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Last updated 05/06/2015(ver.2-5)
渋谷栄一翻字(C)

  

真木柱

凡例
1 本稿は、『大島本 源氏物語』(1996(平成8)年5月 角川書店)を翻刻した。よって、後人の筆が加わった現状の本文様態である。
2 行間注記は【 】− としてその頭に番号を記した。
2 小字及び割注等は< >で記した。/は改行を表す。また漢文の訓点等は< >で記した。
3 合(掛)点は、\<朱(墨)合点>と記した。
4 朱句点は「・」で記した。
5 本文の校訂記号は次の通りである。
 $(ミセケチ)・#(抹消)・+(補入)・&(ナゾリ)・=(併記)・△(不明文字)
 ( )の前の文字及び( )内の記号の前の文字は、訂正以前の文字、記号の後の文字が訂正以後の文字である。ただし、なぞり訂正だけは( )の前の文字は訂正後の文字である。訂正以前の本行本文の文字を尊重したことと、なぞり訂正だけは元の文字が判読しにくかったための処置である。
6 朱・墨等の筆跡の相違や右側・左側・頭注等の注の位置は< >と( )で記した。私に付けた注記は(* )と記した。
7 付箋は、「 」で括り、付箋番号を記した。
8 各丁の終わりには」の印と丁数とその表(オ)裏(ウ)を記した。
9 本文校訂跡については、藤本孝一「本文様態注記表」(『大島本 源氏物語 別巻』と柳井滋・室伏信助「大島本『源氏物語』(飛鳥井雅康等筆)の本文の様態」(新日本古典文学大系本『源氏物語』付録)を参照した。
10 和歌の出典については、伊井春樹『源氏物語引歌索引』と『新編国歌大観』を参照し、和歌番号と、古注・旧注書名を掲載した。ただ小さな本文異同については略した。

「まきはしら」(題箋)

  内にきこしめさむこともかしこし・し
0001【内】−冷
0002【きこしめさむこと】−ヒケ玉事
  はし人にあまねく・もらさしといさめき
  こえ給へと・さしもえつゝみあへたまはす・
  ほとふれと・いさゝかうちとけたる御けしき
  もなく・思はすにうきすくせなりけりと・思ひ
  いり給へるさまのたゆミなきを・いみしう
  つらしと思へと・おほろけならぬ契のほとあ
  はれにうれしく思ひ(ひ$<朱>)・みるまゝにめてたく
  おもふさまなる御かたちありさまを・よその
  ものに見はてゝやミなましよと思たに・」1オ

  むねつふれていし山のほとけをも弁の
0003【いし山のほとけ】−聖武
0004【弁のおもと】−玉乳母
  おもとをも・ならへて・いたゝかまほしうおもへと・
  女君のふかくものしとうとみにけれハ・え
  ましらはてこもりゐにけり・けにそこら
0005【ましらはて】−弁ー
  心くるしけなることゝもを・とり/\に見しかと・
  心あさき人のためにそ・てらのけんもあら
  ハれける・おとゝも心ゆかす・くちおしとおほせと・
0006【おとゝも】−源
  いふかひなき事にて・たれも/\かくゆるし
  そめ給へる・ことなれは・ひきかつ(つ$へ<朱>)しゆるさぬ
  けしき越見せむも・人のためいとおしう・」1ウ
0007【人のため】−ヒケ

  あいなしとおほして・きしきいとになく・
  もてかしつき給・いつしかとわか殿にわたい
  たてまつらんこと越思いそき給へと・かる/\しく・
  ふとうちとけわたり給ハんに・かしこにまち
0008【かしこに】−本室
  とりて・よくもおもふましき人のものし給
  なるか・いとおしさにことつけ給て・な越心の
0009【な越心のとかに】−玉
  とかになたらかなるさまにて・をとなくいつかた
  にも・人のそしりうらみなかるへくを・もて
  なし給へとそきこえ給・ちゝ(△△&ちゝ)おとゝは中/\
0010【ちゝおとゝ】−致
  めやすかめり・ことにこまかなるうしろミなき」2オ

  人のなまほのすいたる宮つかへに・いて
  立てくるしけにやあらむとそ・うしろめた
  かりし・心さしハありなから・女御かくてもの
0011【女御】−弘ー
  し給をゝきて・いかゝもてなさましなと
  しのひての給けり・けにみかとゝきこゆとも・
  人におほしおとし・はかなき程に見えたて
  まつり給て・もの/\しくもゝてなし給ハす
  ハ・あはつけきやうにもあへかりけり・三る(る$日<朱>)の
0012【あはつけき】−淡付
  夜の御せうそことも・きこえかはし給ける
0013【きこえかはし】−源鬚
  けしき越つたへきゝ給て・なむ・このおとゝの」2ウ
0014【このおとゝのきみ】−源

  きミの御心越あはれにかたしけなくあり
  かたしとハおもひきこえ給ける・かうしのひ
  給御なからひのことなれと・をのつから人のおかし
  きことにかたりつたへつゝ・つき/\にきゝ
  もらしつゝ・ありかたきよかたりにそさゝめき
  ける・内にもきこしめしてけり・くちおしう
  すくせことなりける人なれと・さおほしし・ほ
0015【すくせことなりける人】−玉
  いもあるを・宮つかへなと・かけ/\しきすちな
0016【かけ/\しきすち】−爰ハナサケ心
  らハこそハ・思たへ(へ$え<朱>)給ハめなとの給はせけり・
  しも月になりぬ・神わさなとしけくないし」3オ
0017【神わさなとしけく】−所々祭有之不及記之

  所にもことおほかるころにて・女くわんとも内侍
  ともまいりつゝいまめかしう人さはかしきに・
  大将殿ひるもいとかくろへたるさまにもてな
  して・こもりおハするを・いと心つきなく・かむの
  君ハおほしたり・宮なとはまいていみしう
0018【宮なとは】−蛍
  くちおしとおほす・兵衛の督ハいもうとの北の
0019【兵衛の督】−式部卿北兄
0020【北の方】−ヒケ
  方の御こと越さへ・人わらへにおもひなけきて・
  とりかさね物おもほしけれと・おこかましう・
  うらみよりてもいまハかひなしと思かへす・大
  将ハなにたてるまめ人のとし比いさゝかみ」3ウ

  たれたるふるまひなくて・すくし給へる
  なこりなく心ゆきてあらさりしさまに・
  このましうよひあか月のうちしのひ給
  へるいていりも・えんにしなし給へるを・
  おかしと人/\見たてまつる・女ハわらゝ
0021【女ハ】−玉
  かににきハゝしくもてなし給本上
  も・ゝてかくして・いといたう思むすほゝ
  れ・心もてあかぬさまハしるきことなれと・
  おとゝのおほすらむこと・宮の御心さまの心
0022【宮の】−蛍
  ふかう・なさけ/\しう・おはせしなとを」4オ

  思いて給に・はつかしうくちおしうのミ
  おもほすに・もの心つきなき御けしきたえす・
  殿もいとおしう人/\も思うたかひける
0023【殿も】−源
  すちを・心きよくあらハし給て・我心なから
  うちつけに・ねちけたることハこのますかしと・
  むかしよりのこともおほしいてゝ・むらさき
  のうへにも・おほしうたかひたりしよなとき
  こえ給・いまさらに人の心くせもこそとお
  ほしなから・物のくるしうおほされし時・さて
  もやとおほしより給しことなれはな越」4ウ

  おほしもたえす・大将のおはせぬひるつかた
  わたり給へり・女君あやしうなやましけに
0024【女君】−玉
  のミもてなひ給て・すくよかなるおりもなく・
  しほれ給へるをかくてわたり給へれは・すこし
  をきあかり給て・御木丁にはたかくれてお
  はす・殿もよういことに・すこし・けゝしき
0025【けゝしき】−賢々
  さまに・もてない給て・おほかたのこと(と+と<朱>)もなとき
  こえ給・すくよかなる世のつねの人にならひて
  ハ・ましていふかたなき御けハひありさまを・
  見しり給にも・思ひのほかなる身のをき」5オ

