凡例
1 本稿は、『大島本 源氏物語』(1996(平成8)年5月 角川書店)を翻刻した。よって、後人の筆が加わった現状の本文様態である。
2 行間注記は【 】− としてその頭に番号を記した。
2 小字及び割注等は< >で記した。/は改行を表す。また漢文の訓点等は< >で記した。
3 合(掛)点は、\<朱(墨)合点>と記した。
4 朱句点は「・」で記した。
5 本文の校訂記号は次の通りである。
$(ミセケチ)・#(抹消)・+(補入)・&(ナゾリ)・=(併記)・△(不明文字)
( )の前の文字及び( )内の記号の前の文字は、訂正以前の文字、記号の後の文字が訂正以後の文字である。ただし、なぞり訂正だけは( )の前の文字は訂正後の文字である。訂正以前の本行本文の文字を尊重したことと、なぞり訂正だけは元の文字が判読しにくかったための処置である。
6 朱・墨等の筆跡の相違や右側・左側・頭注等の注の位置は< >と( )で記した。私に付けた注記は(* )と記した。
7 付箋は、「 」で括り、付箋番号を記した。
8 各丁の終わりには」の印と丁数とその表(オ)裏(ウ)を記した。
9 本文校訂跡については、藤本孝一「本文様態注記表」(『大島本 源氏物語 別巻』と柳井滋・室伏信助「大島本『源氏物語』(飛鳥井雅康等筆)の本文の様態」(新日本古典文学大系本『源氏物語』付録)を参照した。
10 和歌の出典については、伊井春樹『源氏物語引歌索引』と『新編国歌大観』を参照し、和歌番号と、古注・旧注書名を掲載した。ただ小さな本文異同については略した。
「よもきふ」(題箋)
もしほたれつゝわひ給ひしころをひ・
0001【もしほたれつゝ】−\<朱合点> ハくらハに
みやこにもさま/\におほしなけく人
おほかりしを・さてもわか御身のより所ある
0002【おほかりしを】−離別
ハ・ひとかたの思ひこそくるしけなりしか・
二条のうへなとものとやかにて・たひの御
すみかをもおほつかなからすきこえかよ
ひ給つゝ・くらゐをさりたまへるかりの
御よそひをも・たけのこのよのうきふし
0003【たけのこのよのうきふし】−薄雲女院ハ東宮を持給てなくさミ給ふをいふ 今更に何おひ出らん竹の子のうきふししけき世とはしらすや(古今957・古今六帖4120、異本紫明抄・紫明抄・河海抄)
をとき/\につけて・あつかひきこえ給
ふになくさめ給けむ・なか/\そのかす」1オ
と人にもしられす・たちわかれ給ひし
ほとの御ありさまをも・よその事に思
ひやり給ふ・人/\のしたの心くたき給
たくひおほかり・ひたちの宮の君ハちゝ
みこのうせ給ひにしなこりに・又思ひあ
つかふ人もなき御身にて・いみしう心ほ
そけなりしを・思かけぬ御事のいてき
て・とふらひきこえ給ことたえさりしを・
いかめしき御いきをいにこそ・ことにもあ
らすはかなきほとの御なさけはかりと」1ウ
おほしたりしかとまちうけ給ふ・たもと
0004【まちうけ給ふ】−源氏上洛
のせハきに・おほ空のほしのひかりを・たら
いの水にうつしたる心ちしてすくし給
しほとに・かゝるよのさハきいてきてなへ
てのようくをほしみたれしまきれに・
わさとふかゝらぬかたの心さしハ・うちわす
れたるやうにて・と越くおハしましにし
のち・ふりはへてしも・えたつねきこえ
給はす・そのなこりにしは/\・なく/\
0005【そのなこり】−須磨以前のナサケ
もすくし給しを・とし月ふるまゝに・あ」2オ
はれにさひしき御ありさまなり・ふるき女
はらなとハ・いてやいとくちをしき・御す
くせなりけり・おほえす・神ほとけのあら
ハれたまへらむやうなりし御心はへに・かゝる
よすかも・人ハいておハするものなりけりと・
ありかたう見たてまつりしを・おほかた
の世の事といひなから・またたのむかた
なき御ありさまこそかなしけれと・つふ
やきなけくさるかたに・ありつきたり
しあなたのとしころハ・いふかひなきさひ」2ウ
しさにめなれてすくし給を・なか/\すこし・
よつきてならひにける年月にいとたへ
かたく思なけくへし・すこしもさてあり
ぬへき人/\ハをのつから・まいりつきて
ありしを・みなつき/\にしたかひていき
ちりぬ・女はらのいのちたえぬもありて・
月日にしたかひてハ・かみしも人かす・す
くなくなりゆく・もとよりあれたりし
宮のうち・いとゝきつねのすみかになり
て・うとましうけと越き木たちに・ふく」3オ
ろうのこゑをあさゆふに・みゝならしつゝ・
人けにこそ・さやうのものもせかれて・かけ
かくしけれ・こたまなとけしからぬ物とも
ところえて・やう/\かた(かた$<朱>)かたちをあらハし・
ものわひしき事のみかすしらぬに・
まれ/\のこりてさふらふ人は・猶いとわり
なし・このす両とものおもしろきいゑ
つくりこのむか・この宮のこたちを・心に
つけてはなち給はせてむやと・ほとり
につきて・あむなひし申さするを・さやう」3ウ
にせさせ給ひて・いとかうものをそろし
