八 漢字表記の語(2021年2月25日増補訂正版)
はじめに
藤原定家には、表記に関して、その語を仮名で書くか、あるいは漢字で書くかに関しても一つの方針を持っていたようである。
国語学者・築島裕氏は藤原定家が書写した写本に関して、
「漢字の用法について見ても、定家自筆本を忠実に転写したとされる三条西家本『伊勢物語』などで見ると、「人」「花」「月」などは、仮名で「ひと」「はな」「つき」と書いた例はきわめて少ない。「又」「宮」「松」「猶」「山」「世」「夜」「秋」「春」「神」「夏」「冬」「風」「河」「我」なども、同様に、大部分が漢字で書かれている。これらの多くは、仮名遣いと関係のない語が多いが、このように、漢字を用いて仮名を用いない語というものも、定めていたようだ。」(注1)
と述べていた。
「極めて少ない」あるいは「大部分が」という表現ながら、藤原定家が「漢字を用いて仮名を用いない語というものも、定めていたようだ」という指摘に示唆を得て、以前に青表紙原本「花散里」と「柏木」及び「明融臨模本」(8帖)における、漢字表記の語「猶」「又」「許」について考察したことがある(注2)。
その後、青表紙原本の「行幸」と「早蕨」が原色カラー版で刊行され(注3)、さらに「若紫」が新たに出現したので(注4)、それらを追加して考察すべき必要性が生じた。
そこで、本稿では、青表紙原本「源氏物語」(5帖)における、漢字表記の語に関して、改めて考察する。そして、これまで考察してきた青表紙原本「源氏物語」の書写者たち、すなわち、藤原定家と別人甲、別人乙たちの漢字表記に関する書き癖について明らかにし、明融臨模本の親本の書写者について、さらには大島本の性格を考えていく上での基礎的データとしたい。
一 藤原定家「柏木(定家筆)」の漢字表記の語
最初に、青表紙原本における藤原定家の漢字表記の語について、「柏木(定家筆)」から見ていこう。
すると、以下の3点の特徴が窺われる。
第1に、「柏木(定家筆)」において、すべて漢字で表記し、仮名の表記や仮名を混ぜた表記をしない語があること。例えば、「猶」「又」「心地」「見」の語である。
第2に、特異な当て字表記の語があること。例えば、「本上」(本性)「心月ー」(心づきなし)の語である。
第3に、漢字と仮名の両表記が見られる中でも、他の青表紙原本には見られない独特の漢字表記の語があること。例えば、「許」(ばかり)の語である。
そして、それらの語が、同じ「柏木」中の、「柏木(別人筆)」との間で、時には対照的な相違を見せたり、あるいは同様であったりして、非常に興味深く思われるのである。
以下、定家「柏木(定家筆)」の漢字表記の特徴について、「柏木(別人筆)」と比較しながら、具体的に見ていこう。
1.原則漢字表記する語
@「なほ」【猶】〔副詞〕
漢字表記8例(1オ・2オ・3ウ・4オ・6オ・7オ・8ウ・10オ) 仮名表記ナシ(0)
「柏木(定家筆)」はすべて「猶」と漢字表記をし、その仮名表記は見られない。
ところが、対照的に「柏木(別人筆)」ではすべて「なを」と仮名表記し、漢字表記は見られないのである。
副詞「猶」に関して、それぞれ理由は不明だが、定家はすべて漢字表記し、別人はすべて仮名表記しているのである。それぞれの用字表記法(書き癖)、あるいは寄合書の筆者のアイデンティティとでも言うべきものであろうか。
A「また」【又】〔接続詞〕
漢字表記4例(1オ・2ウ・8オ・11オ) 仮名表記ナシ(0)
接続詞「又」に関しては、定家も別人もすべて「又」と漢字表記をし、仮名表記はしていない。
おそらく、定家は副詞「まだ」との誤読を避けるために差別化したのであろう、と推測される。別人も、そのことを理解して定家同様に表記したものであろうか。
B「ここち」【心地】〔名詞〕
漢字表記4例(4ウ・7ウ・7ウ・9ウ) 仮名混ぜ表記ナシ(0)
