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Last updated 05/06/2015(ver.2-5)
渋谷栄一翻字(C)

  

朝 顔

凡例
1 本稿は、『大島本 源氏物語』(1996(平成8)年5月 角川書店)を翻刻した。よって、後人の筆が加わった現状の本文様態である。
2 行間注記は【 】− としてその頭に番号を記した。
2 小字及び割注等は< >で記した。/は改行を表す。また漢文の訓点等は< >で記した。
3 合(掛)点は、\<朱(墨)合点>と記した。
4 朱句点は「・」で記した。
5 本文の校訂記号は次の通りである。
 $(ミセケチ)・#(抹消)・+(補入)・&(ナゾリ)・=(併記)・△(不明文字)
 ( )の前の文字及び( )内の記号の前の文字は、訂正以前の文字、記号の後の文字が訂正以後の文字である。ただし、なぞり訂正だけは( )の前の文字は訂正後の文字である。訂正以前の本行本文の文字を尊重したことと、なぞり訂正だけは元の文字が判読しにくかったための処置である。
6 朱・墨等の筆跡の相違や右側・左側・頭注等の注の位置は< >と( )で記した。私に付けた注記は(* )と記した。
7 付箋は、「 」で括り、付箋番号を記した。
8 各丁の終わりには」の印と丁数とその表(オ)裏(ウ)を記した。
9 本文校訂跡については、藤本孝一「本文様態注記表」(『大島本 源氏物語 別巻』と柳井滋・室伏信助「大島本『源氏物語』(飛鳥井雅康等筆)の本文の様態」(新日本古典文学大系本『源氏物語』付録)を参照した。
10 和歌の出典については、伊井春樹『源氏物語引歌索引』と『新編国歌大観』を参照し、和歌番号と、古注・旧注書名を掲載した。ただ小さな本文異同については略した。

「あさかほ」(題箋)

  斎院ハ御ふくにておりゐ給にきかし・
0001【斎院ハ御ふくにて】−槿斎院桃園式部卿御女榊巻ニ賀茂いつきにゐ給ふ薄雲巻に父宮の御服にておりゐ給ぬ
  おとゝれいのおほしそめつる事たえ
  ぬ御くせにて・御とふらひなといとしけ
  うきこえたまふ・宮わつらハしかり
0002【宮】−槿
  しことをおほせは・御かへりもうちとけて
0003【御かへり】−斎院
  きこえ給はす・いとくちをしとおほ
  しわたる・なか月になりてもゝそのゝ
  宮にわたり給ぬるをきゝて・女五の宮
0004【女五の宮】−槿姨<ヲハ>
  のそこにおはすれハ・そなたの御とふ
  らひに事つけて・まうてたまふ・こ」1オ
0005【こ院】−桐

  院のこのみこたちをハ・心ことにやむこと
  なくおもひきこえ給へりしかは・いまも
  したしく・つき/\にきこえかはし給
  ふめり・おなししんてむのにしひむかし
0006【しんてむ】−桃園宮
0007【にし】−斎院
0008【ひむかし】−女五宮
  にそすみ給ける・ほともなくあれに
  ける心ちして・あはれにけはひしめやか
  なり・宮たいめむしたまひて御もの
  かたりきこえ給ふ・いとふるめきたる御
  けハひしはふきかちにおはす・このか
  みにおはすれとこおほとのゝ宮はあ」1ウ
0009【こおほとのゝ宮】−葵上母三宮

  らまほしく・ふりかたき御ありさまなる
  を・もてはなれこゑふつゝかに・こち/\
0010【もてはなれ】−女宮
0011【ふつゝかに】−太
  しくおほえ給へるもさるかたなり・院
0012【院のうへ】−女五詞
  のうへかくれ給て後・よろつ心ほそくお
  ほえはへりつるに・としのつもるまゝに・
  いとなみたかちにてすくしはへるを・こ
0013【このみや】−桃ー式ー
  のみやさへかく(△&く)うちすて給へれは・いよ
  いよあるかなきかにとまりはへるを・かく
  たちよりとはせ給になむ・ものわす
  れしぬへくはへるときこえたまふ・」2オ

  かしこくもふり給へるかなとおもへと
0014【かしこくも】−源心中
  うちかしこまりて・院かくれ給て後は・
0015【院かくれ給て後は】−源氏御返答
  さま/\につけて・おなし世のやうにも
  はへらす・おほえぬつミにあたりはへり
  て・しらぬよにまとひはへりしを・たま/\
  おほやけにかすまへられたてまつりて
  は・またとりみたり・いとまなくなと
  して・としころもまいりて・いにしへの
  御物語をたにきこえうけ給ハらぬを・
  いふせくおもひたまえわたりつゝ」2ウ

  なむなときこえたまふを・いとも/\
0016【いとも/\】−女五宮
  あさましく・いつかたにつけてもさた
  めなきよ越・おなしさまにてみたまへ
  すくす・いのちなかさのうらめしき
  ことおほくはへれと・かくてよにたち
  か(か#か)へり給へる御よろこひになむ・ありし
  としころを見たてまつりさしてま
  しかは・くちをしからましとおほえは
  へりと・うちわなゝき給て・いときよら
0017【いときよら】−源氏をいふ
  にねひまさり給にけるかな・わらはに」3オ