  所なく・はつかしきにも涙そこほれける・やう/\
  こまやかなる御物かたりになりて・ちかき御けう
  そくによりかゝりて・すこしのそきつゝき
  こえ給・は(は#い<朱>)とおかしけにおもやせ給つ(つ$へ<朱>)るさまの
  見まほしう・らうたい事のそひたまへるに
  つけても・よそに見はなつもあまりなる心の
  すさひそかしとくちおし
    おりたちてくみハみねともわたり川
0026【おりたちて】−源
  人のせとハたちきらさりしをおもひのほ
  かなれ(れ$り<朱>)やとて・はなうちかみ給ふけはひ」5ウ

  なつかしうあはれなり・をんなハかほ越かくして
    みつせ川わたらぬさきにいかてな越
0027【みつせ川】−玉かつら返し 三せ川わたるみさほもなかりけり何に衣をぬきてかくらん(拾遺集543、河海抄・花鳥余情・紹巴抄・孟津抄・岷江入楚)
  涙のミをのあハときえなん心おさなの御き
0028【心おさなの】−源詞
  えところや・さてもかのせハよきみち・なかなるを・
  御てのさきハかりハひきたすけきこえてん
  やとほゝゑみ給て・まめやかにハおほししる
  こともあらむかし・よになきしれ/\しさも・
  又うしろやすさも・この世にたくひなき
  ほと越さりともとなん・たのもしきときこえ
  給越・いとわりなうきゝくるしとおほいたれ」6オ

  は・いとおしうての給まきらハしつゝ・内にの
  給ハすることなむ・いとおしきを・猶あからさま
  にまひらせたてまつらん・をのか物と・りやうし
0029【りやうし】−領
  はてゝは・さやうの御ましらひも・かたけな
  めるよなめり・思そめきこえし心ハたかふ
  さまなめれと・二条のおとゝハ心ゆき給なれは・
0030【二条のおとゝハ】−致ー
  心やすくなむなとこまかにきこえ給・あは
0031【あはれにも】−玉
  れにもはつかしくもきゝ給ことおほかれと・
  たゝ涙にまつはれておはす・いとかうおほし
  たるさまのこゝろくるしけれは・おほすさま」6ウ

  にもみたれ給はす・たゝあるへきやう・御心
  つかひを・ゝしへきこえ給・かしこにわたり給
  ハん事を・とみにも・ゆるしきこえ給ましき
  御けしきなり・内へまいり給ハむことを・やす
  からぬことに大将おほせと・そのついてにや(△△&にや)まかて
  させたてまつらんの御心つき給て・たゝあから
  さまの程越ゆるしきこえ給・かくしのひかく
  ろへ給御ふるまひも・ならひ給はぬ心ちに
  くるしけれハ・我とのゝうち・すりししつらひ
0032【我との】−ヒケ
  て・年比ハあらし・うつもれ・うちすて給へり」7オ
0033【あらし】−荒

  つる・御しつらひよろつのきしき越あらため
  いそき給・きたの方のおほしなけくらむ御心も
  しり給ハす・かなしうし給し君たちをも・
  めにもとめ給はす・なよひかになさけ/\
  しき心・うちましりたる人こそ・とさまかう
  さまにつけても・人のためはちかましからん
  こと越ハ・おしハかり思ふところもありけれ・ひた
  おもむきに・すくミ給へる御心にて・人の御心
  うこきぬへきことおほかり・女君人におとり
0034【女君】−北方
  給へきことなし・人の御本上もさるやんこ」7ウ

  となきちゝみこのいみしう・かしつきたて
0035【ちゝみこ】−式部卿
  まつり給へるおほえよにかろからす・御かたちなと
  もいとようおはしけるを・あやしうしふ
  ねき御物のけに・わつらひ給て・このとし
  ころ人にもに給はす・うつし心なきおり/\
  おほく物し給て・御中もあくかれて・ほとへに
  けれとやむことなき物とハ・またならふ人なく
  思きこえ給へるを・めつらしう御心移る
  方のなのめにたにあらす・人にすくれ給へる
  御ありさまよりも・かのうたかひをきて・ミな」8オ

  人のおしはかりしことさへ・心きよくて・す
  く(△&く、く=すイ)い給けるなと越・有かたう・あはれと思
  ましきこえ給もことハりになむ・式部卿の宮
  きこしめして・いまハしか・いまめかしき人をわた
  して・もてかしつかん・かたすミに・人わろ
  くて・そひ物し給はむも・人きゝやさし
0036【やさしかるへし】−\<朱合点> 何をして身のいたつらに老ぬらん年のおもハん事そやさしき(古今1063・古今六帖2185・和漢朗詠763、河海抄・紹巴抄・孟津抄・岷江入楚)
  かるつ(つ$へ<朱>)し・をのかあらむこなたハ・いと人わらへ
  なるさまにしたかひなひかても・ものし給なん
  と・のたまひて・みやのひんかしのたいを・ハ
  らひしつらひて・わたしたてまつらんとおほし」8ウ

  の給を・おやの御あたりといひなから・いまハかきり
  の身にて・たちかへりみえたてまつらむことゝ・
  思みたれ給に・いとゝ御心地もあやまりて・うち
  ハへふしわつらひ給・本上ハいとしつかに心よく・
  こめき給へる人の時/\心あやまりして・
  人にうとまれぬへきことなん・うちましり給ひ
  ける・すまひなとのあやしう・しとけなく
  物のきよらもなく・やつして・いとむもれいた
  く・もてなし給へるを・たま越みかけるめうつしに・
  心もとまらねと・としころの心さしひき」9オ

  かふる物ならねは・心にハいとあハれと思ひきこえ
  給・きのふけふのいとあさはかなる人の御なからひ
  たに・よろしき・ゝハになれは・みなおもひのと
  むるかたありてこそ見はつなれ・いと身も
  くるしけに・もてなし給へ(へ$つ<朱>)れハ・きこゆへき
  ことも・うちいてきこえにくゝなむ・としころ
  契きこゆることにハあらすや・よの人にもにぬ
  御ありさまを・見たてまつりはてんとこそハ・
  こゝら思ひしつめつゝ・すくしくるに・え
  さしもありはつましき・御心をきてに」9ウ

  おほしうとむな・をさなき人/\も侍れハ・と
  さまかうさまにつけて・をろかにハあらしと・
  きこえわたるを・女の御心のみたりかハしきま
  まに・かくうらみわたり給・ひとわたり・見はて給
  はぬほと・さもありぬへきことなれと・まかせて
  こそ・いましはし御らんしはてめ・宮のき
  こしめしうとミて・さはやかに・ふとわたし
  たてまつりてむとおほしの給なん・かへりて・
  いとかる/\しきまことにおほしをきつること
0037【まことに】−誠
  にやあらむ・しはしかうしゝ給へきにやあ」10オ

  らむと・うちわらひての給へる・いとねたけに
  心やまし・御めしうとたちて・つかうまつりなれ
0038【御めしうと】−召人
  たる・もくの君・中将のおもとなといふ人/\
0039【もくの君中将のおもと】−元鬚女房達
  たに・程につけつゝやすからすつらしと
  思ひきこえたる越・きたの方ハうつし心もの
  し給ほとにて・いとなつかしう・ゝちなきて
  ゐ給へり・身つからハ(ハ#を)ほけたり・ひか/\しと
  の給はちしむるハ・ことハりなることになむ・
  宮の御こと越さへ・とりませの給う・もりきゝ給
0040【宮の】−式部卿ー
0041【御こと越】−北方詞
  はんハ・いとおしう・うき身のゆかり・かる/\」10ウ

  しきやうなるみゝなれにて侍れは・いまはし
  めて・いかにももの越・思ひ侍らすとて・うち
  そむき給へる・らうたけなり・いとさゝやかなる
0042【さゝやかなる】−細々<サゝヤカ>
  人のつねの御なやミにやせおとろへ・ひわつ
  にて・かミいとけうらにてなかゝりけるか・わけ
  たるやうに・おちほそりて・けつることも・おさ/\
  し給はす・なみたにまつはれたるハ・いとあはれ
  なり・こまかににほへるところハなくて・ちゝ宮に
  にたてまつりて・なまめいたるかたち(ち#ち<朱>)し給へる
   を・もてやつし給へれは・いつこのはなやか」11オ