定家はすべて「心地」と漢字表記するが、別人は対照的にすべて「心ち」と漢字仮名交ぜ表記している。
理由は不明だが、@「猶」と同様のそれぞれの用字表記法(書き癖)あるいは寄合書筆者のアイデンティティとでも言うべきものであろうか。
C「みる(ゆ)」【見】〔動詞〕(複合語は冒頭にくる「見」のみを取り上げ、末尾にくる「見」は略した)
漢字表記11例(1オ・4オ・7オ・7オ・7ウ・8オ・8ウ・10オ・10オ・10ウ・11オ) 仮名表記ナシ(0)
定家は「見る(ゆ)」意味で使用される場合には必ず「見ー」と漢字表記し、仮名表記はしない。
おそらく、他の一音節語の「身」「御」などの語との差別化を図ったものであろう。
しかし「柏木(別人筆)」では漢字と仮名との両表記が併用されている。
2.当て字表記の語
@「ほんじゃう」【本性】〔名詞〕
定家は「本性」の語に、当て字「本上」(4ウ)と表記する。
A「こころづきなし」【心づきなし】〔形容詞〕
定家は「心づきなし」の語に、当て字「心月なき」(5オ)と表記する。
3.特異な漢字表記語
@「ばかり」【許】〔副助詞〕
漢字表記2例(3オ・4ウ) 仮名表記2例(8ウ・8ウ)
定家は副助詞「ばかり」の語に関しては、4例中、漢字表記2例(50.0%)と仮名表記2例(50.0%)の両方を併用している。かなり高い漢字表記率に思われる。なお仮名表記のうち1例は「とばかり」〔連語〕である。この語は複合語で使用されていることが多い。
以上、「柏木」における「柏木(定家筆)」の漢字表記語について、他の青表紙原本における用字表記法を見ると、以下の表のとおりである。
(表1 定家「柏木(定家筆)」の漢字表記語)
語 | 表 記 | 若 紫 | 花散里 | 行 幸 | 柏木定 | 柏木非 | 早 蕨 |
なほ | 猶 なを |
13 0 |
1 1 |
2 0 |
8 0 |
0 21 |
3 1 |
また | 又 また |
12 0 |
0 0 |
13 2 |
4 0 |
13 0 |
2 7 |
ここち | 心地 心ち |
0 16 |
0 0 |
1 7 |
4 0 |
0 14 |
0 6 |
みー | 見ー み・ミー |
22 80 |
0 8 |
10 32 |
11 0 |
7 59 |
5 40 |
ほんじやう | 本上 | 0 | 0 | 2 | 1 | 0 | 0 |
こころづきー | 心月ー 心つきー |
1 1 |
0 0 |
1 0 |
1 0 |
0 0 |
0 1 |
ばかり | 許 ばかり | 0 15 |
0 2 |
0 6 |
2 2 |
0 14 |
0 4 |
副詞「なほ」(猶)の語に関しては、「若紫」と「行幸」が定家と同じくすべて漢字表記をしている。他の「花散里」「早蕨」は漢字と仮名の両表記を併用。そして「柏木(別人筆)」は定家とは正反対にすべて仮名表記である。
接続詞「また」(又)の語に関しては、「行幸」と「早蕨」が漢字と仮名の両表記を併用。すなわち、接続詞「また」と副詞「まだ」の書き分けがなされていない。他の「若紫」「柏木(別人筆)」は定家と同じ。なお「花散里」は「また」の語例がない。
名詞「ここち」(心地)の表記に関して、定家は漢字表記「心地」のみであるが、「行幸」は漢字「心地」と漢字仮名交ぜ「心ち」の両表記を併用、他の「若紫」「柏木(別人筆)」「早蕨」はすべて漢字仮名交ぜ「心ち」である。
動詞「見ー」の語に関しては、定家はすべて漢字「見」と表記しているが、他の「若紫」「行幸」「柏木(別人筆)」「早蕨」は漢字「見」と仮名「み」の両表記が併用されている。なお、「花散里」は仮名表記のみであるが、小さな巻なので、たまたまという面も考えられる。なお「行幸」には「見」が字母としても3度使用され混在している(注5)。
