凡例
1 本稿は、『大島本 源氏物語』（1996（平成8）年5月 角川書店）を翻刻した。よって、後人の筆が加わった現状の本文様態である。
2 行間注記は【 】− としてその頭に番号を記した。
2 小字及び割注等は＜ ＞で記した。／は改行を表す。また漢文の訓点等は< >で記した。
3 合（掛）点は、＼<朱（墨）合点>と記した。
4 朱句点は「・」で記した。
5 本文の校訂記号は次の通りである。
＄（ミセケチ）・＃（抹消）・＋（補入）・＆（ナゾリ）・＝（併記）・△（不明文字）
（ ）の前の文字及び（ ）内の記号の前の文字は、訂正以前の文字、記号の後の文字が訂正以後の文字である。ただし、なぞり訂正だけは（ ）の前の文字は訂正後の文字である。訂正以前の本行本文の文字を尊重したことと、なぞり訂正だけは元の文字が判読しにくかったための処置である。
6 朱・墨等の筆跡の相違や右側・左側・頭注等の注の位置は< >と（ ）で記した。私に付けた注記は（＊ ）と記した。
7 付箋は、「 」で括り、付箋番号を記した。
8 各丁の終わりには」の印と丁数とその表（オ）裏（ウ）を記した。
9 本文校訂跡については、藤本孝一「本文様態注記表」（『大島本 源氏物語 別巻』と柳井滋・室伏信助「大島本『源氏物語』（飛鳥井雅康等筆）の本文の様態」（新日本古典文学大系本『源氏物語』付録）を参照した。
10 和歌の出典については、伊井春樹『源氏物語引歌索引』と『新編国歌大観』を参照し、和歌番号と、古注・旧注書名を掲載した。ただ小さな本文異同については略した。
「松かせ」（題箋）
ひむかしの院つくりたてゝ花ちる里
0001【ひむかしの院】−二条院東院
ときこえしうつろハし給ふ・にしのた
ゐ・わた殿なとかけてまところけいし
なとあるへきさまにしをかせ給ふ・ひむ
かしのたいはあかしの御かたとおほしを
きてたり・きたのたいハことにひろくつ
くらせ給て・かりにてもあはれとおほし
て・ゆくすゑかけて契たのめ給し人
人つとひすむへきさまに・へたて／＼しつら
はせ給へるしもなつかしう・見ところあり」1オ
てこまかなる・しむてんはふたけたま
ハす・時／＼わたり給ふ御すみ所にして・さる
0002【御すみ所】−源休所
かたなる御しつらひともしをかせ給へり・
あかしにハ御せうそこたえす・いまハ猶の
ほり給ぬへきこと越はのたまへと・女は
猶わか身のほとを思ひしるに・こよな
くやむことなき・きハの人／＼たに・中／＼
さてかけはなれぬ御ありさまのつれな
き越見つゝ・ものおもひまさりぬへく
きく越・ましてなにはかりのおほえなり」1ウ
とてか・さしいてましらハむ・このわか君
0003【このわか君】−明石中宮
の御（御＋お）もてふせに・かすならぬ身のほと
0004【御おもてふせ】−後 かさせとも老もかくれぬ此春そ花のおもてハふせつへらなり（後撰96・躬恒集270、河海抄・孟津抄・岷江入楚）
こそあらはれめ・たまさかにはひわたり
給ふ・ついてをまつ事にて・人わらへに
ハしたなきこといかにあらむと・思ひみた
れても・またさりとてかゝる所におひ
いて・かすまへられ給ハさらむも・いとあ
はれなれハ・ひたすらにも・えうらミそむ
かす・おやたちもけにことハりと思ひな
けくに・中／＼心もつきはてぬ・むかしはゝ」2オ
0005【むかしはゝきみの御をほちなかつかさの宮】−醍醐御子中務卿兼明親王山庄在大井河ノ畔号雄蔵殿<ヲクラトノト>也此親王を明石上の母君の祖父といへり
きみの御をほち・なかつかさの宮とき
こえけるか・らうし給けるところおほ
ゐかハのわたりにありけるを・その御の
ちはか／＼しうあひつく人もなくて・
としころあれまとふを思いてゝかのとき
よりつたハりて・やともりのやうにて・ある
人をよひとりてかたらふ・世中をいまハ
と思はてゝ・かゝるすまひにしつミそ
めしかとも・すゑのよに思かけぬこと
いてきてなん・さらにみやこのすみか・」2ウ
もとむるを・にハかにまはゆき人中・い
とハしたなく・ゐ中ひにける心ちも・し
つかなるましきを・ふるきところたつ
ねてとなむ思よる・さるへきものハあ
0006【あけ】−上
けはたさむすりなとして・かたのこと
人すみぬへくは・つくろひなされな
むやといふ・あつかりこのとしころらう
する人もものし給はす・あやしきや（△＆や）
うになりてはへれは・しもやにそつく
ろひてやとりはへるをこの春のころ」3オ
より・内の大殿の・つくらせ給ふ御たうちか
0007【内の大殿】−源
くて・かのわたりなむいとけさ（さ＋ハ）かしうな
りにてはへる・いかめしき御たうともたて
て・おほくの人なむつくりいとなミは
へるめる・しつかなる御ほいならハ・それやた
かひはへらむ・なにかそれもかのとのゝ御かけ
にかたかけてと思ふことありて・をのつから・
0008【かた】−肩
をい／＼にうちのことゝもはしてむ・まつ
いそきておほかたの事とも越ものせよ
