凡例
1 本稿は、『大島本 源氏物語』(1996(平成8)年5月 角川書店)を翻刻した。よって、後人の筆が加わった現状の本文様態である。
2 行間注記は【 】− としてその頭に番号を記した。
2 小字及び割注等は< >で記した。/は改行を表す。また漢文の訓点等は< >で記した。
3 合(掛)点は、\<朱(墨)合点>と記した。
4 朱句点は「・」で記した。
5 本文の校訂記号は次の通りである。
$(ミセケチ)・#(抹消)・+(補入)・&(ナゾリ)・=(併記)・△(不明文字)
( )の前の文字及び( )内の記号の前の文字は、訂正以前の文字、記号の後の文字が訂正以後の文字である。ただし、なぞり訂正だけは( )の前の文字は訂正後の文字である。訂正以前の本行本文の文字を尊重したことと、なぞり訂正だけは元の文字が判読しにくかったための処置である。
6 朱・墨等の筆跡の相違や右側・左側・頭注等の注の位置は< >と( )で記した。私に付けた注記は(* )と記した。
7 付箋は、「 」で括り、付箋番号を記した。
8 各丁の終わりには」の印と丁数とその表(オ)裏(ウ)を記した。
9 本文校訂跡については、藤本孝一「本文様態注記表」(『大島本 源氏物語 別巻』と柳井滋・室伏信助「大島本『源氏物語』(飛鳥井雅康等筆)の本文の様態」(新日本古典文学大系本『源氏物語』付録)を参照した。
10 和歌の出典については、伊井春樹『源氏物語引歌索引』と『新編国歌大観』を参照し、和歌番号と、古注・旧注書名を掲載した。ただ小さな本文異同については略した。
「こうはい」(題箋)
その比按察大納言ときこゆるハ・故致
0001【按察大納言】−紅梅のおとゝなり
仕のおとゝの次郎なり・うせ給にし右衛門
0002【次郎】−紅
0003【右衛門督】−柏木事
督のさしつきよ・わらはよりらう/\しう
はなやかなる心はへものし給し人にて・成の
ほりたまふ年月にそへて・まいていとよに
あるかひありあらまほしうもてなし御おほえ
いとやむことなかりける北の方ふたり物
し給ひしを・もとよりのハなくなり給て・いま
0004【いまものし給ハ】−右大臣清原夏野公小倉王第五男也号並岡大臣又号野路鬚黒事
ものし給ハ・後のおほきおとゝの御むすめ・
0005【御むすめ】−真木柱上
まきはしらはなれかたくしたまひしきみ」1オ
を・式部卿の宮にて・故兵部卿のみこにあハ
0006【式部卿の宮】−紫上親
0007【故兵部卿のみこ】−蛍
せたてまつり給へりし越・御子うせ給て後
0008【御子】−蛍
しのひつゝかよひ給しかと・年月ふれハえ
さしもはゝかり給ハぬなめり・御子ハこ北の
かたの御ハらに二人のミそおはしけれハ・さう/\
0009【二人】−麗景殿 中君
しとて・神仏にいのりて・いまの御ハらにそ
0010【いまの御はら】−槙柱
おとこ君ひとりまうけ給へる・こ宮の御かたに
0011【おとこ君】−大輔
女きみひとゝころおハす・へたてわかすいつ
0012【女きみ】−蛍ノ兵部卿宮御女母まき柱上なり
れをも・おなしこと・おもひきこえかハし給へる
を・をの/\御かたの人なとハ・うるハしうも」1ウ
あらぬこゝろはへうちましり・なまくね/\
しきこともいてくる時々あれと・北の方
0013【北の方】−槙
いとはれ/\しくいまめきたる人にて・つミ
なくとりなし我御かたさまにくるしかる
へきことをも・なたらかに・きゝなしおもひ
な越し給へは・きゝにくからて・めやすかりけり
君たちおなしほとに・すき/\おとなひ給
0014【すき/\】−過々
ぬれは・御裳なときせたてまつり給・七
間のしむてんひろくおほきにつくりて・
0015【しむてん】−紅梅家
南おもてに大納言殿おほいきみ・西に」2オ
0016【大納言殿】−紅ー
0017【おほいきみ】−麗景
中の君ひんかしに宮の御かたと・すませ
0018【中の君】−同妹