  ものし給へりしをみたてまつりそめ
  し・ときよにかゝるひかりのいておはし
  たる事と・おとろかれはへりしを・とき
  ときみたてまつることにゆゝしくお
  ほえはへりてなむ・内のうへなむいとよ
0018【内のうへ】−冷泉院
  くにたてまつらせ給へりと・人/\き
  こゆるを・さりともおとり給へらむと
  こそ・をしハかりはへれと・なか/\ときこえ
0019【なか/\と】−長々
  給へハ・ことにかくさしむかひて・人のほめぬ
0020【ことにかく】−源
  わさかなと・おかしくおほす・やまかつ」3ウ
0021【やまかつになりて】−源氏詞

  になりて・いたう思ひくつをれはへりし・
  としころのゝち・こよなくおとろへにて
  はへるものを・うちの御かたちハいにしへの
  よにも・ならふ人なくやとこそありか
  たくみたてまつりはへれ・あやしき
  御をしハかりになむときこえ給・とき/\
0022【とき/\みたてまつらハ】−女五宮
  みたてまつらハ・いとゝしきいのちや
  のひはへらむ・けふハおいもわすれ・うき
  世のなけきみなさりぬる心ちなむと
  てもまたないたまふ・三宮うらやまし」4オ
0023【三宮】−摂政北方

  くさるへき御ゆかりそひて・したしく
  見たてまつり給ふをうらやミはへる・こ
0024【このうせ給ひぬる】−式部卿宮
  のうせ給ひぬるもさやうにこそくひ給ふ
0025【さやうに】−斎院の御事を思より給へる也
  おり/\ありしかとの給ふにそすこし
  みゝとまり給ふ・さもさふらひなれなましか
0026【さもさふらひ】−けんし詞
  は・いまに思ふさまにはへらまし・みなさし
  はなたせ給てと・うらめしけにけし
  きはミきこえ給ふ・あなたの御ま
0027【あなたの】−斎院御方西対也
  ゑをみやり給へは・かれ/\なるせむさい
  の心はへも・ことにみわたされて・のとやか」4ウ

  になかめ給ふらむ・御ありさまかたちもい
  とゆかしくあはれにて・えねんし給は
  て・かくさふらひたるついてを・すくし
0028【かくさふらひたる】−けんし詞
  はへらむハ心さしなきやうなるを・あな
0029【あなたの】−槿ー
  たの御とふらひきこゆへかりけりとて・
  やかてすのこよりわたり給ふ・くらふなり
0030【すのこ】−簀子
  たるほとなれと・にひいろのみすに
0031【にひいろ】−ー縁
  くろきみき帳のすきかけ・あハれに
0032【くろきみき帳】−黒染
  おひかせなまめかしく・ふきとおしけ
  ハひ・あらまほし・すのこは・かたわらいた」5オ

  けれは・みなミのひさしにいれたてまつる・
  せんしたいめんして御せうそこはきこ
  ゆ・いまさらにわか/\しき心ちする・みす
0033【いまさらに】−けんし詞
  のまへかな・神さひにけるとし月のらう
0034【神さひにける】−古タル心
0035【らう】−労也
  かそへられ侍に・いまは内外もゆるさせ給
  ひてむとそ・たのミはへりけるとて・あか
  すおほしたり・ありし世ハみな夢に見な
0036【ありし世は】−斎院ノ返
0037【夢に見なして】−父宮の事也
  して・いまなむさめてはかなきにやと思
  たまへさためかたくはへるに・らうなとハ・
  しつかにやとさためきこえさすへうはへ」5ウ

  らむときこえいたし給へり・けにこそさ
0038【けにこそ】−けんし詞
  ためかたき世なれと・はかなきことにつ
  けても・おほしつゝけらる
    人しれす神のゆるしをまちしまに
0039【人しれす】−けんし
0040【ゆるしを】−斎院退出
  こゝらつれなき世越すくすかないまハ
0041【こゝら】−おほきナリ
  なにのいさめにか・ゝこたせ給はむとす
0042【いさめ】−神に
  らむ・なへて世に・わつらハしきことさへ
  はへりしのち・さま/\に思給へあつめし
  かな・いかてかたハしをたにと・あなかちに
  きこえたまふ・御よういなともむかし」6オ
0043【御よういなとも】−けんし

  よりもいますこしなまめかしきけさ
  へそひたまひにけり・さるはいといたうす
0044【すくし給へと】−ねひすくし給ふ也
  くし給へと・御くらゐのほとにハあはさめり
0045【あはさめり】−大臣なとハ年たけたるかよき也
    なへてよのあはれハかりをとふからに
0046【なへてよの】−斎院
  ちかひしことゝ神やいさめむとあれハあな
0047【あな心う】−源氏詞
  心う・そのよのつミハみな・しなとの風にた
0048【しなとの風】−\<朱合点> 樹下集 罪とかハ科戸の風ニまかせたりさすらへぬらん大海ノ原ニ(出典未詳、河海抄・一葉抄・休聞抄・紹巴抄・孟津抄・花屋抄・岷江入楚)
  くへてきとの給ふ・あひきやうもこよな
  しみそきをかミハいかゝはへりけんなと・
0049【みそきをかミハ】−\<朱合点> 此詞源の詞又ハぜんじ詞とも<朱>
  はかなき事をきこゆるも・まめやかに
0050【はかなき事を】−これよりせんしか事を北にいへり<朱>
  ハいとかたはらいたし・よつかぬ御ありさま」6ウ
0051【よつかぬ御ありさま】−斎院