からぬ・御すまひにおほしうつろはなむ・
たちとまりさふらふ人もいとたえ(え$へ)かた
しなときこゆれと・あないみしや人の
0006【あないみしや】−蓬生君の心詞
きゝおもはむこともあり・いけるよに・し
か・なこりなきわさ・いかゝせむ・かくおそろ
しけに・あれはてぬれと・おやの御かけと
まりたる心ちする・ふるきすみかと
思ふになくさみてこそあれと・うちなき
つゝおほしもかけす・御てうとゝも越・」4オ
いとこたいになれたるか・むかしやうにてう
0007【こたいに】−古代
るハしきを・なまものゝゆへしらむと思へ
0008【なまものゝ】−本
る人・さるものえうしてわさとそのひと・
0009【えうして】−用也
かの人にせさせ給へるとたつねきゝて・あん
(+ない<朱墨>)するも・をのつから・かゝるまつしきあたりと・
おもひあなつりていひくるを・れいの女ハら
いかゝはせん・そこそ(△△&こそ)ハ・よのつねの事とて・
とりまきらハしつゝ・めにちかき・けふあ
すの・ミくるしさ越・つくろハんとすると
きもあるを・いみしういさめ給ひて・みよと」4ウ
おもひ給ひてこそ・しおかせ給ひけめ・なと
てか・かろ/\しき人のいゑのかさりとハ
なさむ・なき人の御ほいたかハむか・あは
れなることゝのたまひて・さるわさハ・せ
させ給はす・はかなきことにても・見とふ
らひきこゆる人は・なき御身なり・たゝ
御せうとのせむしの君はかりそ・まれ
にも京にいてたまふ時は・さしのそき
給へと・それもよになきふるめき人にて・
おなしきほうしといふなかにも・たつき」5オ
0010【ほうしといふなかにも】−木男なといふかことし
なくこのよ越はなれたるひしりにもの
し給て・しけき草よもきをたに・かき
ハらはむものとも思ひより給はす・かゝる
まゝに・あさちハにはのおもゝみえすしけ
き・よもきハのきをあらそひて・おひの
ほる・むくらハにしひむかしのみかとをとち
こめたるそ・たのもしけれと・くつれかち
なるめくりのかき越・むまうしなとの・ふミ
ならしたるミちにて・はる夏になれハ・はな
ちかう・あけまきの心さへそめさましき・」5ウ
0011【あけまきの心さへ】−\<朱合点>
八月野わきあらかりしとし・らうともゝ・
たうれふし・しものやともの・はかなき・い
たふきなりしなとは・ほねのみ・わつかに
のこりて・たちとまるけすたになし・け
ふりたえてあはれにいみしきことおほ
かり・ぬす人なといふ・ひたふる心あるものも・
思やりのさひしけれハにや・この宮をハ・ふ
0012【ふよう】−不要
ようのものに・ふミすきて・よりこさりけ
れは・かくいみしきのらやふなれとも・
さすかにしんてむのうちはかりハ・ありし」6オ
御しつらひかはらす・つやゝかに・かいはきな
0013【つやゝかに】−蔽
とする人もなし・ちりハつもれと・まきるゝ
0014【ちりはつもれと】−貧家浄掃地貧女好梳髪
ことなきうるはしき御すまひにて・あかし
くらし給ふ・はかなき・ふるうたものかたり
なとやうの・すさひ事にてこそ・つれ/\
をも・まきらハし・かゝるすまひをも・おも
ひなくさむるわさなめれ・さやうのことに
も・心をそく・ものしたまふ・わさと・このまし
からねと・をのつから・またいそくことなき
程ハ・おなし心なる・ふミかよハしなと・うち」6ウ
してこそ・わかき人はきくさにつけても・
心越なくさめたまふへけれと・おやのもてか
しつき給ひし・御心をきてのまゝに・世中
をつゝましきものにおほして・まれにも
ことかよひ給ふへき・御あたりをも・さらに
なれたまハす・ふりにたるみつしあけ
て・からもり・て(て$<朱>)はこやのとし・かくやひめ
0015【からもり】−唐守
0016【はこやのとし】−藐姑射 刀自
0017【かくやひめ】−[赤赤+火][亦+火]姫
のものかたりの・ゑにかきたるをそ・
0018【ものかたり】−節刀
とき/\のまさくりものにしたまふ・ふる
0019【まさくり】−弊
うたとても・おかしきやうに・えりいて・た」7オ
いをも・よミ人をも・あらハし心えたるこそ・
みところもありけれ・うるハしき・かむやかミ・
みちのくにかミなとの・ふくためるにふる
ことゝものめなれたるなとハ・いとすさま
しけなるを・せめてなかめ給ふ・おり/\ハ・
ひきひろけ給ふ・いまの世の人のすめる・
きやううちよみ・をこなひなといふことハ・い
とはつかしくし給て・見たてまつる人も
なけれと・すゝなと・ゝりよせ給はす・かやう
にうるはしく(はしく&はしく)そものし給ける・侍従なと」7ウ
いひし・御めのとこのミこそ・としころあくかれ
はてぬものにて・さふらひつれと・かよひまいり
し・斎院うせ給ひなとして・いとたえかたく
0020【斎院うせ給ひ】−桐女 あふひの巻におりひ給
心ほそきに・このひめきミのはゝ(ゝ+き)か(か#)たの(の+かたの)
0021【このひめきみ】−末ー
0022【はゝきたのかたのはらから】−北方之妹ナリ