定家の特殊な当て字「本上」と「心月ー」は、「若紫」に「心月ー」が、また「行幸」に「本上」と「心月ー」の両語が見られる。「早蕨」には「心つきなう」の事例が見られる。その他の巻には語例がない。
副助詞「ばかり」(許)の語に関しては、定家は漢字「許」と仮名「はかり」の両表記を併用しているが、他の「若紫」「花散里」「行幸」「柏木(別人筆)」「早蕨」はすべて仮名表記のみである。なお「許」の語は、彼の日記『明月記』中に普通に使用されている語である。
以上のように、定家においては漢字と仮名とで書き分ける意識が強く働いているが、他の協同書写者たちは必ずしもそうではない。
別人甲「行幸」は上記7語中、「猶」と「本上」「心月」の3語の表記が定家の表記法と同じであるが、他の語は自在な表記法である。
一方、別人乙グループの「若紫」「花散里」「柏木(別人筆)」「早蕨」では、4巻揃って定家の表記法に従っているという語は無い。反対に、揃って定家の表記法に従っていない語として、漢字仮名交ぜ表記「心ち」と副助詞「ばかり」の仮名表記の2語がある(小巻「花散里」と別人筆「行幸」を無視)。その他は自在な表記法である。
二 「行幸」の漢字表記の語
次に、別人甲の「行幸」の漢字表記の特徴について、上に挙げた語以外の事例を見ていこう。
1.原則漢字表記する語
「行幸」においては、すべて漢字表記し、仮名表記や仮名混ぜ表記をしない語は、前出の「猶」以外に特にナシ。
2.特異な漢字表記語
「行幸」には、漢字と仮名の両表記が見られる中でも、他の青表紙原本には見られない特異な漢字表記の語として、「也」「御覧」の2語が挙げらる。
@「なり」【也】〔助動詞・動詞〕
漢字表記3例(29ウ・30オ・36オ) 仮名表記30例(略)。
別人甲は、助動詞「なり」の表記に関して、33例中3例漢字表記している(9.1%)。すなわち、約1割程度を漢字表記するという頻度である。
A「ごらんー」【御覧ー】〔動詞〕
漢字表記「御覧」3例(22ウ・27ウ・37オ) 漢字仮名混ぜ表記「御らむー」1例(29ウ)。
「御覧」の語に関しては、32例中3例が漢字表記(9.4%)、29例が漢字仮名交ぜ表記(90.6%)という比率である。
3.当て字表記の語
「行幸」では、当て字表記の語として、前出の「本上」(本性)「心月ー」(心づきなし)の他に、「女方」(女房)と「山とうた」(大和歌)の語が挙げられる。
B「にょうばう」【女房】〔名詞〕
当て字「女方」(34ウ・35オ・37ウ)と表記する。
C「やまとうた」【大和歌】〔名詞〕
当て字「山とうた」(37オ)と表記する。
以上の4語が他の巻ではどのように表記されているか、前節と同様に表示してみよう。
(表2 「行幸」の漢字表記語)
語 | 表記 | 若 紫 | 花散里 | 行 幸 | 柏木定 | 柏木非 | 早 蕨 |
なり | 也 | 0 | 0 | 3 | 0 | 0 | 0 |
ごらん | 御覧 御らむ |
0 8 |
0 0 |
3 1 |
0 0 |
0 2 |
0 0 |
にょうばう | 女方 女はう |
0 0 |
0 0 |
3 0 |
0 0 |
0 3 |
0 1 |
やまとうた | 山とうた | 0 | 0 | 1 | 0 | 0 | 0 |
助動詞「なり」の表記に関して、「行幸」以外すべて仮名表記である。よって「也」と漢字表記するのは「行幸」の特徴の一つといえる。
動詞「御覧ず」の表記に関しては、用例のない巻もあるが、「御覧」と漢字表記するのは「行幸」だけである。「御らむ」と漢字仮名交ぜ表記す事例は、「行幸」以外にも、「若紫」や「柏木(別人筆)」に見られる。
名詞「女房」の表記に関しても、用例のない巻もあるが、「女方」と漢字表記するのは「行幸」だけである。「柏木非」や「早蕨」では、「女はう」と漢字仮名交ぜ表記をしている。