といふ・身つかららうするところにはへら」3ウ
ねと・またしりつたへたまふ人もなけ
れハ・かこかなるならひにて・としころかく
ろへ侍りつるなり・みさうの田はたけ（はたけ＄畠<朱>）
なといふことのいたつらにあれハへりしか
ハ・故民部大輔の君に申給ハりて・さる
0009【故民部大輔の君】−兼明ー子保行
へきものなとたてまつりてなん・らうし
つくり侍なん（ん＄）と・そのあたりのたくハへ
の事とも越・あやふけに思て（て＃ひて）ひけか
ちに・つなしにくきかほを・はななとうち
0010【つなしにくき】−ツレナシ
あかめつゝ・はちふきいへハ・さらにそのた」4オ
0011【はちふき】−払蜂
なとやうの事ハこゝにしるまし・たゝ
年ころのやうに思ひてものせよ・券なと
0012【券】−文書事也
ハこゝになむあれと・すへて世中をすて
たる身にて・としころともかくもたつ
ねしらぬを・その事もいまくハしくし
たゝめむなといふにも・大とのゝ・けハひを
0013【大とのゝ】−源
かくれは・わつらハしくて・そのゝちもの
なとおほくうけとりてなん・いそきつくり
0014【いそきつくり】−大井里
ける・かやうに思ひよるらんともしり給
0015【かやうに】−源
はて・のほらむことを・ものうかるも心えす」4ウ
おほし・わか君のさてつく／＼と・ものし
0016【わか君】−自明石申上
たまふを・後のよに人のいひつたへん・い
まひときは人わろきゝすにやと・おも
ほすにつくりいてゝそ・しか／＼のところを
0017【つくりいてゝ】−大井里
なむおもひいてたるときこえさせける・人
0018【人に】−源心
にましらハむ事を・くるしけにのミも
のするハ・かく思ふなりけりと・心え給ふく
ちをしからぬ心のよういかなと・おほしな
りぬ・これみつのあそむれいのしのふるミ
ちハいつとなく・いろひつかうまつる人」5オ
なれハつかハして・さるへきさまに・こゝか
しこのようゐなとせさせ給へ（へ＃ひ）けり・あた
りおかしうて・うみつらにかよひたる
ところのさまになむはへりけるときこ
ゆれハ・さやうのすまゐによしなからす
ハありぬへしとおほす・つくらせ給ふ・御
0019【御たうは】−棲霞寺
たうハ大かく寺のみなみにあたりて・
0020【大かく寺】−さかの院也
たきとのゝ心はへなと・おとらすおもし
0021【たきとの】−泉殿といふかことし 後拾遺 あれにけりいまたにかゝりたきつせのはやくそ人ハみるへかりける 赤染衛門（後拾遺1058・赤染衛門集251、河海抄・紹巴抄・孟津抄・岷江入楚）
ろき寺也・これはかハつらに・えもいハぬ
0022【これは】−大井の里の事
まつかけに・なにのいたハりもなく・たて」5ウ
たるしんてむの・ことそきたるさまも・をの
つから山さとのあはれをみせたり・うち
のしつらひなとまておほしよる・した
しき人／＼いみしうしのひてくたし
0023【人／＼】−明石のうへのむかへに源氏の君か心しりのともからを京よりくたされたる也
つかハす・のかれかたくて・いまハと思ふに
としへつるうらを・はなれなむことあハ
れに入道の心ほそくて・ひとりとまらん
こと越思ひみたれて・よろつにかなし・す
へて・なとかく心つくしになりハしめけ
む身にかと・露のかゝらぬたくひうらや」6オ
0024【露のかゝらぬ】−源氏君の御ゆかりにかゝらぬ人とうら山しく思ふ也
ましくおほゆ・おやたちもかゝる御む
かへにてのほる・さいわいはとしころねて
もさめても・ねかひわたりし心さしの
かなふといとうれしけれと・あひみて
すくさむいふせさの・たへかたうか（△＆か）なし
けれは・よるひる思ほれておなしこと越
のミ・さらハわか君をハ・みたてまつらてハ・侍
へきかといふよりほかの事なし・はゝ君
もいミしうあハれなり・としころたにおな
しいほりにもすます・かけはなれつれは・」6ウ
ましてたれによりてかハ・かけとゝまらむ・
たゝあたにうちみる人のあさはかなる
かたらひたに・みなれそなれてわかるゝほ
0025【みなれそなれて】−＼<朱合点> 水になれたる木をいふそなれ木をもいへりそなれは磯なれたる心ナリ みなれ木のミなれそなれてはなれなハ恋しからむや恋しからしや（出典未詳、源氏釈・奥入・異本紫明抄・紫明抄・河海抄）
とハ・たゝならさめるを・ましてもてひか
0026【もてひかめたる】−明石入道事也
めたるかしらつき・心おきてこそたの
もしけなれと・またさるかたにこれこそ
ハ・よ越かきるへきすみかなれと・ありは
0027【ありはてぬ】−＼<朱合点> 古今 有はてぬ命まつまのほとはかりうき事しけくおもハすもかな（古今965・伊勢集168・大和物語227、源氏釈・奥入・異本紫明抄・紫明抄・河海抄）
てぬいのちをかきりに思て・契すくしき
つるを・にはかにゆきはなれなむも心
ほそし・わかき人／＼のいふせう思ひし」7オ
つミつるハうれしきものから・みすてかた
きはまのさまを・またはえしもかへら
しかしと・よするなみにそへて・そてぬ