  は・とし月にそへても・ものふかくのミ・ひ
  きいり給ひて・えきこえ給はぬを・みた
  てまつりなやめり・すき/\しきやうに
0052【すき/\しき】−けんし
  なりぬるをなと・あさはかならす・うち
  なけきてたち給ふ・よハひのつもりには・
  おもなくこそなるわさなりけれよに
0053【よにしらぬやつれを】−\<朱合点> 住吉物 君か門今<イマ>そ過行いてゝみよ恋する人のなれるすかたを(住吉物語15、源氏釈・奥入・異本紫明抄・紫明抄・河海抄)
  しらぬやつれを・いまそとたにきこえさ
  すへくやハ・もてなし給ひけるとていて
  給ふ・なこりところせきまてれいのき
  こえあへり・おほかたのそらもおかしき」7オ

  ほとに・このはのおとなひにつけても・
  すきにしものゝあハれとりかへしつゝ・その
  おり/\おかしくもあはれにも・ふかく見
  え給し御心はへなとも・思ひいてきこえ
  さす・心やましくてたちいて給ひぬるハ・
0054【心やましくて】−けんし心中
  まして・ねさめかちに・おほしつゝけらる
  とく・みかうしまいらせ給て・朝きりを
  なかめ給ふ・かれたる花ともの中にあさ
  かほの・これかれにはひまつハれてあるかな
  きかにさきて・にほひもことにかハれる」7ウ

  をゝらせ給てたてまつれ給ふ・けさや
  かなりし御もてなしに・人わろき心ち
  しはへりて・うしろてもいとゝいかゝ御
  らむしけむと・ねたく・されと
    みしおりの露わすられぬあさかほの
0055【みしおりの】−けんし
  はなのさかりハすきやしぬらんとしころ
  のつもりもあはれとはかりハ・さりとも
  おほししるらむやと・なむかつはなと
0056【かつはなと】−いかゝおほすらん
  きこえ給へり・おとなひたる御ふミの
  心はへに・おほつかなからむもみしらぬやう」8オ

  に(に+や<朱>)と・おほし人/\も御すゝりとりまかなひ
  て・きこゆれハ
    あきはてゝきりのまかきにむすほゝれ
0057【あきはてゝ】−斎院
  あるかなきかにうつるあさかほにつら(ら$か)ハし
  き御よそへにつけても・つゆけくと
  のミあるは・なにのおかしきふしもなき
  を・いかなるにか・をきかたく御らむすめ
  り・あ越にひのかミのなよひかなるすみ
0058【あ越にひのかミ】−服者之用紙色ナリ
  つきはしも・おかしくみゆめり・人の
0059【人の御ほと】−作者詞
  御ほと・かきさまなとに・つくろハれつゝ・そ」8ウ

  のおりハつミなきことも・つき/\しく
  まねひなすにハ・ほゝゆかむ事もあめれ
  はこそ・さかしらにかき(き+まき<朱墨>)らハしつゝおほつ
  かなきこともおほかりけり・たちかへり
0060【たちかへり】−けんし
  いまさらにわか/\しき御ふミかきなとも・
  にけなきことゝおほせとも・な越かく
  むかしよりもてはなれぬ御けしきな
  から・くちをしくてすきぬるを・おもひ
  つゝえやむましくておほさるれハ・さら
0061【さらかへりて】−今更ニ立かへりて也
  かへりてまめやかにきこえ給・ひんかしの」9オ

  たいにはなれおはして・せむ(む$)しをむかへ
0062【せし】−斎院宣旨
0063【むかへ】−けんし
  つゝ・かたらひ給ふ・さふらふ人/\のさしも
  あらぬきはのこと越たに・なひきや
  すなるなとハ・あやまちもしつへく・めて
  きこゆれと・宮ハそのかミたに・こよなく
  おほしはなれたりしを・いまハましてた
  れもおもひなかるへき御よはひおほえ
  にて・はかなき木草につけたる御かへり
  なとのおりすくさぬも・かる/\しくやと
  りなさるらむなと・人のものいひをはゝ」9ウ

  かり給ひつゝ・うちとけ給へき御けしきも
  なけれハ・ふりかたくおなしさまなる御心は
  へを・よの人にかハりめつらしくもねたく
  も思ひきこえ給ふ・よのなかにもりき
  こえてせむ斎院(院+を<朱>)ねんころにきこえた
  まへハなむ・女五の宮なとも・よろしくお
  ほしたなり・にけなからぬ御あはひなら
  むなといひけるを・たいのうへハつたへき
0064【たいのうへ】−紫上
  き給ひて・しはしハさりとも・さやうならむ
  こともあらは・へたてゝはおほしたらしとおほ」10オ

  しけれと・うちつけにめとゝめきこえ給に・御けし
0065【御けしき】−源
  きなともれいならす・あくかれたるも・心う
  くまめ/\しくおほしなるらむこと越・つれな
  くたハふれにいゝなしたまひけんよとおなし
  すちにハものし給へと・おほえことに・むか
  しよりやむことなくきこえ給ふ
  お・御心なとうつりなは・はしたな
  くもあへいかな・としころの御もてなしな
0066【としころの】−むらさき心中
  とハたちならふかたなく・さすかになら
  ひて人にをしけたれむ事なと・」10ウ