「大和歌」の語に関しては、他の巻に用例がなく、「行幸」にたまたま見られた当て字の事例である。
以上4語中、「也」「御覧」「女方」の3語は、別人甲「行幸」の漢字表記の特徴として挙げられる。
三 「若紫」「花散里」「柏木(別人筆)」「早蕨」の漢字表記の語
次に、別人乙の「若紫」「花散里」「柏木(別人筆)」「早蕨」の漢字表記について見ていこう。
1.原則漢字表記する語
原則、漢字表記をする語について、別人乙の「若紫」「花散里」「柏木(別人筆)」「早蕨」には、上に見てきたように、個別的に見れば、語によっては、漢字を表記して仮名表記はナシという巻はあるが、4巻共通してとなると、そのような語は無い。
例えば、副詞「猶」に関しては、「若紫」がすべて漢字表記をしているが(13例)が、「花散里」「早蕨」は漢字表記と仮名表記の両用、さらに「柏木(別人筆)」はすべて仮名表記という相違を見せている。
接続詞「又」に関しては、「若紫」「柏木(別人筆)」はすべて漢字表記だが、「早蕨」は漢字表記と仮名表記の両用である。
また各巻毎に上記以外の語を探しても、そのような語は特に無い。
2.特異な漢字表記及び漢字仮名交ぜ表記語
次に、独特の漢字表記する語として、4巻共通では無いが、3巻に共通して見られる語としては、
@「かな」【哉】〔終助詞〕
「若紫」5例(14ウ・21ウ・36オ・37ウ・46ウ)、「柏木(別人筆)」1例(13オ)、「早蕨」1例(14ウ)
終助詞「かな」の表記に関して、「行幸」や「柏木(定家筆)」は、すべて仮名表記で、漢字表記は無い。
「花散里」は小さな巻なので、これを無視すれば、別人乙は終助詞「かな」を「哉」と漢字表記する特徴が指摘できる。
次に、独特の漢字仮名交ぜ表記の語として、4巻共通では無いが、3巻に共通して見られる語としては、前に定家「柏木(定家筆)」の漢字表記語の中で取り上げた、
A「心ち」【名詞】
「若紫」16例(9ウ・10ウ・16オ・21ウ・24オ・24ウ・32ウ・35ウ・37オ・38オ・38オ・44ウ・49オ・50ウ・56オ・61オ)、「行幸」7例(10オ・10ウ・23オ・24オ・24ウ・26ウ・36ウ)、「柏木(別人筆)」14例(14ウ・14ウ・18オ・22ウ・26オ・27オ・27ウ・30オ・31ウ・32ウ・33オ・34ウ・45ウ・48オ)、「行幸」6例(5ウ・7ウ・10オ・10オ・14オ・21ウ)
が挙げられる。
「行幸」に漢字表記「御心地」(4ウ)の1例があって、漢字表記(1例)と仮名交ぜ表記(6例)の両用が見られるが、「花散里」を除いて、すべて「心ち」と漢字仮名交ぜ表記をしている。
「花散里」は小さな巻なので、ここでも無視すれば、別人乙は名詞「心ち」と漢字仮名交ぜ表記する特徴が指摘できよう。
2巻に共通して見られる語としては、前の「行幸」で触れた、「御らむ」と「女はう」の2語が挙げられる。
B「御らむー」【動詞】
「若紫」8例(3ウ・12オ・15ウ・18オ・19オ・19ウ・28ウ・32ウ)、「柏木(別人筆)」2例(22オ・39オ)
「柏木(定家筆)」には用例が無くて不明であるが、「行幸」では「御覧」と「御らむ」の漢字表記と漢字仮名交ぜ表記の両表記併用しているが、「若紫」と「柏木(別人筆)」では、すべて「御らむ」という漢字仮名交ぜ表記をしている。
C「女はう」【名詞】
「柏木(別人筆)」3例(12オ・34ウ・50オ)、「早蕨」1例(18オ)
これも「柏木(定家筆)」には用例が無くて不明であるが、別人甲「行幸」では「女房」と漢字表記しているが、「柏木(別人筆)」と「早蕨」では、すべて「女はう」という漢字仮名交ぜ表記をしている。
なお「柏木(別人筆)」単独では、
D「さふろふ」【候】〔動詞〕
「候」1例(21オ)
がある。
3.当て字表記の語
最後に、別人乙の特徴的な当て字表記の語について見ておこう。
