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Last updated 05/06/2015(ver.2-4)
渋谷栄一翻字(C)

  

橋姫

凡例
1 本稿は、『大島本 源氏物語』(1996(平成8)年5月 角川書店)を翻刻した。よって、後人の筆が加わった現状の本文様態である。
2 行間注記は【 】− としてその頭に番号を記した。
2 小字及び割注等は< >で記した。/は改行を表す。また漢文の訓点等は< >で記した。
3 合(掛)点は、\<朱(墨)合点>と記した。
4 朱句点は「・」で記した。
5 本文の校訂記号は次の通りである。
 $(ミセケチ)・#(抹消)・+(補入)・&(ナゾリ)・=(併記)・△(不明文字)
 ( )の前の文字及び( )内の記号の前の文字は、訂正以前の文字、記号の後の文字が訂正以後の文字である。ただし、なぞり訂正だけは( )の前の文字は訂正後の文字である。訂正以前の本行本文の文字を尊重したことと、なぞり訂正だけは元の文字が判読しにくかったための処置である。
6 朱・墨等の筆跡の相違や右側・左側・頭注等の注の位置は< >と( )で記した。私に付けた注記は(* )と記した。
7 付箋は、「 」で括り、付箋番号を記した。
8 各丁の終わりには」の印と丁数とその表(オ)裏(ウ)を記した。
9 本文校訂跡については、藤本孝一「本文様態注記表」(『大島本 源氏物語 別巻』と柳井滋・室伏信助「大島本『源氏物語』(飛鳥井雅康等筆)の本文の様態」(新日本古典文学大系本『源氏物語』付録)を参照した。
10 和歌の出典については、伊井春樹『源氏物語引歌索引』と『新編国歌大観』を参照し、和歌番号と、古注・旧注書名を掲載した。ただ小さな本文異同については略した。

「はし姫」(題箋)

  そのころ世にかすまへられ給はぬふる宮
0001【そのころ】−八宮△居時分をいふへし
0002【かすまへられ給はぬ】−桐壺御門の御子の数にかすへ△(△#ラ)れ給ハぬとなり
  おハしけり・はゝかたなともやんことなくもの
0003【はゝかたなとも】−左大臣の女と見えたり
  したまひて・すちことなるへきおほえなと
  おはしけるを・ときうつりて世中にはした
0004【はしたなめられ】−半の心なり
  なめられ給けるまきれに・中/\いとなこりな
  く御うしろミなとも・ものうらめしき心/\
  にて・かた/\につけて・世越そむきさりつゝ・
  おほやけわたくしにより所なくさしは(△&は)
  なたれ給へるやうなり・きたのかたもむか
0005【きたのかた】−姫ー母
  しの大臣の御むすめなりける・あハれにこゝ」1オ

  ろほそくおやたちのおほしをきてたり
0006【おやたち】−北方ノ
  しさまなと・おもひいて給ふにたとしへなき
  事おほかれと・ふるき御契のふたつなき
  はかりを・うき世のなくさめにて・かたミに
  又なくたのミかはし給へり・としころふるに・
  御こものし給ハて・心もとなかりけれハ・さう/\
  しくつれ/\なるなくさめに・いかておかし
  からむちこもかなと・宮そとき/\おほし
0007【宮】−八宮
  のたまひけるに・めつらしく女君のいとうつ
0008【女君】−上巻之君
  くしけなるむまれ給へり・これをかきり」1ウ

  なくあハれとおもひかしつきゝこえ給に・さ
  しつゝきけしきはみ給ひて・このたひ
  ハおとこにてもなとおほしたるに・おなしさま
0009【おなしさまにて】−中君誕生事(明融臨模本0005)
  にてたひらかにハしたまひなから・いといた
  くわつらひてうせ給ぬ・宮あさましうお
0010【うせ給ぬ】−北方御事
  ほしまとふありふるにつけても・いとはし
0011【ありふるにつけても】−北方誕生事(明融臨模本0006)
  たなくたへかたき事おほかる世なれと・見
  すてかたくあハれなる人の御ありさま心
  さまに・かけとゝめらるゝほたしにてこそす
  くしきつれ・ひとりとまりて・いとゝすさま」2オ

  しくもあるへきかな・いはけなき人/\をも・
  ひとりはくゝみたてむほと・かきりある身に
  ていとおこかましう人わろかるへきことゝお
  ほしたちて・ほひもとけまほしうしたま
  ひけれと・みゆつるつる(つる$<朱>、#<墨>かた<朱>)なくて・のこしとゝめむ
  をいみしうおほしたゆたひつゝ・とし月
  もふれハ・をの/\およすけまさり給ふさま
0012【およすけまさり給ふ】−姫君達の御事
  かたちのうつくしうあらまほしき越・明く
  れの御なくさめにて・をのつから見すくし
  給・後にむまれ給し君をはさふらふ人/\も・」2ウ

  いてやおりふし心うくなとうちつふやき
0013【いてや】−さてもなといふ詞なり
0014【心うくなと】−古今 いて我を人なと(古今508・古今六帖1804、花鳥余情・岷江入楚)
  て・心にいれてもあつかひきこえさりけれと・
  かきりのさまにてなに事もおほしわか
  さりしほとなから・これをいと心くるしとおも
  ひて・たゝこの君をかた身に見給ひて・
0015【たゝこの君を】−北方の遺言
  あハれとおほせとハかり・たゝひとことなむ宮
  にきこえをきたまひけれハ・さきの世の契
  もつらきおりふしなれと・さるへきにこそハ
  ありけめと・いまはとみえしまて・いとあハれと
  思ひて・うしろめたけにのたまひしをと・」3オ

  おほしいてつゝ・この君をしもいとかなし
  うしたてまつりたまふ・かたちなむまことに
  いとうつくしう・ゆゝしきまてものし給
  ける・ひめ君ハ心はせしつかによしあるかた
  にて・みるめもてなしも・けたかく心にくきさま
  そし給へる・いたハしくやむことなきすち
0016【やむことなきすち】−いもうと姫君の事也
  ハまさりて・いつれをもさま/\におもひかしつ
  ききこえ給へと・かなハぬ事おほくとし月
  にそへて・宮のうちも(も$<朱>)さひしくのミなりま
  さる・さふらひし人もたつきなき心ちす」3ウ

  るに・えしのひあへす・つき/\にしたかひて・
  まかてちりつゝわか君の御めのとも・さるさ
0017【わか君】−妹
  はきにはか/\しき人をしも・えりあへ
  給ハさりけれハ・ほとにつけたる心あさゝにて・
0018【心あさゝにて】−騒きによりて心のかは(△△&かは)るをいへり
  をさなきほと越みすてたてまつりに
  けれハ・たゝ宮そはくゝみ給ふ・さすかに
0019【はくゝみ】−養育<ハクヽム> 省同
  ひろくおもしろき宮のいけ山なとのけし
  きハかり・むかしにかハらて・いといたうあれまさる
  を・つれ/\となかめ給ふ・けいしなともむね
0020【けいし】−家司
  むねしき人もなきまゝに・草あをや」4オ

  かにしけり・軒のしのふそ所えかほに・あ越
  みわたれる・おり/\につけたる花もみちの色
  をもかをも・おなし心に見はやし給ひし
  にこそ・なくさむこともおほかりけれ・いとゝ
  しくさひしく・よりつかむかたななきまゝ
  に・ち仏の御かさりはかりをわさとせさせ給て・
  あけくれおこなひ給・かゝるほたしともに・かゝ
  つらふたに・おもひのほかにくちおしうわか
  心なからも・かなはさりける契とおほゆるを・
  まひてなにゝ(ゝ#)か世の人めいていまさらにとのミ・」4ウ

  とし月にそへて世中をおほしはなれつゝ・
  心ハかりハひしりになりはてたまひて・こ
  君のうせたまひにしこなたハ・れいの人の
  さまなる心はえなと・たハふれにてもおほ
  しいて給ハさりけり・なとかさしもわかるる
  ほとのかなしひハまた・世にたくひなきやう
  にのミこそハ・おほゆへかめれとありふれハ・さの
  みやハ猶世人(△&人)になすらふ御心つかひをし
  給ひて・いとかくみくるしく・たつきな
  き宮のうちも・をのつからもてなさるゝ」5オ

  わさもやと・人ハもとききこえて・なにくれ
  と・つき/\しくきこえこつことも・るる(る$ひ<朱>)に
  ふれておほかれときこしめしいれさりけり・
  御念すのひま/\にハ・この君たちをもてあ
  そひ・やう/\およすけ給へハ・ことならハし・五
  うちへんつきなとはかなき御あそひわさ
0021【へんつき】−篇突
  につけても・心はへとも越みたてまつり給ふに・
  ひめ君ハ・らう/\しく・ふかくおもりかにみえ
  たまふ・わか君ハおほとかにらうたけなる
  さまして・ものつゝミしたるけハひに・いとうつ」5ウ

  くしうさま/\におハす・春のうらゝかなる
  日かけに・池の水とりとものはねうちかハし
  つゝ・をのかしゝさえつるこゑなと越つねハ・
  はかなきことにみたまひしかとも・つか
  ひはなれぬを・うらやましくなかめ給ひ
  て・君たちに・御ことゝもをしへきこえた
  まふ・いとおかしけにちひさき御ほとに・とり
  とりかきならし給ふものゝねとも・あハれに
  おかしくきこゆれハ・涙をうけたまひて
    うちすてゝつかひさりにし水とりの」6オ
0022【うちすてゝ】−宇治宮

