■ Nikon S3 2000年記念モデルを使ってみる ■

2000/11/20

2000/11/20修正

2000/11/26訂補

 Nikon S3 2000年記念モデル(新品)の印象をレポートする。

 なお、S3のオリジナルには触れたことがないため、オリジナルとの比較ではないことをお断りしておく。

●ボディ外観(シリアル番号202712)

 美しい仕上げである。

 クロームの梨子地仕上は、やや光沢のない感じで、最近のNikonの一眼レフのような艶のあるタイプではない。

 よって、見方によっては、安っぽくも見えてしまう。

 それと比べ、金属部分は光沢があり、仕上げもよい。

 なお、ストラップ用の吊り金具は付属しているが、ストラップは付いていない。

 専用ケースにはケースに固定されたストラップが付いている。

 しぼの部分は、光沢があり、ややつるつるしており滑りやすい。

 残念ながら、本機にはファインダー接眼部付近に一部破れがあった。

 

●操作系

 巻き上げレバーには、プラスチック製の指当ては付いていないので、ちょっと違和感がある。

 巻き上げは滑らかである。しかし操作フィーリングはちょっとよくない。ぎこちない感じがする。

 フィルムカウンタは巻き上げ軸に付いており見やすい。指標が、巻き上げ軸を中心とした12時の方向から

やや時計方向に回転した位置にあり、非常に気になる。

 カウンタ動作時に、ことことと気になる音がする。36枚を超えては動作しない。

 カウンタ付近の小窓にフィルム枚数のメモ用として24と36の表示が出せるようになっているのは便利。

 レバーに余裕角があり、引き出し・収納にはやや力が必要。レバーがレリーズ周囲のリング基部に当たり、

傷が付く。

 F2と同じく小刻み巻き上げを許したためか完全に巻き上がっていないことがある。(シャッターレリーズが

押せない。)

 シャッタレリーズボタンは、ボディの後ろに寄った位置に付いており、押しにくい。

 これは、距離調整用のギアを中指で回転させるためらしい。

 焦点調整用のギアは、金属製で、ボディの上面前方にある。無限遠位置でロックされるので、解除ボタンが

そばにある。初めは面食らう。

 このギアは回転が重い上、ギザギザがあるので、焦点調整をこのギアで行うと指が痛くなる。無限から近距離

まで調整するには相当回転しなければならない。

 一方、レンズ側の距離リングを回転させても焦点調整は可能。

 シャッター速度調整は、上面のダイヤルで行う。全周回転式である。

 シンクロ接点の種類との関係でシャッター速度の数字が3色に色分けされている。

 シャッター速度ダイヤルの周囲のリングを持ち上げて回転するとシンクロ接点のタイムラグを切り替えできる。

 設定には、4段階あるが、設定時の操作感はよくない。

 X接点やバルブの級で色分けされた丸いマークが小窓に表示される。

 シャッターの動作は軽く、音も静か。動作時のショックも少ない。布幕なのでレンズを太陽に向けると穴があく。

また、光漏れの危険があるのでレンズ交換時に直射日光を避けることが必要である。

 1/8秒と1/15秒のシャッターが切れた後に余韻が残るのはおもしろい。

 アクセサリーシューは、現在のホットシューと異なり中央には接点がなく、前方に丸い接点がある。

 ファインダーは連動距離計付きで、フレームは3つある。

 50mm、105mm及び35mm用である。パララックスは自動補正ではない。フレームに補正マークが付いて

いる。いずれのフレームも黄色がかった白色である。

 とっさの時に3つのフレームが見えるために、どれが今のレンズの画角かが分からないのが不便。

 ファインダーの倍率は等倍で、両目を開けてのぞいても違和感がない。

 ファインダーは左側部分に反射が認められ、見えはあまりよくない。(訂補:左側の反射は右目で覗いたときに出る。

左目で覗くと右側に反射が出る。いずれにしろアイピース側からの入射光が反射して見えるようである。)

 めがね使用者にとっては、アイカップがないため、使い心地がよくない。

 ピント合わせは中央の黄色部分で二重像を合致させて行う。標準的なものである。

 ボディ下面にフィルム感度を覚えのために表示する機能があるが、目盛盤の回転が重すぎ、実用にならない。

 (ニコンに問い合わせたところ。不用意に回転しないよう重くしてある。裏ぶたを外した状態で、内側と外側から、

はさむように指で回すと簡単に回せるとのこと。やってみたところ、そのとおりであった。)

 裏ぶたの着脱は、ボディ下面のキーを起こして回転して行う。F2と異なりいくらひねっても裏ぶたは開か

ないのでNikon F2利用者は注意。裏ぶたは全体が外れる構造になっている。この時フィルムカウンターがリ

セットされる。

 フィルムガードレールの上側の内側の方に2カ所傷がついている。他にも傷あり。もう少し丁寧に検査して

ほしい。

 (ニコンに問い合わせたところ、フィルムのない状態で裏ぶたを着脱した際にできた傷ではないかとのこと。

これについては、裏ぶた側の圧板側にも同じ位置に傷があることからニコンの言うことにも一理ある。

 なお、傷は撮影には支障ないとのことである。)

●レンズ(番号No.203272)

 Nikkor-S 50mm F1.4が付属している。フィルタねじは43mm。

 絞り羽根は9枚で、絞り環はレンズ鏡筒の前の方にある。絞り値の間隔は等間隔ではなく、小絞りになると

間隔が狭くなる。

 レンズキャップはスプリング式だが着脱時に押す部分が金属製で滑りやすく、注意が必要。

 レンズマウントはSマウントでかなり精密に作られており、レンズボディ間の接合は精密感があり、レンズの

着脱はややきつい感じであるが、ほんのわずかだが、がたがある。

 説明書には、付属レンズ以外での動作保証はしていない旨記述があるが、経年で精度の落ちたレンズの装着

は、マウントの工作精度から言っても望ましくないと思われる。

 なお、レンズ後面キャップやボディキャップは付いていない。

 出荷時には、ボディにレンズを装着した状態で収納されている。

 フードが付属する。金属製でスマートな形状である。スプリング式。フード装着時には、ファインダー右下が

けられる。

 

●専用ケース

 焦げ茶色の本革製で丁寧に作られている。やや臭いがきつい。

 底面に窓付きの丸穴があり、カメラボディ下面のフィルム感度値と指標が見えるようになっている。

 止めねじを回しやすいように、前ふたに切り欠きがあるところなど細かい工夫がある。

 ケースに入れた状態でも使えるが、厚みが増すため持ちにくい。

 レンズキャップの押す部分がきちんと横向きになっていないとケースのレンズ格納部にぶつかって

しまう。

 フィルター(径43mm)を付け、フードを逆向きに付け、さらにキャップを付けた状態でケースに

収納しようとすると、やはりケースのレンズ収納部に当たってしまう。

 

●その他

 化粧箱は、かぶせ式の凝った紙製。

 取り扱い説明書は当時のものをできる限り復刻し、注意書きを加筆したもの。

 レンズ・ボディの保証書が付いている。保証期間は1年。

 

●まとめ

 この価格からすると仕上げの細部に、まだ改善の余地があり納得のいかない面がある。

 当時のS3を知らないので比較ができないが、この価格ならF5も買えるので、万人に勧められる選択では

ないというのが実感である。

 フィルムを通していないため、レンズ性能は不明である。

 ともあれ、ニコンがこんなに古い機種をあえて世に問うた思いを考えると、歴史の重みが感じられ、

貴重な1台ではある。実用に供して初めてその真価が発揮される。

 復刻版とは言え、ニコンが現在の技術で練り直した新製品と言える。


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