  なるけハひかハあらむ・宮の御こと越かろくハ・いかゝ
  きこゆる・おそろしう人きゝかたはにな・の給
  なしそと・こしらへて・かのかよひ侍所のいと
  まはゆき・たまのうてなに・うひ/\しう
  きすくなるさまにて・いているほともかた/\に
  人めたつらんと・かたハらいたけれは・心やすく
  うつろハしてんと思侍るなり・おほきおとゝの
0043【おほきおとゝ】−源
  さる世にたくひなき御おほえをは・さらにも
  きこえす・心はつかしう・いたりふかう・おはす
  める御あたりに・にくけなること・もりきこえは・」11ウ

  いとなんいとおしう・かたしけなかるへき・なた
  らかにて御中よくて・かたらひてものし給へ
  宮にわたり給へりとも・わするゝ事ハ侍ら
  し・とてもかうても・いまさらに心さしのへ
  たゝることハあるましけれと・よのきこえ人
  わらへに・まろかためにもかろ/\しうなむ
  侍るへき越・としころのちきりたかへす・か
  たミにうしろミむとおほせと・こしらへき
  こえ給へは・人の御つらさハ・ともかくもしり
  きこえす・よの人にも・にぬ身のうき越なむ・」12オ

  宮にもおほしなけきて・いまさらに人わらへ
  なることゝ御心越みたり給なれはいとおしう・
  いかてか見えたてまつらんとなむ・大殿の北の
0044【大殿の北の方】−紫
  方ときこゆるもこと人にやハ物し給・かれハ
0045【物し給】−玉取立
  しらぬさまにて・おいゝて給へる人のすゑの世
0046【すゑの世に】−北妹
  にかく人のおやたち・もてない給つらさ越
  なんおもほしの給なれと・こゝにハともかくも
0047【こゝには】−我
  おもはすや・もてない給はんさま越みるハかり
  との給へハ・いとようの給を・れいの御心たかひ
0048【いとようの給を】−ヒケ詞
  にや・くるしきこともいてこむ・大殿の北方」12ウ

  の・しり給事にも侍らす・いつきむすめの
  やうにて・物し給へハ・かくおもひおとされたる
  人のうへさ(さ$ま<朱>)てハしり給なんや・人の御おやけ
  なくこそものし給へかめれ・かゝることのきこえ
  あらは・いとゝくるしかへきことなと・日ゝとひ・いり
  ゐて・かたらひ申給・くれぬれハ心もそらにうき
  たちて・いかていてなんとおもほすに・雪かき
  たれてふる・かゝるそらにふりいてむも・人め
  いとおしう・この御けしきもにくけに・ふ
  すへうらミなとし給ハゝ・中/\ことつけて」13オ

  我もむかひ火つくりてあるへき越・いとをひら
0049【むかひ火】−人ノ腹立にこちより腹立かけたるをいふ
  かにつれなう・もてなし給へるさまのいと
  心くるしけれハ・いかにせむとおもひみたれ
  つゝ・かうしなともさなからハしちかう・うち
  なかめてゐ給へり・北の方けしき越見て・
  あやにくなめる雪越いかてわけ給はんとす
  らむ・よもふけぬめりやと・そゝのかし給・いまハ
0050【よもふけぬめりや】−\<朱合点> 六 道もなしいかてかゆかん白雪のふりおほふ竹のよもふけにけり(古今六帖726、河海抄・岷江入楚)
  かきり・とゝむともと・思ひめくらし給へる気
  色いとあはれなり・かゝるにハいかてかとの給も
  のから・な越このころハかり心の程越しらて・と」13ウ

  かく人のいひなし・おとゝたちも・ひたり右に・
  きゝおほさんこと越・はゝかりてなん・とたえあ
  らむハ・いとおしき・思ひしつめて・猶見はて
  たまへ・こゝになとわたしては心やすく侍
  なむ・かくよのつねなる御気色見え給時は・
  ほかさまにわくる心もうせてなん・あはれに
  思ひきこゆるなと・かたらひ給へは・立とまり給
0051【立とまり給ても】−北方詞
  ても・御心のほかならんは・中/\くるしうこそ
  あるへけれ・よそにても思たにをこせ給ハゝ・
  袖のこほりもとけなんかしなと・なこやかに」14オ
0052【袖のこほりも】−\<朱合点> 思つゝねなくにあくる冬の夜ハ袖の氷もとけすも有哉<朱>(後撰481、奥入・異本紫明抄・紫明抄・河海抄)

  いひゐ給へり・御ひとりめして・いよ/\たき
  しめさせたてまつり給・身つからハなえたる御
  そとも・うちとけたる御すかた・いとゝほそうか
  よはけなり・しめりておはする・いと心くるし・
  御めのいたうなきはれたるそ・すこし物し
  けれと・いとあはれと見る時は・つミなうおほ
  して・いかてすくしつるとし月そと・なこり
  なううつろふ心の・いとかろきそやとハ・思ふ/\
  な越心けさうハすゝミて・そらなけき越うち
  しつゝ・な越さうそくし給て・ちいさきひとり・」14ウ

  とりよせて・袖にひきいれてしゐ給へり・
0053【袖にひきいれて】−ヒケ
  なつかしき程になえたる御さうそくに・かた
  ちも・かのならひなき・御光にこそ・おさな(な$る<朱>)れと・いと
  あさやかに・おをしきさまして・たゝ人と見え
  す心はつかしけなり・さふらひに人/\こゑ
  して・雪すこしひまあり・夜ハふけぬらん・
  かしなとさすかに・まほにハあらてそゝのかし
  きこえて・こハつくりあへり・中将・もくなと・あ
  はれのよやなと・うちなけきつゝ・かたらひて
  ふしたるに・さうしミハいみしう思ひしつ」15オ

  めて・らうたけによりふし給へりとみる程に・
  にハかにおきあかりて・おほきなるこのした
  なりつるひとりをとりよせて・とのゝうし
  ろによりて・さといかけ給ほと・人のやゝミあふ
  る程もなう・あさましきにあきれて物し
  給・さるこまかなるはゐの・めはなにもいりて・
  おほゝれて物もおほえす・はらひすて給へと・
  たちみちたれハ・御そともぬき給つ・うつし
  心にてかくし給そと思ハゝ・又かへり見すへく
  もあらす・あさましけれと・れいの御ものゝけ」15ウ

  の人にうとませむとするわさと・御前なる人々
  も・いとおしう見たてまつる・たちさはきて・
  御そともたてまつりかへなとすれと・そこら
  のはいの・ひんのわたりにもたちのほり・よろ
  つの所にみちたる心ちすれは・きよらを
  つくし給わたりに・さなからまうてたまふへき
  にもあらす・心たかひとハいひなから・な越
  めつらしう見しらぬ人の御有さまなり
  やと・つまはしきせられ・うとましうなりて・
  あはれと思つる心ものこらねと・このころ」16オ

  あらたてゝハ・いみしきこといてきなむとお
  ほししつめて・よなかになりぬれと・そうなと
  めしてかちまいりさハく・よハゐのゝしり給
  こゑなと思ひうとみ給はんにことハりなり・
  よ一夜うたれひかれなきまとひあかし給て・
  すこしうちやすミ給へる程に・かしこへ御文
0054【かしこへ】−玉
  たてまつれ給・よへにハかに・きえいる人のはへ
  しにより・ゆきの気色もふりいて・かたく
  やすらひはへしに・身さへひえてなむ・
  御心をハさる物にて・人いかにとりなし侍」16ウ

  けんと・きすくにかき給へり
0055【きすくに】−木強
    心さへそらにみたれし雪もよに
0056【心さへ】−大将
  ひとりさえつるかたしきの袖たえかたく
  こそと・しろきうすやうに・つゝやかにかい(い+給)へれ
  と・ことにおかしきところもなし・てハいときよ
  けなり・さえかしこくなとそものし給ける・
0057【さえ】−才
  かむの君よかれをなにともおほされぬに・
0058【よかれ】−\<朱合点> たか里に衣
  かく心ときめきし給へるを・みもいれ給ハねハ・
  御かへりなし・おとこむねつふれて・思くら
  し給・北方ハ猶いとくるしけにし給へは・」17オ

  みす法なと・ハしめさせ給・心のうちにもこの
  比ハかりたにことなく・うつし心にあらせ給へ
  とねんし給・まことの心はへのあはれなるを
  見すしらすハかうまて・おもひすくすへくも
  なきけうとさかなとおもひゐ給へり・く
0059【けうとさ】−気疎
  るれはれいのいそきいて給・御さうそくの
  事なとも・めやすくしなしたまはす・よに
  あやしううちあはぬさまにのミ・むつ
  かり給越・あさやかなる御な越しなとも・え
  とりあへ給はて・いと見くるし・よへのハ・やけ」17ウ