  人しれすおほしなけか(△&か)る・かきたえ
  なこりなきさまにハ・もてなし給ハす
  とも・いとものはかなきさまにて・みな
  れ給へるとしころのむつひあなつら
  ハしきかたにこそハあらめなと・さま/\
  に思ひみたれ給ふに・よろしきことこそう
0067【よろしきこと】−ナヲサリナル
  ちゑしなと・にくからすきこえ給へ・ま
  めやかに・つらしとおほせは・いろにもいたし
  給はす・はしちかうなかめかちにうち
0068【はしちかう】−けんし
  すみしけくなりや(△&や)くとは・御文をか」11オ
0069【やく】−役

  き給へハ・けに人のことは・むなしかる
  ましきなめり・けしきをたにかす
  め給へかしと・うとましくのミおもひ
  きこえ給ふ・ゆふつかた・神わさなと
0070【神わさなともとまりて】−諒闇ニ十一月の神事停心也
  もとまりて・さう/\しきに・つれ/\と
0071【つれ/\と】−けん
  おほしあまりて・五の宮にれいのちか
  つきまいり給ふ・ゆきうちゝりて
  えむなるたそかれときに・なつかし
  きほとに・なれたる御そとも越・いよ/\
  たきしめ給て・こゝろことにけさうし・」11ウ

  くらし給へれは・いとゝ心よはからむ人は・
  いかゝとみえたり・さすかにまかり申ハた
0072【まかり申ハ】−紫上ニいとまこひ給ふ也
  きこえ給ふ・女五の宮のなやましく
  したまふなるを・とふらひきこえになむ
  とて・ついゐ給へれと・みもやり給はす・
0073【ついゐ給へれと】−源
0074【みもやり給はす】−紫
  わか君を・もてあそひまきらハしおは
0075【わか君を】−明石姫君
  する・そハめのたゝならぬを・あやしく
  御けしきの(の+の、の$<朱>)かはれるへきころかな・つみ
0076【つみもなしや】−けんし
  もなしや・しほやきころものあまりめ
0077【しほやきころもの】−\<朱合点> すまの海人のしほやき衣なれゆけハうとくのみこそ成まさりけれ(出典未詳、源氏釈・奥入・異本紫明抄・紫明抄・河海抄)
  なれ・ミたてなくおほさるゝにやとて・」12オ

  とたえをくを・またいかゝなときこえ
  給へハ・なれゆくこそけにうきことおほかり
0078【なれゆけは】−\<朱合点>「すまのあまのしほやき衣ハれゆけは/うきたのミこそなりまさりけれ<朱> 此哥不審<墨>」(付箋01 出典未詳、源氏釈・奥入・異本紫明抄・紫明抄・河海抄) なれゆくハ浮世なれはやすまの海人のしほやく衣まと越なるらん(新古今1210、河海抄・一葉抄・細流抄・休聞抄・紹巴抄・孟津抄・花屋抄・岷江入楚)
  けれとはかりにて・うちそむきて・ふし給
  へるハ・みすてゝいて給ふ・みちものうけれ
0079【みすてゝいて給ふ】−けん
  と・みやに御せうそこきこえたま(ま+ひ)てけ
0080【みやに】−女五
  れハいて給ひぬ・かゝりける事もあり
0081【かゝりける事も】−紫心
  けるよ越・うらなくてすくしけるよと・お
  もひつゝけてふし給へり・にひたる御そ
0082【にひたる御そ】−けんしも諒闇ニにひ色のな越しをき給ふ也
  ともなれと・いろあひかさなりこのまし
  くなか/\みえて・ゆきのひかりに・いみ」12ウ

  しくえむなる御すかたをみいたして・ま
  ことにかれまさり給ハゝとしのひあへす
  おほさる・御せんなとしのひやかなるかきり
  して・うちより・ほかのありきハものうき
0083【うちより】−源詞
  ほとになりにけりや・もゝそのゝ宮の
  心ほそきさまにてものし給ふも・式
  部卿宮にとしころはゆつりきこえつ
  るを・いまハたのむなとおほしの給も・
  ことハりにいとおしけれはなと・人/\に
  も・の給ひなせと・いてや御すき心のふり」13オ

  かたきそ・あたら御きすなめる・かる/\し
  き事もいてきなむなと・つふやき
  あへり・宮にはきたをもての人しけき
0084【宮には】−桃園
  かたなる・みかとハいり給はむも・かろ/\
  しけれハ・にしなるか・こと/\しきを人
  いれさせ給て・宮の御方に御せうそこ
0085【宮の御方】−女五
  あれハ・けふしもわたり給ハしとおほ
  しけるを・おとろきてあけさせ給・み
  かともりさむけなるけハひ・うすゝきい
0086【うすゝき】−薄映さむキ心ナリ
  てきて・とみにもえあけやらす・これより」13ウ

  ほかのをのこはたなきなるへし・こ
  ほこほとひきて・上のいといたくさひに
0087【さひにけれは】−錆
  けれハ・あかすと・うれふるを・あはれと
  きこしめす・きのふけふとおほすほ
  とに・みそ(そ$<朱>)とせのあなたにもなりに
0088【みとせのあなたにも】−帰京廿七は当年卅一歳
  けるよかな・かゝるをみつゝ・かりそめの
  やとりを・え思ひすてす・きくさの色
  にも心越うつすよと・おほししらるゝ・
  くちすさひに
    いつのまによもきかもとゝむすほゝれ」14オ
0089【いつのまに】−けんし