  かりのこの世にたちをくれけん心つくしなり
0023【かりのこ】−鴨子の事也
0024【この世に】−子によせたり
0025【心つくしなり】−うつほ第二かひの中に命こめたるかりの子ハ君かやとにそかへさゝらなん(宇津保物語25、花鳥余情・孟津抄・岷江入楚)
  やと・めをしのこひ給かたち・いときよけに
  おハします宮なり・とし比の御おこなひに・
  やせほそり給にたれと・さてしもあてに・
  なまめきて君たちを・かしつき給ふ御心
  はえに・な越しのなえはめるをき給ひて・
  しとけなき御さまいとはつかしけ也・ひめ
0026【ひめ君】−姉
  君御すゝりをやをらひきよせて・てな
  らひのやうにかきませ給ふを・これにかき
  給へ・すゝりにはかきつけさなりとて・かミた」6ウ
0027【すゝりにはかきつけさなり】−硯をハ文殊のまなこといへり みる石の面に物ハかゝさりきふしの楊枝ハつかハさらめや 菅(出典未詳、河海抄・紹巴抄・孟津抄・岷江入楚)

  てまつり給へハ・はちらひてかきたまふ
    いかてかくすたちけるそと思ふにもうき
0028【いかてかく】−姉君
0029【うき水とり】−身によせたり
  水とりの契をそしるよからねと・その
  おりハいとあ(あ+ハ)れなりけり・てハおいさきみえて
  またよくもつゝけ給はぬほと也・わか君とか
0030【わか君】−妹
  きたまへとあれハ・いますこしおさなけに・ひ
  さしくかきいて給へり
    なく/\もはねうちきする君なくハ
0031【なく/\も】−中君
  我そすもりになりハはてまし御そとも
0032【すもりになりハはてまし】−拾七 鳥の子ハまたひななから立ていぬかいのみゆるハすもりなりけり(拾遺集383・拾遺抄478、河海抄・孟津抄・岷江入楚)
  なと・なえはみておまへに・また人も」7オ

  なくいとさひしく・つれ/\けなるに・さま/\
  いとらうたけにてものしたまふを・あハれに
  心くるしう・いかゝおほさゝらん・経をかたてにも
  たまいて・かつよミつゝ・さうかをし給・ひめ
0033【さうか】−昌歌
  君にひわ・わか君にさうの御こと・またおさな
  けれと・つねにあハせつゝ・ならひ給へハ・きゝに
  くゝもあらていとおかしくきこゆ・ちゝみかと
0034【ちゝみかとにも】−これよりハ昔の事をいへり
  にも・女御にも・とくをくれきこえ給ひて・はか
  はかしき御うしろみのとりたてたるおはせ
  さりけれハ・さゑなとふかくもえならひた」7ウ

  まハす・まいて世中にすミつく御心をきてハ・
  いかてかハしりたまハむ・たかき人ときこゆ
  るなかにも・あさましうあてにおほとかなる・
  女のやうにおはすれハ・ふるき世の御たから
  物・おほちおとゝの御そうふんなにやかやと・
0035【おほちおとゝ】−母方大臣
  つきすましかりけれと・ゆくゑもなく・はか
  なくうせはてゝ・御てうとなとはかりなん・
  わさとうるハしくておほかりける・まいりと
  ふらひきこえ・心よせたてまつる人もなし・
  つれ/\なるまゝに・うたつかさのものゝしとも」8オ
0036【うたつかさ】−雅楽司<ウタツカ>
0037【ものゝしとも】−琴笛等

  なとやうの・すくれたるをめしよせつゝ・はか
  なきあそひに心をいれておいゝて給へれ
  ハ・そのかたハいとおかしうすくれたまへり・源氏
  のおとゝの御おとうとにおハせしを・れせい
0038【おとゝ】−藤なり
  院の東宮におハしましゝとき・すさく院
  のおほきさきの・よこさまにおほしかまへて・こ
0039【おほきさき】−二条
  の宮を世中にたちつき給ふへく・わか御と
  きもてかしつきたてまつりけるさハきに・
  あひなくあなたさまの御なからひにハ・さし
0040【あなたさまの】−源氏
  はなたれ給ひにけれハ・いよ/\かの御つき/\に」8ウ

  なりはてぬる世にて・えましらひ給ハす・
  またこのとしころかゝるひしりになり
  ハてゝ・いまハかきりとよろつをおほしすて
  たりかゝるほとに・すみ給ふ宮やけにけ
0041【宮やけにけり】−焼失事(明融臨模本0017)
  り・いとゝしきよに・あさましうあえなく
  て・うつろひすミ給ふへき所のよろしき
  もなかりけれハ・うちといふところによしある
0042【うちといふところに】−移住宇治事(明融臨模本0018)
  山さと・もたまへりけるにわたり給ふ・おもひ
  すてたまへるよなれとも・いまハとすミは
  なれなんを・あハれにおほさる・あしろのけ」9オ

  ハひちかく・みゝかしかましき・川のわたりに
  て・しつかなる思ひに・かなハぬかたもあれと・い
  かゝハせむ・花もみち水のなかれにも・心をや
  るたよりによせて・いとゝしくなかめ給よ
  りほかのことなし・かくたえこもりぬる野
  山のすゑにも・むかしの人ものし給ハましか
0043【むかしの人】−北方
  ハと・おもひきこえたまハぬおりなかりけり
    みし人も宿もけふりになりにしを
0044【みし人も】−宇治宮
  なにとて我身きえのこりけんいけるかひ
0045【いけるかひなく】−\<朱合点> 大和 雲井にてよそふる比ハ五月雨のあめの下ニそいけるかひなき(大和物語168、河海抄・孟津抄・岷江入楚)
  なくそおほしこかるゝや・いとゝ山かさなれる・」9ウ
0046【山かさなれる】−六帖五 月よミの光ニきませ足引の山かさなりてと越からなくに(古今六帖2841、花鳥余情・休聞抄・孟津抄・岷江入楚)

  御すみかにたつねまいる人なし・あやしき
  下すなとゐなかひたる山かつとものミまれに・
0047【まれになれまいりつかうまつる】−大和 しほかまの浦ニハ海人のたえニけんなと漁のみゆる時なき(大和物語81、河海抄)
  なれまいりつかうまつる・みねのあさきりはる
0048【みねのあさきり】−\<朱合点> 古今 かりのくる嶺の朝霧たえすのミ思つきせぬ世中のうさ(明融臨模付箋01 古今935・新撰和歌255・古今六帖634、源氏釈・奥入・異本紫明抄・紫明抄・河海抄)
  るおりなくて・あかしくらしたまふに・このう
0049【うち山にひしりたちたるあさり】−喜撰隠居宇治山持密呪食松葉得仙道云々 古今 我庵ハ都(古今98・古今六帖885、花鳥余情・弄花抄・一葉抄・細流抄・孟津抄・岷江入楚)
  ち山に・ひしりたちたるあさりすミけり・さへ
  いとかしこくてよのおほえもかろからね
  と・おさ/\おほやけことにもいてつかへす・
  こもりゐたるに・この宮のかくちかきほとに
  すミ給て・さひしき御さまに・たうとき
  わさ越せさせ給つゝ・法もんをよみならひ」10オ

  たまへハ・たうとかりきこえて・つねにまいる・
  としころまなひしり給へる事ともの・
  ふかき心越・とききかせたてまつり・いよ
  いよこ(の&こ)の世のいとかりそめにあちきなき
  こと越申しらすれハ・心はかりハはちすの
0050【心はかりハ】−宇治宮詞
0051【はちすのうへ】−\<朱合点> 拾遺 けふよりハ露の命もあしからす蓮の上の玉とちきれハ実方(拾遺集1340・実方集5、花鳥余情・休聞抄・紹巴抄・孟津抄・岷江入楚) 同 一たひも南無阿三陀仏といふ人の蓮のうへにのほらぬハなし空也上人(拾遺集1344、花鳥余情・孟津抄・岷江入楚)
  うへに思ひのほり・にこりなき池にもすみ
  ぬへきを・いとかくおさなき人/\をみすて
  む・うしろめたさハかりになむ・えひたみち
  に・かたちをもかへぬなと・へたてなく物かたり
  し給・このあさりハ・れせい院にもしたしく」10ウ

  さふらひて・御経なとをしへきこゆる(きこゆる=奉る)人なり
  けり・京にいてたるつゐてにまいりて・れいのさ
  るへきふミなと御らむして・とハせ給ふことも
0052【ふみ】−文
  あるつゐてに・八の宮のいとかしこく・ないけう
0053【八の宮の】−聖物語申
0054【ないけう】−内教(明融臨模本0021)
  の御さえ・さとりふかくものし給けるかな・さるへ
  きにてむまれたまへる人にや・ものし給ら
  む・心ふかく思ひすまし給へるほと・まこと
  のひしりのをきてになむみえ給とき
  こゆ・いまたかたちハかへたまハすや・そくひ
0055【いまたかたちは】−院御詞
0056【そくひしり】−東坡山谷なとも身つから有髪僧在家僧なと詩ニつくれり
  しりとか・このわかき人/\のつけたなる・」11オ

  あハれなること也なとのたまハす・さい相中
0057【さい相中将】−かほる大将の事也
  将も・御前にさふらひ給て・われこそ世中
  をは・いとすさましう思ひしりなから・おこな
  ひなと人にめとゝめらるハかりハ・つとめす
  くちおしくて・すくしくれと・人しれすお
  もひつゝ・そくなからひしりになり給ふ心
  のをきてやいかにと・みゝとゝめてきゝた
0058【いかにとみゝとゝめてきゝたまふ】−我身ニおもひくらへてきゝたまふ也
  まふ・出家の心さしハ・もとよりものし給へる
0059【出家の心さしハ】−阿闍梨詞
  を・はかなきことにおもひとゝこほり・いまと
  なりてハ・心くるしき女子ともの・御うへを」11ウ