  とをりて・うとましけにこかれたるにほひな
  とも・ことやうなり・御そともにうつりかもしミ
  たり・ふすへられける程あらはに・人もうし(うし&うし)
  給ぬへけれハ・ぬきかへて・御ゆとのなと・いたう
  つくろひ給・もくの君・御たきものしつゝ
    ひとりゐてこかるゝむねのくるしきに
0060【ひとりゐて】−もくの君
  思ひあまれるほのをとそ見しなこりな
  き御もてなしハ・見たてまつる人たに・た
  たにやはとくちおほひてゐたる・まミいと
  いたし・されといかなる心にて・かやうの人に物を」18オ

  いひけんなとのミそ・おほえ給ける・なさけなき
  ことよ(△&よ)
    うきこと越思ひさはけはさま/\に
0061【うきことを】−大将
  くゆる(△&る)けふりそいとゝたちそふいとことのほ
  かなることゝもの・もしきこえあらハ・ちうけんに
0062【ちうけん】−中間
  なりぬへき身なめりと・うちなけきていて
  給ぬ・一夜はかりのへたてたに・まためつら
  しう・おかしさまさりておほえ給ありさまに・
  いとゝ心をわへくもあらすおほえて・心う
  けれはひさしうこもりゐ給へり・すほう」18ウ

  なとしさはけと・御ものゝけこちたくお
  こりて・のゝしるをきゝ給へハ・あるましき・ゝ
  すもつきはちかましき事かならすあり
  なんと・おそろしうて・よりつき給はす・
  殿にわたり給時もことかたにはなれゐ給て・
  きミたちハかりをそ・よひはなちて・見たて
  まつり給・女ひとゝころ十二三ハかりにて・また
0063【十二三はかりにて】−槙ー
  つき/\おとこふたりなんおハしける・ちかき
0064【おとこふたり】−藤中納言 頭中将
  としころとなりてハ・御中もへたゝりかち
  にてならハし給へれと・やむことなうたち」19オ

  ならふかたなくて・ならひ給へれは・いまハかきり
  と見給に・候ふ人/\もいみしうかな
  しとおもふ・ちゝ宮きゝ給て・いまハしか・かけ
  はなれて・もていて給らむに・さて心つよく
  ものし給・いとをもなう人わらへなる事
  なり・をのかあらむよのかきりハ・ひたふるに
  しも・なとかしたかひ・くつをれたまはむとき
  こえ給て・にはかに御むかへあり・北方御心地
  すこしれいになりて・よの中越あさましう
  思なけき給に・かくときこえ給へれハ・しいて」19ウ

  たちとまりて・人のたえはてんさまを見
  はてゝ・思とちめむも・いますこし人わらへに
  こそあらめなと・おほしたつ・御せうとの君
  たち・兵衛督ハ・かん達部におはすれは・こと/\
  しとて・中将・侍従・民部大輔なと御車三は
  かりしておはしたり・さこそハあへる(る$か<朱>)めれと(と&と)・
  かねて思つることなれと・さしあたりて・けふ
  をかきりとおもへハ・候ふ人/\も・ほろ/\と
  なきあへり・としころならひ給はぬ・旅
  すみに・せはくはしたなくてハ・いかてか」20オ

  あまたハ候ハん・かたへハをの/\さとにまかてゝ・
  しつまらせ給なむになと・さためて人/\を
  のかしゝ・はかなき物ともなとさとにはらひ
  やりつゝみたれちるへし・御てうとゝもハさる
  へきハ・みなしたゝめをきなとするまゝに・かみ
  しもなきさハきたるハ・いとゆゝ(ゝ$ゆ<朱>)しく見ゆ・君
  たちハなに心もなくて・ありき給越・はゝき
  ミみなよひすゑ給て・身つからハかく・心うき
  すくせ・いまハ見はてつれは・この世にあとゝ
  むへきにもあらす・ともかくもさすらへなん・」20ウ

  おいさきと越うて・さすかにちりほひ給ハんあ
  りさまとものかなしうもあへいかな・ひめ
0065【ひめ君】−槙ー
  君ハとなるとも・かうなるとも・をのれにそひ
  給へ・中/\おとこ君たちハ・えさらすまうて
  かよひ見えたてまつらんに・人の心とゝめ給へ
  くもあらす・はしたなうてこそ・たゝよハめ・
  宮のおハせんほと・かたのやうにましらひを
0066【宮】−式部卿
  すとも・かのおとゝたちの御心にかゝれる世
  にて・かく心・をくへきわたりそと・さすかに・
  しられて・人にもなりたゝむことかたし・」21オ

  さりとて・山はやしに・ひきつゝきましらむ
  事・のちの世まていみしきことゝなき給に・
  みなふかき心ハ思ハ(ハ$わ<朱>)かねと・うちひそミて・なき
  おはさうす・むかし物語なと越みるにも・よの
  つねの心さしふかきおやたに・時にうつろ
  ひ・人にしたかへハ・おろかにのミこそなりけれ・
  ましてかたのやうにて・みるまへにたに・名残
  なきこゝろハ・かかり所ありても・ゝてない給
  ハしと・御めのとゝもさしつとひての給な
  けく・日もくれゆきふりぬへき空の気色も・」21ウ

  心ほそう見ゆる夕へなり・いたうあれ侍なん・
0067【あれ侍なん】−空
  はやうと・御むかへのきんたち・そゝのかし
  きこえて・御めをしのこひつゝ・なかめおはす・ひ
  め君ハ殿いとかなしうしたてまつり給ならひ
  に見たてまつらてハ・いかてかあらむ・いまなとも
0068【見たてまつらては】−殿を槙ー
  きこえて・またあひミぬやうもこそあれと
  おもほすに・うつふし・/\て・えわたるましと
  おもほしたる越・かくおほしたるなんいと
0069【かくおほしたる】−乳母共
  心うきなと・こしらへきこえ給・たゝいまも
  わたり給ハなんと・まちきこえ給へと・かくゝ(ゝ$く<朱>)れな」22オ

  むに・まさにうこき給なんや・つねにより
  ゐ給・ひんかしおもてのハしら越人にゆつる
  心ちし給もあはれにて・ひめ君ひは(は$<朱>)わた色の
0070【ひめ君】−真木柱上
  かミのかさね・たゝいさゝかにかきて・はしらの
  ひハれたる・はさまに・かうかいのさきして・おし
  いれ給
    いまハとてやとかれぬともなれきつる
0071【いまハとて】−姫君
  まきのハしらハわれをわするなえもかき
  やらてなき給・はゝ君いてやとて
    なれきとハおもひいつともなにゝより」22ウ
0072【なれきとハ】−母北方

  たちとまるへきまきの柱そ御前なる人々
  もさま/\にかなしく・さしも思はぬ木草
  のもとさへ・恋しからんことゝめとゝめて・は
  なすゝりあへり・もくの君ハ殿の御方の
  人にてとゝまるに中将のおもと
    あさけれといし間の水ハすみはてゝ
  やともる君やかけはなるへき思かけさり
  しことなり・かくてわかれたてまつらんこと
  よといへは・もく
    ともかくもいはまの水のむすほゝれ」23オ

  かけとむへくもおもほえぬよ越いてやとて・
  うちなく御くるまひきいてゝ・かへり見るも・
  またハいかてかハ見むと・はかなき心地す・木
  すゑ越も・めとゝめて・かくるゝまてそかへり
0073【かくるゝまて】−\<朱合点> 君かすむ宿の梢越ゆく/\とかくるゝまて△(△&に<墨>)帰りみし哉<朱>(拾遺集351・拾遺抄227、源氏釈・奥入・異本紫明抄・紫明抄・河海抄)
  見給けるきミかすむゆへにハあらて(△&て)こゝら
0074【きミ】−母北方
  としへ給へる御すみかのいかてか・しのひところ
  なくハあらむ・宮にハまちとりいみしうお
  ほしたり・はゝきたのかたなきさハき
  給て・おほきおとゝを・めてたきよすかと思き
  こえ給つ(つ$へ<朱>)れと・いかはかりのむかしのあたかたき」23ウ