0019【宮の御かた】−蛍ー
たてまつり給へり・おほかたにうちおもふ程
ハ・ちゝ宮のおはせぬ心くるしきやうなれと・
0020【ちゝ宮】−蛍
こなたかなたの御たから物おほくなとして・
うち/\のきしきありさまなと・心にくゝけ
たかくなともてなして・けハひあらまほしく
おハす・れいのかくかしつき給きこえありて・
つき/\にしたかひつゝきこえ給人おほく・
うち春宮より御けしきあれと・内にハ中
0021【中宮】−明
宮おハします・いかハかりの人かハかの御けハひ」2ウ
にならひきこえむ・さりとておもひをとり
ひけせんもかひなかるへし・春宮にハ右大(大+臣<朱>)殿
0022【ひけ】−卑下
0023【右大臣殿】−夕
のならふ人なけにてさふらひ給ハ・きしろひ
0024【ならふ人なけにて】−六君
にくけれと・さのミいひてやハ人にまさらむと
おもふ女こを・宮つかへにおもひたえてハ・なにの
ほいかハあらむとおほしたちて・まいらせた
てまつり給ふ・十七八のほとにて・うつくしう
0025【十七八のほと】−麗景ー
にほひおほかるかたちし給へり・中の君も
うちすかひて・あてになまめかしうすみ
たるさまはまさりて・をかしうおハすめれハ・」3オ
たゝ人にてハあたらしく・見せまうき御さ
ま越・兵部卿の宮のさもおほしたらハなと
0026【兵部卿の宮】−匂
おほしたる・此わか君をうちにてなとミつけ
0027【わか君】−大輔
給ふ時ハ・めしまとハしたはふれかたきにし給・
心はへありて・おくおしは(は+から<朱>)るゝ・まみ・ひたい
0028【おく】−心
0029【まみ】−大ー
つき也・せうとをみてのミは・えやましと
0030【せうとをみてのミは】−匂詞宮君
大納言に申せよなとの給かくるを・さ
なむときこゆれハ・うちゑミて・いとかひあり
0031【うちゑみて】−紅
とおほしたり・人におとらむ宮つかひよりハ・
此宮にこそハよろしからむをんなこハ・見」3ウ
0032【此宮】−匂
せたてまつらまほしけれ・心ゆくにまかせて・
かしつきて見たてまつらんにいのちの
ひぬへき宮の御さまなりとの給ひなから・
まつ春宮の御こと越いそき給て・かすか
0033【いそき給て】−麗ー入内事
のかみの御ことハりも我よにやもしいて
0034【御ことハり】−藤ー后立
きて・故おとゝの院の女御の御ことを・むねい
0035【故おとゝ】−致仕
0036【院】−冷
0037【むねいたくおほして】−弘徽秋好ニヲサレテ遂不△△(△△#立后)事
たくおほしてやミにし・なくさめのこともあら
なむと・こゝろのうちにいのりてまいらせ
たてまつり給つ・いとときめき給よし人々
きこゆ・かゝる御ましらひのなれ給はぬ」4オ
ほとに・はか/\しき御うしろミなくてハいかゝ
とて・北のかたそひてさふらひ給ハ・まことに
0038【北のかた】−槙柱継母也
かきりもなくおもひかしつきうしろミき
こえ給・殿ハつれ/\なる心地して・西の御
0039【殿ハ】−紅ー
0040【西の御かた】−中君
かたハひとつにならひ給て・いとさう/\しく
なかめ給・ひんかしの姫君もうと/\しくかた
0041【ひんかしの姫君】−宮君
みにもてなし給はて・よる/\ハひとゝころに
御とのこもり・よろつの・御こと・ならひはかな
き御あそひわさをも此方を師のやうに
おもひきこえてそ・誰もならひあそひ給ける・」4ウ
物はちを・世のつねならすし給て・母北の
かたにたにさやかにハ・おさ/\さしむかひたて
まつり給ハす・かたハなるまて・もてなし
給物から・心はへけハひのむもれたるさま
ならす・あい行つき給へること・はた人より
すくれ給へり・かくうちまいりや・なにやと・
我かたさまをのミおもひいそくやうなるも・
心くるしなとおほして・さるへからむさまに
おほしさためての給へおなしことゝこそハつかう
まつらめと・はゝ君にもきこえ給けれと・さらに」5オ
