・中将のあ
0056【中将】−夕ー
  そんにたに・またわきまへしらせはへらす・人
  にももらさせ給ましと・御くちかためきこえ
  たまふ・うちのおほゐとの・かく三条の宮に」13ウ
0057【うちのおほゐとの】−致ー

  大きおとゝわたりおはしまいたるよしきゝた
0058【大きおとゝ】−源ー
  まひて・いかにさひしけにて・いつく(く$か<朱>)しき御さ
0059【いかにさひしけにて】−致ー詞
  ま越・まちうけきこえ給らむ・こせんとも・も
  てはやし・おましひきつくろふ人も・はか/\
  しうあらしかし・中将ハ御ともにこそ・ものせら
0060【中将】−夕
  れつらめなと・おとろき給ふて・御ことも
  の君たち・むつましう・さるへき・まうち君
0061【まうち君】−五位以上ヲ云大夫達<マウチキン>
  たち・たてまつれ給・御くた物御みきなと・さり
  ぬへくまいらせよ・身つからも・まいるへきを・
  かへりて物さハかしきやうならむなとのた」14オ

  まふほとに・大宮の御ふミあり・六条のおとゝの
0062【大宮】−三条
0063【六条のおとゝの】−詞
  とふらひにわたりたまへるを・物さひしけに侍
  れハ・人めのいとおしうも・かたしけなうもある
  を・こと/\しう・かうきこえたるやうにハあら
  て・わたり給なんや・たいめむに・きこえまほし
  けなることもあなりときこえ給へり・なにこ
0064【なにことにかは】−致ー詞
  とにかハあらむ・このひめ君の御こと・中将の
0065【この姫君】−雲井ー
0066【中将】−夕
  うれへにやと・おほしまハすに・宮もかう御世のこ
  りなけにて・このことゝせちにのたまい・おとゝ
  もにくからぬさまにひとことうちいてうらミた」14ウ

  まはむに・とかく申かへさふことえあらしかし・つ
  れなくておもひい(ゝ&い)れぬをみるにハ・やすからすさる
  へきついてあらハ・人の御ことになひきかほにて・
  ゆるしてむとおほす・御心をさしあはせての
  たまはむことゝおもひよりたまふに・いとゝいなひ
  所なからむか・又なとか・さしもあらむと・やすら
  はるゝ・いとけしからぬ・御あやにく心なりかし・
  されと宮かくのたまひ・おとゝも・たいめむす
0067【宮】−三条
0068【おとゝも】−源ー
  へく・まちおはするにや・かた/\にかたしけなし・
  まいりてこそハ・御けしきにしたかハめなと」15オ

  おもほしなりて・御さうそく心ことにひきつく
  ろひて・こせんなともこと/\しきさまにハ
  あらてわたりたまふ君たち・いとあまた・ひき
  つれていりたまふさま・もの/\しうたのもし
  けなり・たけたちそゝろかに・ものしたまふに・
  ふとさもあひて・いとしうとくに・おもゝちあゆ
0069【しうとく】−宿徳
0070【おもゝち】−面持
0071【あゆまひ】−歩体也
  まひ・大臣といはむに・たらひたまへり・ゑひそめ
0072【ゑひそめ】−[艸+補]ー
  の御さしぬき・さくらの下かさねいとなかうハし
  りひきて・ゆる/\とことさらひたる御もてなし・
  あなきら/\しとみえたまへるに・六条とのハ・さ」15ウ

  くらのからのきの御な越し・いまやういろの御そひ
  きかさねて・しとけなきおほ君すかた・いよ/\
  たとへん物なし・ひかりこそまさり給へ・かうしたゝ
  かに・ひきつくろひ給へる御ありさまに・なすら
  へてもみえたまはさりけり・きみたち・つき/\
  に・いと物きよけなる御なからひにてつとひ給へ
  り・藤大納言春宮大夫なと・いまハきこゆる
  こともゝ・みななりいてつゝ・ものしたまふ・をのつから
  わさともなきに・おほえたかくやむことなき殿
  上人・くらひとのとう五位のくら人・近衛の中」16オ