れかちなり秋のころほひなれは・もの
のあハれとりかさねたる心ちして・その
ひとあるあか月に秋風すゝしくて・むし
のねもとりあへぬにうみのかた越ミいたし
てゐたるに・入道れいのこやより・ふかうお
きて・はなすゝりうちして・をこなひいま
したり・いみしう事いミすれと・たれも／＼」7ウ
いとしのひかたしわか君はいとも／＼・うつ
くしけによるひかりけむたまの心ちし
0028【よるひかり】−＼<朱合点>
て・袖よりほかに・ハなちきこえさりつ
るを・みなれて・まつハし給へる心さまな
と・ゆゝしきまて・かく人にたかへる身を・
いま／＼しく思なから・かたときみたてまつ
らてハ・いかてかすくさむとすらむとつ
つミあへす
ゆくさきをはるかにいのるわかれちに
0029【ゆくさきを】−明石入道
たえぬハおいの涙なりけりいともゆゝ」8オ
しやとて・をしのこひかくすあま君
もろともにみやこハいてきこのたひや
0030【もろともに】−明石上ノ母（ノ母＃）
0031【みやこは】−明石入道播磨守に成てくたりし時の事也
ひとり野（△＆野）中のみちにまとハんとてなき
たまふさまいとことハりなり・こゝら契かハ
してつもりぬるとし月のほと越思へは・
かうゝきたること越たのみて・すてしよ
にかへるも・思へはハかなしや御かた・
いきてまたあひみむこと越いつとてか
0032【いきてまた】−明石上
かきりもしらぬよ越ハたのまむをくりに
たにと・せちにの給へと・かた／＼につけて・」8ウ
えさるましきよしをいひつゝ・さすかに
みちのほともいとうしろめたなきけし
きなり・世中をすてハしめしに・かゝる人
0033【世中】−これよりハ明石入道の女にかたり侍事也
のくににおもひくたりはへりしことゝも・
たゝ君の御ためと思ふやうに・あけくれ
の御かしつきも・心にかなふやうもやと
思ひたまへたちしかと・身のつたなかり
けるきはの思しらるゝことおほかりし
かハ・さらにみやこにかへりて・ふるすらうの
しつめるたくひにて・まつしきいへのよも」9オ
きむくらもとのありさま・あらたむるこ
ともなきものから・おほやけわたくしに・
おこかましきな越ひろめて・おやの御
なきかけを・はつかしめむ事の・いみし
0034【はつかしめむ】−孝ー夙興夜寐亡忝尓所生
さになむ・やかてよ越すてつる・かと
0035【かとてなりけりと】−＼<朱合点> 古今 かりそめのゆきかひちとそ思に（に＃こ）し今ハかきりのかとてなりけり（古今862・大和物語233、異本紫明抄・紫明抄・河海抄）
てなりけりと人にもしられにしを・そ
のかたにつけてハ・よう思ひはなちて
けりとおもひ侍るに・君のやう／＼おと
0036【君】−明上
なひ給ひ・ものおもほししるへきにそへ
てハなとかうくちをしきせかいにて・にし」9ウ
0037【にしき越かくし】−＼<朱合点>
きこゆらんと・心のやミはれ
まなく・なけきわたりはへりしまゝに・仏
神をたのミきこえて・さりともかう
つたなき身にひかれて・山かつのいほり
にハ・ましりたまハしと思ふ心ひとつを
たのミ侍しに・おもひよりかたくて・うれし
き事ともをみたてまつりそめても・な
かなか身のほとを・とさまかうさまに
かなしうなけきはへりつれと・わか君の
かういておハしましたる御すくせのたの」10オ
もしさに・かゝるなきさに月日をすくし
給ハむも・いとかたしけなう契ことにおほ
え給へハ・みたてまつらさらむ心まとひは・
しつめかたけれと・この身ハなかくよ越
すてし心はへり・君たちハよ越てらし給
ふへきひかりしるけれハ・しハしかゝる山か
つの心をみたり給ふハかりの御契こそハ
ありけめ・天にむまるゝ人のあやしき
ミつのみちにかへるらむ・一時に思なすら
0038【ミつのみち】−三途をいふ
へて・けふなかくわかれたてまつりぬ・いのち」10ウ
つきぬときこしめすとも・後のことお
ほしいとなむな（△＆な）さらぬわかれに御心うこ
0039【さらぬわかれ】−＼<朱合点>
かし給ふなと・△（△＃）いひはなつものから・けふ
りともならむゆふへまてわか君の御こ
と越なむ・六時のつとめにも猶心きた
なくうちませはへりぬへきとて・これに
そうちひそみぬる・御車はあまたつ
つけむも・ところせくかたへつゝ・わけむも・
わつらハしとて・御ともの人／＼もあなか
ちに・かくろへしのふれハ・ふねにてしの」11オ
ひやかにとさためたり・たつのときにふ
なてし給ふ・むかし（し＋の<朱>）人もあハれといひける
うらの・あさきりへたゝりゆくまゝに・いと
0040【あさきりへたゝりゆくまゝに】−＼<朱合点>
ものかなしくて・入道ハ心すミはつまし
くあくかれなかめゐたり・こゝらとし
をへていまさらにかへるも・な越おもひつき
せすあま君ハなき給
かのきしに心よりにしあま舟のそむ
0041【かのきしに】−明石母
きしかたにこきかへる哉御かた
いくかへりゆきかふ秋をすくしつゝ」11ウ
0042【いくかへり】−明石上
