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Last updated 05/06/2015(ver.2-5)
渋谷栄一翻字(C)

  


凡例
1 本稿は、『大島本 源氏物語』(1996(平成8)年5月 角川書店)を翻刻した。よって、後人の筆が加わった現状の本文様態である。
2 行間注記は【 】− としてその頭に番号を記した。
2 小字及び割注等は< >で記した。/は改行を表す。また漢文の訓点等は< >で記した。
3 合(掛)点は、\<朱(墨)合点>と記した。
4 朱句点は「・」で記した。
5 本文の校訂記号は次の通りである。
 $(ミセケチ)・#(抹消)・+(補入)・&(ナゾリ)・=(併記)・△(不明文字)
 ( )の前の文字及び( )内の記号の前の文字は、訂正以前の文字、記号の後の文字が訂正以後の文字である。ただし、なぞり訂正だけは( )の前の文字は訂正後の文字である。訂正以前の本行本文の文字を尊重したことと、なぞり訂正だけは元の文字が判読しにくかったための処置である。
6 朱・墨等の筆跡の相違や右側・左側・頭注等の注の位置は< >と( )で記した。私に付けた注記は(* )と記した。
7 付箋は、「 」で括り、付箋番号を記した。
8 各丁の終わりには」の印と丁数とその表(オ)裏(ウ)を記した。
9 本文校訂跡については、藤本孝一「本文様態注記表」(『大島本 源氏物語 別巻』と柳井滋・室伏信助「大島本『源氏物語』(飛鳥井雅康等筆)の本文の様態」(新日本古典文学大系本『源氏物語』付録)を参照した。
10 和歌の出典については、伊井春樹『源氏物語引歌索引』と『新編国歌大観』を参照し、和歌番号と、古注・旧注書名を掲載した。ただ小さな本文異同については略した。

「ほたる」(題箋)

  いまハかく・おも/\しきほとに・よろつ・の
0001【いまハかく】−源
  とやかにおほししつめたる御ありさまなれハ・
  たのみきこえさせ給へる人/\・さま/\に
  つけてみな思ふさまにさたまり・たゝよ
  ハしからて・あらまほしくてすくし給ふ・た
0002【たいのひめ君】−玉
  いのひめ君こそ・いとおしく思ひのほかなる
  思ひそひて・いかにせむとおほしみたるめれ・
  かのけむか・うかりしさまにハなすらふへき・
0003【かのけむか】−肥ー大夫ー
  けハひならねと・かゝるすちにかてけも・人の
  思ひよりきこゆへき事ならねは・心」1オ

  ひとつにおほしつゝ・さまことに・うとましと
  おもひきこえ給ふ・なに事をもおほし
  しりにたる御よハひなれハ・とさまかうさま
  に・おほしあつめつゝ・はゝ君のおはせすな
0004【はゝ君】−夕かほ
  りにけるくちをしさも・またとりかへし
  おしくかなしくおほゆ・おとゝも・うちい
0005【おとゝ】−源
  てそめ給ひてハ・なか/\くるしくおほせと・
  人め越ハゝかり給ひつゝ・はかなき事をも・
  えきこえ給はす・くるしくもおほさるゝ
  まゝに・しけくわたり給ひつゝ・おまへの人と」1ウ

  をく・のとやかなるおりハ・たゝならすけしき
  はみきこえ給ふ・ことにむねつふれつゝ・け
  さやかに・ハしたなくきこゆへきにハあらね
  は・たゝミしらぬさまに・もてなしきこえ
  給ふ人さまの・わららかにけちかくものし
0006【わららかに】−にこやかなる心なり
  たまへは・いたくまめたち心し給へと・猶を
  かしくあいきやうつきたるけハひのミみえ
  給へり・兵部卿宮なとハ・まめやかにせめき
0007【兵部卿宮】−蛍
  こえ給ふ・御らうの程ハいくはくならぬに・
0008【御らう】−労なり
  さミたれになりぬるうれへをし給ひて・す」2オ
0009【さミたれに】−\<朱合点> 信明集 神代よりいむと云なる五月雨の此方に人をミるよしもかな(信明集56、花鳥余情・休聞抄・紹巴抄・孟津抄・花屋抄・岷江入楚) わひつゝもたのむ月日はある物を五月雨にさへ成にける哉(出典未詳、花鳥余情・弄花抄・休聞抄・孟津抄・花屋抄・岷江入楚)

  こしけちかきほと越たにゆるし給はゝ・思
  ふ事をもかたハしはるけてしかなと
  きこえ給へるを・とのこらむしてなにかハ・
0010【との】−源
0011【なにかハ】−源氏の御詞
  この君たちのすき給はむハみところあり
0012【すき】−数寄
  なむかし・もてはなれてなきこえ給ひそ
  御かへりとき/\きこえ給へとて・をしへて
0013【をしへて】−玉
  かゝせたてまつりたまへと・いとゝうたておほ
  え給へハ・みたり心ちあしとてきこえ給ハ
0014【みたり心ち】−玉
  す・人/\もことに・やむことなくよせおも
  きなとも・おさ/\なし・たゝはゝ君の御」2ウ
0015【はゝ君】−夕ー
0016【御をち】−ゆふかほのうへのおちなり 舅<ヲチ>