はらから・よにおちふれて・す両のきた
0023【す両】−大弐
のかたに・なり給へるありけり・むすめとも・
かしつきて・よろしき・わか人ともゝむけ
に・しらぬところよりハ・おやともゝまうてかよ
ひしをと思て・とき/\いきかよふ・この
0024【とき/\】−侍従房へ
0025【このひめ君は】−北方詞
ひめ君ハ・かく人うとき・御くせなれハ・む」8オ
つましくも・いひかよひ給はす・をのれ
をハ・おとしめ給て・おもてふせにおほし
0026【おもてふせ】−\<朱合点> 後 かさせとも老もかくれぬ(後撰96・躬恒集270)
たりしかは・ひめ君の御ありさまの・心く
るしけなるも・えとふらひきこえすなと・
なまにくけなることハとも・いひきかせつゝ・
とき/\きこえけり・もとよりありつき
たる・さやうのなミ/\の人は・なか/\よ
き人のまねに・心をつくろひ・思ひあかる
もおほかるを・やむことなきすちなからも・
かうまて・おつへき・すくせありけれハにや・」8ウ
心すこし・な越/\しき御をはにそあり
0027【なを/\しき】−下スシキ
ける・わかかく(△△△△&わかかく)おとりのさまにて・あなつら
ハしく・おもはれたりしを・いかてかゝるよの
すゑに此きミを・わかむすめともの・つか
0028【むすめとも】−大弐女
ひ人になしてしかな・心はせなとのふる
ひたるかたこそあれ・いとうしろやすき・う
しろミならむと思て・とき/\こゝにわたら
0029【こゝに】−大弐北方所へ
せ給て・御ことのねも・うけたハはらまほし
かる人なむはへるときこえけり・此侍従も・
つねにいひもよ越せと・人にいとむ心にハ」9オ
あらて・たゝこちたき・御ものつゝみなれ
ハ・さもむつひ給はぬを・ねたしとなむお
もひける・かゝるほとに・かのいへあるし・大にゝ
なりぬ・むすめとも・あるへきさまに・見△(△#を<朱墨>)
きてくたりなむとす・この君を・猶も
いさなハむの心ふかくて・ハるかにかくま△(△#)
か(か$)りなむとするに・心ほそき・御ありさま
のつねにしも・とふらひきこえねと・ちかき
たのミはへりつるほとこそあれ・いとあは
れにうしろめたくなむなと・ことよかる」9ウ
を・さらにうけひきたまハねは・あなにく・
0030【あなにく】−北方心
こと/\しや・心ひとつに・おほしあかるとも・さる
やふはらに・としへ給ふ人を・大将とのも・や
0031【やふはら】−薮原
むことなくしも・思ひきこえたまハしな
と・ゑんし・うけひ(=イ)けり・さるほとにけに世中
0032【うけひ】−呪詛ノロイ/\シク云
に・ゆるされ給ひて・みやこにかへり給と・雨
0033【ゆるされ給ひて】−源廿七帰京
のしたの・よろこひにて・たちさハく・我も
いかて・人よりさきに・ふかき心さしを御ら
むせられんとのミ思ひきをふ・おとこ・女に・
つけて・たかきをも・くたれるをも・人の」10オ
心はへを見たまふに・あハれにおほししる
ことさま/\なり・かやうに・あはたゝしき
ほとに・さらにおもひいて給ふけしきみえ
てつき日へぬ・いまハかきりなりけり・とし
ころあらぬさまなる御さまを・かなしういみ
しきことを・思ひなからも・もえいつるはる
0034【もえいつるはるに】−\<朱合点> いはそゝくたるひのうへのさわらひのもえ出る春にあひにけるかな(古今六帖7・和漢朗詠15、源氏釈・奥入・異本紫明抄・紫明抄・河海抄)
にあひ給はなむと・ねしわたりつれと・た
ひ(ひ+シ)かハらなとまて・よろこひおもふなる・御
0035【たひシかハら】−度子 考蘿
くらゐあらたまりなとするを・よそに
のミ・きくへきなりけり・かなしかりしおり」10ウ
のうれハしさハ・たゝ・わか身ひとつのために
0036【わか身ひとつの】−\<朱合点> 世ノ中ハむかしよりカワウカリケンワカ身ひとつのタメニナレルカ(古今948・新撰和歌243、源氏釈・奥入・異本紫明抄・紫明抄・河海抄)
なれるとおほえし・かひなきよかなと・心く
たけて・つらくかなしけれハ・人しれす・ね
をのミなき給ふ・大二のきたのかたされハ
よ・まさにかくたつきなく・人わろき御
ありさまを・かすまへ給ふ人ハありなむや・
仏ひしりも・つミかろきをこそ・みちひ
きよくしたまふなれ・かゝる御ありさまに
て・たけくよ越おほし・宮うへなとのおハ
せしときのまゝに・ならひ給へる・御心をこり」11オ
のいとをしきことゝ・いとゝおこかましけ
に思て・猶おもほしたちね・よのうきとき
0037【よのうきときは見えぬ山ちを】−\<朱合点> 三吉野ゝ山ノアナタニ宿モかな世のうき時のかくれかにせン(古今950、源氏釈・奥入・異本紫明抄・紫明抄・河海抄) 古今 世ノウキメミエヌ山チニイランニハ思フ人コソホタシナリケレ(古今955、奥入・異本紫明抄・紫明抄・河海抄)
ハ見えぬ山ちをこそハ・たつぬなれ・ゐ中な
とハ・むつかしきものと・おほしやるらめと・