うき木（木＋に）のりてわれかへるらんおもふかたの風
0043【うき木にのりて】−＼<朱合点> 張騫浮木ニ乗天川源ヲ尋之事
にて・かきりけるひ・たかへすいり給ぬ・人に
みとかめられしの心もあれは・みちの程
もかろらかにしなしたり・いへのさまもお
0044【いへのさと】−大井里事
もしろうて・としころへつるうみつらに
おほえたれは・ところかへたる心ちもせす・
むかしのこと思ひいてられて・あはれなる
ことおほかり・つくりそへたるらうなとゆへ
あるさまに・みつのなかれもおかしうしな
したり・またこまやかなるにハあらねとも・」12オ
すミつかハさてもありぬへし・したしきけ
いしにおほせ給て・御まうけのことせさせ
給けり・わたり給はむことハ・とかうおほ
0045【わたり給はむ】−源
したハかるほとにひころへぬ・なか／＼もの
思ひつゝけられて・すてしいへゐも恋し
0046【すてしいへゐも恋しう】−明思
うつれ／＼なれハ・かの御かたミのきむを・か
きならすおりのいみしうしのひかたけれ
は・人はなれたるかたにうちとけてすこし
ひくに・松風ハしたなくひゝきあひたり・
あま君ものかなしけにてよりふし給へるに・」12ウ
おきあかりて
身をかへてひとりかく（く＄へ<朱>）れる山さとに
0047【身をかへて】−あま君
きゝしににたる松風そふく御かた
ふるさとに見しよのとも越こひわひて
0048【ふるさとに】−明石上
さえつること越たれかわくらんかやうにも
のはかなくてあかしくらすに・おとゝ中／＼
0049【おとゝ】−源
しつ心なくおほさるれハ人めをもえはゝ
かりあへ給はてわたり給を・女君に（に＄）はかく
0050【女君】−紫上
なむとたしかにしらせたてまつり給は
さりけるを・れゐのきゝもやあはせ給」13オ
ふとてせうそこきこえ給ふ・かつらに
みるへきことはへるを・いさや心にもあらて
ほとへにけり・とふらハむといひし人さへ
かのわたりちかくきゐてまつなれは・心
くるしくてなむさかのゝみたうにも・か
さりなき仏の御とふらひすへけれは・二三
日は侍なんときこえ給・かつらの院とい
0051【かつらの院と】−紫心 桂川のほとりにあるへし河海説あやまれり
ふところにハかに△（△＃<朱墨>）つくらせ給ふときく
ハ・そこにすへ給へるにやとおほすに・心つ
きなけれは・おのゝえさへあらため給ハむ」13ウ
0052【おのゝえさへ】−＼<朱合点>
ほとや・まちとをにと心ゆかぬ御けしき
なり・れいのくらへくるしき御心いにしへ
のありさま・なこりなしと世人もいふなる
もの越・なにやかやと御心とり給程にひ
0053【なにやかやと】−源
たけぬ・しのひやかにこせむうときは・
ませて・御心つかひしてわたり給ひぬ・た
そかれときにおハしつきたり・かりの
御そにやつれ給へりしたに・世にしらぬ心
ちせしを・ましてさる御心してひきつ
くろひ給へる御な越しすかた・よになく」14オ
なまめかしうまハゆき心ちすれは・思ひ
0054【思ひむすへる】−明石上
むせへる心のやミもはるゝやうなり・め
0055【めつらしう】−源氏の御心中
つらしうあハれにて・わか君をみたまふ
もいかゝあさくおほされん・いまゝてへた
てけるとし月たに・あさましくくや
しきまておもほす・大とのハらの君を・
0056【大とのハらの君】−夕霧
うつくしけなりと・よ人もてさはくハ・猶
ときよによれは人の見なすなりけり・
かくこそハすくれたる人の・山くちハしるかり
0057【山くちはしるかりけれ】−＼<朱合点> 山口祭ありそれも杣入のはしめをいへり又鷹狩にもいへり物のはしめ越山口とハいふよくなるへき人ハおさなきときよりみゆるたとへなり<左> 六 人よりも思のほれる君なれハむへ山口ハしるく有けり<右>（歌枕名寄9324、河海抄・紹巴抄・孟津抄・休聞抄・岷江入楚）
けれと・うちゑみたるかほのなに心なきか・」14ウ
あいきやうつきにほひたるをいみしうら
うたしとおほす・めのとのくたりし程は
をとろへたりしかたち・ねひまさりてつき
0058【ねひまさりて】−調
ころの御ものかたりなとなれきこゆるを
あはれにさるしほ屋のかたハらにすくし
つらむことをおほしのたまふ・こゝにもいと
0059【こゝにも】−桂里
さとハなれてわたらむこともかたきを・猶
かのほいあるところにうつろひ給へとの
0060【ほいあるところ】−東院
たまへと・いとうゐ／＼しきほとすくして
と・きこゆるもことハりなり・よひと夜よろ」15オ
つに契かたらひあかし給ふ・つくろふへき
ところ／＼のあつかりいまくはへたるけい
しなとにおほせらる・かつらの院にわたり
0061【かつらの院】−桂川の辺なり
給ふへしとありけれは・ちかきみさう
の人／＼まいりあつまりたりけるも
みなたつねまいりたり・せむさいともの
0062【せむさいともの】−これハ大井の里の事也
おれふしたるなとつくろハせ給ふ・こゝ
かしこのたていしともゝ・みなまろひうせ