「ちゃう」【帳】には「丁」を、「きゃう」【敬・経】には「行」を、そして「しゃう」【相】には「将」を当てている事例が見られる。
@「きちゃう」【几帳】〔名詞〕
当て字「き丁」:「若紫」1例(55ウ)「行幸」1例(37ウ)「柏木(別人筆)」2例(14ウ・46ウ)
当て字「木丁」:「柏木(別人筆)」3例(18オ・26オ・32オ)「早蕨」1例(13ウ)
A「みちゃう」【御帳】〔名詞〕
当て字「み丁」:「若紫」1例(44オ)
当て字「御丁」:「柏木(別人筆)」1例(18オ)
B「あいぎゃう」【愛敬】〔名詞〕
当て字「あい行」:「柏木(別人筆)」2例(34オ・49オ)
C「ずきゃう」【誦経】〔名詞〕
当て字「す行」:「柏木(別人筆)」1例(37オ)
D「さいしゃう」【宰相】〔名詞〕
当て字「さい将」:「柏木(別人筆)」1例(38オ)
以上、5語に関して、名詞「几帳」の当て字の「き丁」という表記が別人甲の「行幸」に1例見られるが、他の4語は定家の「柏木(定家筆)」にもまた「行幸」にも見られない事例である。
ただ、事例が多く「柏木(別人筆)」に集中していることと、巻の内容によってその用語がたまたま有ったり無かったりなどという偶然性があるので、まったく絶対的なものではない。ただ留意しておくぐらいは良いであろう。
まとめ
新出資料の「若紫」が加わったことによって、青表紙原本のデータもかなり豊富なものになった。
その結果、青表紙原本の書写者に関して、藤原定家(「柏木(定家筆)」と別人甲(「行幸」)、別人乙グループ(「若紫」「花散里」「柏木(別人筆)」「早蕨」)の3人に分けられるのではないか、という結論に至った。
ただ、別人乙グループは巻によって、それぞれの特徴や相違も存在するが、それらの違いをもって更に別の新たな人物を想定せねばならないほどではないと考える。
それは書写者のその時々の書写条件や書写態度等による相違であって、ある一定内に収まる差異であると理解される。
「若紫」「花散里」「柏木(別人筆)」「早蕨」の筆跡から見ても、やはり同人物と同定してよいだろうと考える。
最後に、それぞれの書写者の主要な漢字表記語について図表化して示そう。
なお、巻によってはその語の事例が無い巻もあるので、けっして絶対的なものではない。あくまでも一つの目安としてである。別人乙では1例の事例であっても取り上げた。
定 家:「柏木(定家筆部)」
別人甲:「行幸」
別人乙:「若紫」「花散里」「柏木(別人筆部)」「早蕨」
(表3 青表紙原本書写者の漢字表記語)
筆者 | 漢字/仮名交ぜ表記 | 特異な漢字表記 | 特異な当て字 |
定 家 | 猶・又・心地・見ー | 許 | 本上・心月ー |
別人甲 | 猶・御覧 | 也 | 本上・心月ー・女方 |
別人乙 | 心ち・御らむ・女はう | 哉・候 | き丁・木丁・み丁・御丁 あい行・す行・さい将 |
注
(1)築島裕『歴史的仮名遣い その成立と特徴』(中公新書 昭和61年7月)
(2)拙稿「明融臨模本「花宴」帖の親本の性格について――一面行数と和歌の書写様式及び用字表記を中心として――」「明融臨模本「桐壺」「帚木」「若菜上」「若菜下」帖の親本の性格について――一面行数と和歌の書写様式及び用字表記を中心として――」(『源氏物語本文のデータ化と新提言T・U』平成23・24年度科研報告書「源氏物語の研究支援大成の組織化と本文関係資料の再検討及び新提言のための共同研究」國學院大学豊島秀範研究室 2012年3月・13年3月)
(3)藤本孝一編・解題『定家本源氏物語 行幸・早蕨』(八木書店 2018年1月)
(4)藤本孝一編・解題『定家本源氏物語 若紫』(八木書店 2020年3月)
(5)「衣を見たれきつゝ」(2ウ)・「なや見たまふ」(9オ)・「けしきは見たまふ」(21ウ)。