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Last updated 05/06/2015(ver.2-5)
渋谷栄一翻字(C)

  

澪 標

凡例
1 本稿は、『大島本 源氏物語』(1996(平成8)年5月 角川書店)を翻刻した。よって、後人の筆が加わった現状の本文様態である。
2 行間注記は【 】− としてその頭に番号を記した。
2 小字及び割注等は< >で記した。/は改行を表す。また漢文の訓点等は< >で記した。
3 合(掛)点は、\<朱(墨)合点>と記した。
4 朱句点は「・」で記した。
5 本文の校訂記号は次の通りである。
 $(ミセケチ)・#(抹消)・+(補入)・&(ナゾリ)・=(併記)・△(不明文字)
 ( )の前の文字及び( )内の記号の前の文字は、訂正以前の文字、記号の後の文字が訂正以後の文字である。ただし、なぞり訂正だけは( )の前の文字は訂正後の文字である。訂正以前の本行本文の文字を尊重したことと、なぞり訂正だけは元の文字が判読しにくかったための処置である。
6 朱・墨等の筆跡の相違や右側・左側・頭注等の注の位置は< >と( )で記した。私に付けた注記は(* )と記した。
7 付箋は、「 」で括り、付箋番号を記した。
8 各丁の終わりには」の印と丁数とその表(オ)裏(ウ)を記した。
9 本文校訂跡については、藤本孝一「本文様態注記表」(『大島本 源氏物語 別巻』と柳井滋・室伏信助「大島本『源氏物語』(飛鳥井雅康等筆)の本文の様態」(新日本古典文学大系本『源氏物語』付録)を参照した。
10 和歌の出典については、伊井春樹『源氏物語引歌索引』と『新編国歌大観』を参照し、和歌番号と、古注・旧注書名を掲載した。ただ小さな本文異同については略した。

「みをつくし」(題箋)

  さやかにみえ給し夢の後ハ・院のみかと
  の御事をこゝろにかけきこえ給ひて・い
  かてかのしつミたまえむつみすくひ奉
  る事をせむとおほしなけきけるを・
  かくかへりたまひてハその御いそきし
  給・神無月に御八講し給・世の人の(の#<朱>)なひ
  きつかうまつることむかしのやうなり・おほ
  きさき御なやみをもくおハしますうち
0001【おハしますうちにも】−病中心中
  にも・つゐにこの人を・えけたすなりなむ
0002【この人】−源
  事と・心やみおほしけれとみかとハ・院の」1オ
0003【みかと】−朱
0004【院】−桐

  御ゆいこんをおもひきこえ給ものゝむく
  ひありぬへくおほしけるを・な越したて
  給て御心ちすゝしくなむおほしける
  時ときおこりなやませ給し御めも・さハ
  やき給ぬれと・おほかた世にえなかくあ
  るましうこゝろほそき事とのミひ
  さしからぬ事をおほしつゝ・つねにめし
  ありてけんしの君ハまいり給・世中の
  ことなとも・へたてなくの給ハせつゝ・御ほい
  のやうなれは・大かたの世の人もあいなく」1ウ

  うれしきことによろこひきこえける・
  おりゐなむの御こゝろつかひちかくなり
0005【おりゐなむの御こゝろつかひ】−朱
  ぬるにも・内侍のかみ心ほそけによ越おも
0006【内侍のかみ】−おほろ
  ひなけき給つる・いとあハれにおほされけ
  り・おとゝうせ給・大宮もたのもしけな
0007【おとゝうせ給】−二条 明石巻
  くのミあつひ給へるに・わか世残すくな
0008【あつひ給へる】−病
0009【わか世】−朱ノ心
  き心ちするになむ・いといとおしう・なこ
0010【いといとおしう】−朧
  りなきさまにて・とまり給ハむとすら
  む・むかしより人にハおもひおとし給へれ
0011【人には】−源ニハ
  と・みつからのこゝろさしの又なきならひ」2オ
0012【みつからの】−朱

  に・たゝ御事のミなむあハれにおほえ
  ける・たちまさる人又御ほいありてみた
0013【人】−源
  まふとも・をろかならぬ心さしはしも・な
  すらハさらむと・おもふさへこそ心くるし
  けれとて・うちなき給ふ・女君かほハいと
0014【うちなき給ふ】−朱
0015【女君】−朧
  あかくにほひて・こほるはかりの御あい
  行にて・涙もこほれぬるをよろつの
  つミわすれて・あはれにらうたしと御覧
  せらる・なとか・みこ(こ+を)たに・もたまへるまし
  き・くちおしうもあるかな・ちきりふかき」2ウ

  人のためには・いま見いて給てむとおも
0016【人】−源
  ふもくちをしや・かきりあれはたゝ人
  にてそみたまハむかしなと・行すゑの
  こと越さへのたまハするに・いとはつかし
0017【いとはつかしうも】−朧心
  うも・かなしうもおほえ給・御かたちなと
  なまめかしうきよらにて・かきりなき
  御心さしのとし月にそふやうに・もてな
  させ給ふに・めてたき人なれと・さしも
0018【さしも】−朧ノ朱ヲ
  おも(も+ひ)給つ(つ#へ)らさりし・けしき・心はへなと・
  ものおもひしられたまふまゝに・なとて」3オ
0019【なとて】−朱雀院ノ我心のをさなかましくてよろつを太后にまかせ給へるゆへに光君をも須磨へうつし給へしことを悔給ふ也

  わか心のわかくいはけなきにまかせて・さる
  さわきをさへ・ひきいてゝわか名越
  は・さらにもいハす・人の御ためさへなとお
0020【人】−源
  ほしいつるに・いとうき御身なり・あくる
  としのきさらきに・春宮の御元服
0021【春宮】−冷泉院ノ御事也
  の事あり十一になり給へと・ほとより
  おほきにおとなしう・きよらにて・たゝ
  けむしの大納言の御かほを・ふたつに
  うつしたらむやうにみえ給ふ・いとまは
  ゆきまて・ひかりあひ給へるを・世人めて」3ウ

  たきものにきこゆれと・はゝ宮いみ
0022【はゝ宮】−藤つほ
  しうかたハらいたきことに・あひなく御
  こゝろをつくし給ふ・うちにもめてたし
0023【うちにも】−朱
  とみたてまつり給て・世中ゆつりきこ
  え給へき事なと・なつかしうきこえ
  しらせ給・おなし月の廿よ日・御くにゆつ
0024【御くにゆつり】−譲国
  りのことにハかなれは・おほきさき
  おほしあはてたり・かいなきさまなから
  も・こゝろのとかに・御らんせらるへき事
  をおもふなりとそ・きこえなくさめ給」4オ