  少将弁官なと・人からはなやかにあるへかしき・
  十よ人つとひたまへれは・いかめしうつき/\
  のたゝ人もおほくて・かハらけあまたゝひな
  かれ・みなゑひになりて・をの/\かうさいはひ
  人に・すくれ給へる御ありさまを・物かたりにしけ
  り・おとゝもめつらしき御たいめんに・むかしの
  ことおほしいてられて・よそ/\にてこそはか
  なきことにつけて・いとましき御心も・そふへか
  めれ・さしむかひきこえ給てハ・かたみにいと
  あはれなることのかす/\おほしいてつゝ・れいの」16ウ

  へたてなくむかしいまのことゝもとしころの
  御物かたりに・日くれゆく・御かはらけなとすゝめ
  まいりたまふ・さふらはてハあしかりぬへかりける
0073【さふらはてハ】−致ー詞
  を・めしなきにはゝかりて・うけたまはりすく
  してましかハ・御かうしや・そハましと申たまふ
0074【御かうし】−考事
  に・かむたうハこなたさまになむかうしとおも
0075【かうしと】−源
  ふことおほくはへるなと・けしきはみたま
  ふに・このことにやとおほせハ・わつらハしうてかし
0076【このこと】−雲ー
  こまりたるさまにてものしたまふ・むかしより
  おほやけわたくしのことにつけて・心のへたて」17オ

  なく・大小のこときこえうけたまはり・は
  ねをならふるやうにて・おほやけの御うし
  ろミをも・つかうまつるとなむおもふたまへし
  を・すゑのよとなりて・そのかミ思たまへし・ほ
  いなきやうなることうちましりはへれと・う
  ちうちのわたくしことにこそハ・おほかたの心さ
  しハさらにうつろふことなくなむ・なにともな
  くてつもりはへるとしよはひにそへて・いにし
  へのことなん・こひしかりけるを・たいめん給はる
  ことも・いとまれにのミはへれハ・ことかきりありて・」17ウ

  よたけき御ふるまひとハ思たまへなから・したし
  きほとにハ・その御いきをひをも・ひきしゝめ
  たまひてこそハ・とふらひものしたまハめとな
  む・うらめしきおり/\はへるときこえた
  まへハ・いにしへハ・けにおもなれてあやしくたい
0077【おもなれて】−忍
  たいしきまて・なれさふらひ心にへたつること
  なく・御らむせられしを・おほやけにつかうま
  つりしきはゝ・はね(ね+を<朱>)ならへたるかすにも・思ひ
  はへらてうれしき御かへりみをこそ・はか/\
  しからぬ身にて・かゝるくらゐにをよひ侍て・」18オ

  大やけにつかうまつりはへることにそへても・お
  もふたまへしらぬにハはへらぬを・よはひのつ
  もりにハ・けにをのつからうちゆるふことのミな
  むおほく侍けるなと・かしこまりまうしたまふ・
  そのついてに・ほのめかしいて給てけり・おとゝ
0078【そのついてに】−源ー
0079【ほのめかしいて】−玉かつらの君の事
0080【おとゝ】−致ー
  いとあはれにめつらかなることにも侍かなと・まつ
  うちなき給て・そのかみよりいかになりに
  けむと・たつねおもふたまへしさまハ・なにの
  ついてにか侍けむ・うれへにたへす・もらしきこし
  めさせし心ちなむし侍る・いまかくすこし人」18ウ