  ゆきふるさとゝあれしかきねそやゝひ
  さしう・ひこしらひあけていり給ふ・宮
  の御かたにれいの御物かたりきこえ給
  ふに・ふることゝもの・そこはかとなき・
  うちはしめきこえつくし給へと・御みゝ
  もおとろかす・ねふたきに・みやもあく
  ひうちし給て・よひまとひをしはへれ
  ハ・ものもえきこえやらすとの給ほ
  ともなく・いひきとか・ききしらぬをと
  すれは・よろこひなから・たちいて給はむ」14ウ
0090【たちいて給はむ】−源

  とするに・またいとふるめかしきしハふき
  うちして・まいりたる人あり・かしこけ
0091【かしこけれと】−源内侍詞
  れときこしめしたらむとたのミき
  こえさするを・よにあるものともかす
  まへさせたまハぬになむ・院のうへ
0092【院のうへ】−桐
  ハ・をハおとゝと・わらはせ給しなと・なの
0093【をはおとゝ】−老人をハうハおほちと世俗ニいふナリ
  りいつ(つ+る)にそ・おほしいつる・源内侍のす
  けといひし人は・あまになりてこの
  みやの御てしにて・なむをこなふとき
  きしかと・いまゝてあらむとも・たつね」15オ

  しり給はさりつるを・あさましうなり
  ぬ・そのよのことは・みなむかしかたりに
0094【そのよのことは】−けんし
  なりゆくを・はるかにおもひいつるも・心
  ほそきに・うれしき御こゑかな・おやなし
0095【おやなしにふせるたひ人】−けんし詞我事 \<朱合点>「しなてるやかたをか山にいひにうへて/ふせるたひ人あハれおやなし<朱>」(付箋02 拾遺集1350、源氏釈・奥入・異本紫明抄・紫明抄・河海抄)
  にふせるたひ人と・はくゝミ給へかしとて・
  よりゐたまへる御けハひに・いとゝむかし
  おもひいてつゝ・ふりかたくなまめかしき
0096【ふりかたく】−源内ー
  さまに・もてなして・いたうすけみにたる
  くちつき・おもひやらるゝ・こはつかひのさ
  すかに・したつきにてう(△&う)ちされむとは・」15ウ

  猶おもへり・いひこしほとになときこえ・
0097【いひこしほとに】−\<墨朱合点> 身をうしといひこしほとに今ハ又人のうへともなけくへきかな(出典未詳、源氏釈・奥入・異本紫明抄・紫明抄・河海抄)
  かゝるまはゆさよいましもきたるおひ
0098【いましも】−源心
  のやうになと・△△(△△#ほゝ<朱墨>)ゑまれ給ふものから・
  ひきかへこれもあはれなり・このさかり
0099【このさかり】−源内ー
  にいとみ給し・女御かういあるハ・ひたすら
  なくなり給・あるはかひなくて・はかな
  きよにさすらへ給ふもあへかめり・入
0100【入道の宮】−薄雲
  道の宮なとの御よはひよ・あさましと
  のミおほさるゝよに・としのほとミのゝ
0101【としのほと】−源内侍
  こりすくなけさに・こ(こ+こ)ろはへなとも・もの」16オ

  はかなくみえし人のいきとまりて・の
  とやかにおこなひをも・うちして・すくし
  けるハ・猶すへてさためなき世なりと・
  おほすに・ものあハれなる・御けしき
0102【ものあハれなる】−けん
  を・心ときめきに・思ひて・わかやく
0103【心ときめきに】−源内ー
    としふれとこの契こそわすられね
0104【としふれと】−源内侍尼
  おやのおやとかいひしひとことゝき
  こゆれは・うとましくて
    身をかへて後もまちみよこのよにて
0105【身をかへて】−源氏
  おやをわするゝためしありやとたのもし」16ウ

  きちきりそや・いまのとかにそきこえ
  さすへきとてたち給ひぬ・にしおもてに
0106【にしおもて】−斎院
  ハ・みかうしまいりたれと・いとひき(△△&ひき)こえかほ
  ならむも・いかゝとて・ひとまふたまはお
  ろさす・月さしいてゝ・うすらかに・つもれ
  るゆきのひかり△(△#)あひ(ひ+て・)なか/\(△△&/\)・いとおも
  しろきよのさまなり・ありつるおいら
  くの心けさうも・よからぬものゝよの
  たとひ
かきゝしと・おほしいてられ
  て・おかしくなむ・こよひはいとまめ」17オ
0107【こよひは】−槿

  やかにきこえ給ひて・ひとこと・にくし
  なとも・人つてならてのたまハせん
0108【人つてならて】−\<朱合点> 今ハさハ思たへなんとはかりを人つてならて云よしもかな 道雅(後拾遺750・袋草紙168、紫明抄・河海抄・休聞抄・細流抄・紹巴抄・孟津抄・岷江入楚)
  を・おもひたゆるふしにもせんと・おり
  たちてせめきこえたまへと・むかしわ
0109【むかしわれも】−槿心
  れも人も・わかやかにつミゆるされたり
  しよにたに・こ宮なとの心よせおほし
0110【こ宮】−式部卿ー
  たりしを・な越あるましく・はつかしと
  おもひきこえて・やミにしをよのすゑに・
  さたすき・つきなきほとにて・ひとこゑ
0111【ひとこゑ】−前ににくしなと有し事
  もいとまはゆからむとおほして・さらに」17ウ