  ける・はうにはそ行殿のみこゐ給ひぬ・
0025【はうには】−東
0026【そ行殿】−鬚黒兄弟
0027【みこ】−朱雀院御子にてまします二歳
  世中あらたまりて・ひきかへ今めか
  しき事ともおほかり・源氏大納言内大
0028【源氏大納言】−ノ
  臣になり給ひぬ・かすさたまりて・くつ
0029【かすさたまりて】−左右大臣外内大臣
  ろく所もなかりけれは・くハゝり給也けり・
  やかて世のまつりこと越した(た+ま<朱>)ふへきなれ
  と・さやう(う+の)こと(と+しけきそく(そく=職<墨>)には<朱>)ハ(ハ#<朱>)たえすなむとて・ちしの
  おとゝ・せふ正(せふ正=摂政イ<朱>)したまふへきよしゆつり
  きこえ給ふ・やまひによりてくらゐをか
  へしたてまつりてしを・いよ/\老の」4ウ

  つもりそひて・さかしき事侍らしと・う
  けひき申給はす・人のくにゝもことう
  つり世中さたまらぬおりハ・ふかき山に
  あとをたえたる人たにも・おさまれる
  世にはしろかみもはちす・いてつかへ
0030【しろかみも】−\<朱合点> 商山の四皓のこと
  けるをこそ・まことのひしりには・しけれ・
  やまひにしつみて・かへし申給けるくら
  ゐを・世中かハりて・またあらため給ハむ
  に・さらにとかあるましうおほやけわたく
  しさためらる・さるためしもありけれは・」5オ

  すまひはて給ハて・太政大臣になり給ふ・
  御としも六十三にそなり給・世中すさ
0031【六十三】−清和天皇参議後忠仁公摂政貞観八六十三
  ましきにより・かつハこもりゐ給ひしを・
  とりかへしはなやき給へは・御子ともなと
  しつむやうにものし給へるを・みなうかひ
  給・とりわきて・宰相中将・権中納言に
0032【宰相中将】−摂政一男
  なり給・かの四の君の御はらのひめ君十
0033【ひめ君】−コキ殿柏妹
  二になり給ふを・うちにまいらせむとかし
  つき給ふ・かのたかさこうたひし君もかう
0034【たかさこうたひし君】−榊ノ巻にあり紅梅の右大臣のこと也
  ふりせさせて・いとおもふさまなり・はら/\に」5ウ

  御ことも・いとあまた・つき/\におひいて
  つゝ・にきわゝしけなるを・源氏のおとゝ
  はうらやみ給・大殿はらのわかきみ・人よ
0035【わかきみ】−夕霧事
  りことに・うつくしうて・内春宮の殿上
0036【殿上】−童殿上
  したまふ・こひめ君のうせ給にしなけき
0037【こひめ君】−葵上事
  を・宮おとゝ・又さらにあらためて・おほし
0038【宮】−葵上母宮
0039【おとゝ】−同父おとゝ也
  なけくされと・おハせぬなこりもたゝこの
  おとゝの御ひかりに・よろつに(に$)もてなされて(て#<朱>)
0040【おとゝ】−源氏
  給て・としころおほししつミつるなこりな
  きまてさかへ給ふ・な越むかしに御心」6オ

  はへかハらす・折ふしことにわたり給なと
  しつゝ・わか君の御めのとたちさらぬ人
  人も年ころのほとまかてちらさりける
  ハ・みなさるへきことにふれつゝ・よすかつ
  けむこと越・おほしをきつるにさいはひ
  人おほくなりぬへし・二条院にもおなし
0041【二条院】−紫上
  事(事#こと<朱>)・まちきこえける人をあハれなる
  ものにおほして・としころのむねあくは
  かりとおほせは・中将・なかつかさやうの
0042【中将なかつかさ】−女房達
  人/\にハほと/\につけつゝ・なさけをみえ」6ウ

  給に・御いとまなくてほかありきもしたまは
  す・二条院のひむかしなる宮(宮=古イ<朱>)院の御せう
0043【ひむかしなる宮】−東院
  ふむなりしを・になくあらためつくらせ給
  ふ・花ちるさとなとやうの心くるしき人/\
  すませむなとおほしあてゝつくろハせ
  給・まことやかのあかしに心くるしけなり
  し事ハ・いかにとおほしわするゝ時なけれハ・
  おほやけわたくしいそかしきまきれに・
  えおほすまゝにもとふらひたまハさり
  けるを・三月ついたちのほと・このころや」7オ
0044【三月ついたちのほと】−明石ノ上こそノ六月より懐妊也ことしの三月ハ十ケ月にあたる也

  とおほしやるに・人しれすあハれにて・御
  つかひありけり・とくかへりまいりて・十六日
  になむ・女にてたいらかにものし給ふと・つ
0045【女にて】−明石中宮此也
  けきこゆ・めつらしき様にてさへあな
  るを・おほすにをろかならす・なとて京に・
  むかへて・かゝることをもせさせさりけむ
  とくちおしうおほさる・すくえうに御子三
0046【御子三人】−冷泉院 明石中宮 夕霧左大臣
  人・みかと・きさきかならすならひてう
  まれたま(ま+ふ<朱>)へし・なかのおとりハ・大政大臣
  にて・くらゐをきハむへしと・かむかへ申」7ウ

  たりし事・さしてかなふなめり・おほかたか
  みなきくらゐにのほり・よ越まつりこち
  給ふへき事さはかりかしこかりし・あ
  またのさふ(ふ=ウ<朱>)人とものきこえあつめたるを・
  としころハ世のわつらハしさに・みなおほし
  けちつるを・たうたいのかく位に・かなひ
0047【たうたい】−冷
  給ぬることを・思のこと・うれしとおほす・
  みつからも・もてはなれ給へるすちハ・更にある
  ましきことゝおほす・あまたのみこたち
  の中に・すくれてらうたきものにおほし」8オ

  たりしかと・たゝ人におほしをきてける
  御心を思に・すくせと越かりけり・うちのかく
  ておハしますを・あらハに人のしる事な
  らねと・さうにむのことむなしからすと・御
  こゝろのうちにおほしけり・今ゆくすゑ
  のあらましことをおほすに・住吉の神の
  しるへ・まことにかの人も・世になへてならぬ
0048【かの人】−明石上
  すくせにて・ひか/\しきおやも・およひな
  き心越つかふにやありけむ・さるにてハ・かし
  こきすちにも・なるへき人のあやしき」8ウ

  せかいにてむまれたらむハ・いとをしうかたし
  けなくもあるへきかな・このほとすくし
  てむかへてんとおほして・ひむかしの院い
  そきつくらすへきよしもよをしお
  ほせ給ふ・さる所に・はか/\しき人しも
  ありかたからむをおほして・こ院にさふら
  ひし・せむしのむすめ・宮内卿の宰相
0049【せむしのむすめ】−少将君こと
  にて・なくなりにし人の子なりしを・はゝ
  なともうせて・かすかなる世にへけるか・は
  かなきさまにて・こうみたりときこしめし」9オ

  つけたる越・しるたよりありて・ことのついて
  にまねひきこえける人めして・さるへきさ
  まにのたまひちきる・またわかくなに
  心もなき人にて・あけ暮人しれぬ・あは
  らやに・なかむる心ほそさなれは・ふかうも
  おもひたとらす・この御あたりのことを・ひと
  へにめてたうおもひきこえて・まいるへき
  よし申させたり・いとあはれにかつハおほし
  て・いたしたて給ふ・ものゝついてにいみし
0050【ものゝついてに】−源氏の君ノ少将の君のあハら屋に忍て出給へる也
  う・しのひまきれて・おハしまひたり・さは」9ウ