  をちなりける・さい将ハかりの人のむすめ
0017【さい将】−三位中将弟
0018【むすめ】−六条院ニテ玉ノ女房達
  にて・心はせなとくちおしからぬか・よにお
  とろへのこりたるを・たつねとり給へる・さい将
0019【さい将の君】−ゆふかほのうへにハいとこなるへし
  の君とて・てなともよろしくかき・おほ
  かたもおとなひたる人なれハ・さるへき
  おり/\の御かへりなとかゝせたまへハ・めしい
  てゝことハなとの給ひてかゝせ給ふ・もの
  なとのた給ふさまをゆかしとおほすなる
  へし・さうしミハ・かくうたてあるものなけかし
  さの後ハ・この宮なとハあハれけにきこえ」3オ
0020【この宮】−蛍

  給ふときハ・すこし見いれ給ふ時もありけ
  り・なにかとおもふに(に+ハ)あらす・かく心うき御
  けしきみぬわさもかなと・さすかにされ
  たるところつきておほしけり・とのハあいな
0021【とのハ】−源
  くをのれ心けさうして・宮をまちきこえ
0022【宮を】−蛍
  給ふもしり給はて・よろしき御かへりの
  あるを・めつらしかりていとしのひやかにお
0023【おはしましたり】−蛍
  ハしましたり・つまとのまに御しとねまいら
0024【御しとね】−兵部卿宮の御座をいふなり
  せて・みき丁ハかりをへたてにてちかき
  ほとなり・いといたう心してそらたきもの・心」3ウ

  にくきほとに・にほはしてつくろひおハする
  さま・おやにハあらて・むつかしきさかしら
0025【おやにハあらて】−源氏の君の御事なり
  人のさすかにあはれに見えたまふ・さい将の
0026【さい将の君】−女房
  君なとも人の御いらへきこえむ事もお
  ほえす・はつかしくてゐたるを・むもれた
  りと・ひきつミ給へハ・いとわりなし・夕
0027【ひきつミ給へハ】−宰相ヲ源ノ手(手#手)ニテ
  やミすきておほつかなき空のけしき
  のくもらハしきに・うちしめりたる宮の御
0028【宮の御けはひ】−蛍
  けハひもいとえむなり・うちよりほのめく
  おひかせもいとゝしき御にほひのたちそひ」4オ

  たれハ・いとふかく・かほりみちて・かねておほ
  し(し+し)よりもおかしき御けハひを・心とゝめた
  まひけり・うちいてゝ思ふ心のほとをの給
  ひつゝけたることのは・おとな/\しくひ
  たふるに・すき/\しくハあらていとけハひ
  ことなり・おとゝいとおかしとほのきゝおハす・
0029【おとゝ】−源
  ひめ君ハひんかしおもてにひきいりて・
0030【ひめ君】−玉
  おほとのこもりりにけるを・さい将の君の御
0031【御せうそこ】−源
  せうそこつたへに・ゐさりいりたるにつけて
  いとあまりあつかハしき御もてなしなり・」4ウ
0032【あつかハしき】−暑

  よろつのことさまにしたかひてこそめやすけ
  れ・ひたふるにわかひ給ふへきさまにもあらす・
0033【わかひ】−若
  この宮たちをさへさしはなちたる人つて
0034【この宮たち】−蛍
  にきこえ給ましきことなりかし・御こゑこそ
  おしミ給ふとも・すこしけちかくたにこそ
  なと・いさめきこえ給へと・ゐとわりな
  くて・ことつけてもはいゝり給ぬへき御
  心はへなれハ・とさまかうさまにわひし
  けれハ・すへりいてゝ・もやのきハなるみき
  丁のもとに・かたハらふし給へる・なにくれとこと」5オ

  なかき御いらへきこえ給ふこともなく・おほ
  しやすらふに・よりたまひて・みき丁のかた
  ひらをひとへ・うちかけ給ふにあはせて・さと
  ひかるものしそくをさしいてたるかと・あき
0035【しそく】−指炬
  れたり・ほたるをうすきかたにこのゆふつ
0036【うすきかたに】−源 一ハ木丁帷一ハ直衣
  かた・いとおほくつゝミをきてひかりをつゝ
  みかくし給へりけるを・さりけなくとかく
  ひきつくろふやうにて・にわかにかく
  けちえむに・ひかれるにあさましくて・
0037【けちえむに】−掲焉 はれ/\しき心なり
  あふきをさしかくし給へる・かたはらめ」5ウ
0038【あふきを】−玉

  いとおかしけなり・おとろかしきひかりみえ
  ハ・宮ものそき給なむ・わかむすめとお
0039【わかむすめと】−源
  ほすハかりのおほえに・かくまてのたまふ
  なめり・人さまかたちなといとかくしも・く
  したらむとハえをしハかり給ハし・いとよく
  すき給ひぬへき・心まとハさむと・かまへあ
  りき給ふなりけり・まことのわかひめ君
0040【まことのわかひめ君】−これハ作者の詞也明石の姫君ナリ
  をハ・かくしも・もてさはき給はし・うたて
  ある御心なりけり・こと方よりやをらすへ
  りいてゝ・わたり給ひぬ・宮ハ人のおハする」6オ
0041【人のおはする】−玉

