2004/10/03
・英国製蓄音器HMV157を入手したので、その印象を伝えたい。
(一般に蓄音機の表記が使われるが、ここでは、電気を使用しない楽器の意味も込め蓄音器と表記。)
●機種選定
蓄音器のメーカとしては、大きく分けて英国HMV、米国ビクター、EMG系(EMG及びエクスパート)の3つがある。
音の傾向は、HMVは、渋め、ビクターのビクトローラは明るく開放的、EMGはハイファイ志向である。
タイプでは、ポータブル、卓上型、フロア型がある。
SPレコードは、初期は機械吹き込み、1925年以降は電気録音となる。
蓄音器もこれに合わせて、ハイファイ志向となる。
ここでは、1925年以降の蓄音器を選定対象とした。
音質から行けば、EMG系を強く推奨するが、何分高価である。
そこで、数多く出回っているHMV又はビクトローラとなる。
機種が階層化されて高級機種から普及機までそろっているHMVとした。
価格は、性能と比して指数関数的に上昇する。
筐体の大きさや重量も同様である。
ホーンの大きさや形状で音がかなり異なる。
重量、価格、取り回しのよさを勘案し、HMV157とした。
状態は良好で、当時のサランネットがきれいに残っている。
価格は、約47万円(5%消費税込み)であった。
●搬入
専門店シェルマンから購入。直送された。
やっと一人で運搬できるくらいの重量。
設置には、前面扉の開閉、右側ぜんまいハンドル及び上部カバー開閉時の
後部の余裕が必要である。
直射日光やエアコン吹き出し口は避ける。
サウンドボックス、ターンテーブルは外された状態で搬入。
針は、鉄針とした。
サウンドボックスとトーンアーム。この状態で針交換。
●操作
駆動用のぜんまいをまく。ハンドルを静かに約40回程度回す。徐々に重くなる。
トーンアームを外側に動かすと、ターンテーブルが回転し、内周側に動かし、
少し外周側へ戻すとストップする。
SP盤の内周には、少し偏心した円状の溝が刻んであり、ここに針が入ると、
自動停止する仕掛けである。
サウンドボックスは、180度回転でき、針を交換しやすい。
針は、差し込んで、ねじで固定する。
針圧はかなり重い。レコード盤面と針とのなす角度は直角より小さくなっている。
針の太さにより、音の大きさが変わる。
今回の針では、ラウド、ミディアム、ソフト、エクストラソフトの4種類がある。
ミディアム又はソフトくらいで十分な音量が出せる。
鉄針でも、レコード1面を演奏するとかなり摩耗するため、毎回交換する必要がある。
摩耗した針で演奏すると音溝を傷める。
レコードに残された亡き主人の懐かしい声に
聞き入る愛犬ニッパー号のトレードマークが、蓋の裏側にあしらわれている。現在はビクターの商標に。
●試聴
ヴォーカルものでは、生々しさや暖かみがうまく出ている。
楽器では、ヴァイオリンやピアノがよい。
オーケストラは、さすがにスケール感を表現するのは困難であるが、しっかりとした音を
聞かせる。
派手さは少なく、音を正確に描くことに重点が置かれ、やや渋めの音である。
演奏中は、針音を低減させるために上部のカバーを閉じるのがよいとされる。
場合によっては、高域の伸びを配慮するとカバーを開けたほうがよいことがあった。
部屋の大きさにも左右されるようで、なるべく広い空間が好ましい。天井も高いほうがよい
と思われる。
木部はオーク。ゆるやかな艶と美しい木目が特徴。
●まとめ
木工家具としての仕上げや木目の出方、骨董品としての古さを楽しむなどの要素が高い
ため、価格はかなり高価であると言わざるを得ない。
1930年代の製品が、現在もなお整備すれば完動することは、現代の製品と比較すれば、驚き
である。
電源を使用しないため、永く使える。
音についても機械的に発音されるため、刺激のある耳障りな音は出ない。
SP盤本来の音を出したい向きには、1台あってよいと思う。
実質的に、残っているSP盤の音溝から限界まで音を引き出したい向きには、電気再生も
ひとつの方向ではある。
なお、独自のホーンを装備したEMG系の蓄音器の音は、他と一線を画すものであり、ことに卓上タイプは
その中でも手頃な価格であり、ぜひ入手したい機種である。
●参考
フロア型もよいが、ポータブルや卓上型(といってもかなり大きい)にも、違ったよさがある。
屋外で聞いたり、持ち運びたい向きには、お勧めである。価格もフロア型よりも求めやすい。
●参考文献