  きこえなから・いかにせましとおもひみたれ
  けるを・いとかたしけなきに・よろつおもひ
  なくさめて・たゝのたまはせむまゝにと
  きこゆ・よろしきひなりけれは・いそかし
  たて給ひて・あやしうおもひやりなきやう
  なれと・思ふさまことなる事にてなむ・み
  つからもおほえぬすまひに・むすほゝれ
  たりしためしを・おもひよそへて・しはし・ね
  むし給へなと・ことのありやう・くハしう・か
  たらひ給ふ・うへの宮つかへ時/\せしかは・」10オ

  みたまふおりもありしを・いたうおとろへ
  にけり・いへのさまもいひしらすあれ
  まとひて・さすかにおほきなる所のこ
  たちなと・うとましけに・いかてすくし
  つらむとみゆ・人のさまわかやかに・おかし
  けれは・御覧しはなたれす・とかくたハ
  ふれ給ひて・とりかへしつへき心ちこそ
  すれ・いかにとの給ふにつけても・けに
  おなしうハ・御みちかふもつかうまつりなれ
  は・うきみもなくさみなましと・みたて」10ウ

  まつる
    かねてよりへたてぬ中とならはねと
0051【かねてより】−源氏
  わかれはおしき物にさ(さ#そあ)りけるしたひや
  しなましとのたまへは・うちハらひて
0052【うちはらひて】−女房
    うちつけのわかれをおしむかことにて
0053【うちつけの】−明石上のめのと返し
  おもハむかたにしたひやハせぬなれてき
0054【おもはむかた】−あかしのうへの事をいへり
  こゆるをいたしとおほす・くるまにて
0055【いたし】−痛
0056【くるまにてそ】−少将君
  そ京のほとハゆきはなれける・いとしたし
  き人さしそへ給て・夢に(に#)もらすまし
  く口かため給てつかハす・御はかしさるへき」11オ
0057【御はかし】−三条院皇女陽明門院御誕生ニ奉御太刀

  ものなと・所せきまて・おほしやらぬくま
  なし・めのとにもありかたう・こまやかなる
  御いたハりのほとあさからす・入道のお
  もひかしつきおもふらむ有さま・おもひ
  やるもほゝゑまれたまふことおほゝ(ゝ$く<朱>)・又あ
  ハれに心くるしうも・たゝこの事の御心
  にかゝるも・あさからぬにこそは・(は+御)文にも・をろか
  に・もてなし思ふましと・かへす/\いましめ
  たまへり
    いつしかも袖うちかけむおとめこの(の#か)」11ウ
0058【いつしかも】−源し

  世をへてなつるいハのおひさきつのくに
  まてハ船にて・それよりあなたハむまにて
  いそきいきつきぬ・入道まちとり・よろ
  こひ・かしこまりきこゆることかきりなし
  そなたにむきておかみきこえて・ありかた
  き御心はへをおもふに・いよ/\いたハしう
  おそろしきまて思ふ・ちこのいとゆゝし
0059【ちこ】−明石中宮
  きまて・うつくしうおハすることたく
  ひなし・けにかしこき御心にかしつき△(△#き)
0060【御心に】−少将の君の心に思へる事也
  こえむとおほしたるハむへなりけりとみた」12オ

  てまつるに・あやしきみちにいてたち
  て・夢の心ちしつるなけきもさめにけり・
  いとうつくしうらふたうおほえて・あつかひ
  きこゆ・こもちの君も月ころ物をのミ
0061【こもちの君】−明石上
  思ひしつみて・いとゝよはれる心ちに・
  いきたらむともおほえさりつるを・こ
  の御をきてのすこしものおもひなく
  さめらるゝにそ・かしら・もたけて・御つ
  かひにもになきさまの心さしをつくす・とく
  まいりなむといそきくるしかれは・お」12ウ

  もふ事ともすこしきこえつゝけて
    ひとりしてなつるハ袖のほとなきに
0062【ひとりして】−明石上返し
  おほふはかりのかけをしそまつときこ
  えたり・あやしきまて・御心にかゝりゆかし
0063【あやしきまて】−源し
  うおほさる・女君にハことにあらハして・お
0064【女君】−紫の上
  さおさきこえ給ハぬを・きゝあハせ給ふ
  こともこそとおほして・さこそあなれ・
  あやしうねちけたるわさなりさ(さ#)や・(や+さ)も
0065【ねちけたる】−おもふやうにもなき心と聞たり
  おハせなむと・思ふあたりにハ・心もとなくて・
  おもひのほかにくちおしくなん・女にて」13オ

  あなれは・いとこそものしけれ・たつねしらて
  もありぬへき事なれと・さハえおもひす
  つましきわさなりけり・よひにやりて・み
  せたてまつらむ・にくミ給ふなよときこえ
  たまへは・おもてうちあかみて・あやしう
0066【あやしう】−紫上御詞
  つねにかやうなるすち・のたまひつくる・心
  のほとこそわれなからうとましけれ・もの
  にくミハ・いつならふへきにかと・ゑしたまへは・
  いとよくうちゑみて・そよ・たかならハしにか
0067【いとよく】−源
  あらむ・おもハすにそみえ給ふや・人の心より」13ウ
0068【おもはすにそ】−人のおもハぬこと越おもはせて物なんしなとかけるをいふ

  ほかなる思ひやりことして・ものゑしなと
  したまふよ・おもへはかなしとて・はて/\は
  なみたくミ給ふ・としころあかすこひしと思
  きこえ給し御心のうちとも・おり/\の
  御ふミのかよひなと・おほしいつるにハ・よろ
  つのことすさひにこそあれと・思ひけたれ
  給ふ・この人をかうまておもひやり・ことゝふ
0069【この人】−明
  ハ猶思ふやうの侍そまたきにきこえハ・又
  ひか心えたまふへけれはとのたまひさし
  て・人からのおかしかりしも所からにや・めつ」14オ

  らしうおほえきかしなと・かたりきこえ給・
  あハれなりしゆふへのけふりいひしことなと
0070【ゆふへのけふり】−明石巻にての源氏の哥事也
  まほならねと・そのよのかたちほのみし・
  ことのねの・なまめきたりしも・すへて
  御心とまれるさまにのたまひいつるにも・我
0071【我ハ又なくこそ】−紫の上の心ニ思給へる事也
  ハ又なくこそかなしと思ひなけきしか・す
  さひにても心をわけ給けむよと・たゝならす
  思ひつゝけ給て・我ハわれと・うちそむき
  なかめて・あはれなりしよの有さまなと・ひ
0072【あはれなりしよの】−過ニしかたのことを思いたしての給へる詞ナリ
  とりことのやうにうちなけきて」14ウ

    おもふとちなひくかたにハあらすとも
0073【おもふとち】−紫上
  われそけふりにさきたちなましなにとか
0074【なにとか心うや】−源詞
  心うや
    たれにより世越うみ山に行めくり
0075【たれにより】−源氏
  たえぬなみたにうきしつむみそいてや
  いかてかみえたてまつらむ・いのちこそかなひ
  かたかへい・ものなめれ・はかなき事にて人
  に心をかれしとおもふも・たゝひとつゆへそや
0076【ひとつゆへ】−紫
  とて・さうの御ことひきよせて・かきあハせ
  すさひ給て・そゝのかしきこえたまへと・かの」15オ