  かすにもなりはへるにつけて・はか/\しからぬ
  ものともの・かた/\につけて・さまよひ侍を・かた
  くなしくみくるしと・見侍につけても・又さる
  さまにてかす/\につらねてハあはれにおもふた
  まへらるゝおりにそへても・まつなむ・思たまへ
  いてらるゝとのたまふついてに・かのいにしへの
  あまよの物かたりに・いろ/\なりし御むつこと
  のさため越・おほしいてゝ・なきミわらひミ・みなうち
  みたれたまひぬ・夜いたうふけて・をの/\あかれ
  たまふ・かくまいりきあひてハ・さらに・ひさしく」19オ

  なりぬるよのふることおもふた(ふた&ふた)まへいてられ・
  こひしきことのしのひかたきに・たちいてむ心
  ちもしはへらすとて・おさ/\心よハくおハし
  まさぬ・六条とのもゑいなきにや・うちしほれ
  たまふ・宮はたまいてひめ君の御こと越おほし
0081【ひめ君の御こと】−あふひの上の御事也
  いつるに・ありしにまさる御ありさま・いきをひ
0082【ありしにまさる】−\<朱合点> 伊勢 出ていなハ誰かわかれのかたからん有しにまさるけふハかなしも(伊勢物語77、異本紫明抄・紫明抄・河海抄・孟津抄)
  を見たてまつりたまふに・あかすかなしくて・
  とゝめかたくしほしほとなきたまふ・あまころも
0083【あまころも】−大宮
  ハけに心ことなりけり・かゝるついてなれと・中将の
0084【中将】−夕ー
  御ことをハ・うちいてたまはすなりぬ・ひとふしよう」19ウ

  いなしとおほしをきてけれハ・くちいれむことも
  人わるくおほしとゝめ・かのおとゝはた人の御
  けしきなきに・さしすくしかたくて・さすかに
  むすほゝれたる心ちしたまうけり・こよひも
  御ともにさふらふへきを・うちつけにさハかしく
  もやとてなむ・けふのかしこまりハ・ことさらに
  なむまいるへくはへるとまうしたまへハ・さらハ
  この御なやミもよろしうみえたまふを・かなら
  すきこえし日たかへさせ給はす・わたり給へき
  よしきこえちきりたまふ・御けしきとも」20オ

  ようて・をの/\いてたまふひゝきいといかめし
  きみたちの御ともの人/\・なにことありつる
  ならむ・めつらしき御たいめにいと・御けしきよけ
  なりつるハ・又いかなる御ゆつりあるへきにかなと・
0085【いかなる御ゆつり】−この事ハしらす雲井の雁の事とひか心えたる人々ハおもふ也
  ひか心越えつゝ・かゝるすちと(と+ハ)おもひよらさり
  けり・おとゝうちつけに・いといふかしう・心もとなう
  おほえたまへと・ふと・しか・うけとり・おやからむ
  も・ひなからむ・たつねえたまへらむハしめを・
  おもふに・さためて心きようみはなち給ハし・
  やむことなきかた/\を・はゝかりて・うけはりて・」20ウ

  そのきハには・もてなさす・さすかにわつら
  ハしう・物のきこえ越思て・かくあかしたまふ
  なめりとおほすハ・くちおしけれと・それをき
  すとすへきことかハ・ことさらにも・かの御あた
  りに・ふれはハせむに・なとかおほえのおとら
  む・宮つかへさまに・おもむきたまへらハ・女御
  なとのおほさむことも・あちきなしとおほせ
  と・ゝもかくもおもひよりの給はむをきてを・
  たかふへきことかハと・よろつにおほしけり・かくの
  たまふハ・二月ついたちころなりけり・十六日ひ」21オ

  かむのハしめにて・いとよき日なりけり・ちかう又
  よきひなしと・かうかへ申けるうちに・(に+宮<朱>)よろしう
0086【宮】−大宮
  おハしませはいそきたちたまうて・れいの
0087【れいの】−源
  わたりたまうても・おとゝに申あらハしゝさまなと・
  いとこまかにあへきこととも・をしへきこえ
  たまへハ・あはれなる御心はおやときこえなか
  らも・ありかたからむをとおほす物から・いと
  なむうれしかりける・かくてのちハ中将の君
0088【中将の君】−夕ー
  にもしのひてかゝることの心のたまひしらせけ
  り・あやしのことゝもや・むへなりけりと・おもひあ」21ウ
0089【あやしのことゝもや】−夕ー心