ひたふるに・人わろけには・よもゝてなし
きこえしなと・いとことよくいへは・むけに・
くむしにたる女はら・さもなひき給は
なむ・たけきこともあるましき御身を・い
かにおほして・かくたてたる御心ならむと・
もときつふやく・侍従もかの大二の・おひた」11ウ
0038【侍従も】−侍従ハ大弐の姪の妻になりたる也
つ人・かたらひつきて・とゝむへくもあらさり
けれハ・心よりほかに・いてたちて・見たてま
つりをかんか・いと心くるしきをとて・そゝの
かしきこゆれと・猶かくかけはなれて・ひさ
しうなり給ひぬる人に・たのミをかけ給・
御心のうちに・さりとも・ありへてもおほし
いつるついてあらしやハ・あハれに心ふかき
契をしたまひしに・わか身ハうくて・
かくわすられたるにに(に#<朱>)こそあれ・かせのつ
てにても・われかくいみしきありさまをき」12オ
きつけたまハゝ・かならすとふらひいてたま
ひてんと・年ころおほしけれハ・おほかたの
御いへゐも・ありしよりけに・あさましけれ
と・わか心もてはかなき・御てうとゝもなと
も・とりうしなハせ給ハす・心つよくおなし
さまにて・ねんしすこし給ふなりけり・ねな
きかちに・いとゝおほししつミたるハ・たゝやま
人の・あかきこのミひとつを・かほにはなた
ぬとみえ給ふ・御そハめなとハ・おほろけの
人の見たてまつりゆるすへきにもあら」12ウ
すかし・くハしくハきこえし・いとをしう・
0039【くハしくハ】−作者詞
ものいひさかなきやうなり・冬になり
ゆくまゝに・いとゝかきつかむかたなく・
かなしけに・なかめすこし給ふ・かの殿にハ・
0040【かの殿】−源
こ院の御れうの御八講・世中ゆすりて
0041【こ院】−桐
0042【御八講】−十月の事也ミをつくしの巻にあり
したまふ・ことにそうなとハ・なへてのハ・め
さす・さえすくれ・をこなひにしミ・たう
ときかきりをえらせ給けれハ・このせむし
の君まいりたまへりけり・かへりさまに・た
ちより給て・しか/\権大納言殿の御八」13オ
0043【権大納言殿】−源
講に・まいりて侍へるなり・いとかしこう・い
ける上とのかさりにおとらす・いかめし
うおもしろきことゝもの・かきりをなむし
給つる・仏ほさつのへんけの身にこそ
ものし給めれ・いつゝのにこりふかきよに
0044【いつゝのにこり】−\<朱合点>
なとて・むまれ給けむといひて・やかていて
給ひぬ・ことすくなに・世の人にゝぬ御あは
ひにて・かひなき世のものかたりをたに・
えきこえあはせ給はす・さてもかハかり
つたなき身のありさまを・あハれにおほ」13ウ
つかなくて・すくし給ハ・心うの仏菩薩
やと・つらうおほゆるを・けにかきりなめ
りと・やう/\思なり給に・大弐のきたの
かた・にハかにきたり・れいはさしもむつ
0045【にハかにきたり】−侍従迎ニ
ひぬを・さそひたてむの心にて・たてま
つるへき御さうそくなと・てうして・
よき車にのりて・おももちけしき
ほこりかに・もの思ひなけなるさまして・
ゆくりもなくはしりきて・かとあけさ
するより人わろく・さひしきことかき」14オ
りもなし・ひたりみきのともみなよろほ
ひ・たうれにけれハ・をのことも・たすけて・
とかくあけさハく・いつれか・このさひしき・や
とにもかならす・わけたるあとあなる・み
0046【みつのみち】−\<朱合点>
つのみちとたとる・わつかにみなミを
もてのかうし・あけたるまによせたれは・
いとゝハしたなしとおほしたれと・あさま
しうすゝけたるき丁さしいてゝ・侍従
いてきたり・かたちなと・をとろへにけり・
としころゐたうつゐえたれと・猶ものき」14ウ
0047【つゐえたれと】−損
よけによしあるさまして・かたしけな
くとも・とりかへつへくみゆ・いてたち
なむこと越・思ひなから・心くるしきあり
さまの・ミすてたてまつりかたきを・しゝう
0048【しゝうのむかへになむ】−北詞
のむかへになむ・まいりきたる・心うくお
ほしへたてゝ・御身つからこそ・あからさま
にもわたらせ給はね・この人をたに・ゆる
させ給へとてなむなとかうあハれけなる
さまにハとて・うちもなくへきそかし・さ
れとゆくみちに心をやりて・いと心ち」15オ
よけなり・こ宮おはせしときをのれ
をハ・おもてふせなりとおほしすてたり
しかハ・うと/\しきやうになりそめに
0049【うと/\しき】−後 かさせとも老も(後撰96・躬恒270)
しかと・としころもなにかハやむことなき
さまに・おほしあかり・大将殿なとおはし
0050【大将殿なと】−源氏君この時ハ大将にてハなけれとも女房なとハいひつゝけていへり
ましかよふ・御すくせのほとを・かたしけ
なく思ひ給へられしかハなむ・ゝつひ
きこえさせんも・はゝかることおほくて
すくしはむへるを・世中のかくさためも
なかりけれハ・かすならぬ身は・なか/\心や」15ウ
すく侍ものなりけり・をよひなく見たて
まつりし御ありさまの・いとかなしく・心