  ほと・さはかりとをしハかり給ふか・すこし
  けちかきけハひするに・御心ときめき
  せられ給ひて・えならぬうすものゝかたひ
  らのひまより見いれ給へるに・ひとまハかり
  へたてたる・みわたしに・かくおほえなき
  ひかりのうちほのめくを・おかしと見た
  まふ・程もなく・まきらハして・かくしつ
  されと・ほのかなるひかり・えむなることの
  つまにもしつへくみゆ・ほのかなれと・そひ
  やかにふし給へりつるやうたいのおかしかり」6ウ

  つるを・あかすおほして・けにこのこと・御心
  にしミにけり
    なくこゑもきこえぬむしの思ひたに
0042【なくこゑも】−蛍宮
  人のけつにハきゆるものかハおも(おも&おも)ひしり給
  ひぬやときこえ給ふ・かやうの御かへしを・思
  まハさむも・ねちきたれは・ときハかりをそ
0043【ときハかり】−早
    声ハせて身をのミこかすほたるこそ
0044【声ハせて】−玉かつら
  いふよりまさるおもひなるらめなとはかな
  くきこえなして・御みつからハひきいり
  給ひにけれハ・いとハるかに・もてなし給ふ・うれ」7オ

  ハしさ越・いみしくうらミきこえ給ふ・す
  きすきしきやうなれハ・ゐたまひもあか
  さて・のきのしつくもくるしさに・ぬれ/\
  よふかくいて給ひぬ・ほとゝきすなとかなら
0045【よふかく】−\<朱合点> 古今 五月雨に物おもひおれハほとゝきす夜ふかく鳴ていつち行らん(古今153・新撰万葉47・古今六帖4441・友則集10・寛平后宮歌合54、紫明抄・河海抄・花鳥余情・細流抄・紹巴抄・孟津抄) 郭公模兵部卿
  すうちなきけむかし・うるさけれハこそきゝ
0046【うるさけれハ】−作者詞
  もとめね・御けハひなとのなまめかしさハ・い
0047【御けハひ】−蛍
  とよくおとゝの君に・にたてまつり給へりと・
0048【おとゝの君ににたてまつり給へりと】−源兄弟
  人/\もめてきこえけり・よへいと・めおやた
0049【めおやたちて】−如母ー
  ちて・つくろひ給ひし御けハひを・うち/\
  ハしらて・あはれにかたしけなしとみない」7ウ

  ふ・ひめ君ハかくさすかなる御けしきを・
0050【ひめ君】−玉
  わか身つからのうさそかし・おやなとにし
0051【わか身つからの】−古今 わかミからうき世中と歎つゝ人のためさへかなし△(△#か)るらん(古今960、源氏釈・異本紫明抄・紫明抄・河海抄)
  られたてまつり・よのひとめきたるさまにて・
  かやうなる御心はへならましかハ・なとかハいと
  にけなくもあらまし・人にゝぬありさま
  こそ・つゐによかたりにやならむと・おき
  ふしおほしなやむ・さるハまことにゆかしけ
  なきさまには・もてなしはてしと・おと
0052【おととハ】−源
  とハおほしけり・な越さる御心くせなれハ・
  中宮なともいとうるハしくや思ひきこえ」8オ
0053【中宮】−秋ー

  給へる・ことにふれつゝたゝならすき(き+こ)えう
  こかしなとし給へと・やむことなき方のを
  よひなく・わつらハしさに・おりたちあら
  ハしきこえより給はぬを・この君ハ人の御
  さまもけちかく・いまめきたるに・をのつから
  おもひしのひかたきにおり/\・人みたてま
  つりつけハ・うたかひおひぬへき御もてなし
0054【うたかひ】−源与玉
  なとハ・うちましるわさなれと・ありかたく
  おほしかへしつゝ・さすかなる御なかなり
  けり・五日にハむまはのおとゝにいて給けるつ」8ウ
0055【むまは】−六条院東向競馬有今日
0056【おとゝ】−殿
0057【いて給ける】−源

  いてにわたり給へり・いかにそや宮ハ夜やふ
0058【わたり給へり】−玉方へ
0059【いかにそや】−源詞
0060【宮ハ】−蛍
0061【夜やふかし給ひし】−光夜事
  かし給ひし・いたくもならしきこえし・わつ
0062【ならしきこえし】−なれたる也
  らハしきけそひ給へる人そや・ひとの心
  やふりものゝあやまちすましき人ハ・かた
  くこそありけれなと・いけミころしミ・いまし
  めおはする御さまつきせす・わかくきよけ
0063【御さま】−源
  に見え給・つやも色もこほるハかりなる御
0064【つやも】−厳又光
  そに・な越し・はかなく・かさなれるあはひ
  も・いつこに・くハゝれるきよらにかあらむ・こ
  のよの人のそめいたしたると見(見&見)えす・つね」9オ