たるを・なさけありてしなさは・おかしかり
ぬへきところかな・かゝるところをわさとつく」15ウ
ろふもあいなきわさなり・さてもすくし
はてねは・たつときものうく心とまるく
0063【たつときものうく】−＼<朱合点> 帰京事源氏の君女君にかたり給ふ也<右> 今日のミと春を<左>（古今134・和漢朗詠56・躬恒集382、異本紫明抄・紫明抄・河海抄）
0064【心とまる】−明ー浦
るしかりきなと・きしかたのことものた
まひいてゝなきみわらひミ・うちとけ
のたまへるいとめてたし・あま君・のそ
0065【あま君】−大井里
きて見たてまつるに・おいもわすれもの思
ひもはるゝ心ちしてうちゑミぬ・ひんかしの
0066【ひんかしのわたとの】−源
わたとのゝしたよりいつるみつの心はへ・
つくろはせ給とて・いとなまめかしき・うち
0067【つくろはせ給】−大井里
きすかたうちとけ給へるを・いとめて」16オ
たう・うれしと見たてまつるに・あかの
くなとのあるをみたまふにおほしい
てゝ・あま君ハこなたにか・いとしとけなき
0068【あま君は】−源詞
すかたなりけりやとて・御なをしめしい
てゝたてまつる・き丁のもとにより給
て・つミかろくおほしたてたまへる人のゆ
0069【つみかろく】−源氏御詞
へハ・御おこなひのほとあはれにこそおもひ
なしきこゆれ・いといたく思すまし給へ
りし・御すミかをすてゝ・うきよにかへり
給へる心さしあさからす・またかしこにハ・いか」16ウ
0070【またかしこにハ】−明石入道
にとまりて思をこせ給ふらむと・さま／＼
になむといとなつかしうの給・すてはへ
0071【すてはへりし世を】−尼詞
りし世をいまさらにたちかへり思ひ
たまへみたるゝを・をしはからせ給ひけ
れハ・いのちなかさのしるしも思ひ給
0072【いのちなかさ】−尼君延養
へしられぬるとうちなきて・あらいそかけ
0073【あらいそかけに】−＼<朱合点> 奥入 みさこゐるあら磯浪に袖ぬれてたかためひろふいけるかひそも（古今六帖2951、源氏釈・奥入・異本紫明抄・紫明抄・河海抄）
に心くるしうおもひきこえさせはへり
しふたはのまつも・いまハたのもしき
御をひさきと・いはゐきこえさするを
あさきねさしゆへやいかゝと・かた／＼心」17オ
0074【あさきねさし】−＼<朱合点>
つくされはへるなときこゆるけはひ・
よしなからねハ・むかしものかたりにみこ
0075【みこ】−兼明親王天徳三年八月十三日亀山に祈水祭文あり後の世まても小倉山のふもと篁の中にその水あとあるよし或記にしるし侍り
のすみ給けるありさまなと・かたらせ給
ふに（△＆に）・つくろハれたるみつのをとなひ・かこ
とかましうきこゆ
すみなれし人ハかへりてたとれとも
0076【すみなれし】−あま君
しミつはやとのあるしかほなるわさとハ
なくて・いひけつさま・みやひかによしと
0077【みやひかに】−風姿
きゝ給ふ
いさらゐハはやくのこともわすれしを」17ウ
0078【いさらゐハ】−けんし 水潦△（△＃）<イサラミツ>
もとのあるしやおもかハりせるあハれとう
ちなかめてたち給ふすかた・にほひ世に
しらすとのミおもひきこゆ・みてらにわた
0079【みてら】−棲霞寺
り給ふ（△＆ふ）て・月ことの十四五日つこもりの
0080【十四五日つこもり】−普賢 阿ミ 尺迦
日おこなはるへきふけむかうあミたさ
0081【さかの】−釈迦
かの△（△＃念）仏の三昧をハさるものにて・又／＼く
ハへをこなはせ給ふへき（き＋事なと）さためをかせ給
ふ・たうのかさり仏の御具なと・めくらし
0082【めくらし】−廻文
おほせらる・月のあかきにかへり給ふ・あり
0083【かへり給ふ】−大井里にかへり給ふ也
しよのこと・おほしいてらるゝおりすくさす・」18オ
かのきむの御ことさしいてたり・そこはかと
なくものあハれなるに・えしのひ給はて・
かきならし給ふ・またしらへも・かハらすひき
かへし・そのおりいまの心ちし給ふ
ちきりしにかハらぬことのしらへにて
0084【ちきりしに】−源氏
たえぬ心のほとはしりきや女（△＆女）
かはらしと契しこと越たのミにて
0085【かはらしと】−明石上返し
まつのひゝきにねをそへしかなときこ
えかハしたるも・にけなからぬこそハ・身
0086【にけなからぬ】−紫の君に似たる也播磨守の女なといふへくもあらねハ身にあまりたる有さまといへり
にあまりたるありさまなめれ・こよなうね」18ウ
ひまさりにけるかたちけハひえおもほ
しすつましう・わか君ハたつきもせす
まほられ給ふ・いかにせましかくろへたる
さまにて・おいゝてむか心くるしうくちを
しき越・二条の院にわたして心のゆくか
0087【二条の院】−紫
きりもてなさは・後のおほえも・つミ
まぬかれなむかしとおもほせと・また
思はむ事いとをしくて・えうちいて
給はて・なみたくミて見たまふ・おさな
0088【おさなき心ちに】−明ー中