  うこきなき御心なれハ・あさましうつら
  しと思ひきこえ給・さすかにはした
  なくさしはなちてなとはあらぬ人
  つての御かへりなとそ・心やましきや夜
  もいたうふけゆくに・風のけハひはけ
  しくてまことにいともの心ほそくおほ
0112【まことに】−心を付てみるへし
  ゆれは・さまよきほと・をしのこひ給ひて
    つれなさをむかしにこりぬ心こそ
0113【つれなさを】−けんし
  人のつらきにそへてつらけれ心つから
0114【心つからの】−「かけていへハなみたの川のせ越はやミ/心つからやまたもなかれん<朱>」(付箋03 古今六帖2093・伊勢集18、源氏釈・奥入・異本紫明抄・紫明抄・河海抄)
  のとのたまひすさふるを・けにかたハら」18オ

  いたしと・人/\れいのきこゆ
    あらためてなにかはみえむ人のうへに
0115【あらためて】−斎院
  かゝりときゝし心かはりをむかしにかハる
  ことは・ならハすなときこえたまへり・
  いふかひなくて・いとまめやかにゑしきこ
0116【いふかひなくて】−源
  えていて給も・いとわか/\しき心ちし給
  へハ・いとかくよのためしになりぬへきあり
  さま・もらし給なよ・ゆめ/\・いさらかハ
0117【いさらかハ】−\<朱合点> 犬かみのとこの山なるいさら川いさとこたへて我名もらすな<朱>(古今墨滅1108・古今六帖3061、源氏釈・奥入・異本紫明抄・紫明抄・河海抄)
  も・なれ/\しやとて・せちにうちさゝめ
  きかたらひ給へと・なに事にかあらむ人/\」18ウ

  も・あなかたしけな・あなかちになさけ
  をくれても・ゝてなしきこえたまふ
  らん・かるらかにをしたちてなとはみえ
  給はぬ・御けしきを・心くるしうといふけに
0118【けに】−斎院内心
  人のほとのおかしきにも・あはれにもお
  ほししらぬにはあらねと・ものおもひしる
  さまにみえたてまつるとて・をしなへ
  てのよの人のめて・きこゆらむつらに
  や・おもひなされむ・かつハかる/\しき
  心のほとも・みしり給ひぬへく・はつかし」19オ

  けなめる御ありさまをとおほせハ・なつ
  かしからむなさけもいとあひなし・よそ
  の御かへりなとは・うちたえておほつかな
  かるましきほとにきこえ給ひ・人つて
  の御いらへ・ハしたなからてすくしてむ・
  (+とふかくおほす<朱>)としころしつミつるつみうしなうは
0119【としころ】−斎院ニてまし/\し時の事
  かり・御おこなひをとは・おほしたてと・に
  はかにかゝる御事をしも・もてはなれか
  ほにあらむも・中/\いまめかしきやうに
  みえきこえて・人のとりなさしやハ」19ウ

  と・よの人のくちさかなさ越・おほしし
  りにしかは・かつさふらふ人にもうちと
  け給はす・いたう御心つかひし給ひつゝ・
  やう/\御をこなひをのミしたまふ・御はら
  からのきむたち・あまたものし給へ
  と・ひとつ御はらならねハ・いとうと/\しく・
  宮のうちいとかすかになりゆくまゝに・
  さはかりめてたき人のねむころに
0120【めてたき人】−けん
  御心越つくしきこえ給へハ・みな人心越
  よせきこゆるも・ひとつ心とみゆ・おとゝ」20オ
0121【おとゝ】−源

  はあなかちにおほしいらるゝにしもあら
  ねと・つれなき御けしきのうれたき
  に・まけてやミなむもくちをしく・け(け+に)
  はた人の御ありさま・よのおほえことに
  あらまほしく・ものをふかくおほしし
  り・よの人のとあるかゝるけちめも・き
  きつめ給ひて・むかしよりもあまたへ
0122【へまさり】−経也
  まさりておほさるれは・いまさらの御△(△#あたけ<朱墨>)
  もかつハよのもときをもおほしなから・
  むなしからむハいよ/\人わらへなるへし・」20ウ

  いかにせむと御心うこきて・二条院に夜
0123【いかにせむと】−誰里ニ夜

  かれかさね給ふを・女きミハたハふれにくゝ
0124【女きみ】−紫上
0125【たハふれにくゝ】−\<朱合点> ありぬやとこゝろみかてらあひミねハたはふれにくきまてそ恋しき(古今1025、異本紫明抄・紫明抄・河海抄)
  のミおほす・しのひたまへといかゝうちこ
  ほるゝおりもなからむ・あやしくれい
  ならぬ御けしきこそ・心えかたけれとて・
  御くしをかきやりつゝ・いとおしとおほし
  たるさまも・ゑにかゝまほしき御あハひ
  なり・宮うせ給ひて後・うへのいとさう
0126【宮】−薄雲
  さうしけにのミ・よ越おほしたるも心
  くるしう見たてまつり・おほきおとゝも・」21オ
0127【おほきおとゝ】−引入大臣