0042【はゝ君】−槙ー
0043【さらにさやうの】−槙ー詞
さやうのよつきたるさまおもひたつへき
にもあらぬけしきなれは・中/\ならむ事
は心くるしかるへし・御すくせにまかせて
よにあらむかきりハ見たてまつらむ・のち
そ哀にうしろめたけれと・よ越そむくかた
にてもをのつから・人わらへにあはつけき
ことなくて過し給ハなんなとうちなきて・
御心はせのおもふやうなること越そきこえ
0044【御心はせ】−操
給・いつれもわかす・親かり給へと御かたち
を・見ハやと・ゆかしうおほして・かくれ給こそ」5ウ
0045【見ハや】−紅ー心
心うけれとうらみて・人しれすみえたまひ
ぬへしやと・のそきありき給へと・たえてかた
そは越たにえ見たてまつり給ハす・うへ
0046【うへ】−母槙柱
おはせぬほとハたちかハりてまいりくへき
を・うと/\しくおほしわくる御けしきなれハ・
心うくこそなときこえみすのまへにゐ給
へハ・御いらへなとほのかにきこえ給・御こゑ
けハひなと・あてにをかしうさまかたちお
もひやられて・哀におほゆる人の御あり
さまなり・わか(か+御<朱>)姫君たちを・人におとらしと・」6オ
思おこれと・此君にえしも・まさらすや
0047【おこれと】−驕
あらむ・かゝれはこそ世中のひろきうちは・
わつらハしけれ・たくひあらしと思にまさる
かたも・をのつからありぬへかめりなと・いとゝ
いふかしう思きこえ給・月比なにとなく・
0048【月比なにとなく】−紅詞
物さはかしき程に・御ことのねをたに・うけ
たまハらて・ひさしう成はへりにけり・にし
0049【にしのかた】−中ー
のかたに侍る人ハひわをこゝろに入て侍る・
さもまねひとりつへくやおほえ侍らん・なま
かたほにしたるにきゝにくき物のねから」6ウ
也・おなしくハ御心とゝめて・をしへさせ給へ・
おきなハとりたてゝならふ物侍らさりし
かと・そのかミさかりなりしよにあそひ
侍しちからにや・きゝしるハかりのわきま
へハ・なにことにもいとつきなうハはへら
さりしを・うちとけてもあそハさねと・
0050【あそハさねと】−六君
時々うけ給御ひはのねなむ・昔おほえ
侍る・故六条院の御つたへにて・右のおとゝ
0051【右のおとゝ】−夕
なん・この比よにのこる(る$り<朱>)給へる・源中納言・
兵部卿の宮なに事にもむかしの人におとる」7オ
ましう・いと契ことに物し給人々にて・あ
そひのかたハとりわきて心とゝめたまへるを・
てつかひすこしなよひたるはちをとなと
0052【はち】−撥
なん・おとゝにハをよひ給ハすと思ふ給ふる
0053【おとゝには】−けん
を(を+<朱>此<墨朱>)御ことのねこそいとよくおほえ給へれ・
0054【此御ことのね】−宮君
ひはハおしてしつやかなるを・よきにする物
0055【おして】−押手
なるに・ちうさすほと・はちをとのさまかは
0056【ちう】−軸
りて・なまめかしうきこえたる・をんなの
御ことにて・中/\をかしかりける・いてあそ
ハさんや・御ことまいれとの給・女房なとハ」7ウ
かくれたてまつるもおさ/\なし・いとわかき
上臈たつか・みえたてまつらしと思ハしも・
心にまかせてゐたれは・さふらふ人さへかく・
もてなすか・やすからぬと・はらたち給・わか
0057【わか君】−大輔
君うちへまいらむととのひすかたにて
0058【とのひすかた】−髪不結
まいり給へる・わさとうるハしき・身(身$み<朱>)つらより
0059【うるはしき】−束帯ヲ云
0060【みつら】−総角
も・いとをかしくみえて・いみしううつくしと
おほしたり・麗景殿に御ことつけきこえ
0061【御ことつけ】−紅詞
給・ゆつりきこえて・こよひもえまいるましく・
なやましくなときこえよとの給て・」8オ
ふえすこしつかうまつれ・ともすれは・
御前の御あそひにめしいてらるゝ・かたハら
いたしや・またいとわかきふえをとうち