き心ちに・すこしはちらひたりしか・やう」19オ
やううちとけてものいひわらひなとし
て・むつれたまふをみるまゝに・にほひま
さりて・うつくし・いたきておはするさま・
みるかひありて・すくせこよなしとみえ
たり・またの日ハ京へかへらせ給ふへけれハ・す
こしおほとのこもりすくして・やかてこれ
よりいて給ふへきを・かつらの院に人／＼
0089【かつらの院】−桂川辺
おほくまいりつとひて・こゝにも殿上人
あまたまいりたり・御さうす（す＝そイ<朱墨>）くなとしたま
いて・いとハしたなきわさかな・かくミあらハ」19ウ
さるへきくまにもあらぬをとて・さハかし
きにひかれていて給ふ・心くるしけれハさり
けなくまきらハしてたちとまり給へる・
とくちにめのとわか君いたきてさしい
てたり・あはれなる御けしきにかきな
てたま（ま＋ひ）て・みてハいとくるしかりぬへき
こそ・いとうちつけなれ・いかゝすへきいとさ
0090【さとゝをし】−＼<朱合点> 古今 さととをミ人もすさめぬ山さくらいたくなわひそわれ見はやさん（古今50・猿丸集32、異本紫明抄・河海抄）里と越みいかにせよとかくのミもしハしも見ぬハくるしかるらん元真集<左>
とゝほ（ほ＄を）しやとのたまへハ・はるかに思た
0091【はるかに思たまへ】−コレヨリめのとの詞也
まへたえたりつるとしころよりも・い
まからの御もてなしのおほつかなう侍」20オ
らむハ心つくしになときこゆ・わか君てを
さしいてゝたち給へるをしたひ給へハ・つ
0092【ついゐたまひて】−源
いゐたま（ま＋ひ）て・あやしうものおもひたえぬ
身にこそありけれ・しハしにてもくるし
やいつら・なともろともにいてゝハ・おしみた
まハぬ・さらハこそ人心ちもせめとのた
まへハ・うちわらひて女君にかくなむとき
0093【うちわらひて】−乳母
こゆ・中／＼もの思ひみたれてふしたれは・
0094【ふしたれは】−明ー上
とみにしも・うこかれす・あまり上すめかし
とおほしたり・人／＼もかたハらいたかれは・」20ウ
しふ／＼にゐさりいてゝ・き丁にはたかくれ
0095【ゐたり】−明ー上
たるかたハらめ・いみしうなまめいてよし
あり・たをやきたるけハひ・みこたち
といはむにもたりぬへし・かたひらひき
やりてこまやかに・かたらひ給ふとて・と
はかりかへりミ給へるにさこそしつめつれ
みをくりきこゆ・いはむかたなきさかり
の御かたちなり・いたうそひやき給へり
0096【御かたち】−源
0097【そひやき】−ソヒ／＼
しか・すこしなりあふほとになり給ひに
ける御すかたなと・かくてこそもの／＼し」21オ
かりけれと・御さしぬきのすそまてなま
めかしう・あいきやうのこほれいつるそあ
なかちなるみなしなるへき・かのとけ
0098【かのとけたりし】−解官事
たりしくら人も・かへりなりにけり・ゆけ
0099【くら人】−故常陸二男紀伊守弟
0100【ゆけひのせう】−左衛門尉
ひのせうにて・ことしかうふりえてけり・
0101【かうふりえて】−五位 良清か事也
むかしにあらため心ちよけにて・御（△＆御）はかし
とりによりきたり・人かけをみつけてき
0102【人かけを】−是よりハ良清か明石の上の女房ニいふ詞也
しかたのものわすれしはへらねと・かし
こけれは（は＋え<朱>）こそうら風おほえ侍つる・あか
月のねさめにも・おとろかしきこえさす」21ウ
へき・よすかたになくてと・けしきは
むを・やへたつ山ハさらにしまかくれにもおと
0103【やへたつ山ハ】−＼<朱合点>「白雲のたえすたなひく山にたに／すめはすミぬる世にこそ有けれ<朱>」（付箋01 古今945・古今六帖1009・小町集99・貫之集557、奥入） 白雲の八重たつ山の峯にたにすめハすみぬる世にこそ有けれ<右>（出典未詳、源氏釈・異本紫明抄・紫明抄・河海抄） 都より雲の八重たつおく山のよ川の水ハすミよかるらん（新古今1716、河海抄・孟津抄・岷江入楚） これハ女房の返答ナリ
らさりけるをまつもむかしのとたと
0104【まつもむかしの】−＼<朱合点>「誰（誰＋を）かもしる人にせん高砂の／松もむかしの友ならなくに<朱>」（付箋02 古今909・古今六帖4111・和漢朗詠740・興風集52、源氏釈・奥入・異本紫明抄・紫明抄・河海抄） 誰をかもしる人にせん
られつるにわすれぬ人もものし給ひ
0105【わすれぬ人も】−＼<朱合点> 古今 今まてにわすれぬ人ハ人ハ世にもあらしおのかさま／＼年のへぬれハ（新古今1366・古今六帖2917・業平集76・伊勢物語156、河海抄・孟津抄・岷江入楚）
けるに・たのもしなといふ・こよなしや・わ
0106【こよなしや】−是ハ又良清か心ナリ こよなしやハ（ハ＋万ニ）うつりかハりて此世ならぬやうなり
れも思ひなきにしもあらさりしをなと・
あさましうおほゆれと・いまことさらに
と・うちけさやきてまいりぬ・いとよそ
ほしく・さしあゆミ給ふほと・かしかまし