  ものし給はて・みゆつる人なき・ことしけ
  さになむ・このほとのたえまなとを・
  みならハぬことにおほすらむも・事ハりに
0128【みならハぬ】−紫
  あはれなれと・いまハさりとも心のとかに・
  おほせ・おとなひ給ためれと・またいとおもひ
  やりもなく・人の心もみしらぬさまに
  ものし給ふこそ・らうたけれなと・まろか
  れたる・御ひたいかみ・ひきつくろひ給へと・
  いよ/\そむきて・ものもきこえ給は
0129【いよ/\そむき】−紫
  す・いといたくわかひ給へるは・たかならハし」21ウ

  きこえたるそと(と+て・)つねなきよにかく
  まて・心越かるゝもあちきなのわさ
  やと・かつハうちなかめ給ふ・さい院に・ハ
  かなしこときこゆるや・もしおほしひ
  かむるかたある・それハいともてはなれた
  る事そよ・をのつからみたまひてむ・
  昔よりこよなうけと越き御心はへ
  なるを・さうさうしきおり/\たゝなら
  て・きこえなやますに・かしこもつれ
  つれにものし給ふところなれハ・たま」22オ

  さかのいらへなとし給へと・まめ/\しき
  さまにもあらぬを・かくなむあるとしも・
  うれへきこゆへきことにやハ・うしろめた
  うハあらしと越思ひな越したまへなと・
  ひひとひなくさめきこえ給ふ・雪のい
  たうふりつもりたるうへに・いまもちりつゝ・
  まつとたけとのけちめおかしう見
  ゆる夕くれに・人の御かたちも・ひかりま
  さりてみゆ・とき/\につけても・人の
  心をうつすめる・花もみちのさかりよりも・」22ウ

  冬の夜のすめる月に・ゆきのひかりあひ
  たる空こそあやしういろなきものゝ・
  身にしみてこのよのほかの事まて・
  おもひなかされおもしろさも・あはれ
  さものこらぬおりなれ・すさましきた
  めしにいひをきけむ・人の心あささよ
  とて・みすまきあけさせ給ふ・月はくま
0130【みすまきあけさせ給ふ】−一条院御時清少納言遺アヒ寺鐘
  なくさしいてゝ・ひとつ色にみえわたさ
  れたるに・しほれたるせむさいのかけ・
  心くる(る+し<朱>)うやり水もいといたうむせひ」23オ

  て・池のこほりも・えもいハす・すこき
  にわらハへおろして・雪まろハしせさせ
  給ふ・おかしけなるすかた・かしらつき
  とも・つきにはへておほきやかに・
  なれたるか・さま/\のあこめ・みたれき・
  おひしとけなき・とのいすかた・なまめい
0131【おひ】−帯
  たるに・こよなうあまれるかみのすゑ・
  しろきには・まして・もてはやしたる・
0132【には】−庭也
  いとけさやかなり・ちゐさきハ・わらは
0133【わらはけて】−童気也をさなけなといふ詞也
  けて・よろこひハしるに・あふきなとも」23ウ

  おとして・うちとけかをおかしけなり・
  いとおほうまろはさらむと・ふくつけ
0134【ふくつけかれと】−力をいたす心
  かれと・えもをしうこかさて・わふめり・か
  たへハひんかしのつまなとに・いてゐて・
  心もとなけにわらふ・ひとゝせ中宮の
0135【ひとゝせ】−源詞
0136【中宮】−薄雲
  おまへに・ゆきのやまつくられたりし・よ
0137【ゆきのやまつくられたりし】−花山院御時雪山庭作作文アリ
  にふりたる事なれと・猶めつらしくも・
  はかなきことをしなし給へりしかな・な
0138【なにのおり/\につけても】−薄ー
  にのおり/\につけても・くちをしう
  あかすもあるかな・いとけとをく・もてな」24オ

  し給ひて・くわしき御ありさまを・みな
  らしたてまつりしことは・なかりしかと・
  御ましらひのほとにうしろやすきもの
0139【御ましらひ】−薄
  にはおほしたりきかし・うちたのミき
  こえて・とある事かゝるおりにつけて・な
  に事もきこえかよひしに・もていてゝ・
  らう/\しきこともみえ給はさりしかと・
  いふかひあり・思ふさまに・はかなきことわさ
  をも・しなし給ひしはや・よにまたさハ
  かりの・たくひありなむやハらかに・をひ」24ウ

  れたるものから・ふかうよしつきたる
  ところのならひなくものし給しを・
  君こそハさいへと・むらさきのゆへこよな
0140【君こそは】−紫上の事
0141【むらさきのゆへ】−薄紫メイ
  からす・ものし給ふめれと・すこしわつ
  らハしきけそひて・かと/\しさの・
  すゝみ給へるやくるしからむ・せんさい
  院の御心はへはまたさまことにそみゆる
  さう/\しきになにとはなくとも・き
  こえあはせ・われも心つかひせらるへき
  あたり・たゝこのひとゝころや・よにのこ」25オ

  り給へらむとのたまふ・内侍のかミこそハ・
0142【内侍のかみ】−朧月夜
  らう/\しくゆへ/\しきかたは・人
0143【ゆへ/\しきかたは】−紫上詞
  にまさり給へれ・あさはかなるすちなと・
  もてはなれ給へりける人の御心を・あ
  やしくもありけることゝもかなと
  の給へハ・さかしなまめかしう・かたちよき
0144【さかし】−源氏返答
  女のためしには・な越ひきいてつへ
  き人そかし・さも思ふにいとをしくゝ
  やしきことのおほかるかな・まいてうちあた
  けすきたる人の・としつもりゆくまゝ」25ウ