くるしきをちかきほとハ・をこたる
おりも・のとかにたのもしくなむはへ
りけるを・かくはるかにまかりなむと
すれハ・うしろめたくあはれになむおほ
え給ふなと・かたらへと心とけてもいら
へ給はす・いとうれしきことなれと・よに
にぬさまにて・なにかハ・かうなからこそ・く
ちもうせめとなむ・思はへるとのミのた」16オ
まへハ・けにしかなむおほさるへけれと・いけ
る身をすて・かくむくつけきすまひ
するたくひハはへらすやあらむ・大将殿
のつくりみかき給はむにこそは・ひきか
へたまのうてなにも・なりかへらめとは・た
のもしうハはへれと・たゝいまは式部卿
の宮の御むすめよりほかに・心わけ給
ふかたもなかなり・むかしよりすき/\
しき御心にて・な越さりに・かよひ給ひ
けるところ/\・みなおほしはなれにたな」16ウ
り・ましてかうものはかなきさまにて・
やふハらにすくし給へる人をハ・心きよ
く・われをたのミ給へるありさまと・たつ
ねきこえたまふ事・いとかたくなむ
あるへきなと・いひしらするを・けにとお
ほすも・いとかなしくて・つく/\となき
給・されとうこくへうもあらねは・よろつ
に・いひわつらひくらして・さらハ侍従を
たにと・日のくるゝまゝにいそけハ・心あ
はたゝしくて・なく/\さらハ・まつけふハ」17オ
かうせめ給ふ・をくりハかりに・まうてはへらむ
かのきこえ給ふもことハりなり・またおほし
0051【きこえ給ふ】−北方
0052【また】−末ー心
わつらふもさることにはへれハ・中にみた
まふるも・心くるしくなむとしのひて
きこゆ・この人さへ・うちすてゝむとする
0053【この人さへ】−末ー心
を・うらめしうもあハれにもおほせと・い
ひとゝむへきかたもなくて・いとゝねをの
ミたけきことにてものし給ふ・かたみに
そへ給ふへき・みなれ衣も(も#<朱>)しほなれたれ
0054【みなれ衣】−日本紀 君カ御ケシトアリ
ハ・としへぬる・しるしミせ給ふへきものな」17ウ
くて・わか御くしのおちたりけるを・とり
あつめて・かつらにしたまへるか・九尺よ
0055【かつらに】−依衣髪タケ長也
ハかりにて・いときよらなるを・おかしけ
なるはこにいれて・むかしのくのえかうの・
いとかうハしき・ひとつほくして給ふ
たゆましきすちをたのみし玉か
0056【たゆましき】−末摘
0057【たのみし玉かつら】−侍従をよせたり
つら思ひのほかにかけはなれぬるこ
まゝの・ゝ給ひをきしこともありしかハ・
0058【まゝのゝ給ひをきし】−末摘のめのと侍従か母ナリ
かひなき身なりとも・見はてゝむとこ
そ思ひつれ・うちすてらるゝも・ことハり」18オ
なれと・たれにみゆつりてかと・うらめし
うなむとて・いみしうない給ふ・この人も
ものもきこえやらす・まゝのゆいこむ
は・さらにもきこえさせす・としころの
しのひかたきよのうさ越・すくしはへり
つるに・かくおほえぬみちに・いさなハれ
て・はるかに・まかりあくかるゝことゝて
玉かつらたえてもやましゆくみちの
0059【玉かつら】−侍従
たむけの神もかけてちかはむいのち
0060【たむけの神】−道祖神黄帝四十余子最末ー
こそしりはへらねなといふに・いつら・くら」18ウ
うなりぬとつふやかれて・心も空にて・
0061【心も空にて】−侍従
ひきいつれは・かへり見のミせられける・とし
0062【ひきいつれは】−車
ころわひつゝも・ゆきはなれさりつる人の・
かくわかれぬることを・いと心ほそうおほ
すに・よにもちゐらるましきおい人
さへ・ゐてやことハりそ・いかてかたちとま
り給はむ・われらもえこそ・ねつ(つ$む<朱>)しは
つましけれと・をのかみゝにつけたる・たよ
りとも思いてゝ・とまるましう思へるを・
人わろくきゝおはす・しもつきはかりに」19オ
なれは・ゆきあられかちにて・ほかには
きゆるまもあるを・あさひゆふひをふせ
くよもき・むくらのかけにふかうつもり
て・こしのしら山思ひやらるゝ雪のうち
0063【こしのしら山】−\<朱合点> 古今 君かゆくこしの白△(△#山)しらねとも雪のまに/\跡はたつねん(古今391・鐘輔集93・大和物語108、異本紫明抄・紫明抄・河海抄)
に・いているしも人たになくて・つれ/\と
なかめ給ふ・はかなきことをきこえなくさ
め・なきみ・わらひミ・まきらハしつる人
さへなくて・よるもちりかましき御丁の
0064【ちりかましき】−塵積
うちも・かたハら・さひしく・ものかなしく
おほさる・かのとのにハ・めつらら(ら$<朱>)しひ(ひ+と)に・いとゝ」19ウ
0065【かのとの】−源
0066【ひとにいとゝ】−詞
ものさハかしき御ありさまにて・いとやむ
ことなく・おほされぬところ/\にハ・わさとも
えをとつれ給ハす・まして・その人ハ・また
よにやおハすらむとハかり・おほしいつるお
りもあれと・たつね給ふへき御心(心+さ)しも・
いそかてありふるに・としかハりぬ・う月