0062【うちゑみて】−紅ー
ゑみて・そうてうふかせ給・いとをかしう・
0063【そうてう】−双
ふい給へは・けしうハあらす成ゆくハ・此
わたりにてをのつから・物にあハするけ
なり・猶かきあはせさせ給へと・せめきこえ
給へハ・くるしとおほしたるけしきなから・つ
0064【つまひき】−宮君 爪弾
まひきにいとよくあはせて・たゝすこしか
きならい給・かはふえ・ふつゝかになれたる」8ウ
0065【かはふえ】−\<朱合点> 皮笛
こゑして・此ひんかしのつまに・軒ちかき紅梅
0066【此ひんかしのつまに】−宮君方
の・いとをもしろく・にほひたるを見給て・おまへ
のはな心はへありてみゆめり兵部卿宮う
ちにおハすなり・ひとえたおりてまいれしる
0067【しる人そしる】−\<朱合点> 君ならて誰ニかみせん梅の花(古今38・古今六帖4147・和漢朗詠100・友則集3・信明集100)
人そしるとて・あはれひかる源氏といはゆる・御
さかりの大将なとに・おはせし比・わらハにてか
やうにて・ましらひなれきこえしこそ・
よとゝもに恋しう侍れ・この宮たちを世
0068【この宮たち】−匂
人も・いとことにおもひきこえ・けに人にめて
られんとなり給へる御ありさまなれと・」9オ
0069【御ありさまなれと】−木にもあらす草
はしかはしにもおほえ給はぬハ・猶たくひ
0070【はし】−端
あらしと・おもひきこえし心のなしにやあり
けん・おほかたにて思いてたてまつるに・むね
あくよなくかなしきを・けちかき人のおく
0071【おくれたてまつりて】−源
れたてまつりて・いきめくらふハ・おほろけ
のいのちなかさなりかしとこそ・おほえはへれ
なときこえいてたまひて・物あはれに
すこく思ひめくらし・しほれ給ついての
忍かたきにや・花おらせて・いそきまいらせ
給ふ・いかゝハせんむかしの恋しき御かたみ」9ウ
にハ・この宮はかりこそハ・ほとけのかくれ
0072【この宮】−匂
0073【ほとけのかくれ】−\<朱合点>
たまひけむ・御名こりにハあなんか光はな
0074【あなんか光はなちけん】−仏後登高座説談
ちけんを・ひたゝひいて給へるかとうたかふ・
さかしきひしりのありけるを・やミにまとふ・
はるけところに・きこえをかさむかしとて
こゝろありて風のにほハすそのゝの梅に
0075【こゝろありて】−紅梅
まつ鴬のとハすやあるへきとくれなひの
かみに・わかやきかきて・このきみのふとこ
0076【このきみ】−紅梅のおとゝの御子也
ろかミにとりませ・おしたゝみて・いたし
たてたまふを・おさなきこゝろにいとなれ」10オ
きこえまほしとおもへハ・いそきまいり
たまひぬ・中宮のうへの御つほねより・御
0077【中宮】−明
とのゐところに・いて給ほとなり・殿上人
あまた御をくりにまいる中にみつけ
給て・きのふハ・なといととくハまかてに
し・いつまいりつるそなとの給ふ・とくま
かて侍にしくやしさに・またうちにお
ハしますと・人の申つれハ・いそきまいり
つるやと・おさなけ(△&け)なるものから・なれきこ
ゆ・うちならて心やすき所にも・時々はあ」10ウ
0078【うちならて】−匂
そへかし・わかき人ともの・そこハかとなくあつ
まる所そとの給ふ・この君めしはなちて
かたらひ給へハ・人々ハちかうもまいらす・まかて
ちりなとして・しめやかに成ぬれハ・春宮
にハいとますこしゆるされためりな・いと
しけうおほしまとハすめりしをときとられ
0079【おほしまとはす】−東宮ノ
0080【ときとられて】−麗景ニ
て人わろかめりとの給へはまつはさせ給し
こそ・くるしかりしか・おまへにハしもと・きこえ
0081【おまへに】−匂ノ
さしてゐたれは・我をハ人けなしと思ひ
0082【我をハ】−匂詞
はなれたるとなことハり也・されとやす」11オ
からすこそ・ふるめかしき・おなしすちにて・