  はすることゝもあるに・かのつれなき人の
0090【つれなき人】−雲ー
  御ありさまよりも・猶もあらす・思ひいてられ
  ておもひよらさりけることよと・しれ/\しき
  心ちす・されとあるましう・ねちき(き$け<朱>)たるへきほ
  となりけりと・おもひかへすことこそハ・ありか
  たき・まめ/\しさなめれ・かくてその日に
  なりて・三条の宮より・しのひやかに御つか
  ひあり・御くしのはこなと・にはかなれとこと
  ともいときよらに・したまうて御ふミにはき
  こえむにも・いま/\しきありさまを・けふハし」22オ

  のひこめ侍れと・さるかたにてもなかきためし
  はかりを・おほしゆるすへうやとてなむ・あは
  れにうけたまはりあきらめたるすちを・
  かけきこえむも・いかゝ御けしきにしたかひて
  なむ
    ふた方にいひもてゆけハ玉くしけ
0091【ふた方に】−大宮
  わか身はなれぬかけこなりけりといとふるめ
0092【かけこ】−いつれに孫なり
  かしう・わなゝきたまへるを・とのもこなたに
0093【との】−源
  おハしまして・ことし(し$と<朱>)も御らむしさたむる
  程なれハみたまうて・こたいなる御ふミかき」22ウ

  なれと・いたしや・この御てよ・むかしハ上すに
0094【いたしや】−いたましき心也
  ものしたまけるを・としにそへて・あやしく
  おいゆく物にこそありけれ・いとからく御てふる
  ひにけりなと・うちかへしみたまうて・よくもた
  まくしけに・まつはれたるかな・三十一字のなかに・
  こともしハすくなく・そへたることのかたきなり
  と・しのひてわらひたまふ・中宮より・しろき
0095【中宮】−秋
  御も・からきぬ・御さうそく御くしあけのくなと・
  いとになくて・れいのつほともに・からのたき物・
  心ことにかほりふかくてたてまつり給へり・御かた」23オ

  かたみな心/\に・御さうそく・人/\のれうに・く
  しあふきまて・とり/\にしいて給へるありさま・
  おとりまさらす・さま/\につけて・かハかりの御
  心はせともに・いとミつくしたまつ(つ$へ<朱>)れハ・おかし
  うみゆるを・ひむかしの院の人/\も・かゝる御いそ
  きハきゝたまうけれとも・とふらひきこえ給
  へきかすならねは・たゝきゝすくしたるに・
  ひたちの宮の御方・あやしうものうるハしう
  さるへきことのおりすくさぬこたいの御心にて・
  いかてかこの御いそきを・よそのことゝハ・きゝす」23ウ

  くさむとおほして・かたのことなむしいてたま
  うける・あはれなる御心さしなりかし・あ越にひ
  のほそなかひとかさね・おちくりとかやなにと
0096【おちくりとかや】−こキ紅のくろミ入タルヲ云ヘシ
  かや・むかしの人のめてたうしける・あはせのは
0097【あはせ】−裏面アリ紅
  かま一く・むらさきのし△(△#ら<朱墨>)きりみゆる・あられち
0098【しらきり】−シラミタル
  の御こうちきと・よきころもはこにいれ
  て・つゝミいとうるハしうて・たてまつれたま
  へり・御ふミにハ・しらせたまふへきかすにも侍ら
  ねハ・つゝましけれと・かゝるおりハおもたまへ・
  しのひかたくなむ・これいとあやしけれと・人にも」24オ