  にか・おはしけむとこそおもほゆれ・女御をも
0075【女御】−冷泉院
  ことにふれハしたなく・もてなし給し
  かと・それハ御中のうらミとけさりし程・思
  しれとにこそハありけめと・おほしの給・よの
  人もいひなししたに・な越さやはあるへき・
  人ひとりを思かしつき給ハんゆへハ・ほとりまて
0076【人ひとり】−紫上事
  もにほふためしこそあれと・心えさりしを・ま
  してかくすゑにすゝろなる・まゝこかしつき
0077【まゝこかしつき】−玉かつら
  をして・をのれふるし給へるいとおしミに・
0078【ふるし給へる】−古今 秋といへは余所にそきゝしあた人の我をふるせる名にそ有けれ(古今824、河海抄・花屋抄)
  しほうなる人のゆき所あるましき越とて・とり」24オ
0079【しほうなる人】−鬚

  よせもてかしつき給ハ・いかゝつらからぬと・いひつゝ
  けのゝしり給へハ・宮ハあなきゝにくや・よになむ
0080【宮】−式部
  つけられ給はぬおとゝを・くちにまかせてな・おと
  しめ給そ・かしこき人ハ思ひをき・かゝるむくひ
  もかなと・おもふことこそハものせられけめ・さおもハる
  る我身のふかうなるにこそハあらめ・つれなう
0081【ふかう】−不幸
  て・みなかのしつミ給しよのむくひは・う
  かへしつめ・いとかしこくこそハ・思わたい給め
  れ・をのれひとりをハ・さるへきゆかりと思て
  こそハ・ひとゝせもさる世のひゝきに・家よりあまる」24ウ
0082【さる世のひゝき】−宮五十賀紫上取立乙女巻

  ことゝもゝありしか・それをこの生の・めいほく
  にてやミぬへきなめりとの給に・いよ/\ハら
  たちて・まか/\しきことなと越いひちらし
  給・このおほきたのかたそさかな物なりける・
  大将の君・かくわたり給にけるをきゝて・いと
  あやしうわか/\しきなからひのやうに・
  ふすへかほにて・物し給けるかな・さうしみは
0083【さうしみ】−北ー
  しか・ひきゝりに・きハ/\しき心もなき物越・
  宮のかくかる/\しうおはすると思て・きむ
0084【きむたち】−我子ー
  たちもあり・人めもいとおしきに思みたれ」25オ

  て・かむのきミにかくあやしきことなん侍る・中
0085【かくあやしき】−人心然
  /\こゝろやすくハ思給なせと・さてかたすミに
  かくろへてもありぬへき人の心やすさ越・おた
  しう思給へつるに・にハかにかの宮もの
  し給ならむ・人のきゝ見ることもなさけなき
  を・うちほのめきてまいりきなむとていて
  給・よきうへの御そやなきのしたかさね・あ越にひ
0086【あをにひ】−大将別当なと着之
  のきのさしぬきゝ給て・ひきつくろひ
  給へる・いともの/\し・なとかハ・にけなからむと
  人/\ハ見たてまつるを・かむの君ハかゝる」25ウ

  ことゝも越きゝ給につけても・身の心つきな
  うおほししらるれハ・見もやり給はす・
  宮にうらミきこえむとて・まうて給まゝに・
  まつとのにおハしたれは・もくの君なといて
  きて・ありしさまかたりきこゆ・ひめきミ
  の御ありさまきゝ給て・をゝしくねんし給
0087【をゝしく】−雄抜
  へと・ほろ/\とこほるゝ御気色いとあはれ
  なり・さてもよの人にもにすあやしき事
  とも越見すくす・こゝらのとしころの心
  さしを見しり給はすありけるかな・いと」26オ

  思のまゝならむ人ハ・いまゝてもたちとまる
  へくやはある・よし・かのさうしミハとてもかく
  ても・いたつら人と見え給へはおなしことなり・
  をさなき人/\もいかやうにもてなし給は
  むとすらむとうちなけきつゝ・かのまきハし
  らを見給にてもをさなけれと・心はへのあハれに
  恋しきまゝに・みちすから涙をしのこひつゝ
  まうて給つ(つ$へ<朱>)れハ・たいめむし給へくもあらす・
  なにかたゝ時にうつる心のいまハしめてか
0088【なにか】−宮詞
  はり給にもあらす・としころ思うかれ給さま」26ウ

  きゝわたりても・ひさしくなりぬるをいつ
  くをまた思ひなをるへきおりとかまたむ・
  いとゝひか/\しきさまにのミこそ見えはて
  給ハめと・いさめ申給ことハりなり・いとわか/\
0089【いとわか/\しき】−ヒケ詞
  しき心ちもし侍かな・おもほしすつまし
  き人/\も侍れハと・のとかに思侍ける心の
  をこたりを・かへす/\きこえてもやるかた
  なし・いまハたゝなたらかに御らんしゆるし
  て・つミさりところなう・よ人にもことハらせ
  てこう(う$<朱>)そ・かやうにももてない給ハめなと・き」27オ

  こえわつらひておはす・ひめ君をたに見たて
  まつらむときこえ給つ(つ$へ<朱>)れと・いたしたてまつる
  へくもあらす・おとこきミたち十なるハ・殿上し
0090【おとこきみたち】−後藤中納言
  給いとうつくし人にほめられて・かたちなと
  ようハあらねといとらう/\しう・物の心
  やう/\しり給へり・つきの君ハ八ハかりにて・いと
0091【つきの君】−後右兵衛督
  らうたけに・ひめ君にもおほえたれハ・かき
  なてつゝあこをこそハ恋しき御かたミにも
  みるへかめれなと・うちなきて・かたらひ給・宮
  にも御気色給ハらせ給へと・かせをこりて」27ウ

  ためらひ侍程にてとあれハ・はしたなくて
  いて給ぬ・こきんたちをハ・車にのせて・かた
  らひおはす・六条殿にハえゐておはせねハ・
  とのにとゝめてな越こゝにあれ・きてみ(み+んイ<朱>)にも
  心やすかるへくとの給・うちなかめていと心ほ
  そけに見をくりたるさまとも・いとあはれ
  なるにもの思くハゝりぬる心地すれと・女
  きミの御さまのみるかひありて・めてたきに
  ひか/\しき御さま越思くらふるにも・こよ
  なくてよろつをなくさめ給・うちたえて」28オ

  をとつれもせすハしたなかりしに・ことつ
  けかほなる越・宮にハいみしう・めさまし
  かりなけき給・はるのうへもきゝ給て・こゝに
  さへうらみらるゝゆへに・なるかくるしきこ
  とゝなけき給を・おとゝの君いとおしと
  おほして・かたき事なり・をのか心ひとつにも
  あらぬ人のゆかりに・内にも心越きたるさまに
  おほしたなり・兵部卿の宮なともえし
  給ときゝしを・さいへと思やりふかうおは
  する人にて・きゝあきらめうらみとけ給に」28ウ

  たなり・をのつから人のなからひはしのふること
  と思へと・かくれなき物なれハ・しかおもふへき
  つミもなしとなん思侍との給・かゝることゝも
  のさハきに・かむの君の御けしきいよ/\
  はれまなきを・大将ハいとおしと思あつかひ
  きこえて・このまいり給はむ△(△#)とありし
  こともたえきれて・さまたけきこえつる越・
  うちにも・なめく・心あるま(ま#さ)まにきこしめし・
0092【なめく】−無礼
  人/\もおほすところあらむ・おほやけ人を・
  たのミたる人ハ・なくやはあると・思かへして」29オ

  としかへりてまいらせたてまつり給・おとこ
0093【まいらせ】−入内
  たうかありけれは・やかてその程に・きしきいと
  いまめかしく・になくてまいり給・かた/\のお
  とゝたち・この大将の御いきをひさへさし
0094【この大将】−ヒケ
  あひ・宰相中将ねんころに心しらひきこえ
0095【宰相中将】−夕
  給・せうとのきミたちも・かゝるおりにとつと
0096【せうとのきミたち】−玉
  ひ・ついせうしよりて・かしつき給さまいと
  めてたし・承香殿のひんかしおもてに・御
0097【御局】−玉
  局したり・にしに宮の女御ハおはしけれハ・
0098【宮の女御】−式部
  めたうハかりのへたてなるに・御心の中ハ・」29ウ