  の色もかへぬあやめも・けふハめつらかにおか
  しくおほゆるかほりなとも・思ふ事なくハ
  おかしかりぬへき御ありさまかなと・ひめ君
0065【ひめ君】−玉
  おほす・宮より御ふミあり・しろきうすやう
0066【宮より】−蛍
0067【しろきうすやう】−菖蒲根色
  にて・御てハいとよしありてかきなし給へり・みる
  ほとこそおかしけれ・まねひいつれハ・ことなる
  ことなしや
    けふさへやひく人もなきみかくれに
0068【けふさへや】−蛍兵部卿
  おふるあやめのねのミなかれんためしにも・
0069【なかれん】−泣
0070【ためしにも】−\<朱合点> 水かくれておふる五月のあやめ草なかきためしに人ハ引なん 貫之(続古今229、花鳥余情・休聞抄・紹巴抄・孟津抄・花屋抄・岷江入楚)
  ひきいてつへき(き+ね)にむすひつけ給へれハ・けふ」9ウ
0071【けふの御かへり】−源詞

  の御かへりなと・そゝのかしをきていて給ひぬ・
0072【いて給ひぬ】−源
  これかれも・な越ときこゆれハ・御心にもいかゝ
  おほしけむ
    あらハれていとゝあさくもみゆるかなあや
0073【あらハれて】−玉かつら返し
  めもわかすなかれけるねのわか/\しくと
0074【なかれける】−泣
  ハかりほのかにそあめる・てをいますこしゆ
  へつけたらハと・宮ハこのましき御心に・いさゝか
0075【宮ハ】−蛍
  あかぬことゝみたまひけむかし・くすたまな
0076【あかぬ】−不足
0077【くすたま】−続命縷
  と・えならぬさまにて・所/\よりおほかりお
  ほししつミつるとしころのなこりなき御」10オ

  ありさまにて・こゝろゆるひ給ふ事もおほ
0078【ゆるひ】−ゆる/\しき也
  かるに・おなしくハ・人のきすつくハかりの
  ことなくても・やみにしかなと・いかゝおほさゝ
  らむ・とのはひむかしの御方にも・さしの
0079【とのは】−源
0080【ひむかしの御方】−花ー
  そき給ひて・中将のけふのつかさのて
0081【中将のけふのつかさ】−夕霧の中将左近なるゆへにいへり
0082【てつかひ】−手結ハ左近衛手給也五月五日にあたれり
  つかひのついてに・をのこともひきつれ
  て・ものすへきさまにいひしを・さる心し
  給へまたあかきほとにきなむものそ・あ
  やしくこゝにハわさとならす・しのふること
  をもこのミこたちのきゝつけて・とふらひも」10ウ

  のし給へは・をのつからこと/\しくなむある
  を・ようゐしたまへなときこえ給ふ・むまは
  のおとゝハ・こなたのらうよりみとおすほと
0083【おとゝハ】−殿
  と越からす・わかき人々・わたとのゝとあけ
  てものミよや・左のつかさにいとよしある
  官人おほかるころなり・せう/\の殿上人に
0084【官人】−将監将曹府生をいへり
  おとるましとのたまへは・ものみむことを・
  いとおかしとおもへり・たいの御方よりも・わら
0085【たいの御方】−玉
  ハへなともの見にわたりきて・らうのとくち
  に・みすあ越やかにかけわたしていまめきたる」11オ

  すそこのみき丁ともたてわたし・わらハ
0086【すそこ】−末濃
  しもつかへなとさまよふ・さうふかさねのあこ
0087【さうふかさね】−玉 面青裏濃紅梅也
  め・ふたあひのうすものゝかさミきたるわら
  はへそ・にしのたいのなめる・このましく
  なれたるかきり四人・しもつかへハ・あふちの
0088【あふちのすそこ】−面うす色裏青也末濃ハすそを紫に染也
  すそこの裳・なてしこのわかはのいろし
0089【なてしこのわかは】−面蘇芳裏一説面紅梅裏青也
  たるからきぬ・けふのよそひともなり・こな
0090【こなたの】−花
  たの(の+は<朱>)こきひとかさねに・なてしこかさね
  のかさみなと・おほとかにて・をの/\いとみ
  かほなるもてなしみところあり・わかやか」11ウ

  なる殿上人なとハ・め越たてゝけしきはむ・
  ひつしの時に・むまはのおとゝにいて給ひ
  て・けにみこたちおハしつとひたり・てつか
0091【てつかひ】−手番
  ひのおほやけことにハ・さまかはりて・す
0092【すけたち】−次将
  けたちかきつれまいりて・さまことにいまめ
  かしくあそひくらし給ふ・女ハなにのあ
  やめもしらぬことなれと・とねりともさへ
0093【とねり】−近衛随身
  えむなるさうそくを・つくして・身をなけ
0094【えむなる】−艶也
0095【身をなけたる】−身捨勝負する也
  たる・てまとハしなとを・みるそおかしかり
0096【てまとハし】−手
  ける・みなミのまちもと越して・はる/\と」12オ
0097【みなミのまち】−紫