  たまはせよとおひらかなり・との御らむしつけ
0099【おひらかなり】−文ノかきさまを云
  て・いとあさましう・れいのとおほすに御かほあ
  かミぬ・あやしきふる人にこそあれ・かく物つゝ
  みしたる人ハ・ひきいりしつミ入たるこそよけ
  れ・さすかにはちかましやとて・返ことハつかハ
  せ・ハしたなくおもひなむ・ちゝみこの・いとかな
  しうしたまひける・おもひいつれハ・人におとさむ
  ハいと心くるしき人也ときこえたまふ・御こう
  ちきのたもとに・れいのおなしすちのうたあ
  りけり」24ウ

    我身こそ恨られけれから衣君かたもとに
0100【我身こそ】−末摘
  なれすとおもへハ・おほむてハむかしたにあり
  しを・いとわりなう・しゝかみ・ゑりふかう・つよう・
0101【しゝかみ】−チヽミタル也
0102【ゑりふかう】−字エリ入タル様也手家ヲ入木ト云無心也
  かたうかきたまへり・おとゝにくき物の・おかし
  さ越ハ・えねんし給はて・このうたよミつらむほ
  とこそ・ましていまは・ちからなくて・ところせかり
  けむと・いとおしかりたまふいて・この返こと・さハ
  かしうとも・われせんとの給て・あやしう人
0103【われ】−源ー
  のおもひよるましき御心はへこそ・あらてもあ
  りぬへけれと・にくさかきたまうて」25オ

    唐衣又から衣からころもかへす/\も
0104【唐衣】−源氏 末摘の三度まて唐衣と読たまへる故ニ嘲弄の哥也
  から衣なるとていとまめやかにかの人のたてゝ・
  このむすちなれハ・ものしてはへるなりとて・
  みせたてまつりたまへハ・きミいとにほひやかに
0105【きみ】−玉
  わらひたまひて・あないとおし・ろうしたるやう
  にもはへるかなと・くるしかり給・ようなしこと
0106【ようなしこと】−唐衣ト云文字ノ多事也
  いとおほかりや・うちのおとゝハ・さしもいそかれ
0107【うちのおとゝ】−致ー
  たまふましき御心なれと・めつらかに・きゝたまふ
  しのちハ・いつしかと御心にかゝりたれは・とくま
  いり給へり・きしきなとあへいかきりに・又すき」25ウ

  てめつらしきさまに・しなさせたまへり・けにわさ
  と御こゝろとゝめたまふけることゝみたまふも・
  かたしけなき物からやうかハりておほさる・ゐ
  のときにていれたてまつりたまふ・れいの御
  まうけ越ハさる物にて・うちのおましいとに
  なく・しつらはせたまうて・御さかなまいらせた
0108【御さかな】−ミ
  まふ・御となふられいのかゝる所よりハ・すこし
  ひかりみせておかしきほとに・もてなしきこ
  えたまへりいみしうゆかしう思きこえ給へと・
  こよひハいとゆくりかなへけれは・ひきむすひ」26オ
0109【ゆくりかなへけれは】−不意とかけり心なきやうなる心なるへし
0110【ひきむすひたまふほと】−裳のこしをゆふなり

  たまふほと・えしのひたまはぬけしきなり・
  あるしのおとゝ・こよひハいにしへさまのことハか
  けはへらねハ・なにのあやめもわかせたまふ
  ましくなむ・心しらぬ人めをかさりて・猶よの
  つねのさほうにと・きこえ給・けにさらにき
  こえさせやるへき方はへらすなむ・御かハらけま
  いるほと(と+に<朱>)・かきりなきかしこまりをハ・よにためし
  なきことゝきこえさせなから・いまゝて・かくしの
  ひこめさせ給けるうらミも・いかゝそへはへらさら
  むと・きこえたまふ」26ウ