0083【ふるめかしき】−故兵部卿ノ宮女ナレハ
ひんかしときこゆなるハ・あひ思ひ給てん
0084【ひんかしときこゆなる】−宮君
やと・しのひてかたらひきこえよなと・の
給ついてに・この花をたてまつれハ・うちゑ
みて・うらみて後ならましかハとて・うちも
をかすこらむす・えたのさま花ふさ色
もかも・世のつねならす・そのにゝほへるく
0085【そのにゝほへる】−\<朱合点>
れなゐのいろにとられて・香なんしろき
0086【くれなゐのいろにとられて】−後 紅ニいろをハかへて梅の花香こそことことにニほハさりける(後撰44・古今六帖4153・貫之集374、異本紫明抄・紫明抄・河海抄・一葉抄・休聞抄・紹巴抄・孟津抄・岷江入楚)
むめにハ・おとれるといふめるを・いとかしこく・
とりならへてもさきけるかなとて・御心」11ウ
とゝめ給ふ花なれは・かひあり(り+て)もてはやし
給・こよひハとのゐなめり・やかてこなたに
をとめしこめつれは・春宮にもえまいらす・
花もはつかしくおもひぬへく・かうハしくて・
けちかくふせ給へるを・わかき心地にハたく
ひなく・うれしくなつかしうおもひきこゆ・
此花のあるしハなと・春宮にハうつろひ給ハ
0087【此花のあるしハ】−拾 春きてそ人のとひけぬ山里ハ花こそ宿のあるし也けり(拾遺集1015・拾遺抄388・公任集1、河海抄)
さりししらす心しらむ人になとこそ・
0088【心しらむ人に】−信明集 色も(△△&色も)△(△#か)もまつ我やとの梅をこそ心しれらん人ハ見にこめ(信明集19、花鳥余情・休聞抄・紹巴抄・孟津抄・花屋抄・岷江入楚)
きゝ侍しかなとかたりきこゆ・大納言の
み心はへは・わかゝたさまに思へかめれと・」12オ
きゝあはせ給へと・おもふ心ハこと(と+に<朱>)しみぬれハ・
此かへりことけさやかにも・の給やらす・
つとめてこの君のまかつるに・な越さり
なるやうにて
花のかにさそハれぬへき身なりせハ
0089【花のかに】−匂兵部卿返し
かせのたよりをすくさましやハさて猶
0090【さて猶】−匂詞
いまハおきなともに・さかしらせま(ま$さ<朱>)せて・し
0091【おきなともに】−年寄
のひやかにと・かへす/\の給て・このきミも
0092【このきミも】−匂
ひんかしのをハ・やんことなくむつましう
思ましたり・なか/\こと方のひめ君ハ見え」12ウ
給なとして・れいのハらからのさまなれと・
わらは心地にいとおもりかに・あらまほしう
0093【いとおもりかに】−宮君
おはする心はへを・かひあるさまにて・見た
てまつらはやと・おもひありくに・春宮
の御かたのいと花やかにもてなし給に
0094【いと花やかに】−麗ー
つけて・おなしことゝハ思なから・いとあかすくち
おしけれハ・此宮をたに・けちかくて・みたて
まつらはやとおもひありくに・うれしき花
のついてなり・これハきのふの御かへりなれ
は・見せたてまつるねたけにもの給へる」13オ
0095【見せたてまつる】−紅ニ
0096【ねたけにもの給へるかな】−紅詞
かな・あまりすきたる方に・すゝみ給へるを・
ゆるしきこえすと・きゝ給て・右のおとゝ
0097【右のおとゝ】−夕
われらか・見たてまつるにハ・いと物まめやかに
0098【いと物まめやかに】−匂ノ
御心をさめ給ふこそをかしけれ・あた人と
0099【あた人】−他人<アタシヒト>日ー
せんにたらひ給へる御さまを・しゐてまめ
たち給ハんもみところすくなくやなら
ましなと・しりうこちて・けふもまいらせ
給ふに又
もとつかのにほへるきミか袖ふれハ花も
0100【もとつかの】−紅梅
0101【花もえならぬ名を】−元輔集 もとつ△(△#香ノ)有たにあるを梅の花いとゝ匂のそわりぬるかな(兼輔集9、花鳥余情・休聞抄・紹巴抄・孟津抄・岷江入楚)
えならぬ名をやちらさむとすき/\しや・」13ウ
あなかしことまめやかにきこえたまへり・