  あれハ・あなたにもかやうのわかき人ともハみ
0098【あなたにも】−紫
  けり・打毬楽らくそむなとあそひて・かち
0099【らくそむ】−楽
  まけのらさうとも・のゝしるも・よにいりは
0100【らさう】−乱声勝方大鼓等打
  てゝ・なに事もみえすなりはてぬ・とねり
0101【とねり】−舎人
  とものろくしな/\給はる・いたくふけて・ひと
  ひとみなあかれ給ひぬ・おとゝハこなたに・
0102【あかれ】−別
0103【こなたに】−花ちる里
  おほとのこもりぬ・物かたりなときこえ給
  て・兵部卿宮の人よりハこよなくものし
0104【兵部卿宮】−蛍
  給かな・かたちなとハすくれねと・ようゐけ
  しきなとよしあり・あいきやうつきたる」12ウ

  君なり・しのひてみたまひつや・よしとい
0105【しのひてみたまひつや】−花ー
  へと・な越こそあれとのたまふ・御おとうとに
0106【御おとうとに】−花ー詞 弟源歳
  こそものし給へと・ねひまさりてそみえ給
  ひける・としころかくおりすくさす・わたり
  むつひきこえ給ふときゝ侍れと・むかし
  の内わたりにて・ほのミたてまつりし後・おほ
  つかなしかし・いとよくこそかたちなと・ね
  ひまさり給ひにけれ・そちのみこ・よく
0107【そちのみこ】−帥兄弟
  ものしたまふめれと・けハひおとりておほ
0108【おほ君】−王
  君けしきにそ・ものし給ひけるとのた」13オ

  まへハ・ふとみしりたまひにけりと・おほせと
0109【おほせと】−源
  ほゝゑミてな越あるを・よしとも・あしとも
  かけ給ハす・人のうへを・なむつけおとしめ
  さまの事いふ人をハ・いとおしきものにした
  まへハ・右大将なとをたに・心にくき人にす
0110【右大将】−鬚
  めるを・なにはかりかハある・ちかきよすかに
0111【ちかきよすか】−玉与鬚
  てみむハ・あかぬ事にやあらむとみたまへ
0112【みたまへと】−源
  と・ことにあらハしてものたまはす・いまはた
0113【ことに】−言
  たおほかたの御むつひにて・おましなとも・
0114【おまし】−座
  こと/\にて・おほとのこもる・なとてかくハな」13ウ
0115【こと/\にて】−各別
0116【なとてかくハ】−源独言

  れそめしそと・殿ハくるしかり給ふ・おほかた
0117【おほかたなにやかやとも】−花ー心
  なにやかやとも・そはミきこえ給はて・と
  しころかくおりふしにつけたる御あそひとも
  を・人つてに見きゝ給ひけるに・けふめつ
  らしかりつることハかりをそ・このまちのお
  ほえきら/\しと・おほしたる
    そのこまもすさめぬ草となにたてる
0118【そのこまも】−花ちる 催馬曲 拾 おふれとも駒もすさめぬあやめ草かりにも人のこぬかわひしき 躬恒(拾遺集768・拾遺抄275・躬恒集274、河海抄)
  みきハのあやめけふやひきつるとおほと
0119【みきハのあやめ】−我事云
  かにきこえ給・なにハかりの事にもあらね
  と・あハれとおほしたり」14オ

    にほとりにかけをならふるわかこまは
0120【にほとりに】−源氏 菖蒲似たれともこもハおとりたる心也
0121【わかこまは】−若薦也五音通する也駒くらへの日なる故也
  いつかあやめにひきわかるへきあいたちなき
0122【あいたちなき】−無△△(△△#)アイたちハ詞也ありのまゝ両方よミ給へハ思キ歟
  御事ともなりや・あさゆふのへたてあるやうな
  れと・かくてみたてまつるハ・心やすくこそ
  あれ・たハふれ事なれと・のとやかにおは
  する人さまなれは・しつまりてきこえなし
  給ふ・ゆかをハゆつりきこえ給ひて・みき
  丁ひきへたてゝ・おほとのこもる・けちかくな
  とあらむすちをハ・いとにけなかるへきす
  ちに思ひはなれはてきこえ給へれハ・あ」14ウ

  なかちにもきこえ給ハす・なかあめれいの
  としよりも・いたくして・はるゝかたなく・
  つれ/\なれハ・御方/\ゑものかたりなとの
  すさひにて・あかしくらし給ふ・あかしの御
  かたハさやうのことをもよしありてしなし
  給て・ひめ君の御方にたてまつり給ふ・にし
0123【ひめ君の御方】−明ー中
0124【にしのたいにハ】−玉
  のたいにハ・ましてめつらしくおほえ給ことの
  すちなれは・あけくれかきよミいとなみ
  おハす・つきなからぬわか人あまたあり・
  さま/\にめつらかなる人のうへなとを・ま」15オ