    うらめしや興津玉も越かつくまて磯
0111【うらめしや】−致仕 後 何せんにへたのみる目ヲ思けん奥津玉もをかつく身にして 黒主(後撰1099・古今六帖3338、花鳥余情・孟津抄・岷江入楚)
  かくれけるあまの心よとて猶つゝミもあへす・し
  ほたれたまふ・ひめ君ハいとはつかしき御さま
0112【ひめ君】−玉かつら
  ともの・さしつとひ・つゝましさに・えきこえ
  たまはねハ殿
       よるへなミかゝるなきさにうちよせて
0113【よるへなミ】−源氏
  あまもたつねぬもくつとそみしいとわりなき
  御うちつけことになんときこえたまへは・いと
  ことハりになんと・きこえやる方なくていて
  たまひぬ・みこたちつき/\人/\・のこるなく」27オ

  つとひたまへり・御けさう人もあまたましり
0114【御けさう】−仮粧
  たまへれハ・このおとゝかくいりおハして・ほと
0115【このおとゝ】−致ー
  ふるを・いかなることにかとうたかひたまへり・
  かのとのゝきむたち・中将・弁のきみハかりそ・ほ
0116【中将】−柏
0117【弁のきみ】−紅ー
0118【ほのしり給へりける】−玉
  のしり給へりける・人しれすおもひしこと越から
  うも・うれしうもおもひなりたまふ・弁ハよくそ
  うちいてさりけると・さゝめきて・さまことなる・
  おとゝの御このみともなめり・中宮の御たくひ
0119【おとゝの】−源氏
0120【中宮】−秋ー
  にしたてたまはむとやおほすらむなと・をの
  をのいふよしをきゝたまへと・猶しハしハ御心つ」27ウ
0121【猶しハしハ】−源詞

  かひしたまうて・よにそしりなきさまに・もて
  なさせたまへ・なにことも心やすきほとの人こそ・
  みたりかハしう・とも・かくも・ハへへかめれ・こなたを
  も・そなたをも・さま/\の(の$<朱>)人のきこえなやま
  さむ・たゝならむよりハ・あちきなきを・なたら
  かに・やう/\人めをもならすなむ・よきことに
  ハはへるへきと申たまへハ・たゝ御もてなしに
  なん・したかひ侍へき・かうまてこらむせられ・
  ありかたき御はくゝミに・かくろへ侍けるも・さき
0122【かくろへ侍ける】−玉
  の世のちきりをろかならしと申たまふ・御」28オ
0123【御をくり物】−自源致ー

  をくり物なと・さらにもいはす・ゝへてひきいて
  物・ろくとも・しな/\につけて・れいあることかき
  りあれと・又ことくはへ・になくせさせたまへり・
  おほ宮の御なやみにことつけたまうし・なこりも
  あれハ・こと/\しき御あそひなとハなし・兵部卿
  の宮・いまハことつけやり給へき・とゝこほりもな
  きをと・越りたちきこえ給へと・うちより御
  けしきあること・かへさひそうし・又またおほせ
  ことにしたかひてなむ・ことさまのことハ・ともかく
  も・思さたむへきとそきこえさせ給ける・ちゝ」28ウ

  おとゝハほのかなりしさまを・いかてさやかに又みむ・
  なまかたほなること・みえたまハゝかうまて・こと/\
  しう・もてなし・おほさしなと・中/\心もとなうこひ
  しう思きこえたまふ・いまそかの御ゆめも・ま
0124【御ゆめ】−蛍巻
  ことにおほしあはせける・女御はかりにハ・さたかなる
0125【女御】−弘ー
  ことのさまをきこえ給ふけり・世の人きゝに・
  しハしこのこといたさしと・せちにこめたまへと・く
  ちさかなきものハよの人なりけり・しねんにいひ
  もらしつゝ・やう/\やうきこえいてくるを・かのさか
0126【さかな物】−サカ/\シ
  な物のきミ・きゝて・女御のおまへに中将少将さふ」29オ