  え・おもひすてぬとなんなけき侍りたまふ
  とそうす・さすかにものゝねめつるあさりに
  て・けにはたこのひめ君たちのことひき
  あはせてあそひ給へる・河なミにきをひて
  きこえ侍ハ・いとおもしろく・こくらく思ひ
0060【こくらく思ひやられ】−[辷-一+景]迹也すくれたる心ニいへり
  やられ侍やと・こたいにめつれは・みかと
0061【こたい】−古代也
0062【みかと】−冷院号後経言也
  ほゝゑみ給ひて・さるひしりのあたりに・
  おひいてゝこのよのかたさまハ・たと/\しか
  らむ(む+と)・おしはからるゝを・おかしのことや・
  うしろめたくおもひすてかたく・もてわつ」12オ

  らひ給らんを・もししハしもをくれむほと
  ハ・ゆつりやハしたまはぬなとそのたまハする・
  この院のみかとハ・十のみこにそおハしましける・
0063【院のみかと】−冷
0064【十のみこ】−ウ
  すさく院のこ六条院に・あつけきこえ給し
  入道の宮の御ためしをお(/\&お)もほしいてゝ・か
0065【入道の宮】−女三宮御事
  の君たちをかな・つれ/\なるあそひか
  たきになと・うちおほしけり・中将君中/\
0066【中将君】−かほる御事
  みこのおもひすましたまへらむ・御心はえ
0067【みこ】−八宮
  をたいめむして・みたてまつらハやとおもふ
  心そふかくなりぬる・さてあさりのかへりいる」12ウ

  にも・かならすまいりて物ならひきこゆへく・ま
  つうち/\にもけしき給ハりたまへなと・か
  たらひたまふ・みかとの御ことつてにて・あハれ
0068【みかとの御ことつて】−院遣状於宇治宮事(明融臨模本0027)
  なる御すまゐを・人つてにきくことなと
  きこえたまうて
    世をいとふ心ハ山にかよへともやへたつ
0069【世をいとふ】−院御門
  雲を君やへたつるあさりこの御つかひ
  をさきにたてゝ・かの宮にまいりぬ・なのめ
  なるきハのさるへき人のつかひたに・まれ
  なる山かけにいとめつらしくまちよろこひ」13オ

  給て・所につけたるさかななとして・さるかた
  にもてはやし給御返し
    あとたえて心すむとハなけれとも世
0070【あとたえて】−宇治宮
  をうち山にやとをこそかれひしりのかた
0071【ひしりのかた】−院の御心中
  をハひけしてきこえなし給へれハ・猶よに
  うらみのこりけると・いとおしく御らむす・
  あさり中将のたうしむふかけにものし給
0072【中将のたうしむふかけに】−聖物語
  ふなとかたりきこえて・法文なとの心えま
0073【法文なとの心えまほしき心さし】−宰相中将道心事(明融臨模本0029)
  ほしき心さしなん・いはけなかりしよはひ
  より・ふかくおもひなから・えさらすよにあり」13ウ

  ふるほと・おほやけわたくしにいとまなく
  あけくらしわさと・とちこもりて・ならひよミ
  おほかたはか/\しくもあらぬ身にしも・
  世中をそむきかほならむも・はゝかるへき
  にあらねと・をのつからうちたゆミ(ミ+て)・まきら
  ハしくてなむ・すくしくる越・いとありかたき
  御ありさまを・うけたまハりつたへしより・
  かく心にかけてなん・たのミきこえさするな
  と・ねむころに申給ひしなと・かたりきこ
  ゆ・宮よのなかをかりそめのことゝおもひとり(△△△△&おもひとり)・」14オ
0074【宮】−返答

  いとハしき心のつきそむる事も・わか
  身にうれへあるとき・なへての世もうらめ
  しう・思ひしるはしめありてなん・道心もおこ
  るわさなめるを・としわかく世中おもふに・
  かなひ・なにこともあかぬことハあらしとお
  ほゆる身のほとに・さはた後の世をさへた
  とりしり給らんか・ありかたさ・こゝにはさへき
  にや・たゝいとひ・はなれよとこと・さらに仏
  なとのすゝめおもむけたまふやうなるあり
  さまにて・をのつからこそしつかなる思ひ・かな」14ウ

  ひゆけとのこりすくなき心ちするに・はか/\
  しくもあらて・すきぬへかめるをきしかたゆく
  すゑさらに・えたる所なく・おもひしらるゝ
  をかへりてハ・心はつかしけなる・法のともに
0075【ともに】−友なり
  こそハものし給なれなとのたまひて・かたミ
  に御せうそこかよひ・みつからもまうて給ふ・
  けにきゝしよりも(△&も)・あハれにすまひたまへる
0076【けにきゝしより】−かほる心中
0077【きゝしよりもあはれにすまひたまへるさま】−宰相中将対面宮事(明融臨模本0034)
  さまよりはしめて・いとかりなる草のいほり
  におもひなし・ことそきたり・おなしき山さ
  とゝいへと・さるかたにて・心とまりぬへくのと」15オ

  やかなるもある越・いとあら(ら$ら<朱>)ましき水の
  をと・なミのひゝきにものわすれうちし・
  よるなと心とけて・夢を(を$<朱>、&を<墨>)たにみるへきほと
  もなけに
すこくふきはらひたり・ひしり
  たちたる御ために・かゝるしもこそ・心とま
  らぬもよほしならめ・女君たちなに心ちし
  て・すくし給らむ・よのつねの女しく・なよひ
  たるかたハ・と越くやとおしはからるゝ御
  ありさまなり・仏の御へたてにさうしハかり
  をへたてゝそ・おはすへかめる・すき心あらむ」15ウ

  人ハけしきはミよりて・人の御心はえをも
  みまほしう・さすかにいかゝと・ゆかしうもある
  御けハひなり・されとさるかた越おもひはなる
0078【さるかた越】−好色の方の事なり
  るねかひに・山ふかくたつねきこえたるほひ
  なく・すき/\しきなをさりこと越うち
  いて・あされはまむも・ことにたかひてやなと・
  おもひかへして・宮の御ありさまのいとあハれ
  なるを・ねむころにとふらひきこえたま
  ひ・たひ/\まいり給ひつゝ・おもひしやうに・
  うはそくなから・おこなふ山のふかき心・法」16オ
0079【うはそく】−仏の四部の弟子の其一也 賀茂役公小角<エノキミヲス>年卅二にして家をはなれかつらき山へ入てをこないし人也 役優婆塞となつく山伏の行ハ是よりはしまれりとなん 六帖 うハそくかおこなふ山のしゐか本あなそハ/\しとこにしあらねハ(宇津保物語212・435、花鳥余情・紹巴抄・孟津抄・岷江入楚)

  もんなとわさとさかしけにはあらて・いとよく
0080【いとよくのたまひしらす】−中将与宮法談事(明融臨模本0039)
  のたまひしらす・ひしりたつ人・さえあるほう
  しなとハ・よにおほかれと・あまりこは/\しう・
  けと越けなる・しうとくのそうつ・そう正の
0081【しうとく】−宿徳(明融臨模本40)
  きはゝ・世にいとまなくきすくにて・も(△&も)のゝ心
  をとひあらハさむも・こと/\しくおほえ
  たまふ・またその人ならぬ仏の御てしの
  いむこと越たもつハかりのたうとさはあれと・
  けハひいやしく・こと葉たミて・こちなけに
0082【こちなけに】−無骨也
  ものなれたる・いとものしくて・ひるハおほや」16ウ

  けことにいとまなくなとしつゝ・しめやかなる
  よひのほと・けちかき御まくらかミなとに・
  めしいれかたらひ給ふにもいと・さすかに物む
  つかしうなとのミあるを・いとあてにこゝろく
  るしきさまして・のたまひいつることの葉
  も・おなし仏の御をしへをも・みゝちかき
  たとひに・ひきませいとこよなくふかき御
  さとりにハあらねと・よき人ものゝ心をえ
0083【よき人】−たときをいふ
  たまふかたの・いとことにものしたまひけれ
  はハ・やう/\みなれたてまつり給たひことに・」17オ

  つねにみたてまつら(ら+ま)ほしうて・いとまなくなと
  して・程ふるときハ・恋しくお(△△△&しくお)ほえ給・この
0084【この君】−中将をいへり
  君のかくたうとかりきこえたまへれは・
  れせい院よりも・つねに御せうそこなとあり
  て・としころをとにも・おさ/\きこえ給ハす・
  さひしけなりし・御すミかやう/\人めみる
  とき/\あり(り+おり<朱墨>)ふしに・とふらいきこえ給こと・いか
  めしうこの君もまつさるへき事につけ
0085【この君】−かほる
  つゝ・おかしきやうにもまめやかなるさま
  にも・心よせつかうまつり給こと・三年ハかりに」17ウ

  なりぬ・秋のすゑつかた四(四$四<朱>)きにあてゝし給・御
0086【四きにあてゝ】−宮ー
  念仏をこの河つらハ・あしろのなミもこの
  ころハいとゝみゝかしかましく・しつかならぬを
  とて・かのあさりのすむ寺のたうに・うつろ
0087【すむ寺】−今の橋寺辺歟
0088【うつろひたまひて】−宮ー
  ひたまひて・七日のほとおこなひ給ふ・ひめ
  君たちはいと心ほそく・つれ/\まさりて
  なかめ給けるころ・中将の君ひさしくまいら
0089【中将の君ひさしくまいらぬかなと】−薫 中将向宇治事(明融臨模本0014)
  ぬかなと思ひいてきこえ給けるまゝに・あり
  明の月のまた夜ふかくさしいつるほとに・いて
  たちて・いとしのひて・御ともに人なともなく」18オ