  ことにや・いつハりにや・いひあつめたる中に
  も・わかありさまのやうなるはなかりけり
0125【わかありさま】−玉
  とみたまふ・すみよしのひめ君のさしあた
0126【みたまふ】−給事
0127【さしあたりけむおりは】−当時
  りけむおりハさるものにて・いまのよのおほえ
  もな越心ことなめるに・かそへのかみか・ほと/\
0128【かそへのかみ】−頭
0129【ほと/\】−\<合点> 驚/\ 拾 宮つくるひたのたくミのてをのをとほと/\しかるめをも見しかな(拾遺集1226、河海抄・紹巴抄・孟津抄・孟津抄・岷江入楚)
  しかりけむなとそ・かのけむかゆゝしさをおほ
  しなすらへ給ふ・とのもこなたかなたに・
  かゝるものとものちりつゝ御めにはなれね
0130【かゝるものとも】−絵双紙
  ハ・あなむつかし・女こそものうるさからす・人
0131【女こそ】−源詞
  にあさむかれむとむまれたるものなれ・」15ウ

  こゝらのなかにまことハ・いとすくなからむを・
  かつしる/\・かゝるすゝろ事に・心をうつし
0132【心をうつしはかられ給ひて】−タハカル
  はかられ給ひて・あつかハしき・さミたれの
0133【さミたれのかみのみたるゝ】−\<朱合点> 拾 時鳥をちかへりなけうなゐこかさみたれかみの五月雨の比 躬恒(拾遺集116・寛平中宮歌合・躬恒集164、源氏釈・異本紫明抄・紫明抄・河海抄)
  かミのみたるゝもしらてかき給ふよとて・
0134【かき給ふよ】−玉双紙
  わらひ給ものから・またかゝるよのふる事
  ならてハ・けになにをかまきるゝことなきつ
  れつれをなくさめまし・さてもこのいつ
0135【このいつはりとも】−絵
  ハりとものなかに・けにさもあらむとあは
  れ越みせ・つき/\しく・つゝけたるはた・は
  かなしことゝしりなから・いたつらに心うこき・ら」16オ

  うたけなるひめ君のものおもへるみるにかた
0136【ひめ君】−住吉
  心つくかし・またいとあるましき事かなと・
  見る/\おとろ/\しく・とりなしけるか
  めおとろきて・しつかにまたきくたひそ
  にくけれと・ふとおかしきふし・あらハなる
  なともあるへし・このころおさなき人の
0137【このころ】−源
  女はうなとに・時/\よまするをたちきけ
  ハ・ものよくいふものゝよにあるへきかな・そ
  らこと越よくしなれたるくちつきよりそ・
  いひいたすらむとおほゆれと・さしもあら」16ウ

  しやとのたまへハ・けにいつハりなれたる人
  や・さま/\にさもくミ侍らむ・たゝ(ゝ+いと)まことのこ
0138【くみ侍らむ】−心を汲知
  とゝこそ・思ふ給へられけれとて・すゝりをゝし
  やり給へハ・こちなくもきこえおとしてける
  かな・神よゝり世にあることをしるしをきける
  なゝり・日本記なとハたゝかたそはそかし・こ
  れらにこそみち/\しくくハしき事
  ハあらめとてわらひ給ふ・その人のうへとて・
  ありのまゝにいひいつる事こそなけれ・よき
  もあしきも・世にふる人のありさまのみる」17オ

  にもあかす・きくにもあまることを・後の世に
  も・いひつたへさせまほしきふし/\を・心に
  こめかたくて・いひをきはしめたるなり・よき
  さまにいふとては・よき事のかきりえりい
  てゝ人にしたかはむとてハ・又あしきさま
  のめつらしき事を・とりあつめたる・みなか
  たかたにつけたる・このよのほかのことならす
  かし・人のみかとのさ(さ&さ)えつくりやうかはる・
0139【人のみかと】−唐朝書籍皆才人作也
0140【さえ】−才也
0141【つくりやう】−作ナリ
  おなしやまとのくにのことなれは・むかしいま
  のにかハるへし・ふかきこと・あさき事の」17ウ

  けちめこそあらめ・ひたふるにそら事と・
  いひはてむも・ことの心たかひてなむあり
  ける・ほとけのいとうるハしき心にて・ときを
  き給へる御法も・はうへむといふ事あり
  て・さとりなきものハ・こゝかしこ・たかふ・うた
  かひを・ゝきつへくなん・はうとう経の中
  におほかれと・いひもてゆけハ・ひとつむねに
0142【ひとつむねに】−五時諸経是帰法帰一実道理
  ありて・ほたいとほむなうとのへたゝりな
  む・この人のよきあしきハかりの事ハ
  かハりける・よくいへハ・すへてなに事もむ」18オ

  なしからすなりぬやと・ものかたりをいと
  わさとのことに・のたまひなしつ・さてかゝるふ
  る事の中にまろかやうに・しほうなる・
0143【まろかやうに】−丸男女乃通称也
  しれものゝ物語ハありや・いみしくけと越き
  ものゝひめ君も・御心のやうにつれなく・そ(そ+ら)
0144【御心のやう】−玉ー
  おほめきしたるハ・よにあらしな・いさたくひ
  なきものかたりにして・世につたへさせんと
  さしよりてきこえ給へハ・かほゝひきいれ
  て・さらすとも・かくめつらかなる事ハ・よかた
0145【さらすとも】−玉かつら
  りにこそハ・なり侍ぬへかめれとのたまへハ・め」18ウ
0146【めつらかに】−源氏