  すくれたりけむも・ねたきにや・てもふれ
0077【すくれたりけむも】−明石上ノ箏をの給ふ心也
  給ハす・いとおほとかに・うつくしうたをやき
  たまへる・ものから・さすかにしふねき所つき
  て・ものゑししたまへるか・中/\あひ行つ
  きて・はらたちなし給を・おかしう見所あ
  りとおほす・五月五日にそ・いかにハあたるら
0078【五月五日にそ】−明石の姫君三月十六日誕生五月五日ハ五十ニあたるへし
  むと人しれすかすへ給て・ゆかしうあはれに
  おほしやる・なに事もいかにかひあるさま
  に・もてなし・うれしからまし・くちをしの
  わさや・さる所にしも心くるしきさまに」15ウ

  て・いてきたるよとおほす・おとこ君なら
  ましかはかうしも・御心にかけ給ましきを・
  かたしけなういとをしう・わか御すくせも・
  この御事につけてそ・かたほなりけりと・お
0079【かたほなりけり】−おさなき時をいへり
  ほさるゝ・御つかひいたしたて給ふ・かならすそ
  のひたかへす・まかりつけとのたまへは・五日(日+△&に<墨>イ<朱>、に#)
  いきつきぬ・おほしやる事も・ありかたう
  めてたきさまにて・まめ/\しき御とふらひ
  もあり
    うみ松やときそともなきかけにゐて」16オ
0080【うみ松や】−源し 後浦松体
0081【かけにゐて】−入道

  なにのあやめもいかにわくらむ心のあくか
0082【あやめも】−五月五日なれハ
0083【いかに】−五十
0084【心の】−源文詞
  るゝまてなむ・猶かくてハえすくすましき
  を・おもひたち給ひねさりとも・うしろめたき
  事ハよもと・かい給へり・入道れいのよろこひ
  なきしてゐたり・かゝるおりハいけるかひも
0085【かひもつくり】−かひつくるハなくをいふよろこひなき也
  つくりいてたることハりなりとみゆ・こゝに
  もよろつところせきまて・おもひまうけたり
  けれと・この御つかひなくハやミの夜にてこそ
0086【やみの夜にてこそくれぬへかりけれ】−闇夜錦
  くれぬへかりけれ・めのともこの女君のあハれ
0087【めのと】−小侍従
0088【女君】−明
  に思やうなるを・かたらひ人にて・世のなく」16ウ

  さめにしけり・おさ/\おとらぬ人も・るひに
  ふれてむかへとりて・あらすれと・こよなく
  おとろへたる・みやつかへ人なとのいはほの
  中たつぬるか・おちとまれるなとこそあ
  れ・これはこよなうこめき思あかれりきゝ
0089【これは】−小侍従
  所ある世の物かたりなとして・おとゝの君
  の御有さま・世にかしつかれ給へる御おほ
  えのほとも・女心ちにまかせてかきりなく
  かたりつくせは・よ(よ$け)にかくおほしいつはかりの
  なこりとゝめたるみもいとたけくやう/\」17オ

  おもひなりけり・御ふミももろともにみて
  心のうちに・あはれかうこそ・おもひの外に
  めてたきすくせはありけれ・うきものはわ
  かみこそありけれと・おもひつゝけらるれ
  と・めのとのことはいかになと・こまかにとふら
0090【めのとのことはいかに】−源文詞
  ハせ給へるも・かたしけなく・なに事もなくさめ
  けり御返には
    かすならぬみしまかくれになくたつを
0091【かすならぬ】−明石上返し
  けふもいかにととふ人そなきよろつに思ふ
  給へむすほゝるゝ有さまを・かく給ま(給ま#たまさ<朱>)かの」17ウ

  御なくさめに・かけ侍いのちのほともはかな
  くなむ・けにうしろやすくおもふ給へを
  くわさもかなとまめやかにきこえたり・
  うちかへし見給つゝあハれと・なかやかに
0092【うちかへし】−源ノ
0093【なかやか】−長
  ひとりこち給を・女君しりめにみをこせ
0094【女君】−紫
  て・うらよりをちにこく船のと・しのひや
0095【うらよりをちに】−\<朱合点> 御くまのゝ浦よりをちにこく舟の我をハよそにへたてつるかな(新古今1048・古今六帖1888・伊勢集380、源氏釈・奥入・異本紫明抄・紫明抄・河海抄)
  かにひとりこちなかめ給ふを・まことハ・かく
  まてとりなし給ふよ・こハたゝかハかりのあは
  れそや・ところのさまなと・うち思ひやる・時/\
  きしかたの事・わすれかたきひとりことを・」18オ

  ようこそきゝすん(ん#く)い給はねなとうらみき
  こえ給て・うハつゝみはかりを・見せたてまつ
0096【うハつゝみ】−文ノ
  らせ給ふ・ふん(ん#て)なとの・いとゆへつきて・やむこ
  となき人くるしけなるを・かゝれはなめり
  とおほす・かくこの御心とり給ふほとに・花
  ちる里(里+なと<朱>)を・あ(あ#か<朱>)れはて給ひぬるこそ・いと
  をしけれ・おほやけこともしけく所せき
  御みに・おほしはゝかるにそへても・めつらし
0097【御み】−源
  く・御めおとろくことのなきほと・思ひし
0098【思ひし】−源
  つめ給なめり・さみたれ・つれ/\なるころ・お」18ウ

  ほやけわたくし物しつかなるに・おほしおこ
  してわたり給へり・よそなからもあけ暮に
  つけて・よろつにおほしやり・とふらひきこ
  え給をたのミにてすくい給所なれハ・いま
  めかしう・心にくきさまに・そはミうらみ給
  ふへきならねは・心中やすけなり・年比に
  いよ/\あれまさり・すこけにておハす・女
0099【女御の君】−麗景ー姉
  御の君に御物かたりきこえ給て・西のつ
  まとに夜ふかして立より給へり・月おほろ
  にさし入て・いとゝえむなる御ふるまひ・つ」19オ

  きもせすみえ給ふ・いとゝつゝましけれと・
  はしちかふ・うちなかめ給けるさまなから・
  のとやかにてものし給ふけハひ・いとめや
  すし・くひなのいとちかふなきたる越
    くひなたにおとろかさすハいかにして
0100【くひなたに】−花ちる
  あれたるやとに月をいれましといとなつ
  かしういひけち給へるそ・とり/\に・すて
  かたきよかな・かゝるこそ中/\みも・くるし
  けれと・おほす
    をしなへてたゝくくひなにおとろかは」19ウ
0101【をしなへて】−源し返し