  らひたまふにいてきて・殿ハ・御むすめまうけた
0127【殿】−致ー
  まふへかなり・あなめてたや・いかなる人二かたに・
0128【二かたに】−源氏 致ー
  もてなさるらむ・きけハ・かれもをとりはらな
  りと・あふなけにのたまへハ・女御かたハらいたし
0129【あふなけに】−無奥
0130【女御】−弘ー
  とおほして・ものものたまハす・中将しか・かしつ
0131【中将】−柏
  かるへきゆへこそ・物したまふらめ・さてもたかい
  ひしことを・かくゆくりなく・うちいて給ふそ・物い
  ひたゝならぬ女房なとも(も$<朱>)こそ・みゝとゝむれと
  のたまへハ・あなかまみなきゝてはへり・ないしの
0132【あなかま】−近
0133【ないしのかミ】−玉
  かミに・なるへかなり宮つかへにと・いそきいてたち」29ウ

  侍しことハ・さやうの御返ミもやとてこそ・なへて
  の女房たちたに・つかふまつらぬことまて・おり
  たちつかうまつれ・おまへのつらくおハします
0134【おまへ】−弘ー
  也と・恨みかくれハ・みなお(お$ほ<朱>)ほゑミて・ないしのかミ
  ある(る$か<朱>)ハ・なにかしこそ・のそまんとおもふを・ひた
0135【ひたう】−非道
  うにも・おほしかけけるかななとのたまふに・はら
  たちて・めてたき御中に・かすならぬ人ハましる
  ましかりけり・中将の君そつらくおはする・
0136【中将の君】−柏
  さかしらにむかへたまひて・かろめあさけり給
0137【さかしらに】−\<朱合点> 古今 さかしらに夏ハ人まねさゝの(古今1047・古今六帖213・2707、異本紫明抄・紫明抄・河海抄)
  ふ・せうせうの人ハ・えたてるましきとのゝう」30オ
0138【との】−致ー

  ちかな・あなかしこ/\と・しりゑさまに・ゐさりし
  そきて・見おこせたまふ・にくけもなけれと・いと
  ハらあしけに・ましり・ひきあけたり・中将ハかく
0139【中将】−柏
  いふにつけても・けにしあやまちたることゝおもへ
  ハ・まめやかにてものしたまふ・少将ハかゝるかた
0140【少将】−紅ー
  にても・たくひなき御ありさまを・をろかにハ
  よもおほさし・御心しつめたまふてこそ・かたきいは
  ほも・あはゆきになしたまふつへき・おほむけ
0141【おほもむけしき】−天ー踏堅庭而陥股若沫雪
  しきなれハ・いとようおもひかなひたまふときも
  ありなむと・ほほゑミて・いひゐ給へり・中将も・あ」30ウ
0142【あまのいはとさしこもり】−天ー閉天ノ磐戸出居素ー尊兄弟今模之

  まのいはと・さしこもりたまひなんや・めやすく
  とて・たちぬれハ・ほろ/\となきて・このきみ
0143【このきみ】−近ー詞
  たちさへ・みなすけなくしたまふに・たゝ御前の
  御心のあはれに・おハしませハ・さふらふなりとて・いと
  かやすく・いそしく・下らうわらハへなとの・つかうま
  つりたらぬ・さうやくをもたちハしりやすく
  まとひありきつゝ・心さしをつくして・ミやつかへ
  しありきて・ないしのかミに・をれを申なした
  まへと・せめきこゆれハ・あさましう・いかにおもひ
  ていふことならむと・おほすに・物もいはれ給ハす・」31オ

  おとゝこの・ゝそミ越きゝたまひて・いとはなやか
0144【おとゝ】−致ー
  に・うちわらひたまひて・女御の御かたにまいり
0145【女御の御かたに】−致ー
  たまへるつゐてに・いつらこのあふミの君・こな
  たにと・めせハ・をといとけさやかにきこえて・いて
  きたり・いとつかへたる・御けわひ・おほやけ人
0146【いとつかへたる】−致ー詞
  にて・けにいかにあひたらむ・ないしのかみのことハ・
  なとかをのれに・とくハ・ものせさりしと・いとまめ
  やかにてのたまへハ・いとうれしとおもひて・さも御
0147【さも御けしき】−近ー詞
  けしきたまはらまほしう侍しかと・この女
  御とのなと・をのつから・つたへきこえさせ給て」31ウ