  て・やつれておハしけり・川のこなたなれハ・
  舟なともわつらハて御馬にてなりけり・
  いりもてゆくまゝに・霧ふたかりて・道も見
  えぬしけきの中をわけ給ふに・いとあらま
0090【しけきの中を】−しけ木中 親行語
  しき風のきほひに・ほろ/\(/\+と<朱墨>)おちみたるゝ
  木葉の露のちりかゝるも・いとひやゝかに人
  やりならす・いたくぬれ給ひぬ・かゝるあり
  きなとも・おさ/\ならひたまハぬ心ちに・
  心ほそくおかしくおほされけり
    山おろしにたえぬこの葉の露よりも」18ウ
0091【山おろしに】−薫大将

  あやなくもろき我涙かな山かつのおとろ
0092【我涙かな】−俊成卿此哥によりて嵐吹嶺の木葉の(定家十体245)
  くもうるさしとて・すいしんのをともせさ
  せ給ハす・しはのまかきをわけつゝそこは
0093【しはのまかき】−柴
  かとなき水のなかれとも越・ふミしたくこま
0094【ふみしたく】−踏
  のあしをとも・猶しのひてと・ようひし給
  へるに・かくれなき御にほひそ風にしたかひ
  て・ぬししらぬかとおとろく・ねさめの家々あ
0095【ぬししらぬかと】−\<朱合点> 古今 主しらぬ香こそにほへれ秋のゝニ誰ぬきかけし藤袴そも(古今241・古今六帖3727・和漢朗詠290・素性集20、源氏釈・奥入・異本紫明抄・紫明抄・河海抄)
  りける・ちかくなるほとに・そのことゝも・きゝ
  わかれぬものゝねとも・いとすこけにきこ
  ゆ・つねにかくあそひたまふときく越・ついて」19オ

  なくて・みやの御ことのねのなたかきもえ
0096【みやの御ことのね】−中将聞比巴箏事(明融臨模本0048)
  きかぬそかし・よきおりなるへしとおもひ
  つゝ・いり給へハ・ひわのこゑのひゝきなりけり・
  わうしきてうにしらへて・よのつねの
  かきあはせなれと・所からにやみゝなれぬ
  心ちして・かきかへすはちのおとも物きよ
  けにおもしろし・さうのことあハれになまめひ
  たるこゑして・たえ/\きこゆ・しハしきか
  まほしきにしのひ給へと・御けハひしるくき
  きつけて・とのひ人め(め+く)おのこ・なまかたくなし」19ウ

  きいてきたり・しか/\なんこもりおハします
0097【しか/\なん】−とのゐ人の詞
  御せうそこをこそきこえさせめと申す・な
0098【なにかしかかきりある】−かほるの詞
  にか・しかかきりある御おこなひの程を・まき
  らハしきこえさせむに・あひなし・かくぬ
  れぬれまいりて・いたつらにかへらむうれへを・
  ひめ君の御かたにきこえてあハれとの給
  はせハなむ・なくさむへきとのたまへハ・み
  にくきかほうちゑミて・申させ侍らむとて
0099【うちゑミて】−とのい人
  たつを・しハしやとめしよせて・としころ
0100【しハしやと】−かほる
  人つてにのミきゝて・ゆかしくおもふ御こと」20オ

  のねともを・うれしきおりかな・しハしす
  こしたちかくれて・きくへきものゝくまあ
  りや・つきなくさしすきてまいりよらむ
  ほと・みなことやめ給ひてハいとほひなか
  らんとの給・御けハひかほかたちのさるな
0101【御けはひかほかたちの】−とのゐ人の心中詞なり
  をなをしき心ちにも・いとめてたくかた
  しけなくおほゆれハ・人きかぬときハ・あけ
  くれかくなんあそハせと・しも人にても宮
  このかたよりまいりたちましる人侍ると
  きハ・をともせさせ給はす・おほかたかくて」20ウ

  女たちおハしますことをは・かくさせ給ひ・
  なへての人にしらせたてまつらしとおほ
  しのたまハするなりと申せハ・うちわらひ
0102【うちわらひて】−かほる
  て・あちきなき御ものかへ(へ$く<朱>)しな(な+な<朱>)り・しかし
  のひ給ふなれと・みな人ありかたき世のた
  めしにきゝいつへかめるをとの給て・な越
  しるへせよ・われハすき/\しき心なとな
  き人そ・かくておハしますらむ御ありさ
  まのあやしく・けになへてにおほえ給
  ハぬなりと・こまやかにのたまへハ・あなかし」21オ
0103【あなかしこ】−とのゐ人

  こ心なきやうに後のきこえや侍らむとて・
  あなたの御まへハ・たけのすいかひしこめて・
  ミなへたてことなるを・ゝしへよせたてまつ
  れり・御ともの人ハにしのらうによひすへて・
  このとのゐ人あひしらふ・あなたにかよふへ
  かめる・すひかひのとを・すこしをしあけ
  て見給へハ・月おかしきほとに・霧わたれる
  をなかめて・すたれをみしかくまきあけて・
  人/\ゐたり・すのこにいとさむけに身ほ
  そくなえはめるわらハひとり・おなしさ」21ウ

  まなるおとななとゐたり・うちなる人一
0104【うちなる人】−姫ー
  人・はしらにすこしゐかくれて・ひはをま
  へにをきて・はちをてまさくりにし
  つゝゐたるに・雲かくれたりつる月のにハ
  かに・いとあかくさしいてたれハ・あふきなら
0105【あふきならて】−姫君
  てこれしても・月ハまねきつへかりけり
  とて・さしのそきたるかほ・いみしくらうた
0106【さしのそきたる】−姫
  けににほいやかなるへし・そひふしたる
  人ハことのうへに・かたふきかゝりて・いる日を
0107【いる日をかへすはち】−\<朱合点> 返日撥事(明融臨模本0054) 女房答 還城楽陵王ニ入日ヲカヘス撥アリ
  かへすはち
そありけれ・さまことにも・おも」22オ

  ひ・をよひ給ふ・御心かなとて・うちわらひた
  るけハひ・いますこしおもりかによしつき
  たり・をよハすとも・これも月にはなるゝ
0108【をよはすともこれも】−又姫君隠月の事をおもひよせ侍る心詞なり
  物かはなと・はかなきこと越うちとけの給
  かハしたるけはひとも・さらによそに思ひ
  やりしにハにす・いとあはれになつかしう
  おかし・むかし物かたりなとに・かたりつたへ
0109【むかし物かたりなとに】−住吉物語姫君の琴引給ふを中将きゝつけ侍る事みえたり又うつほ第四月おもしろき夕暮ハ君いま宮ひめ宮みす巻あけて琴とも引あはせあそひ給ふ事あり
  てわかき女房なとのよむをもきくに・
  かならすかやうの事をいひたる・さしもあ
  らさりけむと・にくゝおはしからるゝを・け」22ウ

  にあハれなる物のくまありぬへき世なりけり
0110【物のくま】−かくれなり
  と心うつりぬへし・きりのふかけれハ・さや
  かにみゆへくもあらす・又月さしいてなんと
  おほすほとに・おくのかたより人おハすと・
  つけきこゆる人やあらむ・すたれおろし
  てミないりぬ・おとろきかほにハあらす・な
  こやかにもてなして・やをらかくれぬるけ
  ハひとも・きぬのを(△&を)ともせ(△&せ)す・いとなよら
  かに心くるしくて・いみしうあてにみやひ
  かなるを・あはハれとおもひ給ふ・やをらいて(△△&いて)」23オ

  て・京に御車ゐ(ゐ=持<モテ>)てまいるへく・人ハしらせ
0111【御車ゐて】−薫
  つあり(あり=かはし)つる・さふらひにおりあしくまいり
0112【さふらひに】−かほる消息し給ふ
0113【おりあしく】−折 悪
  侍にけれと・中/\うれしくおもふことすこし
  なくさめてなむ・かくさふらふよしきこえ
  よ・いたうぬれにたる・かこともきこえさせむ
  かしとのたまへハ・まいりてきこゆ・かくみえや
0114【まいりてきこゆ】−とのゐ人つけたてまつる也
0115【かくみえやしぬらんとハ】−姫君
  しぬらんとハ・おほしもよらて・うちとけたり
  つる事ともを・きゝやしたまひつらむと・
  いといみしく・はつかし・あやしく・かうはし
  くにほふ風の吹つるを・おもひかけぬほと」23ウ

  なれは・おとろかさりける・心をそさよと・心
  もまとひて・はちをハさうす・御せうそこな
  と・つたふる人も・いとうゐ/\しき人なめる
  を・おりからにこそ・よろつのこともと・おほひ
  て・また霧のまきれなれハ・ありつるみすの
  まへにあゆミいてゝ・つゐい給ふ・山さとひたる・
  わか人ともハ・さしいらへむことのはもお
  ほえて・御しとねさしいつるさまも・たと/\
  しけなり・このみすのまへには・はしたなく
  侍りけり・うちつけにあさき心はかりにてハ・」24オ
0116【うちつけに】−かほる詞