  うはの空なる月もこそいれうしろめた
0102【うしろめたう】−源詞
  うとは・な越ことにきこえ給へと・あた/\
0103【あた/\しき】−花ー
  しきすちなと・うたかハしき御こゝろはへ
  にハあらす・とし比まちすくしきこえ給へ
  るも・さらにをろかにハおほされさりけり・
  空ななかめそと・たのめきこえ給ひし
0104【たのめきこえ給ひし】−源行めくりつゐニすむへき月影ノ
  おりの事も・のたまひいてゝ・なとてた
  くひあらしと・いみしうもの越思しつ
  みけむ・うきみからハ・おなしなけかしさ
0105【うきみからは】−花ー
  にこそとのたまへるも・おいらかにらうたけ」20オ

  なり・れいのいつこの御ことのはにかあらむ・
0106【御ことのは】−源
  つきせすそ・かたらひなくさめきこえ
  給・かやうのついてにも・かの五せちをおほし
0107【かの五せち】−大宰大弐娘
  わすれす・又見てしかなと心にかけ給へ
  れと・いとかたき事にて・えまきれ給す・
  女・ものおもひたえぬを・おやハ・萬におもひ
  いふ事も・あれと・よにへんこと越・思ひたへ(へ$え<朱>)
  たり・心やすきとのつくりしてハ・かやうの人
  つとへても・おもふさまに・かしつき給ふへき
  人も・いてものし給ハゝ・さる人のうしろミに」20ウ

  もとおほす・かの院のつくりさま・中/\
0108【かの院のつくりさま】−二条院ノ東院ノ造作の事也
  みところおほく・いま(いま#<朱>)いまめひたり・よしある
  すらうなと越・えりて・あて/\にもよをし
0109【えりて】−国守等ニ命テ造作
  給ふ・ないしのかむの君・な越えおもひは
0110【ないしのかむの君】−朧
  なちきこえ給ハす・こりすまに・たちかへ
  り御心はへもあれと・女ハうきに・こり給
  て・むかしのやうにも・あひしらへきこえ給
  ハす・中/\ところせう・さう/\しう・世中お
  ほさる・院ハのとやかに・おほしなりて・時/\(/\+に)
0111【院】−朱
  つけて・おかしき御あそひなと・このましけ」21オ

  にておハします・女御・かういみなれいの・こと
0112【こと】−如
  さふらひ給へと・春宮の御はゝ女御のミそ・
0113【女御】−承香殿
  とりたてゝ・時めき給ふ事もなく・かむ
  の君の御おほえに・をしけたれたまへ
  りしを・かくひきかへめてたき御さいは
  ひにて・はなれいてゝ・宮にそひたてまつり
0114【宮】−東宮
  給へる・このおとゝの・御とのゐところハ・むかし
0115【このおとゝ】−源
  のしけいさなり・なしつほに・春宮ハおハし
0116【しけいさ】−淑景舎
0117【なしつほ】−昭陽舎
0118【春宮】−承香殿
  ませは・ちかとなりの御心よせに・なに事も
  きこえかよひて・宮をも・うしろミたて」21ウ

  まつり給・にら(にら#にう<朱>)たう后の宮御くらゐを・また
  あらため給へきならねは・太上天皇になす
  らへて・みふ給まハらせ給・院司とも・なりて・
0119【院司とも】−判官代 △典代
  さまことに・いつくし・御をこなひ・くとく
  の事を・つねの御いとなみにておハします
  としころ世にはゝかりて・いていりも・かたく
  みたてまつり給はぬなけきを・いふせく
  おほしけるに・おほすさまにて・まいりまか
  て給も・いとめてたけれハ・おほきさきは・
  うきものハよなりけりとおほしなけく・」22オ

  おとゝハことにふれて・いとはつかしけに・
0120【おとゝ】−源
  つかまつり・心よせきこえ給も・中/\いとをし
  けなるを・人もやすからすきこえけり・
  兵部卿のみこ・としころの御こゝろはへの・つ
0121【兵部卿のみこ】−須磨留守不問
  らくおもはすにて・たゝ世のきこえをのミ・
  おほしはゝかりたまひし事を・おとゝハ・う
  きものにおほしをきて・むかしのやうにも・
  むつひきこえ給はす・なへての世にハあ
  まねく・めてたき御心なれと・この御あたり
0122【この御あたり】−兵
  ハ・中/\なさけなきふしもうちませ給」22ウ

  を・入道の宮ハ・いとをしうほいなきことに
  みたてまつり給へり・世中の事・たゝな
  かは越わけて・おほきおとゝ・このおとゝの
0123【おほきおとゝ】−摂政
0124【このおとゝ】−源
  御まゝなり・権中納言の御むすめ・その年
0125【御むすめ】−弘徽殿女御絵合セシ人
  の八月に・まいらせ給・おほち殿・ゐたちて・
0126【殿】−ヲトゝ
  きしきなと・いとあらまほし・兵部卿宮
  のなかの君も・さやうに心さして・かしつ
0127【なかの君】−冷ー女御紫姉也女ゑ合ニ入内
  き給・名たかきを・おとゝハ・人よりまさり
  給へとしも・おほさすなむありける・いかゝ
  し給ハむとすらむ・その秋・すみよしに」23オ

  まうて給・願とも・はたし給・へけれハ・いかめしき
0128【まうて給】−源
  御ありきにて・世中ゆすりて・かむたちめ
  殿上人・我も/\とつかふまつり給・おりしも・
  かのあかしの人・としことのれいのことにて・ま
  うつるを・こそことしハさはる事あり
0129【さはる事】−懐妊
  て・をこたりけるかしこまり・とりかさねて・
  おもひたちけり・船にてまうてたり・きし
  にさしつくるほと・みれはのゝしりて・まう
  て給ふ人(人+の)けはひ・なきさにみちて・いつく
  △(△#)しき・かむたからをもてつゝけたり・かく」23ウ

  人とをつゝ(ゝ#<朱墨>ら<朱>)なと・さうそくをとゝのへかたちを
0130【とをつら】−十列ナリ
0131【さうそく】−東遊求子舞乗馬神社行幸ニ詣召具出社頭けい馬
  えらひたり・たかまうて給へるそととふめれ
0132【たかまうて】−明石人
  は・内大臣殿の御願はたしにまうて給ふ
  を・しらぬ人もありけりとて・はかなき程
  のけすたに・心ちよけにうちハらふけに
0133【けにあさましう】−明石心
  あさましう・月日もこそあれ・中/\この
  御有さまを・はるかにみるも・身のほとく
  ちをしうおほゆ・さすかにかけはなれた
  てまつらぬすくせなから・かくくちおしき
  きわの物たに・もの思なけにてつかうま」24オ

  つるを・いろふしに思ひたるに・なにのつみふ
  かき身にて・心にかけておほつかなうおもひ
  きこえつゝ・かゝりける御ひゝきをもしら
  て・たちいてつらむなと・おもひつゝくる
  に・いとかなしうて人しれす・しほたれけり・松
  はらのふかみとりなるに・花もみちを・こ
  きちらしたるとみゆる・うへのきぬの
  こきうすきかすしらす・六位の中にも・蔵
0134【こきうすき】−紫赤依位有浅深
  人ハあをいろしるくみえて・かのかもの
0135【あを】−麹塵
  みつかき・うらみし右近のせうも・ゆけゐ」24ウ
0136【右近のせう】−引つれてあふひかさしゝそのかミを思へハつらしかものミツカキ須磨巻