う・をひはらひて・御車のしりに頭中将・」22オ
0107【頭中将兵衛督】−此二人ハ系図なき人ナリ
兵衛督のせたまふ・いとかる／＼しき・か
くれかミあらはされぬるこそ・ねたうと
いたうからかり給・よへの月にくちをしう・
御ともにをくれ侍にけるとおもひ給へら
れしかハ・けさきりをわけてまいり侍
つる山のにしきハまたしう侍りけり・のへ
の色こそ・さかりにハへりけれ・なにかしのあ
そむのこたかにかゝつらひて・たちをくれ
侍ぬる・いかゝなりぬらむなといふ・けふハ
猶かつらとのにとて・そなたさまにおハし」22ウ
0108【かつらとの】−院歟
ましぬ・にハかなる御あるし（し＋と）し（し＃<朱>）さハきて
0109【御あるし】−饗
うかひともめしたるに・あまのさへつりお
0110【うかひ】−鵜飼
ほしいてらる・のにとまりぬるきむたち・
ことりしるしハかり・ひきつけさせたるお
0111【ことり】−小鳥
0112【ひきつけさせたるおきのえた】−三山付三羽ヲ以薄枝付也<墨> 荻末<ノエタ>日本記<朱> 荻<墨>
きのえたなと・つとにしてまいれり・お
ほミきあまたゝひ・すむなかれて・かは
のわたりあやうけなれは・ゑひにまきれ
て・おハしましくらしつ・をの／＼絶句なと
つくりわたして・月はなやかにさしいつる
ほとに・おほミあそひハしまりて・いといま」23オ
めかしひきもの・ひハ・わこむはかり・ふえと
も上すのかきりして・おりにあひたるて
うしふきたつるほと・かハ風吹あはせて
おもしろきに・月たかくさしあかり・よろ
つの事すめるよの・やゝふくるほとに・
殿上人四五人はかりつれてまいれり・う
0113【まいれり】−桂殿へ
0114【うへに】−冷
へにさふらひけるを・御あそひありけるつい
てに・けふハ六日の御ものいミ・あくひにて・か（か＃<朱>）
かならすまいり給へき越・いかなれはとお
ほせられけれは・こゝにかうとまらせ給にける」23ウ
よし・きこしめして・御せうそこあるなり
けり・御つかひハくら人の弁なりけり
月のすむかはのをちなる里なれハ
0115【月のすむ】−冷泉院
かつらのかけハのとけかるらむうらや
ましうとあり・かしこまりきこえさせ
0116【かしこまり】−源
給ふ・うへの御あそひよりも・な越ところか
らのすこさ・そへたるものゝねをめてゝ・
またゑひくはゝりぬ・こゝにハまうけの
ものも・さふらはさりけれは・おほゐにわ
0117【おほゐに】−明ー上
さとならぬ・まうけのものやと・いひつか」24オ
0118【まうけのもの】−儲物ハ被物<カツケモノ>なとのため女の装束を用意せる心ナリ
ハしたり・とりあへたるにしたかひてまいら
せたり・きぬひつふたかけにてあるを・御つ
0119【ふたかけ】−二荷ナリ
かひの弁は・とくかへりまいれは・女のさうす（す＝そイ<朱墨>）
く・かつけたまふ
ひさかたのひかりにちかき名のミして
0120【ひさかたの】−＼<朱合点>
あさゆふきりもはれぬ山里行幸まち
きこえ給ふ心はへなるへし中におひ
0121【中におひたる】−＼<朱合点> 古今 久堅の中におひたる里なれハ光をのミそたのむへらなる 伊せ（古今968・古今六帖1289・伊勢集23、源氏釈・奥入・異本紫明抄・紫明抄・河海抄）
たるとうちすんし給ふついてにかのあわ
0122【あわちしまを】−＼<朱合点> あハちにてあはとはるかに見し月の△△（△△＃）近き今夜ハ所からかも 躬恒（新古今1515・古今六帖332・躬恒集463、源氏釈・奥入・異本紫明抄・紫明抄・河海抄）
ちしまをおほしいてゝみつねかところから
かとおほめきけむことなとの給ひいてたる」24ウ
にものあはれなるゑいなきともあるへし
めくりきててにとるはかりさやけきや
0123【めくりきて】−源し
あはちのしまのあはとみし月頭中将
0124【あはちのしま】−明石巻あハ△（△＃ヲ）みるあハちの嶋のあはれさへのこるくまなくすめるよの月
うき雲にしはハしまかひし月かけの
すみはつるよそのとけかるへき左大弁
すこしおとなひて・こ院の御ときにもむ
つましうつかうまつりなれし人なりけり
雲のうへのすミか越すてゝよハの月
0125【雲のうへの】−左大弁
いつれのたにゝかけかくしけむ心／＼にあま
0126【いつれのたにゝ】−霞の谷をいへり古院崩御の事をよめる也
たあめれと・うるさくてなむ・けちかう・うち」25オ
しつまりたる御物かたりすこしうちみた
れて・ちとせもみきかまほしき御あり
さまなれは・をのゝえもくちぬへけれと・け
0127【をのゝえもくちぬへけれ】−＼<朱合点> 古 古郷ハ見しにもあらすをのゝえのくちし所そ恋しかりける（古今991・古今六帖1020・新撰和歌295・友則集58、源氏釈・奥入・異本紫明抄・紫明抄・河海抄）
ふさへハとて・いそきかへり給ふ・ものともしな
しなにかつけて・きりのたえまに・たち
ましりたるも・せむさいのはなにみえま
かひたるいろあひなと・ことにめてたし・近