0067【としかはりぬ】−源し廿八歳也 二月に内大臣に成給ふ
はかりに・花ちるさとを思いてきこえ
給ひて・しのひてたいのうへに・御いとまき
0068【たいのうへに】−紫
こえていて給ふ・ひころふりつるなこりの
雨いますこしそゝきておかしきほとに・」20オ
月さしいてたり・むかしの御ありきおほ
しいてられて・えんなる程のゆふつく
よに・みちのほとよろつの事おほし
いてゝおハするに・かたもなく・あれたる
いへのこたちしけく・もりのやうなるを
すき給ふ・おほきなる松にふちのさき
かゝりて・つきかけになよひたる・かせに
0069【かせにつきて】−\<朱合点> 人もなき宿ににほへる藤の花風にのミこそなひくへらなれ 貫之(貫之集71、河海抄・一葉抄・休聞抄・孟津抄・岷江入楚)
つきて・さとに(に$<朱>)にほふか・なつかしく・そこ
はかとなきかほりなり・たちはなにかハり
ておかしけれは・さしいて給へるに・やなき」20ウ
もいたうしたりて・ついひちもさハらねハ・
ミたれふしたり・見し心ちするこたちか
なとおほすは・ハ(△&ハ)やうこの宮なりけり・
いとあはれにて・をしとゝめさせ給・れいの
これみつは・かゝる御しのひありきに・
をくれねハさふらひけり・めしよせてこゝハ
0070【こゝハ】−源氏の御詞
ひたちの宮そかしな・しか侍ときこゆ・
0071【しか侍】−惟光詞
こゝにありし人ハ・またやなかむらん・とふ
0072【こゝに】−源氏御詞
らふへきを・わさとものせむもところせし・
かゝるついてにいりて・せうそこせよ・よく」21オ
たつね入てを・うちいてよ・人たかへして
0073【入てを】−詞
ハ・おこならむとの給・こゝにハいとゝなかめ
0074【こゝには】−末摘のありさま
まさるころにて・つく/\とおハしけるに・
ひるねのゆめに・こ宮の見え給ひけれハ・
さめていとなこりかなしくおほして・もり
ぬれたる・ひさしのはしつかた・をしのこ
0075【ひさし】−庇
ハせて・こゝかしこのおまし・ひきつくろ
はせなとしつゝれいならすよつき給ひて
なき人をこふるたもとのひまなきに
0076【なき人を】−末摘
あれたるのきのしつくさへそふも心く」21ウ
るしきほとになむありける・これみつ
入て・めくる/\人のをとするかたやと
みるに・いさゝかの人けもせす・されハこそ
ゆきゝのみちに見いるれと・人すみけ
もなきものをと思て・かへりまいる程に・
月あかくさしいてたるに見れハ・かうし
ふたまはかりあけて・すたれうこくけし
きなり・わつかに見つけたる心ち・おそろ
しくさへおほゆれとよりて・こわつくれ
ハ・いとものふりたるこゑにて・まつしはふき」22オ
0077【まつしはふき】−内より
を・さきにたてゝ・かれハたれそ・なに人そ
とゝふ・なのりして侍従の君ときこえし
0078【なのりして】−惟光
人に・たいめん給はらむといふ・それは・ほか
0079【それはほかに】−内より
になんものし給ふ・されとおほしわく
ましき女なむ侍といふ・こゑいたうね
0080【女なむ】−侍従かおハの少将ナリ
ひすきたれと・きゝしおゐ人と・きゝし
りたり・うちにハ・思ひもよらす・かり
きぬすかたなるおとこ・しのひやかに
もてなし・なこやかなれハ・見ならはす・
なりにけるめにて・もしきつねなとのへん」22ウ
けにやとおほゆれと・ちかうよりてたし
かになむうけ給ハら(ら+ま<朱>)ほしき・かハらぬ御あ
0081【かハらぬ御ありさまならハ】−惟光詞
りさまならハ・たつねきこえさせ給へき・
御心さしもたえすなむ・おハしますめる
かし・こよひもゆきすきかてに・とまらせ
給へるを・いかゝきこえさせむ・うしろやす
くをといへハ・女ともうちわらひて・かハら
0082【かハらせ給御ありさまならハ】−返答
せ給御ありさまならハ・かゝるあさちかハら
を・うつろひ給ハてははへりなんや・たゝをし
ハかりてきこえさせ給へかし・としへたる人」23オ
の心にも・たくひあらしとのミ・めつらか
なるよ越こそハ・見たてまつりすこしは
へると・やゝくつしいてゝ・とハすかたりも
0083【やゝくつしいてゝ】−惟光御詞
しつへきか・むへ(へ$つ<朱>)かしけれは・よし/\まつかく
なむきこえさせんとてまいりぬ・なとか・
0084【なとか】−源氏の御詞
いとひさしかりつる・いかにそむかしのあ
ともみえぬよもきのしけさかなと・の給へ
ハ・しか/\なむ・たとりよりてはへりつる・侍
0085【しか/\なむ】−惟光詞
従かをはの・少将とゐひはへりし・おい人
なん・かハらぬこゑにてはへりつると・あり」23ウ
さまきこゆ・いみしうあハれにかゝるしけ
0086【いみしう】−源し御心
きなかに・なに心ちしてすくし給ふらむ・
いまゝて・とハさりけるよと・わか御心のなさ
けなさも・おほししらる・いかゝすへき・かゝる
しのひあるきも・かたかる(△&る)へきを・かゝるつ
いてならてハ・えたちよらし・かハらぬあり