  になりて・こと/\しけなる・すいしんくし
0137【すいしん】−小随身カチニコウ矣判官等同
  たる蔵人なり・よしきよも・おなしすけにて・
0138【よしきよ】−源少納言といひし人也
0139【おなしすけ】−近尉佐
  人よりことにもの思ひなきけしきにて・お
  とろおとろしきあかきぬすかたいときよ
  けなり・すへて見し人/\・ひきかへはなやか
  になに事おもふらむとみえて・うちちり
0140【うちちりたるに】−アツマル心歟
  たるに・わかやかなるかむたちめ・殿上人
  の・我も/\も(も#<朱>)とおもひいとみ・むまくらな
  とまて・かさりをとゝのへ・みかき給へるハ・い
  みしきものに・ゐなか人もおもへり・御車」25オ

  をはるかにみやれは・なか/\心やましくて・
  恋しき御かけをも・えみたてまつらす・か
0141【かはらのおとゝの御れい】−證歟関白例アリ
  はらのおとゝの御れいをまねひて・わらハす
0142【わらハすかた】−装束の色同所見なしと
  いしんを給ハり給ける・いとをかしけに・さう
  そきみつらゆひて・むらさきすそこの
  もとゆひ・なまめかしう・たけすかた・とゝ
0143【とゝのひ】−長徳二年八月九日御堂殿于時左大臣辞左大将同日以童六人為随身三年十月九日勅賜左右近衛府生各一人 近衛各三人為随身但停童子云々
  のひうつくしけにて・十人さまことに・いま
  めかしうみゆ・おほとのハらのわか君かきり
0144【おほとのはらのわか君】−夕霧事 殿上わらハにて供奉せられたる也
  なく・かしつきたてゝ・むまそひ・はらハの
  ほと・みなつくりあはせて・やうかへてさう」25ウ

  そきわけたり・雲井はるかにめてたく
0145【はるかに】−人ノ行末を云
  みゆるにつけても・わか君のかすならぬさまに
0146【わか君】−明石姫君事
  て・ものし給を・いみしと思・いよ/\みやし
  ろ(ろ+の)かたを・おかみきこゆ・くにのかみ・まい
  りて御まうけ・れいの大臣なとのまいり給
  よりハ・ことによになく・つかうまつりけむ
  かし・いとはしたなけれは・たちましりかす
  ならぬ身の・いさゝかの事せむに・神も
0147【神もみいれかすまへ】−引 タムケニハツヽリノ袖モキルヘキニモミチニアケル神ヤカヘサン(古今421・素性集48、弄花抄・一葉抄・細流抄・休聞抄・紹巴抄・孟津抄・岷江入楚)
  みいれ・かすまへ給ふへきにもあらす・かへら
  むにも中そらなり・けふハなにはに船さ」26オ

  しとめて・はらへをたにせむとて・こきわた
  りぬ・君ハゆめにもしり給ハす・夜ひと
0148【君】−源
  よ色/\のこと越せさせ給ふ・まことに神
  のよろこひ給へき事をしつくして・き
  しかたの御願にも・うちそへ・ありかたきまて
  あそひのゝしり・あかし給・これみつやうの
  人ハ・心のうちに・神の御とくをあハれに
  めてたしとおもふ・あからさまにたちいて
  給へるにさふらひて・きこえいてたり
    すみよしのまつこそものハかなしけれ」26ウ
0149【すみよしの】−惟光

  神世のこと越かけておもへはけにとおほし
  いてゝ
    あらかりしなみのまよひに住よしの
0150【あらかりし】−けんし
  神をはかけてわすれやハするしるしあり
  なとのたまふもいとめてたし・かのあかしの
  舟・このひゝきにをされて・すきぬる事も
  きこゆれは・しらさりけるよとあハれに
  おほす・神の御しるへをおほしいつるも・をろ
  かならねは・いさゝかなるせうそこをたに
  して・心なくさめはや・中/\におもふらむ」27オ

  かしとおほす・みやしろたちたまて・所/\
  に・せうえうをつくし給ふ・なにはの御はら
0151【なにはの御はらへ】−御代始八十島祭アリ難波にて祓行
  へなゝせに・よそをしうつかまつる・ほりえ
0152【ほりえ】−塹<ホリエ> 仁徳天皇の御時堀れたる河也  堀江ニハ玉しかましを大君の御舟こかんとかねてしりせハ 井手左大臣(万葉4080、河海抄・休聞抄・孟津抄・岷江入楚)
  のわたりを御らむして・いまはたおなし
0153【いまはたおなし】−\<朱合点>
  なにハなると御こゝろにもあらて・うちすし
  給へるを・御車のもとちかきこれみつうけ
  給ハりやしつらむ・さるめしもやとれいに
  ならひて・ふところにまうけたる・つかみし
0154【つか】−柄
  かきふてなと・御車とゝむる所にてたて
  まつれり・おかしとおほして・たゝうかみに」27ウ

    み越つくしこふるしるしにこゝまても
0155【み越つくし】−源氏
  めくりあひけるえにハふかしなとて給へ
  れは・かしこのこゝろしれる・しも人して
  やりけり・こまなめてうちすき給ふにも・
0156【こまなめて】−明ー心
  心のミうこくに・露はかりなれと・(と+いと)あはれにかた
  しけなくおほえて・うちなきぬ
    かすならてなにハのこともかひなきに
0157【かすならて】−明石上返し
  なとみをつくしおもひそめけむたミ
  のゝしまに・みそきつかうまつる・御はらへのも
  のにつけてたてまつる・日暮かたになり」28オ

  行・ゆふしほみち△(△#)・きて・入えのたつも
0158【入えのたつ】−\<朱合点> なにハかたしほみちくらし海人衣たみのゝ嶋にたつ鳴わたる(古今913・古今六帖1909、異本紫明抄・紫明抄・河海抄)
  こゑおしまぬほとのあハれなるおりからなれ
  はにや・人めもつゝます・あひみまほしく
  さへおほさる
    露けさのむかしににたるたひころも
0159【露けさの】−けんし
  たみのゝしまのなにハかくれすみちのまゝ
0160【たみのゝしま】−古今 雨により田蓑の嶋を今日ゆけハ名にハかくれぬ物にそ有ける(古今918・拾遺集343・古今六帖465・1917・貫之集831、異本紫明抄・紫明抄・河海抄)
  に・かひあるせうえうあそひのゝしり給へと・
  御心にハなをかゝりておほしやる・あそひ
0161【あそひとも】−遊女
  ともの・つとひまいれるかむたちめと・き
  こゆれと・わかやかにことこのましけなるハ・」28ウ

  みなめとゝめ給へかめり・されといてやおかしき
  ことも物のあハれも人からこそあへけれ・なの
  めなること越たに・すこし・あわきかたによ
0162【あわきかたに】−遊女を賞する事をいふナリ 浅心
  りぬるハ・心とゝむるたよりもなきもの
  をとおほすに・をのか心越やりて・よしめき
  あへるも・うとましうおほしけり・かの人は
0163【かの人】−明ー
  すくしきこえて・又の日そよろしかりけれ
  は・御てくらたてまつる・ほとにつけたる・
0164【御てくら】−幣
  願ともなと・かつ/\はたしける・又中/\物
  おもひそはりて・あけ暮くちおしき身を」29オ