衛つかさのなたかきとねり・ものゝふしと
0128【なたかきとねり】−随身
0129【ものゝふしとも】−府生番長等神楽人長ハ随身カ役也
もなと・さふらふに・さう／＼しけれは・その
こまなとみたれあそひて・ぬきかけ給ふ・色」25ウ
0130【ぬきかけ給ふ】−禄
色秋のにしきを風のふきおほふかと
みゆ・のゝしりてかへらせたまふひゝきおほ
ゐにハものへたてゝ・きゝてなこりさひし
うなかめ給ふ・御せうそこをたに・せてと
・おとゝも御心にかゝれり・とのにおハして・と
0131【おとゝも】−源
はかりうちやすミ給ふ・山さとの御物かた
りなときこえ給ふ・いとまきこえし
0132【いとまきこえ】−紫ニ源
ほとすきつれは・いとくるしうこそこの
すきものとものたつねきて・いといたう・し
ひとゝめしにひかされて・けさハいとなやまし」26オ
とて・おほとのこもれり・れいの心とけす
みえ給へと・みしらぬやうにて・なすらひ
ならぬ程を・おほしくらふるも・わるき
わさなめり・われハわれと思なし給へとを
0133【われハわれと】−紫身思アカレト
しへきこえ給ふ・くれかゝるほとに・内へまい
り給ふに・ひきそはめて・いそきかき給ふ
0134【いそきかき給ふ】−明石方へ文をやり給ふ
は・かしこへなめり・そはめこまやかにみゆ・
うちさゝめきてつかはすを・こたちなとに
くミきこゆ・そのよハうちにもさふらひ給
ふへけれと・とけさりつる御けしきとりに・」26ウ
0135【とけさりつる】−紫上の事
夜ふけぬれとまかて給ひぬ・ありつる
御かへりもてまいれり・えひきかくし給は
0136【御かへり】−明石上の返事
て御らんす・ことににくかるへきふしも
みえねハ・これやりかくし給へ・むつかしや
0137【やりかくし給へ】−破事
かゝるものゝちらむも・いまハつきなきほと
になりにけりとて・御けうそくによりゐ
給ひて・御心のうちにハ・いとあはれに恋しう
おほしやらるれハ・ひをうちなかめて・ことに
もの（の＋もの）たまハす・ふミハひろこりなからあれ
と・女君見たまはぬやうなるを・せめてみ」27オ
0138【女君】−紫
かくし給ふ・御ましりこそ・わつらハしけれ
とて・うちゑミ給へる・御あいきやう・ところせ
きまてこほれぬへし・さしより給ひて・
まことハらうたけなるものをみしかハ・
0139【まことハ】−源氏の御詞
0140【ものをみしかハ】−明ー中
ちきりあさくもみえぬをさりとてもの
めかさむほとも・はゝかりおほかるに・思ひな
むわつらひぬるおなし心におもひめくらして
御心に思さため給へいかゝすへき・こゝにて
はくゝミたま（ま＋ひ）てんや・ひるのこかよハひにも
0141【ひるのこ】−蛭
なりにけるを・つミなきさまなるも・思ひ」27ウ
すてかたうこそいはけなけなる・しも
0142【いはけなけなる】−紫上御詞也
0143【しもつかた】−腰下
つかたもまきらハさむなとおもふをめさま
しとおほさすハ・ひきゆひたまへかしと
0144【ひきゆひ】−裳
き（き＋こ）え給ふ・おもハすにのミとりなし給ふ
0145【おもハすに】−紫詞
御心のへたてを・せめてみしらす・うらなく
やはとてこそ・いはけなからん御心にハ・いと
ようかなひぬへくなん・いかにうつくしき
ほとにとて・すこしうちゑみ給ひぬ・ち
こをわりなう・らうたきものにしたまふ
御心なれは・えていたきかしつかはやと」28オ
おほす・いかにせましむかへやせましとお
ほしみたる・わたり給こと・いとかたし・さかのゝ
みたうの念仏なとまちいてゝ・月に
ふたゝひはかりの御ちきりなめり・としの
0146【としのわたりにハ】−＼<朱合点> 七夕の契りにはたちまさるやうなれとな越むねあかす明石の女君ハ思給ふ也 天川たえぬ物からあら玉の年のわたりハ只一夜のミ（後撰234・古今六帖138・万葉2082、異本紫明抄・河海抄・休聞抄・紹巴抄・孟津抄・岷江入楚） 後 天川と越きわたりにあらねとも君か舟出ハとしに△△（△△＆こそ）まて（拾遺144・古今六帖136・和漢朗詠218、紫明抄・河海抄・孟津抄・岷江入楚）
わたりにハ・たちまさりぬへかめるを・ゝよひ
なきことゝおもへとも・猶いかゝものおもハし
からぬ」28ウ
【奥入01】史記項羽本記
富貴不帰故郷如衣錦夜行（戻）
【奥入02】夜光玉卞和玉也
斉威王二十四年与魏王会田於郊魏王問
曰王亦有宝乎威王曰無有梁王曰若寡
人国小尚有径寸之珠照車前後各十二
乗者十枚奈何以万乗之国而無宝乎威
王曰寡人之所以為宝与王異吾臣有檀
子者使南城則楚人不敢為冦東方
元泗上十二諸侯皆来朝吾臣有盻子」29オ
者使守高唐則趙人不敢漁於河吾吏
有黔夫者使守徐州則燕人祭北門
趙人祭西門徒而従者七千余家臣有種
首者使備盗賊則道不拾遺将以照千
里豈特十二乗哉梁恵王慙不懌而去（戻）
イ本
以詞并歌為巻名源氏卅歳の事あり絵合同年也
大井里ハ明石よりつくらる桂院ハ源氏よりつくらる」29ウ
二校<墨朱>」（前遊紙1オ）