  に・いかにくやしきことおほからむ・人よりハ
  ことなきしつけさと・思ひしたになと
  の給ひいてゝ・かむの君の御ことににもな
  みたすこしハおとし給ひつ・このかすにも
  あらす・おとしめたまふ山さとの人こそ
0145【山さとの人】−明石上の事
  ハ・身のほとには・やゝうちすき・ものゝ
  心なとえつへけれと・人よりことなへき
  ものなれハ・思ひあかれるさまをも・みけち
  てはへるかな・いふかひなき・きハの人は
  またみす・人ハすくれたるハ・かたきよ」26オ

  なりや・ひんかしの院になかむる人の
0146【ひんかしの院になかむる人】−花散里事
  心はへこそ・ふりかたく・らうたけれ・さ
  はたさらにえあらぬ(△&ぬ)ものを・さるかたに
  つけての・心はせ人にとりつゝ・みそめ
  しよりおなしやうに・よ越つゝましけに
  おもひてすきぬるよ・いまはたかたみにそ
  むくへくもあらす・ふかうあはれと思ひは
  へるなと・むかしいまの御物語に夜ふけ
  行・月いよ/\すみて・しつかに・おもしろ
  し女君」26ウ

    こほりとちいしまの水ハゆきなやミ
0147【こほりとち】−紫上
  空すむ月のかけそなかるゝと越ミい
  たしてすこしかたふき給へるほと・に
  るものなくうつ(つ+く<朱>)しけなり・かむさし
  おもやうのこひきこゆる人のおもかけ・
0148【こひきこゆる人】−薄雲事
  に・ふとおほえてめてたけれハ・いさゝかわく
  る御心もとりかさねつへし・をしのう
  ちなきたるに
    かきつめてむかし恋しきゆきもよに
0149【かきつめて】−源し かきあつめて也(△△△△△△&源し かきあつめて也)
  あハれをそふるをしのうきねかいり給ひ」27オ

  てもみやの御事をおもひつゝ・おほとの
0150【みやの御事】−薄
  こもれるに夢ともなく・ほのかにミたて
  まつるを(を$)・いみしくうらみ給へる御けしき
  にて・もらさしとのたまひしかと・うき
0151【もらさしと】−紫上昔の物語し給ふ也
  なのかくれなかりけれハ・はつかしうくる
  しきめ越みるにつけても・つらくなむ
  とのたまふ・御いらへきこゆとおほすに・
  をそハるゝ心ちして・女君のこはなと
0152【女君】−紫上
  かくハとの給ふにおとろきて・いミしく
  くちをしくむねのおきところなく」27ウ

  さハけハ・をさへて涙もなかれいてにけり・
  いまもいみしくぬらしそへ給ふ・女君
  いかなる事にかとおほすに・うちも
  みしろかて・ふし給へり
    とけてねぬねさめさひしき冬の夜に
0153【とけてねぬ】−源氏
  むすほゝれつる夢のみしかさなか/\
  あかすかなしとおほすに・とくおきた
  まひて・さとハなくて・ところ/\に・みす
0154【みすきやうなと】−故宮の御ためなり
  きやうなとせさせ給ふ・くるしきめ
  みせ給ふと・うらみ給へるも・さそおほ」28オ

  さるらんかし・をこなひをし給ひ・よろ
  つにつミかろけなりし御ありさま
  なから・このひとつ事にてそ・このよ
  のにこりをすゝ(ゝ$す<朱>)い給ハさらむと・ものゝ
  心をふかくおほしたとるにいみしく・
  かなしけれハ・なにわさ越して・しる人
  なきせかいに・おはすらむを・とふらひ
  きこえに・まうてゝ・つミにも・かハりき(き#<朱墨>)
  きこえハやなと・つく/\とおほす・か
  の御ためにとりたてゝ・なにわさをも」28ウ

  したまハむハ・人とかめきこえつへし・
  うちにも御心のおにゝ・おほすところやあ
  らむとおほしつゝむほとに・あみた
  ほとけを心にかけてねんしたてまつ
  り給・おなしはちすにとこそハ
    なき人をしたふ心にまかせても
0155【なき人を】−けんし
  かけみぬみつのせにやまとハむとおほ
0156【みつのせ】−三ツせ川ニよせたり
  すそうかりけるとや」29オ

  イ本
  以哥并詞為巻名源氏卅一歳の事うす雲
  のすゑのとしと同なり」29ウ

【奥入01】世俗しハすの月夜といふ(戻)
【奥入02】たまさかにゆきあふミなるいさゝ(ゝ$ら<朱>)かは
    いさとこたへてわかなもらすな
     此哥強不可入歟(戻)」30オ

  槿 巻名ハ哥ト詞トヲ以テ号ス源氏卅一歳九月ヨリ
  冬マテノ事アリ薄雲ノ巻ノ末ト同年也 一
  詞枯タル花トモノ中ニアサカホノコレカレニ
   ハヒマツワレテアルカナキニ咲テ
  哥見しおりの露わすられぬあさかほノ
   花ノさかりハ過やしぬらん源氏ノ」(前遊紙1ウ貼紙)

  二校了<朱>(表表紙蓋紙)