  おもひなけく・いまや京におハしつくらむと
  おもふ日かすもへす・御つかひあり・このころの
  ほとに・むかへむこと越そのたまへる・いとたのも
  しけにかすまへのたまふめれと・いさやまた
  しまこきはなれ・なか空に心ほそきことや
0165【しまこきはなれ】−\<朱合点> 今ハとて嶋こきはなれ行舟もひれふる袖をみるそかなしき うつほ(落窪物語72、河海抄・花鳥余情・弄花抄・休聞抄・花屋抄・孟津抄・岷江入楚)
  あらむとおもひわつらふ・入道もさてい
  たしはなたむと(と$は)・いとうしろめたう・さり
  とて・かくうつもれすくさむをおもはむも・
  中/\きしかたの年ころよりも心つくし
  なり・よろつにつゝましう・おもひたちかたき」29ウ

  事越きこゆ・まことや・かのさい宮もかハり
0166【さい宮も】−冷泉院御位ニつき給ひて又斎宮かはり給へハ六条
  給にしかは・みやすむ所のほり給てのち・か
0167【みやすむ所】−斎宮ハ御息所とゝもにのほり給ふ也
  ハらぬさまに・なに事もとふらひきこえ
  給事ハありかたきまて・なさけをつくし給
  へと・むかしたにつれなかりし御心はへの中/\
0168【むかしたに】−御息
  ならむ名残ハ・見しと・おもひはなち給へれ
0169【おもひはなち】−御息
  ハ・わたり給なとすることハことになし・あなか
  ちに・うこかしきこえ給ても・わか心なから・
  しりかたく・とかくかゝつらハむ・御ありきなと
  も所せう・おほしなりにたれは・しゐたる」30オ

  さまにもおハせす・さい宮をそいかに・ねひなり
0170【さい宮をそ】−源詞
  給ぬらむと・ゆかしうおもひきこえ給・な越か
  の六条のふる宮を・いとよくすりしつく
0171【六条のふる宮】−京極御息所
  ろひたりけれは・みやひかにてすみ給けり・よ
0172【みやひかに】−△△(△△#昔)こそ△△(△△#難波)ゐ中といわれけり(り$め)今ハ宮美<ヒ>堵<ト>そな(な+ハ)りにけり(万葉315、異本紫明抄・紫明抄・河海抄)
  しつき給へることふりかたくて・よき女房な
  とおほく・すいたる人のつとひところにて・もの
  さひしきやうなれと・心やれるさまにてへ
  たまふほとに・にハかにをもくわつらひ給ひ
0173【わつらひ給ひ】−御息所
  て・ものゝいと心ほそくおほされけれは・つみ
  ふかきところほとりに・としへつるも・いみし」30ウ
0174【ところ】−\<朱合点>「花鳥ニハつみふかきほとりと/ハカリアリ以他本可/見合し」(付箋01)

  うおほして・あまになり給ひぬ・おとゝきゝ給
0175【あまになり給ひぬ】−御息所
0176【おとゝきゝ給て】−源氏
  て・かけ/\しきすちにはあらねと・な越さる
0177【かけ/\しきすち】−心盛
  かたのものをもきこえあハせ人におもひ
  きこえつるを・かくおほしなりにけるかく
  ちをしうおほえ給へは・おとろきなからわた
0178【わたり給へり】−源
  り給へり・あかすあハれなる御とふらひきこ
  え給ふ・ちかき御まくらかミに・おましよそ
  ひて・けうそくにをしかゝりて・御返なとき
  こえ給ふも・いたうよハり給へるけはひ
  なれは・たえぬこゝろさしのほとハ・え見え」31オ

  たてまつらてやとくちおしうて・いみしう
0179【いみしう】−源
  ない給・かくまてもおほしとゝめたりけるを・
  女もよろつにあハれにおほして・斎宮の御
0180【斎宮】−秋
  事をそきこえ給・心ほそくて・とまり給は
0181【心ほそく】−御息所御詞
  むを・かならすことにふれて・かすまへきこ
  え給へ・又みゆつる人もなく・たくひなき御
0182【みゆつる人もなく】−無親
  ありさまになむ・かひなきみなからも・いまし
  ハし世中をおもひのとむるほとは・とさま
  かうさまに・もの越おほししるまて・見たて
  まつらむとこそ思たまへつれ・とても・きえ」31ウ

  いりつゝない給・かゝる御事なくてたに・おもひ
0183【かゝる御事】−けんし御詞
  はなちきこえさすへきにもあらぬを・まし
  て心のをよはむにしたひてハ・なに事
  もうしろミきこえむとなんおもふ給ふる・
  さらにうしろめたくなおもひきこえ給そ
  なときこえたまへは・いとかたき事ま
0184【いとかたき事】−御息詞 難有
  ことにうちたのむへきおやなとにてみゆ
  つる人たに・女おやにはなれぬるハ・いとあ
  はれなることにこそ侍めれ・ましておもほし
  人めかさむにつけても・あちきなきかた」32オ

  や・うちましり・人に心もをかれ給はむ・
  うたてあるおもひやり事なれと・かけて
  さやうのよついたるすちにおほしよるな・
  うき身をつミ侍にも・女ハおもひの外にて・
  もの思をそふるものになむ侍けれハ・いか
  てさるかた越・もてはなれてみたてまつら
  むとおもふ給ふるなときこえ給へは・あひ
0185【あひなく】−けん詞
  なくも・の給かなとおほせと・としころによろ
  つおもふ給へ・しりにたるものを・むかし
  のすき心の名残ありかほにの給ひなすも・」32ウ

  ほいなくなむ・よしをのつからとて・とはくら
0186【とは】−外
  うなり・うちハおほとのあふらのほのかに・
  ものよりとほりてみゆるを・もしもやと
  おほして・やをらみき丁のほころひよ
  り見たまへは・心もとなきほとのほかけ
  に・御くしいとおかしけに・はなやかにそき
0187【御くし】−御息所
  てよりゐたまへる・ゑにかきたらむさまして
  いみしうあはれなり・丁のひむかしおもて
  にそひふし給へるそ・みやならむかし・みき
0188【みや】−秋
  丁のしとけなくひきやられたるより・御」33オ

  めとゝめてみとをし給へれは・つらつえ
  つきて・いとものかなしとおほいたるさまな
  り・はつかなれと・いとうつくしけならむと
  みゆ・御くしのかゝりたるほと・かしらつき
  けはひ・あてにけたかきものから・ひちゝか
  にあひ行つき給へるけはひしるく・みえ
  給へは・心もとなくゆかしきにも・さはかり・の
  たまふものをとおほしかへす・いとくるしさ
  まさり侍・かたしけなきを・はやわたらせ
  給ねとて・人にかきふせられ給ふ・ちかくま」33ウ
0189【ちかく】−源詞