  かくもたつねまいるましき山のかけちに・
0117【山のかけちに】−\<朱合点> 古今 世ニふれハうさこそまされ三吉のゝ岩のかけ道ふミならしてん(古今951、河海抄・孟津抄・岷江入楚)
  おもふ給ふるをさまことにこそ・かく露け
  きたひをかさねてハ・さりとも御らむし
  しるらむとなん・たのもしう侍と・いとまめや
  かにの給・わかき人/\のなたらかに・もの
  きこゆへきもなく・きえかへり・かゝやかし
  けなるも・かたハらいたけれハ・女はらの・おく
0118【女はら】−達の心なり原也後撰詞衆僧はらなとある同事也
  ふかきを・おこしいつるほとひさしく
  なりて・わさとめひたるもくるしうて・な
0119【くるしうて】−姉宮通言事(明融臨模本0064)
  にこともおもひしらぬありさまにて・しりかほ」24ウ

  にも・いかゝハきこゆへくと・いとよしあり・あて
  なるこゑして・ひきいりなから・ほのかにのた
  まふ・かつしりなから・うきをしらすかほなる
0120【かつしりなから】−詞
  も・よのさかとおもふたまへしる越・ひとと
  ころしも・あまりおほめかせ給らんこそ・くち
  おしかるへけれ・ありかたうよろつを・おもひ
  すましたる・御すまゐなとに・たくひき
  こえさせ給・御心のうちハ・なにこともすゝし
0121【御心のうちハ】−\<朱合点> 拾遺廿 さゝ浪やしかの浦かせいかはかり心のうちのすゝしかるらん公任(拾遺集1336、花鳥余情・休聞抄・紹巴抄・孟津抄・岷江入楚)
  く・をしはかられ侍れハ・猶かくしのひあ
  まり侍・ふかさあさゝのほとも・わかせ給ハん」25オ

  こそ・かひハ侍らめ・よのつねのすき/\しき
  すちには・おほしめしはなつへくや・さやう
  のかたハ・わさとすゝむる人侍りとも・なひく
  へうもあらぬ・心つよさになん・をのつから・き
  こしめしあハするやうも侍りなん・つれ/\
  とのミ・すくし侍よの物かたりも・きこえ
  させ所に・たのミきこえさせ・又かく世はな
  れて・なかめさせ給らん・御心のまきらハし
  にハ・さしもおとろかさせたまふハかりきこえ
  なれ侍らハ・いかに思ふさまに侍らむなとおほ」25ウ

  くの給へハ・つゝましく・いらへにくゝて・おこし
  つるおい人の・いてきたるにそゆつりたまふ・
0122【おい人のいてきたるに】−左女弁対面事(明融臨模本0069) 弁君といふ人なり左中弁女
0123【ゆつりたまふ】−姫ー
  たとしへなく・さしすくして・あなかたしけ
0124【たとしへなく】−老人詞
  なや・かたハらいたき・おましのさまにも侍かな・
  みすのうちにこそ・わかき人/\ハものゝほと
  しらぬやうに侍こそなと・したゝかゝにいふ
  こゑの・さたすきたるもかたはらいたく・君
0125【さたすきたるも】−かほる心中
  たちハおほす・いともあやしく世中に
0126【いともあやしく】−老人ノ詞
  すまゐ給人のかすにもあらぬ御ありさま
  にて・さもありぬへき人/\たに・とふらひ・かす」26オ

  まへきこえ給も・みえきこえすのミ・なり
  まさり侍めるに・ありかたき御心さしのほとハ・
  かすにも侍らぬ心にもあさましきまて・お
  もひたまへ侍を・わかき御心ちにも・おほし
  しりなから・きこえさせたまひにくきにや
  侍らむと・いとつゝミなくものなれたるも・
0127【いとつゝミなく】−かほる心中詞
  なまにくきものから・けハひいたう人めきて・
  よしあるこゑなれハいと・たつきもしらぬ心ち
0128【たつきもしらぬ】−\<朱合点>
  しつるに・うれしき御けハひにこそ・なに
  こともけにおもひしり給ける・たのミ・こよ」26ウ

  なかりけりとて・よりゐ給へるを・き丁のそ
0129【き丁のそはよりみれハ】−うちより見るなり
  はよりみれハ・あけほのゝ(ゝ$<朱>)・やう/\ものゝ色わ
  かるゝに・けにやつしたまへると見ゆる・
  かりきぬすかたの・いとぬれしめりたるほと・
  うたてこの世のほかのにほひにやと・あや
  しきまてかほりみちたり・このおい人は・
  うちなきぬ・さしすきたるつミもやと・お
  もふたまへしのふれと・あハれなるむかしの
  御物かたりの・いかならむついてに・うちいて
  きこえさせ・かたハしをも・ほのめかし・しろ」27オ

  しめさせむと・としころねんすのついてにも・
  うちませおもふ給へわたるしるしにや・うれ
  しきおりに侍を・またきに・おほゝれ侍・涙
  にくれて・えこそきこえさせす侍けれと・う
  ちわなゝくけしき・まことにいミしくもの
0130【けしきまことに】−かほる心中詞
  かなしと思へり・おほかたさたすきたる人ハ・
0131【さたすきたる人】−年たけたるをいふ
  涙もろなる物とは見きゝ給へと・いとかう
  しもおもへるも・あやしうなり給て・こゝに
  かくまいることハ・たひかさなりぬるを・かくあハ
  れしりたまへる人もなくてこそ・露けき」27ウ

  みちのほとに・ひとりのミ・そほちつれ・うれ
  しき・つゐてなめるを・ことな・のこひたまひ
  そ・かしとのたまへハ・かゝるつゐてしも侍ら
0132【かゝるつゐてしも】−老人詞
  しかし・又侍りとも夜のまのほとしらぬ命
  のたのむへきにも侍らぬを・さらハたゝかゝる
  ふるもの・世に侍けりとはかり・しろしめされ
  侍らなむ・三条の宮に侍しこしゝう・はか
0133【三条の宮に】−女三
0134【こしゝう】−弁尼小侍ー一腹也
  なくなり侍にけると・ほのきゝ侍し・その
  かみ・むつましうおもふ給へし・おなし程の
  人おほくうせ侍にける・世のすゑに・はる」28オ

  かなるせかいより・つたハりまうてきて・この
0135【せかい】−世界
  いつとせむとせのほとなむ・これにかくさ
  ふらひ侍・しろしめさしかし・このころとう
0136【とう大納言】−紅ー
  大納言と申なる・御このかミの右衛門のかみ
0137【右衛門のかみ】−柏
  にて・かくれ給にしハ・ものゝつゐてなとにや・
0138【ものゝつゐてなとにや】−弁語出権大納言問事(明融臨模本0075)
  かの御うへとてきこしめしつたふる事も
0139【かの御うへ】−柏
  侍らむ・すき給て・いくはくもへたゝらぬ
0140【すき給て】−過
  心ちのミし侍・そのおりのかなしさも・また
  袖のかハくおり侍らすおもふたまへらるゝ
  を・かくおとなしくならせ給にける御よ」28ウ

  はひのほとも・夢のやうになん・かの権大納言
  の御めのとに侍しハ・弁かハゝになむ侍し・あ
0141【弁かはゝ】−母
  さ夕につかうまつりなれ侍しに・人かすにも
  侍らぬ身なれと・人にしらせす・御心よりハた
  あまりけること越・おり/\うちかすめのたま
  いしを・いまハかきりになり給にし・御やまひ
  のすゑつかたに・めしよせて・いさゝかの給を
  くことなむ侍しを・きこしめすへきゆへ
  なん・ひとこと侍れと・かハかりきこえいて侍
  に・のこりをとおほしめす・御心侍らハ・のとか」29オ
0142【のこりをと】−尼物語の

  になん・きこしめしはて侍へき・わかき人/\
  も・かたハらいたくさしすきたりと・つき
  しろひ侍もことハりになむとて・さすかに
  うちいてすなりぬ・あやしく夢かたり・かむ
0143【あやしく夢かたり】−かほる心中
0144【かむなきやう】−巫<カン>覡 文選 男<カンナ>女<カンナ>
  なきやうのものゝ・とハすかたりすらむやう
  に・めつらかにおほさるれと・あハれにおほつ
  かなく・おほしわたることのすちを・きこゆ
  れハ・いとおくゆかしけれと・けに人めもし
  けし・さしくみにふる物かたりに・かゝつら
  ひて・夜をあかしはてむも・ちこ/\しかる」29ウ

  へけれハ・そこハかとおもひわくことハなきもの
  から・いにしへの事と・きゝ侍も物・あハれになん
  さらハ・かならすこののこりきかせ給へ・霧は
0145【さらハかならす】−薫詞
  れゆかはハしたなかるへきやつれを・おもな
  く御らんしとかめられぬへきさまなれハ・おも
  ふたまふる心のほとよりハ・くちおしうなむ
  とて・たちたまふに・かのおハしますてら
0146【かのおハしますてら】−宮ー念仏ニ
  のかねのこゑ・かすかにきこえて・きりいと
  ふかくたちわたれり・みねのやへ雲おもひ
0147【みねのやへ雲おもひやる】−後 白雲の八重ニかさなるをちにても思ハん人ニ心へたつな(古今380・貫之集721、花鳥余情・孟津抄・岷江入楚) おもひやる心斗ハさわらしをなにへたつらん嶺の八重雲 直幹<タヽモト>(後撰1306・古今六帖528・和漢朗詠638、花鳥余情・紹巴抄・休聞抄・孟津抄・岷江入楚)
  やるへたておほく・あはれなるに・な越この」30オ