  つらかにやおほえ給・けにこそまたなき心ち
  すれとて・よりゐたまへるさま・いとあされたり
    思ひあまりむかしのあとをたつぬれと
0147【思ひあまり】−源氏
  おやにそむけるこそたくひなきふけう
0148【ふけう】−不孝
  なるハ・ほとけのみちにもいみしくこそい
  ひたれとのたまへと・かほもたけ給はねは・
  御くしをかきやりつゝ・いみしくうらみ給へ
  ハ・からうして
    ふるきあとをたつぬれとけになかりけり
0149【ふるきあとを】−玉かつら返し
  このよにかゝるおやの心はときこえ給も・」19オ
0150【このよにかゝるおや】−子によそへたり

  心はつかしけれは・いといたくもみたれ給ハす・
0151【心はつかしけれは】−源
  かくしていかなるへき御あれさまならむ・むら
  さきのうへもひめ君の御あつらへにことつ
0152【ひめ君】−明ー中
  けて・物かたりハすてかたくおほしたり・
  くまのゝものかたりのゑにてあるを・いと
  よくかきたるゑかなとてこらむす・ちゐ
0153【こらむす】−紫
  さき女君のなに心もなくて・ひるねした
  まへる所を・むかしのありさま・おほしいてゝ・
  女君ハみたまふ・かゝるわらハとちたに・いかに
0154【かゝるわらはとち】−絵
  されたりけり・まろこそなをためしにしつ」19ウ

  へく・心のとけさハ・人にゝさりけれと・きこえ
  いて給へり・けにたくひおほからぬ事とも
0155【けにたくひ】−源詞
0156【たくひ】−コマ物ー
  ハ・このミあつめ給へりけりかし・ひめ君の御
0157【ひめ君】−明ー中
  まへにて・このよなれたるものかたりなとな・
  よミきかせ給ひそ・みそか心(心&心)つきたるも
0158【みそか心】−密
  のゝむすめなとハ・おかしとにハあらねと・かゝる
  事・よにハありけりと・みなれ給はむそ・ゆゝ
0159【みなれ】−耳
  しきやとのたまふもこよなしと・たい
  の御方きゝ給はゝ・心をき給ひつへくなむ・
  うへ(うへ&うへ)・心あさけなる人まねともハ・みるにも」20オ

  かたハらいたくこそ・うつほのふちハら君の
0160【うつほの】−空
  むすめこそ・いとおもりかにはか/\しき人
  にて・あやまちなかめれと・すくよかにいひいて
0161【いひいてたる】−あて宮哥
  たる(る+事も<朱>)しわさも・女しき所なかめるそ・ひとやうな
0162【ひとやう】−一ー様
  めるとのたまへは・うつゝの人もさそあるへかめ
0163【うつゝの人も】−源詞
  る・ひと/\しく・たてたるおもむき・ことに
  てよきほとに・かまへぬや・よしなからぬお
  やの心とゝめて・おほしたてたる人のこめかし
0164【こめかしき】−おさなかまし
  きをいけるしるしにて・をくれたる事おほ
  かるハ・なにわさして・かしつきしそと・おや」20ウ

  のしわさゝへ・おもひやらるゝこそ・いとをしけ
  れ・けにさいへと・その人のけハひよとみえ
  たるはかひあり・おもたゝしかし・ことはの
  かきり・まはゆく・ほめをきたるにしいてたる
  わさいひいてたることのなかに・けにとみえ
  きこゆる・事なき・いと見をとりするわさ
  なり・すへてよからぬ人に・いかてひとほめ
  させしなと・たゝこのひめ君の・てむつか
0165【このひめ君】−明ー中
  れ給ふましくと・よろつにおほしのた
  まふ・まゝはゝのハらきたなき・むかしもの」21オ
0166【まゝはゝの】−紫

  かたりもおほかるを(を+此比<朱>)心みえに・心つきなし
  とおほせハ・いみしくえりつゝなむ・かきとゝ
  のへさせ・ゑなとにもかゝせ給ひける・中将の
0167【中将の君】−夕
  君をこなたにハ・けと越く・もてなしきこ
0168【こなたにハ】−紫
  え給へれと・ひめ君の御方にハ・さしも・さし
0169【ひめ君の御方】−明ー
  はなちきこえ給はす・ならハし給ふ・わか
0170【わかよ】−源
  よの程ハ・とてもかくても・おなしことなれと・
  なからむよを思ひやるに・な越みつきおも
  ひしミぬる事ともこそ・とりわきてハ・お
  ほゆへけれとて・みなミおもての・みすのうち」21ウ