  はるかにへたゝりけんかし・御方/\いつれ
  となく・いとみかハし給てうちわたり・心にくゝ
  おかしきころをひなり・ことにみたりかハしき
  かういたち・あまたもさふらひ給はす・中
0099【中宮】−秋好
  宮・こき殿の女御・この宮の女御・左大殿の
0100【こき殿】−致仕御子
0101【この宮の女御】−式部卿御女
0102【左大殿のの女御】−ヒケ黒御いもふと
  の女御なと・さふらひ給・さてハ中納言・さい将の
  御むすめふたりハかりそ候給ける・たうかハ
  かた/\に・さと人まいりさまことに・けに・(に+<朱>に<墨>)き
  わゝしきミ物なれハ・たれも/\きよらをつ
  くし・袖くちのかさなり・こちたく・めて」30オ

  たくとゝのへ給・春宮の女御も・いとはなやかに
0103【春宮の女御】−今上母承香ーヒケ妹
  もてなし給て・みやはまたわかくおハしませと・
  すへていといまめかし・御前・中宮の御方・すさく
0104【中宮】−秋ー
  院とにまいりて・よいたうふけにけれは・六条
  の院にハ・このたひハ・所を(を$せ)しとはふき給・朱
  雀院よりかへりまいりて・春宮の御方/\
  めくるほとによあけぬ・ほの/\とおかしき
  あさほらけに・いたくえひみたれたるさ
  まして・たけかハうたひけに(に$る<朱>)程越見れハ・う
  ちの大殿のきんたちハ四五人ハかり・殿上人」30ウ

  のなかにこゑすくれ・かたちきよけにて・うち
  つゝき給へる・いとめてたし・わらはなる
0105【わらはなる八らう君】−致仕御おとゝの末子母柏木同
  八らう君ハ・むかひハらにていみしうかし
0106【むかひハら】−本妻向腹
  つき給か・いとうつくしうて・大将とのゝ大らう
0107【大将との】−ヒケ
0108【大らう】−藤中納言
  君とたちなミたるを・かむのきミも・よそ
0109【よそ人】−八郎君
  人と見給はねハ・御めとまりけり・やむこと
  なくましらひなれ給へる・御かた/\よりも・
  この御つほねの袖くちおほかたの気ハひ・いま
  めかしう・おなしものゝ色あひかさなりなれ
  と・ものよりことにはなやかなり・さうしミ」31オ

  も女房(△△&女房)たちも・かやうに御心やりて・しハしは
  すくい給ハましとおもひあへり・みなおなし
  こと・かつけわたすわたのさまもにほひか・こと
  にらう/\しう・しない給て・こなたハみつ
0110【こなた】−玉
0111【みつむまや】−水駅
  むまやなりけれと・気ハひ・にきハゝ(△&ゝ)しく
  人/\心けさうしそ(△&そ)して・かきりあるミ
  あるしなとの(△&の)ことゝもゝしたるさまこと
  にようゐありてなむ・大将殿せさせ給へり
  ける・とのゐところにゐ給て・日ゝとひき
0112【ゐ給て】−ヒケー
  こえくらし給ことハ・よさりまかてさせ」31ウ
0113【まかてさせ】−玉

  たてまつりてん・かゝるついてにとおほし
  うつるらん・御宮つかへなむやすからぬとのミ・
0114【うつるらん】−宮仕心
  おなしこと越・せめきこえ給へと・御かへりなし・
0115【御かへり】−玉
  さふらふ人/\そ・おとゝの心あはたゝし
0116【おとゝ】−源
  き程ならて・まれ/\の御まいりなれハ・御心
0117【御心】−内ノ
  ゆかせ給はかりゆるされありてを・まかてさせ
  給へと・きこえさせ給しかハ・こよひハあまり・
0118【きこえさせ】−女房達
  すか/\しうやときこえたるを・いとつ
0119【いとつらし】−ヒケ
  らしと思て・さハかりきこえし物を・さ
  も心にかなはぬよかなとうちなけきて」32オ

  ゐ給へり・兵部卿の宮御前の御あそひに
0120【兵部卿の宮】−蛍
  候給て・しつ心なくこの御つほねのあたり
0121【御つほね】−玉
  思やられ給へは・ねんしあまりてきこえ
  給へり・大将はつかさの御さうしにそおハし
0122【つかさの御さうしに】−左大将ハ在宜陽門廊南右ー陽明門
  ける・これよりとて・とりいれたれハ・しふ/\に・
  見たまふ
0123【見たまふ】−玉
    みやま木にはねうちかはしゐる鳥の
0124【みやま木に】−兵部卿宮 ヒケヲタトフ
0125【鳥】−玉
  またなくねたき春にもあるかなさへつるこゑ
0126【またなく】−無
0127【さへつるこゑ】−\<朱合点> われそふりゆくの心也
  もみゝとゝめられてなんとあり・いとおしう
  おもてあかミてきこえんかたなく思ゐ給へ」32ウ
0128【おもてあかみて】−玉

  るに・うへわたらせ給・月のあかきに御かたち
0129【うへ】−冷
  ハ・いふよしなく・きよらにて・たゝかのおとゝの
  御気ハひに・たかふところなく・おハします・
  かゝる人は・又もおハしけりと見たてまつり
  給・かの御心はへハ・あさからぬも・うたてもの
0130【かの御心はへ】−源氏の御事を玉かつらの心に思給ふ事也
  思くハゝりしを・これハなとかハ・さしもお
  ほえさせ給ハん・いとなつかしけに思しこ
  とのたかひにたる・うらみ越の給するに・
  おもて・をかんかたなくそおほえ給や・かほをも
0131【おもて】−面也
  てかくして・御いらへもえきこえたまはねハ・」33オ

  あやしうおほつかなきわさかな・よろこひ
0132【よろこひ】−内侍のかミの慶賀の事也
  なとも・思しり給はんと・思ふことあるを・きゝ
  いれ給はぬさまにのミあるハ・かゝる御くせなり
  けりと・の給はせて
    なとてかくはひあひかたきむらさきを
0133【なとてかく】−御門
0134【はひあひかたき】−あくにて染物也
  心にふかく思ひそめけむこく(く&く)なりはつまし
  きにやとおほせらるゝ・さまいとわかくき
  よらにはつかしきを・たかひ給へるところ
0135【たかひ給へる】−源氏の御かほに似給ふ也
  やあると思なくさめてきこえ給・宮つかへ
  のらうもなくて・ことしかゝいし給へる心にや」33ウ
0136【かゝい】−加階 内侍従三位

    いかならん色ともしらぬむらさきを
0137【いかならん】−玉かつら返し
  心してこそ人ハそめけれいまよりなむ思
  給へしるへきときこえ給へハ・うちえミて・その
0138【うちえミて】−冷
  いまよりそめ給はんこそかいなかへいことな
  れ・うれふへき人あらハ・ことハりきかまほし
  くなむと・いたううらみさせ給御けしき
  のまめやかにわつらハしけれハ・いとうたても
  あるかなとおほえて・おかしきさまをもみえ
  たてまつらし・むつかしきよのくせなり
  けりと思に・まめたちてさふらひたまへハ・」34オ

  えおほすさまなるみたれこともうちいて
  させたまハて・やう/\こそハめなれめとおほ
  しけり・大将ハかくわたらせ給へるをきゝ
  給て・いとゝしつ心なけれはいそきまと
  ハし給・身つからもにけなきこともいてき
  ぬへき身なりけりと・心うきにえのとめ給
  はす・まかてさせ給へきさま・つき/\
  しきことつけともつくりいてゝ・ちゝお
  とゝなとかしこくたはかり給てなん・御いとま
  ゆるされ給ける・さらハ物こりして・またい」34ウ

  たしたてぬ人もそある・いとこそかゝ(ゝ#<朱>ら<墨>)けれ・
  人よりさきにすゝミにし心さしの・ひとに
  をくれてけしきとりしたかふよ・むかしの
  なにかしかためしも・ひきいてつへき心地
0139【なにかしかためし】−平定文忍テカタラヒシ女俄ニ人ニムカヘラレケレハ 昔せし我兼言のかなしきハいかに契りし名残なるらん 定文(後撰710、河海抄・弄花抄・一葉抄・休聞抄・紹巴抄・孟津抄・花屋抄・岷江入楚) 女返し うつゝにてたれ契けんさためなき夢路にまとふ我ハ我かハ(後撰711、河海抄・休聞抄・紹巴抄・孟津抄・花屋抄・岷江入楚)
  なむするとて・まことにいとくちおしとお
  ほしめしたり・きこしめしゝにもこ
  よなきちかまさりを・ハしめより・さる御
  心なからんにてたにも御らんしすくすまし
  き越・まいていとねたうあかすおほさるされと・
  ひたふるにあさきかたにおもひうとまれし」35オ