  ひめ君たちの御心のうちとも・心くるしう・
  なにこと越おほしのこすらむ・かくいとおく
  まりたまへるも・ことハりそかしなとおほゆ
    あさほらけ家路もみえすたつね
0148【あさほらけ】−かほる
  こしまきのを山ハ霧こめてけり心ほそく
  も侍かなと・たちかへりやすらひ給へるさま
0149【たちかへりやすらひ】−薫ノ
  を・宮この人のめなれたるたに・猶いとこと
  におもひきこえたるを・まいていかゝハめつら
  しうみきこえさらん・御返きこえつたへ
0150【御返】−弁尼
  にくけにおもひたれハ・れいのいとつゝまし」30ウ

  けにて
    雲のゐる嶺のかけちを秋きりのいとゝ
0151【雲のゐる】−姉君
  へたつるころにもあるかなすこしうちなけ
  ひたまへるけしき・あさからすあハれなり・
  なにハかり・おかしきふしハみえぬあたり
  なれと・けにこゝろくるしきことおほかる
  にも・あかうなりゆけハ・さすかにひたおもて
  なる心ちして・中/\なるほとにうけたま
  ハりさしつることおほかる・のこりはいます
  こしおもなれてこそハ・うらみきこえさす」31オ

  へかめれ・さるハかく世の人めひてもてなし
  給へくハ思ハすに物おほしわかさりけりと・
  うらめしうなんとて・とのゐ人かしつらひ
  たる・にしおもてにおハしてなかめ給ふ・あし
0152【あしろハ】−内膳司式云山城国近江国氷魚網代各処一△(△$)其氷魚始九月迄十二月卅日供之
  ろハ人さハかしけなり・されとひをもよらぬ
  にや・あらむすさましけなるけしき
  なりと・御ともの人/\みしりていふ・あやし
  き舟ともにしはかりつミ・をの/\なにと
  なき世のいとなミともに・ゆきかふさまとも
  のはかなき水のうへにうかひたる・たれもお」31ウ

  もへハ・おなしことなるよのつねなさなり・
  われハ・うかはす・たまのうてなに・しつけ
0153【たまのうてな】−\<朱合点> 今日ミれハ玉のウてなもなかりけりあやめの草ノいほりのミして(拾遺集110、河海抄・孟津抄・岷江入楚)
  き身とおもふへき世かはと・おもひつゝけ
0154【おもひつゝけらる】−遣状於姫君事(明融臨模本0083)
  らる・すゝりめして・あなたにきこえ給ふ
0155【あなたに】−姫
    橋ひめの心をくみてたかせさすさほ
0156【橋ひめの】−かほる 離宮神此橋姫明神へ通給云也 さ筵ニ衣かたしきハ住吉の御哥也
  のしつくに袖そぬれぬるなかめ給ふらむ
  かしとて・とのひ人にもたせたまへり・いと
  さむけにいらゝきたるかほして・もてま
0157【いらゝきたる】−鳥はた立也
  いる・御かへりかミのかなとおほろけならむハ・
0158【かなと】−香
  はつかしけなるを・ときをこそかゝるお」32オ
0159【ときをこそ】−早

  りにハとて
    さしかへるうちの河おさあさ夕のし
0160【さしかへる】−姉君
  つくや袖をくたしはつらむ身さへうき
0161【身さへうきて】−\<朱合点> さす棹(△&棹) のしつくにぬるゝ袖ゆへニ身さへうきてもおもほゆるかな(明融臨模本付箋03 出典未詳、源氏釈・奥入・異本紫明抄・紫明抄・河海抄)
  てと・いとおかしけにかき給へり・まおにめ
0162【まおにめやすくも】−かほる心中
  やすくもものし給けりと・心とまりぬれ
  と・御車ゐてまいりぬと・人/\さハかしきこ
  ゆれハ・とのゐ人ハかりをめしよせて・かへり
0163【かへりわたらせたまハむほとに】−かほる詞 宮ー
  わたらせたまハむほとに・かならすまいるへ
  しなとのたまふ・ぬれたる御そともは・
  みなこの人にぬきかけ給ひて・とりにつ」32ウ
0164【この人に】−宿直人たふ

  かハしつる・御なをしにたてまつりかへつ・お
  い人の物かたり・心にかゝりておほしいてらる・
  おもひしよりハ・こよなくまさりて・おかしかり
0165【おかしかりつる】−姫ー
  つる御けハひとも・おも影にそひて・猶おも
  ひはなれかたき世なりけりと・心よハく思し
  らる・御ふミたてまつり給ふ・けさうたちて
  もあらすしろきしきしの・あつこえたる
  に・ふてひきつくろひえりて・すみつ
  き・みところありてかき給ふ・うちつけなる
0166【うちつけなるさまにや】−かほる文のこと葉
  さまにやと・あひなくとゝめ侍て・のこりお」33オ

  ほかるも(も+心<朱>)くるしきわさになむ・かたハし
  きこえをきつるやうに・いまよりハ・みすの
  まへも・心やすくおほしゆるすへくなむ・御
  山こもりはて侍らむ日かすも・うけたまハり
  をきて・いふせかりしきりのまよひも・はる
  け侍らむなとそいとすくよかにかき給へる・
  さこんのそうなる人御つかひにて・かのおい
  人たつねてふミもとらせよとのたまふ・
  とのひ人かさむけにて・さまよひしなとあ
  ハれにおほしやりて・おほきなるひはりこ」33ウ

  やうのもの・あまたせさせ給ふ・またの日かの御
  てらにもたてまつり給ふ・山こもりのそうとも・
0167【たてまつり給ふ】−送物事(明融臨模本0087)
  この比のあらしにハ・いと心ほそくくるしか
  らむを・さておハしますほとのふせ給ふ
0168【ふせ給ふ】−かほる方より
  へからんと・おほしやりて・きぬわたなとおほ
  かりけり・御おこなひはてゝいてたまふ・あし
  たなりけれハ・をこなひ人ともに・わたきぬ
  けさ・衣なと・すへてひとくたりのほとつ
  つ・あるかきりの大とこたちに給ふ・とのゐ
  人か・御ぬきすての・えむにいみしき・かり」34オ

  の御そとも・えならぬしろきあやの御そ
  の・なよ/\といひしらすにほへるを・うつし
  きて身をハたえかへぬもなれハ・につかは
  しからぬ袖のかを・人ことにとかめられ・め
  てらるゝなむ・中/\所せかりける・心に
  まかせて・身をやすくもふるまハれす・い
  とむくつけきまて・人のおとろくにほひ
  を・うしなひてはやとおもへと・所せき人の
  御うつりかにて・えもすゝきすてぬそ・あま
  りなるや・君ハひめ君の御返こと・いとめや」34ウ
0169【君は】−かほる

  すく・こめかしき越・おかしく見給ふ・宮にも・
  かく御せうそこありきなと・人/\きこえ
  させ御らむせさすれハ・なにかハけさうたち
  て・もてなひ給ハむも・中/\うたてあら
  む・れいのわか人にゝぬみ心ハえなめるを・な
  からむ後もなと・ひとことうちほのめかし
  てしかハ・さやうにて心そ・とめたらむなと
  の給けり・御みつからも・さま/\の御とふらひ
0170【御みつからも】−宮ー
  の・山のいはやにあまりしことなとのたま
0171【のたまへるにまうてんと】−語宇治宮事於三宮事(明融臨模本0092)
  へるに・まうてんとおほして・三の宮のかやう」35オ
0172【まうてんと】−薫ー
0173【三の宮】−匂兵部卿

  に・おくまりたらむあたりの・見まさりせむ
0174【おくまりたらむ】−奥フカキ
  こそ・おかしかるへけれと・あらましことにたに・
  のたまふ物を・きこえはけまして・御心さハ
  かしたてまつらむとおほして・のとやかなる
  夕くれに・まいり給へり・れいのさま/\なる・
0175【まいり給へり】−匂へ
  御物かたりきこえかハし給ふついてに・うち
  の宮の御事かたりいてゝ・みしあか月のあり
  さまなと・くハしくきこえ給ふに・宮いと
  せちにおかしとおほひたり・されハよと御け
0176【されハよと】−かほる心中
  しきをみて・いとゝ御心うこきぬへく・いひ」35ウ

  つゝけたまふ・さてそのありけんかへりことハ・
0177【さてそのありけん】−匂宮の御詞
  なとかみせ給ハさりし・まろならましかハ
  と・うらみ給ふ・さかし・いとさま/\御らむす
  へかめるハしをたに・みせさせたまハぬ・かのわ
0178【かのわたり】−かほる
  たりハ・かくいともむもれたる身に・ひき
  こめて・やむへき・けハひにも侍らねハ・かなら
  す御らむせさせはやと・おもひ給れと・いか
  てかたつねよらせ給へき・かやすきほと
  こそ・すかまほしくハ・いとよくすきぬへ
  きよに侍りけれ・うちかくろへつゝ・おほか」36オ

  めるかな・さるかたにみところありぬへき女
0179【さるかたに】−匂宮
  の・もの思ハしき・うちしのひたるすみか
  とも・山里めひたる・くまなとに・をのつから
  侍へかめり・このきこえさする・わたりハ・いとよ
  つかぬひしりさまにて・こち/\しうそあら
  むと・としころ思あなつり侍て・みゝをたに
  こそ・とゝめ侍らさりけれ・ほのかなりし月影
  の・見をとりせすハ・ま越ならんはやけハひ
  ありさま・はたさハかりならむをそ・あらまほ
  しきほとゝハ・おほえ侍へきなと・きこえ」36ウ