  ハゆるし給へり・たいはむ所女はうのなか
  はゆるし給ハす・あまたおはせぬ御なから
  ひにて・いとやむことなく・かしつききこ
  え給へり・おほかたの心もちゐなとも・いと
  もの/\しく・まめやかにものし給ふき
  ミなれハ・うしろやすくおほしゆつれり・
  またいはけたる・御ひゝなあそひなとの・け
0171【御ひゝなあそひなとの】−明ー
  ハひの見ゆれは・かの人のもろともに
0172【見ゆれは】−夕ー心
  あそひて・すくしゝ・とし月のまつ思ひいてら(△&ら)
  るれハ・ひゐなのとのゝみやつかへ・いとよくし」22オ

  給ひて・おり/\にうちしほたれ給けり・さも
  ありぬへきあたりにハ・はかなしことも・のた
  まひふるゝハ・あまたあれと・たのミかくへく
  もしなさす・さるかたになとかハ・みさらむと・
  心とまりぬへきをも・しゐて・な越さり事
  にしなして・なをかのみとりのそてを・みえ
0173【みえなをして】−雲ー
  なをしてしかなと・思ふ心のミそやむこと
  なきふしにハとまりける・あなかちに・なと
  かゝつらひまとハゝたふるゝ方に・ゆるし
0174【かゝつらひ】−懸
0175【ゆるし給ひも】−致ーノ
  給ひもしつへかめれと・つらしとおもひし」22ウ

  おり/\・いかて人にも・ことハらせたてまつら
  むと・おもひをきしわすれかたくて・さうし
0176【さうしみ】−雲ー
  みハかりにハ・をろかならぬあハれをつくし
  みせて・おほかたにハ・いられおもへらす・せうと
0177【いられ】−いら/\しく
0178【せうとの君たち】−雲兄弟
  の君たちなとも・なまねたしなとのミ
  おもふことおほかり・たいのひめ君の御あり
0179【たいのひめ君】−玉
  さまを・右中将ハ・いとふかく思ひしミて・い
0180【右中将】−柏
  ひよるたよりも・いとはかなけれハ・この君
  をそ・かこちよりけれと・ひとのうへにてハ・
  もとかしきわさなりけりと・つれなくいら」23オ

  へてそ・ものし給ひける・むかしのちゝおとゝ
0181【むかしの】−詞
0182【ちゝおとゝたちの御なからひ】−源 致ー
  たちの・御なからひににたり・内のおとゝハ・御
0183【内のおとゝ】−致ー
  こともはら/\いとおほかるに・そのおひいてたる
  おほえ・人からにしたかひつゝ・心にまかせたる
  やうなるおほえ・(え+御<朱>)いきほひにて・みななしたて
0184【なしたて給ふ】−成人
  給ふ・女ハ・あまたもおはせぬを・女御もかくおほ
0185【女御】−絵合セシ人
0186【かくおほしゝこと】−后立事冷ー
  しゝことの・とゝこほり給ひ・ひめ君も・かくこと
0187【ひめ君】−雲ー
0188【ことたかふ】−夕ーノ事
  たかふさまにて・ものしたまへハ・いとくちおしと
  おほす・かのなてしこをわすれ給はす・ものゝ
0189【かのなてしこを】−致ー心 玉
  おりにも・かたりいて給ひしことなれハ・いかにな」23ウ

  りにけむ・ものはかなかりける・おやの心にひかれ
0190【おやの心に】−夕顔
  て・らうたけなりしひとを・行ゑしらすな
  り(り+に)たること・すへて女こといはむものなん・いか
  にもいかにも・めはなつましかりける・さかしら
  に・わかこといひて・あやしきさまにて・はふれ
  やすらむ・とてもかくても・きこえいてこは
  と・あはれにおほしわたる・君たちにももし・
0191【君たちにも】−致ー子達詞
  さやうなるなのりする人あらハ・みゝとゝめ
  よ・心のすさひにまかせて・さるましき事
  も・おほかりし中に・これはいとしかをし」24オ

  なへてのきハにも・おもはさりし人のはか
  なきものうむしをして・かくすくなかり
0192【ものうむしをして】−夕顔 慍<イカル>うらミたる心也
0193【すくなかりける】−便
  けるものゝくさはひひとつを・うしなひ
  たることのくちおしき事と・つねにのたま
  ひいつ・なかころなとハさしもあらす・うちわ
  すれ給ひけるを・人のさま/\につけて・おんな
0194【人の】−源
  こかしつきたまへる・たくひともに・わかおもほ
0195【たくひともに】−玉明ー中等
  すにしも・かなはぬかいと心うく・ほいなく
  おほすなりけり・夢みたまひて・いとよくあ
0196【夢みたまひて】−致
  はするものめ(△&め)してあハせ給ひけるに・もし」24ウ

  としころ御心にしられ給はぬ・御こを人のものに
  なして・きこしめしいつることやと・きこえ
  たりけれハ・女この・人のこになる事ハ・おさ
  おさなしかし・いかなる事にかあらむなと・こ
  のころそおほしのたまふへかめる」25オ

  イ本
  胡蝶同年事也竪並也以哥并詞為巻名
  六条院卅六歳五月事在之
   任大殿御意加首筆者也 良鎮」(後遊紙1ウ)

  二校<朱>」(表表紙蓋紙)