  な(な#)むとなと(なと$)たのミふくれてなむ・さふらひ
  つるを・なるへき人ものしたまふやうに・き(き+き<朱>)た
  まふれハ・ゆめにとみしたる心ちしはへりて
0148【ゆめに】−邯鄲枕
  なむ・むねにてをゝきたるやうに侍と申たまふ・
0149【むねにて】−胸フサカル心
  したふり・いと物さハやかなり・えみ給ぬへきを・ね
  むして・いとあやしう・おほつかなき御くせなり
  や・さもおほしのたまはハましかハ・まつ人のさき
  にそうしてまし・おほきおとゝの御むすめ・
0150【おほきおとゝの】−致ー詞 源ー
  やむことなくとも・こゝにせちに申さむことハ・
  きこしめさぬやう・あらさらまし・いまにても・」32オ

  申ふミをとりつくりて・ひゝしう・かきいたされよ・
  なかうたなとの心はへあらむを・こらんせむにハ・
  すてさせ給ハし・うへハそのうちに・なさけす
  てすおはしませハなと・いとようすかしたま
  ふ・人のおやけなく・かたハなりや・山とうたハ・あし(し+/\<朱>)
0151【山とうたは】−近ー詞
  し(し$<朱>)も・つゝけ侍なむ・むね/\しき方のこと
0152【むね/\しき】−宗
  ハた・とのより申させたまハゝ・つまこえのやう
0153【つまこえ】−我意を人ニいはせ添ニハいふ也
  にて・御とくをも・かうふりハへらむとて・てをゝし
  すりて・きこえゐたり・みき丁のうしろなとに
  て・きく女房・しぬへくおほゆ・物わらひにたへ」32ウ

  ぬハ・すへりいてゝなむ・なくさめける・女御も御お
  もてあかミて・わりなうみくるしとおほしたり・
  とのもものむつかしきおりハ・あふミの君みる
  こそ・よろつまきるれとて・たゝわらひくさに・
  つくり給へと・よ人ハ・はちかてら・ハしたなめた
  まふなと・さま/\いひけり

自本
源氏卅六歳ノ十二月ノ事并明年の二月まてノ事有以哥
為巻名竪並也」33オ

【奥入01】仁和二年十二月十四日<戊/午>寅四剋行幸芹河野
    用鷹鷂也式部卿本康親王常陸太守貞
    固親王太政大臣<藤原/朝臣>左大臣<源朝臣>右大臣<源朝臣>
    大納言藤原朝臣<良世>中納言源朝臣<能有>在原朝臣<行平>
    藤原朝臣<山蔭>已下参議皆扈従其狩猟之儀
    一依承和故事或考旧記付故老口語而行事
    乗輿出朱雀門留輿砌上勅召太政大臣云
    皇子源朝臣定ー宜賜佩釼太政大臣伝
    勅定ー拝舞輿前帯釼騎馬皇子源
    朝臣正五位下藤原時平着摺衣午三剋」34オ

    亘猟野於淀河辺供朝膳<行宮在泉川鴨川/宇治河之会>
    海人等献鯉鮒天子命飲右衛門督
    諸葛朝臣奏歌天子和之群臣以
    次歌謳大納言藤原朝臣起舞未二剋
    入猟野放鷂撃鶉如前放隼
    撃水鳥坂上宿祢ム献鹿一太政大臣
    馬上奏之乗輿幸於左衛門権佐高経別
    墅供夕膳高経献贄勅叙正五位下太政
    大臣卒高経拝舞(戻)」34ウ

二校了」(表表紙蓋紙)