まことにいひなさむとおもふところあるにや
と・さすかに御心ときめきし給て
花のかをにほはす宿にとめゆかは
0102【花のかを】−匂兵部卿
色にめつとや人のとかめんなと猶心とけす・
いらへ給へるを・心やましとおもひゐ給へり・
北のかたまかてたまひて・うちわたりのこと
0103【北のかた】−槙
の給ふついてに・わか君の一夜とのひして・
0104【わか君】−大ー
まかりいてたりしにほひのいとをかし
かりしを・人ハな越とおもひしを・宮のいと」14オ
0105【なをと】−大輔君ノ匂ト思
0106【宮】−東宮
おもほしよりて・兵部卿のみやに・ちかつき
きこえにけり・むへ我をハすさめたりと・
けしきとり・えんし給へりしか・こゝに御せう
そこやありし・さもみえさりしをとの給
へハ・さかし梅の花めて給ふきみなれは・
0107【さかし梅の花】−紅詞
あなたのつまの紅梅いとさかりに見えし
を・たゝならておりたてまつれたりし
なり・うつり香ハけにこそ心ことなれ・はれ
ましらひし給ハん・をんななとハ・さは・えし
めぬかな・源中納言ハかうさまにこのましう」14ウ
は・たきにほハさて・人からこそよになけれ・
あやしうさきの世の契・いかなりけるむく
ひにかと・ゆかしきことにこそあれ・おなし
はなの名なれと・梅ハおひいてけむ・ねこそ
哀なれ・此宮なとのめて給ふ・さることそ
0108【此宮】−匂
かしなと・花によそへても・まつかけきこ
0109【かけきこえ給ふ】−詞
え給ふ・宮の御かたハ物おほししるほとに・
0110【宮の御かた】−宮君
ねひまさり給へれハ・なにこともみしりきゝ
とゝめ給はぬにハあらねと・人に見えよつき
たらむありさまハ・さらにとおほしはなれ」15オ
たり・よの人も時による心ありてにや・
さしむかひたる御かた/\にハ・心をつくしき
0111【さしむかひたる】−紅子達
こえわひ・いまめかしきことおほかれと・此方
0112【此方】−宮君
はよろつにつけ・物しめやかにひき入給へる
を・宮ハ御ふさひのかたにきゝつたへたまひ
0113【宮】−匂
0114【御ふさひ】−フサフ
て・ふかういかてと・おもほしなりにけり・わか
0115【わかきみ】−大ー
きみを・つねにまつハしよせ給つゝしのひ
やかに・御文あれと・大納言の君ふかく心かけ
きこえ給て・さも思たちての給ことあらハと・
けしきとり心まうけし給をみるに・いと」15ウ
をしう・ひきたかへて・かう思よるへうも
あらぬ方にしも・なけのことの葉をつくし
給ふかひなけなることゝ・北方もおほしの給ふ・
はかなき御返りなともなけれ・まけしの
0116【御返り】−宮君
御心そひて・おもほしやむへくもあらす・なに
かハ人の御ありさま・なとかハ・さても見たて
まつらまほしう・おひさき遠くなとは
(+見<朱>)えさせ給になと・北方おもほしよる時/\
あれと・いといたう色めき給てかよひ給ふ・
0117【色めき給て】−匂
しのひ所おほく・八の宮の姫君にも・御心」16オ
0118【八の宮】−宇治
0119【姫君】−中ー
さしのあさからて・いとしけうまうてありき
給・たのもしけなき御心の・あた/\しさ
なともいとゝ・つゝましけれは・まめやかに
ハ・おもほしたえたるを・かたしけなき
ハかりに忍て・はゝ君そ・たまさかにさかし
らかりきこえ給ふ」16ウ
【奥入01】釈迦如来涅槃之後阿難昇高座
結集諸経之時其形如仏仍泉会
疑仏再出絵(戻)
【奥入02】かわふえ
或人云猶星をいふへき歟
又云非楽笙之声音嘯歟(戻)」17オ
(白紙)」17ウ
以詞為巻名匂兵部卿の巻ニハかほる宰相中将十九歳の正月の事見えたり
此巻ニハ源中納言といへり同十九歳の秋也故ニ竪の並なるへし又宇
治の八宮姫君ニ心をかよハし侍る事此巻のすゑニみえたり椎かもとの巻と同
時の事なるへし イ本」(後遊紙1オ)
こうはい<墨> 一校了<朱> 二校了<墨>」(表表紙蓋紙)