  たまふ・はて/\ハまめたちて・いとねたく
0180【はて/\ハ】−匂宮
  おほろけの人に・心うつるましき人の・かく
  ふかくおもへるを・おろかならしと・ゆかし
  うおほすことかきりなくなり給ひぬ・なを
  また/\・よくけしき見たまへと・人をす
  すめ給て・かきりある御身のほとの・よたけ
  さ越・いとはしきまて・心もとなしとおほし
  たれハ・おかしくて・いてやよしなくそ侍・し
0181【おかしくて】−かほる心中
  ハし世中に・心とゝめしと思ふ給る・やうある
  身にて・な越さりことも(△&も)・つゝましう侍を・」37オ

  心なからかなハぬ心つきそめなハ・おほきに・
  おもひにたかふへきことなむ侍へきと・き
  こえ給へハ・いてあなこと/\し・れひのおとろ
0182【いてあなこと/\し】−匂宮
  おとろしき・ひしりことは・見はてゝし
0183【ひしりことは】−聖人詞也
  かなとて・わらひ給ふ・心のうちにハ・かのふる
0184【心のうちにハ】−かほる心中
  人の・ほのめかししすちなとの・いとゝうち
  おとろかれて・物あハれなるに・おかしとみる
  ことも・めやすしときくあたりも・なには
  かり・心にもとまらさりけり・十月になりて・
  五六日のほとに・うちへまうてたまふ・あ」37ウ

  しろをこそこの比ハ・御らむせめときこゆる
  人/\あれと・なにかそのひをむしに・あらそ
0185【ひをむし】−△(△$郭)撲詩借問蜉蝣輩寧知亀鶴年 [虫+秀]ヒヲムシ 蜉蝣イ(明融臨模本0104) 白小虫如蜻朝ニ生夕死
  ふ心にて・あしろにもよらむと・そきすて
  給て・れいのいとしのひやかにて・いてたち
  給・かろらかに・あしろくる(△&る)まにて・かとりの
0186【かとりのなをし】−昔ハ公卿も直衣に平絹を用たるへし
  なをしさしぬきぬはせて・ことさらひき
0187【ことさらひき給へり】−詞字 着
  給へり・宮まちよろこひ給て・所につけたる
0188【宮】−八
  御あるしなと・おかしう・しなしたまふ・くれ
0189【御あるし】−饗
  ぬれハ・おほとなふらちかくて・さき/\見
  さしたまへるふミとものふかきなと・あさり」38オ

  も・さうしおろして・きなといハせ給ふ・う
0190【きなといはせ給ふ】−義 議論心なり
  ちもまとろます・河かせのいとあらまし
  きに・木葉のちりかふをと・水のひゝき
  なと・あハれもすきて・物おそろしく心ほ
  そき所のさまなり・あけかたちかくなり
  ぬらんと・思ふほとに・ありししのゝめおも
  ひいてられて・琴のねのあハれなる・こと
  のついて・つくりいてゝ・さきのたひの・霧に
  まとハされ侍し明ほのに・いとめつらしき
  ものゝね・ひとこゑうけたまはりしのこり」38ウ

  なむ・中/\にいといふかしう・あかすおもふ
  たまへらるゝなと・きこえたまふ・色をも
0191【色をもかをも】−宇治宮御返答
  かをも・おもひすてゝし後・むかしきゝし
  ことも・みなわすれてなむとのたまへと・人
  めして琴とりよせて・いと月なくなり
0192【いと月なく】−宮法談之比召楽器事(明融臨模本0110)
  にたりや・しるへするものゝねにつけて
  なん・おもひいてらるへかりけるとて・ひわ
  めしてまらうとに・そゝのかし給ふ・とり
0193【まらうとに】−かほる也
  てしらへたまふ・さらにほのかにきゝ侍
  し・おなしものとも・思ふたまへられ」39オ

  さりけり・御ことのひゝきからにやとこそ・
0194【御ことのひゝきからにや】−かほる詞
  おもふたまへしかとて・心とけても・かき
  たてたまハす・いてあなさかなやしか・御み
0195【あなさかなや】−宮の御詞
  みとまるハかりのてなとハ・いつくよりか・
  こゝまてハ・つたハりこむ・あるましき・御
  ことなりとて・きむかきならしたまへる・
  いとあハれに心すこし・かたへはみねのまつ
0196【かたへはみねのまつ風】−\<朱合点> 後撰夏夜ふかやふか琴引をきゝて 短夜のふけ行まゝニ高砂のミねの松かせふくかとそ(△&そ)きく兼輔(後撰167、花鳥余情・休聞抄・紹巴抄・孟津抄・岷江入楚) 拾ー琴のねに嶺の松風かよふらしいつれのをこそしらめそむらん斎宮女ー(明融臨模本付箋04 拾遺集451・拾遺抄514・古今六帖3397・和漢朗詠469・斎宮集57、源氏釈・奥入・異本紫明抄・紫明抄・河海抄)
  風の・もてはやすなるへし・いとたと/\
  しけに・おほめき給て・心はえありてひと
  つはかりにて・やめたまひつ・このわたりに・」39ウ

  おほえなくて・おり/\ほのめく・さうのこと
0197【さうのこと】−姫ー
  のねこそ・心えたるにやと・きくおり侍れ
  と・心とゝめてなともあらて・ひさしうなり
  にけりや・心にまかせて・をの/\かきなら
  すへかめるハ・川なミハかりや・うちあハすら
  む・ろなうものゝように・すハかりの・はう
0198【ろなう】−無論
0199【ように】−用ニスル
  しなとも・とまらしとなむ・おほえ侍と
  て・かきならし給へと・あなたにきこえ
  たまへと・おもひよらさりし・ひとりこと
0200【おもひよらさりし】−姫ー達
  を・きゝ給ひけんたにある物を・いとかた」40オ

  ハならむとひきいりつゝ・みなきゝ給は
  す・たひ/\・そゝのかしたまへと・とかく
  きこえすさひて・やミ給ひぬめれハ・いと
0201【いとくちおしう】−かほる心
  くちおしうおほゆ・そのついてにも・かく
0202【そのついてにも】−宮の御詞
  あやしう・よつかぬおもひやりにて・すく
  すありさまともの・おもひのほかなる事
  なと・はつかしうおほひたり・人にたに・いか
  てしらせしと・はくゝみ・すくせと・けふ
  あすとも・しらぬ身ののこりすくなさに・
  さすかにゆくすゑと越き人ハ・おちあふ」40ウ

  れて・さすらへん事・これのミこそ・けに
  よ越はなれん・きハのほたしなりけれと・
  うちかたらひ給へハ・心くるしうみたてま
0203【心くるしう】−かほる心中詞
  つりたまふ・わさとの御うしろミたち・は
  かはかしきすちにハ侍すとも・うと/\
  しからすおほしめされんとなむ・おもふた
  まふる・しハしもなからへ侍らむいのちの程
  は・ひとことも・かくうちいてきこえさせ
  てむさまを・たかへ侍ましくなむなと
  申給へハ・いとうれしきことゝおほしの」41オ
0204【いとうれしきことゝ】−宮の御詞

  の給・さてあか月かたの宮の御おこなひ
  したまふほとに・かのおい人めしいてゝあひた
0205【おい人】−弁尼
  まへり・ひめ君の御うしろミにて・さふらはせ
  給ふ・弁の君とそいひける・年も六十に
  すこしたらぬほとなれと・みやひかに・ゆへ
  あるけハひして・物なときこゆ・古権大納言
0206【古権大納言の君の】−柏 弁達故大納言遺言事(明融臨模本0121)
  の君の・よとともに・ものをおもひつゝ・や
  まひつき・はかなくなりたまひにしあり
  さまを・きこえいてゝ・なくことかきりなし・け
0207【けによその人の】−かほる心中詞
  によその人のうへときかむたに・あハれ」41ウ

  なるへきふることゝも越・ましてとしこ
  ろおほつかなくゆかしう・いかなりけんこと
  のハしめにかと・仏にもこの事をさたかに
  しらせ給へと・ねんしつるしるしにや・かく
  夢のやうにあハれなる・むかしかたりを・おほ
  えぬついてに・きゝつけつらむと・おほすに
  涙とゝめかたかりけり・さてもかくそのよの
  心しりたる人も・のこりたまへりけるを・めつ
  らかにも・はつかしうもおほゆることの
  すちに・猶かくいひつたふるたくひや・又も」42オ

  あらむとしころかけても・きゝをよはさり
  けるとのたまへハ・こしゝうと・弁と・はなち
0208【こしゝうと弁とはなちて】−老人ノ詞
  てまたしる人侍らし・ひとことにても・また
  ことひとにうち・まねひ侍らす・かくものは
  かなくかすならぬ身のほとに侍れと・よる
  ひるかの御かけに・つきたてまつりて侍し
  かハ・をのつからものゝけしきをもみたて
  まつりそめしに・御心よりあまりて・おほし
  ける・時々たゝふたりのなかになん・たまさかの
  御せうそこのかよひも侍し・かたハらいたけ」42ウ

  れは・くハしくきこえさせす・いまはの
  とちめになり給て・いさゝかのたまいをく
  ことの侍しを・かゝる身にハ・をき所なく・い
  ふせくおもふ給へわたりつゝ・いかにしてかハ・き
  こしめしつたふへきと・はか/\しからぬ・
  念すのついてにも・思ふたまへつるを仏ハ
  世におはしましけりとなん・おもふたまへ
  しりぬる・御らむせさすへきものも侍り・いま
  ハなにかハ・やきも・すて侍なむ・かくあさ
  夕のきえをしらぬ身の・うちすて侍なハ・」43オ