  とて・いみしう心ふかきさまに・の給契て
  なつけ給も・かたしけなう・我ハわれと思も
  のをとおほす・御てくるまよせてこなた
  かなたの御かしつき人とも心もとなかり・
  大将もいと物むつかしうたちそひさハ
  き給まて・えおハしましはなれす・かう
  いときひしき・ちかきまもりこそ・むつかし
0140【ちかきまもり】−近ー大ー
  けれと・にくませ給
    九重にかすみへたてハ梅のはなたゝ
0141【九重に】−御門
  かはかりも匂ひこしとやことなることな」35ウ
0142【匂ひこし】−来

  きことなれとも・御ありさま気ハひをミたて
  まつる程ハ・おかしくもやありけん・のを
0143【のをなつかしミ】−御門の御返事を尚侍のかきをきたるといふにや但一本ニ此詞なし尚侍の心也
  なつかしミ・あかいつへきよ越・おしむへかめる
0144【おしむへかめる】−大将の心をいふ
  人も・身をつみて・心くるしうなむ・いかてか
  きこゆへきとおほしなやむも・いとかた
0145【おほしなやむ】−御門の御心をいふ
0146【いとかたしけなし】−玉ー心
  しけなしと・見たてまつる
    かはかりハ風にもつてよはなのえに
0147【かはかりハ】−玉かつら
  たちならふへきにほひなくともさすかに
  かけはなれぬ気はひをあはれとおほし
  つゝ・かへり見かちにてわたらせ給ぬ・やかて」36オ

  こよひ・かのとのにとおほしまうけたるを・
  かねてハゆるされあるましきにより・もらし
  きこえ給はて・にはかにいとみたりかせの
0148【にはかに】−ヒケ御詞
0149【みたりかせ】−乱心地
  なやましき越・心やすき所にうちや
  すミ侍らむ程・よそ/\にてハいとおほつかなく
  侍らむをと・おいらかに申ない給て・やかてハた
  したてまつり給・ちゝおとゝ・にハかなるを
0150【ちゝおとゝ】−致仕
  きしきなきやうにやとおほせと・あなかち
0151【きしき】−嫁娶儀式
  にさハかりのこと越・いひさまたけんも・
  人の心をくへしとおほせは・ともかくも・」36ウ

  もとよりしたいならぬ人の御ことなれはと
  そきこえ給ける・六条殿そ・いとゆくりなく
  ほいなしとおほせと・なとかハあらむ女も・しほ
0152【しほやくけふり】−すまの海人のしほやくけふり(古今708・古今六帖789・1783、源氏釈・奥入・異本紫明抄・紫明抄・河海抄)
  やくけふりのなひきけるかたを・あさましと
  おほせと・ぬすミもていきたらましとおほ
  しなすらへて・いとうれしく・心ちおちゐ
  ぬ・かのいりゐさせ給へりしこと越・いみし
0153【いりゐさせ給へりし】−御門の御事也
  うえしきこえさせ給も・心つきなく・な
  を/\しき心ちして・よにハ心とけぬ
  御もてなし・いよ/\気しきあし・かの宮に」37オ
0154【かの宮に】−式部卿宮

  もさこそたけうの給しか・いみしうおほし
  わふれと・たえてをとつれす・たゝ思ことか
  なひぬる御かしつきに・あけくれいとなミてす
  くし給・二月にもなりぬ大殿ハさてもつれなき
  わさなりや・いとかうきハ/\しうとしも
  思はて・たゆめられたるねたさ越・人わろく
  すへて御心にかゝらぬおりなく・恋しう思
  いてられ給・すくせなといふもの・をろかならぬ
  ことなれと・わかあまりなる心にて・かく人やり
  ならぬものハ思そかしと・おきふしおもかけ(け+に<朱>)そ」37ウ

  みえ給・大将のおかしやかに・わらゝかなる気も
  なき人に・そひゐたらむに・ハかなきたハふれ
  ことも・つゝましうあいなくおほされて
  ねんし給越・あめいたうふりていとのと
  やかなるころ・かやうのつれ/\もまきらハし
  所にわたり給て・かたらひ給しさまなとの・
  いみしうこひしけれは・御ふミたてまつり
0155【御ふミ】−源
  給・右近かもとにしのひてつかハすも・かつハ
  思はむこと越おほすに・なにこともえつゝけ
  給はて・たゝおもハせたることゝもそありける」38オ

    かきたれてのとけき比の春雨に
0156【かきたれて】−源氏
  ふるさと人をいかにしのふやつれ/\にそへ
  ても(も#)うらめしう思いてらるゝことおほう侍を・
  いかてかわ(△&わ)きゝ(△&ゝ)こゆへからむなとあり・ひまに
0157【ひまに】−玉
  しのひてミせたてまつれハ・うちなきてわか
  心にも程ふるまゝに思いてられ給御さま越・
  まほに恋しやいかて見たてまつらんなとハ・え
  の給はぬおやにてけにいかてかハ・たいめもあ
  らむとあはれなり・時/\むつかしかりし
  御けしき越・心つきなう思きこえしなとハ・」38ウ

  この人にもしらせたまはぬことなれハ・心ひ
0158【この人】−右近
  とつにおほしつゝくれと・右近ハほのけしき
  見けり・いかなりけることならむとハ・いまに
  心えかたく思ける・御返きこゆるもはつかし
  けれと・おほつかなくやはとてかき給
    なかめする軒のしつくに袖ぬれて
0159【なかめする】−玉かつら返し
  うたかた人をしのはさらめや程ふるころハ
0160【うたかた人】−寧人
  けにことなるつれ/\もまさり侍けり・あな
  かしこと・ゐや/\しくかきなし給へり・
0161【ゐや/\しく】−恭
  ひきひろけて・たま水のこほるゝやうに」39オ
0162【たま水のこほるゝやうに】−\<朱合点> 流行末せきとむる玉水のこほれもあへすおつる涙ハ(出典未詳、異本紫明抄・河海抄・孟津抄・花屋抄・岷江入楚)

  おほさるゝを・人も見ハ・うたてあるへしと・
  つれなくもてなし給へと・むねにみつ心
  ちして・かのむかしのかむの君を・朱雀院の
0163【むかしのかむの君】−朧月夜事
  きさきの・せちにとりこめ給し・おりなとおほ
0164【きさき】−大ー
  しいつれと・さしあたりたることなれは
0165【さしあたり】−玉かつらの事
  にや・これハよつかすそあはれなりける・すい
  たる人ハ心からやすかるましきわさなり
  けり・いまハなにゝつけてか・心をも見たら
  まし・にけなき恋のつまなりやと・さまし
  わひ給て・御ことかきならして・なつかしう」39ウ

  ひきなし給し・つまをとおもひいてられ給・
  あつまのしらへをすかゝきて・たまもハ・な
0166【たまもハ】−\<朱合点> 上野風俗哥鴨サヘキヰル原ノ池ノ玉モハナカリソ
  かりそと
うたひ・すさひ給も・恋しき人に
  見せたらハ・あはれすくすましき御さまなり・
  内にも・ほのかに御らんせし御かたちありさま
  を・心にかけ給て・あかもたれひきいにし
0167【あかもたれひき】−\<朱合点> 万<墨> たちて思ひいてもそ思ふくれなゐのあかもたれひきいにしすかたを<朱>(新勅撰940・万葉2555・古今六帖3333、源氏釈・奥入・異本紫明抄・紫明抄・河海抄)
  すかたをとにくけなるふることなれと・御ことく
  さになりてなむ・なかめさせ給ける・御文ハし
0168【御文】−冷
  のひ/\にありけり・身をうき物に・思しミ
  給て・かやのすさひことをも・あいなくおほし」40オ