さまならハ・けにさこそハあらめと・をしは
からるゝ・人さまになむとは・のたまひなか
ら・ふといり給はむ事・猶つゝましう
おほさる・ゆへある御せうそこも・いときこえ」24オ
まほしけれと・見たまひしほとの・くちを
そさも・またかハらすハ・御つかひのたちわ
つらハむもいとをしうおほしとゝめつ・こ
れミつもさらにえわけさせ給ふましき・
よもきの露けさになむはへる・露す
こし・ハらハせてなむ・いらせ給ふへきと・き
こゆれハ
たつねてもわれこそとはめみちもなく
0087【たつねても】−源氏
ふかきよもきのもとの心をとひとりこち
て・猶をり給へハ・御さきの露を・むまの」24ウ
むちして・ハらひつゝ・いれたてまつる・あま
0088【むち】−鞭
そゝきも猶秋のしくれめきて・うちそ
そけハ・御かささふらふ・けにこのした露ハ・
0089【御かささふらふ】−\<朱合点> まいらせん
0090【このした露ハ】−\<朱合点> みさふらひみかさと申せ宮木のゝこの下露ハ雨にまされり<朱>(古今1091・古今六帖543、源氏釈・異本紫明抄・紫明抄・河海抄)
あめにまさりてときこゆ・御さしぬき
のすそハ・いたうそをちぬめり・むかし
たに・あるかなきかなりし・中門なと・ま
してかたもなくなりて・いり給ふにつけ
ても・いとむとくなるを・たちましり・
0091【むとく】−無徳
みる人なきそ・心やすかりける・ひめ君ハ
0092【ひめ君】−末ー
さりともと・まちすくし給へる・心もしる」25オ
く・うれしけれと・いとはつかしき御あり
さまにて・たいめむせんもいとつゝましく
おほしたり・大二のきた(た+の)かたの・たてまつ
りをきし・御そともをも・心ゆかすおほ
されしゆかりに・見いれたまはさりける
を・この人/\の・かうの御からひつに・いれ
0093【かう】−薫
0094【御からひつ】−唐櫃
たりけるか・いとなつかしき・かしたるを・
たてまつりけれハ・いかゝはせむに・きかへ
給ひて・かのすゝけたる・御き丁ひき
よせておはす・いり給て・としころのへた」25ウ
てにも・心ハかりハかはらすなん・思ひやり
きこえつるを・さしもおとろかい給はぬ
うらめしさにいまゝて心ミきこえつるを・
すきならぬこたちのしるさにえすき
0095【すきならぬ】−\<朱合点> 恋しくハとふらいきませわか宿ハみわの山本杉たてる門(古今982・古今六帖1364・4276、異本紫明抄・紫明抄・河海抄)
てなむ・まけきこえにけるとて・かたひら
0096【まけ】−負
0097【かたひら】−帷
をすこし・かきやり給へれハ・れいのいと
つゝましけに・とみにもいらへきこえ給
はす・かくハかり・わけいり給へるか・あさか
らぬに・思おこしてそ・ほのかにきこえ
いて給ける・かゝる草かくれに・すくし給」26オ
ひける・とし月のあハれも・をろかならす・
またかハらぬ心ならひに・人の御心のうち
も・たとりしらすなから・わけいりはへりつる
露けさなと越・いかゝおほす・としころ
のをこたり・ハたなへてのよに・おほし
ゆるすらむ・いまよりのちの御心にかな
ハさらむなん・いひしにたかうつミもおう
0098【いひしにたかう】−\<朱合点> いとゝこそまさりにまされわすれしといひしにたかふことのつらさも<朱>(出典未詳、奥入・異本紫明抄・紫明抄・河海抄)
へきなと・さしもおほされぬことも・なさ
けなさけしうきこえなし給ふこと
ともあへめり・たちとゝまり給はむも・」26ウ
ところのさまよりはしめ・まはゆき御
ありさまなれは・つき/\しうのたま
ひすくしていて給ひなむとす・ひきう
0099【ひきうえしならねと】−\<朱合点> 引うへし人はむへこそ老にけれ松のこたかく成にける哉(後撰1107・躬恒集295、奥入・異本紫明抄・紫明抄・河海抄)
えしならねと・まつのこたかくなりに
ける・とし月のほともあハれに夢のやうなる
御身のありさまも・おほしつゝけらる
ふちなミのうちすきかたくみえつるハ
0100【ふちなミの】−源氏
まつこそやとのしるしなりけれかそふれ
は・こよなうつもりぬらむかし・みやこに
かハりにけることのおほかりけるも・さま/\」27オ
あハれになむ・いまのとかにそ・ひなのわかれ
0101【ひなのわかれに】−\<朱合点> 古今 思きやひなのわかれにおとろへてあまのなわたきいさりせんとハ(古今961・新撰和歌235・古今六帖2360、源氏釈・奥入・異本紫明抄・紫明抄・河海抄)
におとろへしよのものかたりも・きこえ
つくすへきとしへたまへらむ春秋の
くらしかたさなとも・たれにかハうれへ給
はむと・うらもなくおほゆるも・かつハあ
やしうなむなと・きこえ給へは
としをへてまつしるしなきわかやとを
0102【としをへて】−末摘
花のたよりにすきぬはかりかとしのひ
やかにうちみしろき給へるけハひも・袖の
かもむかしよりはねひまさり給へるにやと」27ウ
おほさる・月入かたになりてにしのつま