  うちゝるやうもこそと・いとうしろめたく
  おもふたまふれと・この宮わたりにも・とき
0209【この宮わたり】−八宮
  ときほのめかせたまふ越・まちいてたて
  まつりてしは・すこしたのもしく・かゝるお
  りもやと・ねんし侍へる・ちかく(く$ら)いて(いて=△△#)まうて
  きてなむ・さらにこれハ・この世のことにも
  侍らしと・なく/\こまかに・むまれたまひ
  けるほとのこともよく・おほえつゝきこゆ・
  むなしうなり給しさハきに・はゝに侍し
0210【はゝに侍し人】−弁の君か母をいふ
  人ハ・やかてやまひつきて・ほともへすかく」43ウ

  れ侍にしかハ・いとゝおもふたまへ・しつミ・ふち
0211【ふち衣たちかさね】−\<朱合点> [糸+衰]<フチ>衣 喪<フチ>衣 かしは木の服と母の服とを着したるをいふ 六 一重たにきるハわひしき藤衣かさなる秋を思ひやらなん貫之(兼輔集121、河海抄・孟津抄・岷江入楚)
  衣たちかさね・かなしきことをおもひたま
  へし程に・としころよからぬ人の・心をつけ
  たりけるか・人を・ハかりこちて・にしのうミ
0212【人をハかりこちて】−弁ノ君か人ニたはかられてつくしの方へ人(人$く)たりたるをいふ
  のはてまて・とりもてまかりにしかハ・京
  のことさへ・あとたえて・その人も・かしこに
  てうせ侍にし後・とゝせあまりにてなん・
  あらぬよの心ちして・まかりのほりたりし
  を・この宮は・ちゝかたにつけて・わらハよ
0213【この宮】−八ー
0214【ちゝかたにつけて】−弁遠類也 ハヽ北方
  り・まいりかよふゆへ侍しかハ・いまハかう世に」44オ

  ましらふへきさまにも侍らぬを・れせい院
  の女御殿の御かたなとこそハ・むかしきゝな
0215【女御殿】−柏妹弘ー
  れたてまつりしわたりにて・まいりよるへく
  侍しかと・ハしたなくおほえ侍て・えさし
  いて侍らて・み山かくれのくち木になりに
0216【み山かくれのくち木】−\<朱合点> 古今 かたちこそ深山かくれの朽木なれ(古今875・古今六帖1440、異本紫明抄・紫明抄・河海抄・紹巴抄・弄花抄・休聞抄・孟津抄・岷江入楚)
  て侍なり・こしゝうハ・いつかうせ侍にけん・そ
  のかミのわかさかりと見侍し人ハ・かすゝく
  なくなり侍にける・すゑのよにおほくの
  人に・をくるゝいのちを・かなしくおもひ給
  へてこそ・さすかにめくらひ侍れなとき」44ウ

  こゆるほとに・れひのあけはてぬ・よしさ
0217【よしさらは】−かほる詞
  らは・このむかし物かたりハ・つきすへく
  なんあらぬ・また人きかぬ心やすき所にて・
  きこえん・しゝうといひし人ハ・ほのかに
0218【しゝう】−小ー
  おほゆるは・いつゝむつはかりなりし程に
0219【いつゝむつはかりなりし程に】−かほるの
  や・にはかに・むねをやミて・うせにきとなむ
  きく・かゝるたひめむなくハ・つミおもき
  身にて・すきぬへかりける事なとのた
  まふ・さゝやかにおしまきあわせたるほく
0220【さゝやかに】−老人
0221【ほくとも】−反古
  ともの・かひ(△&ひ)くさきをふくろにぬひいれ」45オ
0222【かひくさき】−ふるくさ(さ+キ<朱>)越いふ

  たる・とりいててたてまつる・おまへにて・
  うしなハせ給へ・われな越いくへくもあらす
  なりにたりとのたまはせて・この御ふミ
  をとりあつめて・たまハせたりしかハ・こ
  しゝうにまたあひ見侍らむついてに・
  さたかにつたへまいらせむとおもひた
  まへしを・やかてわかれ侍にしも・わたくし
  ことにハあかす・かなしうなんおもふ給ふると
  きこゆ・つれなくて・これハ・かくいたまいつ・か
0223【かやうのふる人ハ】−かほる心中
  やうのふる人ハ・とはすかたりにや・あやしき」45ウ

  ことのためしに・いひいつらむと・くるしく
  おほせと・かへす/\もちらさぬよしをち
  かひつる・さもやとまたおもひみたれたまふ・
  御かゆ・こはいひなとまいりたまふ・昨日ハ・
0224【こはいひ】−強飯
  いとまひなりしを・けふハ・うちの御物いミも
0225【いとま】−暇
  あきぬらん・院の女一の宮・なやミ給ふ・御
0226【院】−冷
  とふらひに・かならすまいるへけれハ・かた/\
  いとまなく侍を・またこのころすくして・
  山のもみち散らぬさきに・まいるへきよしき
  こえたまふ・かくしハしハたちよらせたま」46オ
0227【かくしはしはたちよらせたまふ】−宇治宮

  ふひかりに・山のかけも・すこしものあきら
  むる心ちしてなんなと・よろ(△&ろ)こひきこえ
  たまふ・かへり給ひて・まつこのふくろをみ
0228【かへり給ひて】−薫
  給へハ・からのふせむれうをぬひて・上と
  いふもしをうへにかきたり・ほそきくミして
0229【くミして】−組
  くちのかた越ゆひたるに・かの御名の・ふう
  つきたり・あくるもおそろしうおほえたま
  ふ・色/\のかみにて・たまさかにかよひける・
  御ふミの返こと・いつゝむつそある・さてハかの
  御てにて・やまひハおもくかきりになり」46ウ
0230【やまひハおもく】−柏木文のこと葉

  にたるに・またほのかにもきこえむこと・かたく
  なりぬるを・ゆかしうおもふことハ・そひに
  たり・御かたちも・かハりて・おハしますらむか・
  さま/\かなしきことを・みちのくにかみ・
  五六枚に・つふ/\とあやしきとりのあ
0231【とりのあと】−蒼頡<ケツ>作文字
  とのやうにかきて
    めのまへにこの世をそむく君よりも
0232【めのまへに】−衛門督
  よそにわかるゝ玉そかなしき又ハしに
0233【よそにわかるゝ玉そかなしき】−古今 声をたにきかてわかるゝ玉よりもなき床にねん君そかなしき(古今858・古今六帖2497、花鳥余情・細流抄・休聞抄・紹巴抄・孟津抄・岷江入楚)
  めつらしく・きゝ侍るふた葉のほとも・う
0234【ふた葉のほと】−かほるの事
  しろめたうおもふたまふるかたハ・なけれと」47オ

    命あらハそれともみまし人しれぬ
0235【命あらハ】−衛門のかみ
  岩ねにとめし松のおいすゑかきさし
  たるやうに・いとみたりかハしうて・こしゝう
  の君にと・うへにハかきつけたり・しミといふ
0236【しミといふむし】−紙魚
  むしの・すみかになりて・ふるめきたる・かひ
  くさゝなから・あとハきえす・たゝいまかき
0237【あとはきえす】−\<朱合点> 書つくる跡ハ千とせもありぬへしわすれすしのふ人やなからん(古今著聞集219、異本紫明抄・河海抄・細流抄・孟津抄・岷江入楚)
  たらんにもたかハぬことの葉ともの・こま/\
  と・さたかなるを見給ふに・けにう(う$お<朱>)ちゝり
  たゝ(ゝ$ら<朱>)ましよと・うしろめたういとおしき
  事ともなり・かゝること世にまたあらむ」47ウ

  やと・心ひとつに・いとゝ物思ハしさそひて・
  うちへまいらむとおほしつるも・いてたゝ
  れす・宮のおまへにまいり給へれハ・いとなに
0238【宮のおまへ】−女三
  心もなく・わかやかなるさまし給ひて・経
  よみたまふを・はちらひて・もてかへ(へ$く<朱>)し給
  へり・なにかハ・しりにけりとも・しられたて
  まつらむなと・こゝろにこめてよろつに・
  おもひゐたまへり」48オ

(白紙)」48ウ

【奥入01】一還城楽陵王をあやふめむとす日の
    くるゝにはちして日をむまにかきかへす
    といふ事也くハしくしらす
    此等事可否難弁
    史記
    魯陽以戈廻落日事歟(戻)
    同時哥歟不可為証哥歟
【奥入02】宇治河の浪の枕に夢さめてよるハはし
      ひめいやねさるらん(戻)」49オ

イ本
以哥詞為巻名一の名ハ優婆そくの宮薫中将十六歳の事有此巻
匂兵部卿紅梅竹河同時の事と見えたり
  号莵道巻事
宇治十帖ハ式部娘大弐三位書たる也云々然は斑彪<ハンヒウ>か史記を書さし
たるを其子斑固<コ>書続たるに似たるへし大弐三位は右衛門佐藤宣
孝か女賢子後一条院御乳叙三位也
応神天皇ト申ハ宇佐宮の八幡大菩薩の御事也御子に大鷦鷯御子其
御弟莵道稚子と東宮をたかひに論給へるにたとへて桐壺御門
の御子第十御子冷泉第八宮宇治東宮の事ニより第十宮東宮ニ
立給へハ八宮莵道へ隠居シ給ヘル事ヲ模彼書之也云々
  以師説書付之 良鎮」49ウ

二校了<朱>」(前遊紙1オ)