  けれは・心とけたる御いらへもきこえ給はす・
  な越かのありかたかりし・御心越きてを・かた
  かたにつけておもひしミ給へる御ことそ・ハすら
  れさりける・三月になりて・六条とのゝ御前
  のふち山ふきのおもしろきゆふはへを見
  給につけても・まつみるかひありてい給へ
  りし御さまのミ・おほしいてらるれハ・春の
  御前をうちすてゝ・こなたにわたりて御らむ
  す・くれたけのませに・ハさとなうさきかゝり
0169【ませ】−架
  たるにほひいとおもしろし・いろに衣越」40ウ
0170【いろに衣越】−\<朱合点> かたみなるいろに衣は<朱>(出典未詳、源氏釈・奥入・異本紫明抄・紫明抄・河海抄) 六 口なしの色に衣を染しよりいかて心に物をこそおもへ(出典未詳、河海抄・紹巴抄・孟津抄・岷江入楚)

  なとの給て
    思はすにいて(て+の<朱>)なかみちへたつとも
0171【思はすに】−源氏
  いはてそこふる山ふきのはなかほにみゝ(ゝ$へ<朱>)つゝ
0172【かほにみへつゝ】−\<朱合点> 人丸集 夕されハ野へに鳴てふ顔鳥のかほにも見えつゝわすられなくに(古今六帖4488、河海抄・弄花抄・一葉抄・細流抄・休聞抄・紹巴抄・孟津抄・岷江入楚)
  なとの給も・きく人なしかくさすかに・もて
  はなれたることハこのたひそおほしける・
  けにあやしき御心のすさひなりや・
  かりのこのいとおほかるを御らんして・かんし・
0173【かりのこ】−鴨
  たち花なとやうに・まきらハして・わさと
  ならすたてまつれ給・御文ハあまり人もそ・
0174【御文】−源
  めたつるなと・おほしてすくよかにおほつかなき」41オ

  月日も・かさなりぬるを・おもハすなる御もてなし
  なりと・うらみミこゆるも・御心ひとつにのミは・
  あるましうきゝ侍れハ・ことなるついてならてハ・
  たいめむのかたからんを・くちおしう思給る
  なと・おやめに(に$<朱>き<朱墨>)かき給て
    おなしすにかへりしかひの見えぬかな
0175【おなしすに】−源氏
0176【かひ】−卵
  いかなる人かてににきるらんなとかさしもなと
0177【さしもなと】−さしも契りしことのたかひたるを心やましきといへるなり
  心やましうなんなとあるを・大将も見た
  まひて・うちわらひて女ハまことのおやの御
0178【まことのおや】−詩云女子有行遠父母兄弟ト云心也
  あたりにも・たはやすく・うちわたりみえたて」41ウ

  まつり給はむこと・ついてなくてあるへきことに
  あらす・ましてなそこのおとゝのおり/\思ひ
  はなたす・うらみことハし給と・つふやくも・
  にくしときゝ給御返こゝにハ・えきこえしと・
0179【きゝ給】−玉
  かきにくゝおほいたれハ・まろきこえんと・か
  ハるも・かたハらいたしや
    すかくれてかすにもあらぬかりのこを
0180【すかくれて】−ヒケクロ
0181【かりのこ】−鴨
  いつかたにかハとりかへ(へ#く)すへきよろしからぬ
  御けしきにおとろきてすき/\しやと
0182【御けしき】−源
  きこえ給へり・この大将のかゝるはかなしこと」42オ

  いひたるも・またこそ・きかさりつれ・めつらしう
  とて・わらひ給心のうちにハ・かくらうし
  たる越・いとからしとおほす・かのもとのきた
  の方ハ・月日へたゝるまゝに・あさましともの
  を思しつミ・いよ/\ほけしれてものし給・
  大将とのゝおほかたのとふらひなに事をも
  くハしうおほしをきて・きむたちをは
  かハらす思ひかしつき給へは・えしもかけ
  はなれ給はす・まめやかなるかたのたのミ
  は・おなしことにてなむものし給ける・ひめ君」42ウ
0183【ひめ君】−槙

  をそたえかたく恋きこえ給へと・たえて見せ
  たてまつり給はす・ハかき御心のうちに・こ
  のちゝ君を・たれも/\ゆるしなううらみ
  きこえて・いよ/\へたて給ことのミまされハ・
  心ほそくかなしきに・おとこ君たちハ・つねに
  まいりなれつゝ・かむのきミの御ありさまな
  とをも・をのつからことにふれて・うちかた
  りて・まろらをも・らうたくなつかしうなんし
  給・あけくれおかしきこと越このミてものし
  給なといふに・うらやましうかやうにても・」43オ

  やすらかにふるまう身ならさりけんをな
  けき給・あやしうおとこ女につけつゝ・人に
  物を思ハするかむのきミにて(て$そ<朱>)おはしける・
  そのとしの十一月に・いとおかしきちこをさ
  へ・いたきいてたまへれハ・大将も思やうに
  めてたしと・もてかしつき給ことかきり
  なし・そのほとのありさまいはすとも・思ひ
  やりつへきことそかし・ちゝおとゝも・をのつ
  から思やうなる御すくせとおほしたり・ハさと
  かしつき給きむたちにも・御かたちなとハ」43ウ

  おとり給はす・とうの中将も・このかむの君を・
  いとなつかしきはらから(ら+に)て・むつひきこえ給
  ものから・さすかなる御気しきうちませつゝ(ゝ$<朱>つ)
  宮つかひにかひありて物し給ハまし物をと・
  このハか君のうつくしきにつけても・いまゝ
  てみこたち(ち+の<朱>)おはせぬなけき越・見たて
  まつるに・いかにめいほくあらましと・あまり
  のことをそ思ての給・おほやけことハあるへ
0184【あるへきさまに】−ないしのかミの我につきたる事ハかハらすしり給へと内へまいり給ふ事ハあるへからすと也
  きさまに・しりなとしつゝまいり給ことそ・や
  かてかくて・やミぬへかめる・さてもありぬへき」44オ

  ことなりかし・まことやかのうちのおほいとのゝ
  御むすめの・ないしのかミ・のそミしきミも
0185【きミ】−近江
  さるをゝくせなれハ・いろめかしう・さまよふ
  心さへそひて・もてわつらひ給・女御もついに
0186【女御】−弘ー殿
  あわ/\しきこと・この君そひきいてんと・
  ともすれハ・御むねつふし給へと・おとゝの
  いまハなましらいそと・せいしの給をたに
  きゝいれす・ましらひいてゝものし給・いかなる
  おりにか有けむ・殿上人あまたおほえこと
  なるかきり・この女御の御かたにまいりて・」44ウ

  物のねなとしらへなつかしき程の・ひやうし・
  うちくはへてあそふ秋のゆふへのたゝならぬ
  に・宰相の中将も・よりおハして・れいならす
0187【宰相の中将】−夕ー
  みたれてものなとの給を・人/\めつらし
  かりて・な越人よりことにもとめつるに・この
  あふミの君・人/\のなかを・(を+を)しわけていて
  ゐ給・あなうたてや・こハなそと・ひきいるれと・
  いとさかなけに・にらミて・ハりゐたれハ・わつ
  らハしくて・あふなきことや・の給いてんと・つき
0188【あふなき】−無奥
0189【つきかハす】−指
  かハすに・このよにめなれぬまめ人をしも・」45オ

  これそなゝとめてゝ・さゝめきさハく・こゑいと
  しるし・人/\いとくるしと思に・こゑいとさ
  ハやかにて
    奥津ふねよるへなミ路にたゝよハゝ
0190【奥津ふね】−近江君
0191【ふね】−定本波とあり<朱>
  さほさしよらむとまりをしへよ(よ+た)なゝし
0192【たなゝしをふね】−\<朱合点> 棚 古今<墨> 堀江こく<朱>
  をふねこきかへりおなし人をや・あな
  ハるやい(い#)といふをいとあやしうこの御方に
  は・かうようゐなきこときこえぬものをと
  思まハすに・このきく人なりけりと・おかしうて
    よるへなミ風のさハかす舟人も思はぬ」45ウ
0193【よるへなミ】−夕霧

  かたにいそつたいせすとてハしたなかめ
  りとや

  イ本
  源氏卅七歳自十月明とし卅八の秋まて竪並也」46オ

(白紙)」46ウ

【奥入01】風俗 <上野哥>
    乎志多加戸加毛左戸支井留波良
    乃伊介乃也多末毛波万祢奈加利曽
    於比毛須加祢也万祢奈加利曽也(戻)」47オ

二校了<朱>」(表表紙蓋紙)