とのあきたるより・さハるへきわたとの
たつやもなく・のきのつまものこりな
けれハ・いと花やかにさしいりたれハ・あたり
あたりみゆるに・むかしにかはらぬ御しつ
らひのさまなと・忍草にやつれたる・うへ
の見るめよりハ・みやひかに見ゆるを・む
0103【みやひかに】−閑麗
0104【むかしものかたりに】−\<朱合点>
かしものかたりに塔こほちたる人もあ
0105【塔こほちたる人】−未一決事也
りける越・おほしあはするにおなしさ
まにて・としふりにけるもあハれなり・ひ」28オ
たふるにものつゝミしたるけハひの・さす
かにあてやかなるも心にくゝおほされて
さるかたにてわすれしと心くるしく思
ひしを・としころさま/\のものおもひに・
ほれ/\しくてへたてつるほと・つらし
とおもはれつらむといとをしくおほす・
かの花ちるさとも・あさやかにいまめかし
うなとハ・はなやな(な#<朱>)き給はぬところにて・
御めうつしこよなからぬに・とか・おほうかくれ
にけり・まつりこけいなとのほと・御いそき」28ウ
0106【まつり】−賀茂
0107【こけい】−禊
ともにことつけて・人のたてまつりたるも
の・色/\におほかるを・さるへきかきり御心
くハへ給ふ中にも・この宮にハこまやかに
おほしよりて・むつましき人/\におほせ
事給ひしもへともなと・つかはしてよもき
はらハせ・めくりの・見くるしきに・いたか
0108【いたかき】−板墻
きといふものうちかためつくろはせ給
ふ・かうたつねいて給へりと・きゝつたへん
につけても・わか御ため・めむほくなけれは・
0109【めむもく】−面目
わたり給事はなし・御ふミいとこまやか」29オ
にかき給ひて・二条院ちかきところを・つ
0110【二条院ちかきところ】−東院
くらせ給ふを・そこになむわたしたて
まつるへき・よろしきわらハへなと・もと
めさふらハせたまへなと・人/\のうへま
ておほしやりつゝ・とふらひきこえ給へハ・
かくあやしきよもきのもとにハ・をきと
ころなきまて・女はらも空をあふき
てなむ・そなたにむきてよろこひき
こえける・なけの御すさひにても・をしな
へたるよのつねの人をハめとゝめ・見えた」29ウ
て給ハす・世にすこし・これはとおもほへ・
こゝちにとまるふしあるあたりを・たつ
ねより給ふものと・人のしりたるに・かく
ひきたかへなに事も・なのめにたに
あらぬ御ありさまを・ものめかしいて
給ふは・いかなりける御心にかありけむ・
これもむかしのちきりなめりかし・いまハかき
りとあなつりはてゝ・さま/\にまよひ
ちりあかれし・うへし(△△&へし)もの人/\・われも/\・
まいらむとあらそひいつる人もあり・心」30オ
はへなとはた・むもれいたきまて・よくお
はする御ありさまに・心やすくならひて・こと
なることなき・なます両なとやうのいへに
ある人は・ならハす・はしたなき心ちす
るもありて・うちつけの心見えにまいり
かへり・君ハいにしへにもまさりたる・御いき
0111【君ハ】−源
をいのほとにて・ものゝおもひやりもま
してそひ給ひにけれハ・こまやかにおほし
をきてたるににほひいてゝ・宮のうち
やう/\人め見え・きくさのはもたゝ」30ウ
すこくあハれにみえなされしを・やり水
かきはらひ・せむさいのもとたちも・す
すしうしなしなとして・ことなるおほ
えなき・しもけいしの・ことにつか(か+へ<朱>)まほし
0112【しもけいし】−下家司也
きハ・かく御心とゝめておほさるゝ事な
めりと・みよ(よ#と)りて・御けしき給はりつゝ・つ
いせうしつかうまつる・ふたとせはかり・こ
0113【ふたとせはかり】−物語作者詞
のふる宮になかめ給て・ひんかしの院といふ
ところになむ・後ハわたしたてまつり給
ける・たいめんし給ふ事なとハ・いとかた」31オ
けれと・ちかきしめのほとにておほかた
にもわたり給に・さしのそきなとし給ひ
つゝ・いとあなつらハしけに・もてなしきこ
えたまハす・かの大二のきたのかた・のほ
りて・おとろきおもへるさま・侍従かうれしき
ものゝ・いましハしまちきこえさりける・心あさ
さ越・はつかしう思へるほとなと越・いますこし
とハすかたりもせましけれと・いとかしらいたう・う
るさくものうけれハなむ・いまゝたも・ついてあ
らむおりに・思いてゝ・きこゆへきとそ」31ウ
【奥入01】五濁<見法華経>(戻)
【奥入02】蒋[言+羽]<字元卿> 舎中竹下開三逕(戻)
【奥入03】顔叔子といふ人おとこ他行のほと
そのおとこのうたかる(る$日、日=ヒ)のために塔の
かへをこほちてよもすからともし
あかしてゐたる事也(戻)」32オ
イ本
源氏廿七八歳の事あり横並也まさしくよもきふ
のやとを尋給事ハ廿八歳の四月也以詞為巻名
哥にはよもきとあり
並異説事 定家卿并光行ハ一蓬生
二関屋 伊行説一関屋二蓬生明ー蓬ー
関ー同時イ本
任庭訓加首筆者也 良鎮」32オ
二校了<墨朱>」(前遊紙1オ)