  いりきたるしるしに・よろしうおほされは・
  うれしかるへきを・心くるしきわさかな・
  いかにおほさるゝそとて・のそき給ふけし
  きなれは・いとをそろしけに侍や・みたり
0190【いとをそろしけに】−御息
0191【みたり心ち】−御息詞
  心ちの・いとかくかきりなるおりしもわたら
  せ給へるハ・まことにあさからすなむおもひ
  侍こと越・すこしもきこえさせつれは・
  さりともとたのもしくなむときこえ
  させ給・かゝる御ゆいこむのつらにおほし
0192【かゝる御ゆいこむの】−源詞
  けるもいとゝあはれになむ・こ院のみこた」34オ
0193【こ院】−桐

  ちあまたものし給へと・したしくむつひ・
  おもほすも・おさ/\なきを・うへのおなし
  みこたちのうちに・かすまへきこえ(え+給)しかは・
  さこそハたのみきこえ侍らめ・すこしおと
  なしきほとになりぬるよはひなから・あつ
  かふ人もなけれは・さう/\しきをなと
  きこえてかへり給ぬ・御とふらひいますこし
0194【かへり給ぬ】−源
  たちまさりて・しは/\きこえ給ふ・七八日
  ありてうせ給にけり・あえなうおほさるゝに・
0195【うせ給にけり】−御息所
  よもいとはかなくて・もの心ほそくおほされて・」34ウ

  うちへもまいり給はす・とかくの御事なと・
0196【うちへも】−源
  をきてさせ給ふ・又たのもしき人も・こと
  におハせさりけり・ふか(か#る<朱>)き斎宮の宮つか
  さなとつかうまつりなれたるそ・わつかに事
  ともさためける・御みつからもわたり給へ
0197【御みつからも】−源
  り・宮に御せうそこきこえ給・なに事も
0198【宮に】−斎宮
  おほえ侍らてなむと・女別当してきこえ
  給へり・きこえさせの給(給+イ<朱>)・をきし事もは
0199【きこえさせ】−源詞
  へしを・いまハへたてなきさまにおほされは・
  うれしくなむときこえ給て・人/\めし」35オ

  いてゝ・あるへき事ともおほせ給ふ・いとたの
  もしけにとしころの御心はへとりかへし
0200【御心はへ】−源
  つへうみゆ・いといかめしう・とのゝ人/\かすも
  なうつかうまつらせ給へり・あはれにうちなか
  めつゝ・御さうしにて・みすおろしこめてをこ
0201【御さうしにて】−源
  なハせ給ふ・宮にハつねにとふらひきこえ
0202【宮には】−秋
  給・やう/\御心しつまり給てハ・みつから御かへ
  りなときこえ給ふ・つゝましうおほしたれ
  と・御めのとなとかたしけなしとそゝのかし
  きこゆるなりけり・雪・みそれ・かきみたれあるゝ」35ウ

  日・いかに宮のありさま・かすかになかめ給ふら
  むと・おもひやりきこえ給て・御つかひたて
  まつれ給へりたゝいまの空を・いかに御覧す
  らむ
    ふりみたれひまなき空になき人の
0203【ふりみたれ】−けんし
  あまかけるらむやとそかなしき空いろの
0204【あまかける】−天翔
0205【空いろのかみ】−薄花田
  かミの・くもらハしきにかい給へり・わかき人の
  御めに・とゝまるはかりと・心してつくろひ給
  へる・いとめもあやなり・宮はいときこえにくゝ
  したまへと・これかれ人つてにハ・いとひむな」36オ

  きことゝせめきこゆれは・にひいろのかみ
0206【にひいろのかみ】−浅黄墨
  のいとかうはしうえむなるに・すみつき
  なとまきらハして
    きえかてにふるそかなしきかきくらし
0207【きえかてに】−斎宮返し みそれをかくしてよめり
  わか身それともおもほえぬよにつゝましけ
  なるかきさま・いとおほとかに御てすくれて
  ハあらねと・らうたけにあてはかなるすち
  にみゆ・くたり給しほとより・猶あらす・おほし
0208【猶あらす】−源心 有マシ
  たりしを・いまは心にかけて・ともかくもきこえ
  よりぬへきそかしとおほすにハ・れいのひ」36ウ

  きかへしいとをしくこそ・こ宮すむとこ
  ろのいとうしろめたけに・心をき給しを・こと
0209【心をき給しを】−源
  ハりなれと・世中の人もさやうにおもひより
  ぬへきことなるを・ひきたかへこゝろきよく
0210【こゝろきよく】−源ノ
  て・あつかひきこえむ・うへのいますこしも
0211【うへの】−冷
  のおほししるよハひにならせ給なは・内す
0212【内すみ】−秋
  みせさせたてまつりて・さう/\しきに・かし
  つきくさにこそとおほしなる・いとまめや
  かに・ねんころにきこえ給て・さるへきおり/\
  ハわたりなとし給ふ・かたしけなくとも・むかし」37オ
0213【わたりなと】−源六条

  の御名残におほしなすらへて・けと越から
0214【御名残】−御息
  すもてなさせ給はゝなむ・ほいなる心ちす
  へきなときこえたまへと・わりなくもの
0215【ものはちをしたまふ】−秋
  はちをしたまふ・おくまりたる人さまに
0216【おくまりたる】−奥
  て・ほのかにも・御こゑなときかせたてまつらむ
  ハ・いと(と+よ)になくめつらかなる事とおほした
  れは・人/\もきこえわつらひて・かゝる御
  心さま(ま+を)うれへきこえあへり・女へたう・内侍なと
  いふ人/\・あるハ・はなれたてまつらぬ・わかむ
0217【わかむとをり】−王氏の女をいふ
  とをりなとにて・心はせある・人/\おほかる」37ウ

  へし・この人しれすおもふかたのましらひ
  を・せさせたてまつらむに・人におとりた
  まふましかめり・いかてさやかに御かたちを・み
  てしかなとおほすも・うちとくへき御おや
  心にハあらすやありけむ・わか御心もさためか
  たけれは・かくおもふといふ事も・人にも・も
  らし給ハす・御わさなとの御事をも・とり
0218【御わさ】−御息
  わきてせさせたまへは・ありかたき御心を・
  宮人もよろこひあへり・はかなくすくる
  月日にそへて・いとゝさひしく・心ほそき」38オ

  事のミまさるに・さふらふ人/\も・やう/\
  あ(あ+か)れゆきなとして・しもつかたの京極わた
  りなれハ・人けと越く・山てらの入あひの
  こゑ/\にそへても・ねなきかちにてそすく
  し給ふ・おなしき御おやときこえしなか
  にも・かた時のまも・たちはなれたてまつり
  給ハて・ならハしたてまつり給ひて・斎宮
  にもおやそひてくたり給事ハ・れいなきこと
0219【おやそひてくたり給事】−村上御女規子ー斎宮下時御母徽子女王下自延喜已後ナレハ無例事也
  なる越・あなかちに・いさなひきこえ給し御
  心にかきりあるみちにてハ・たくひきこえ給」38ウ
0220【たくひきこえ給はす】−王死道ニハ秋ー

  ハすなりにしを・ひるよなうおほしなけき
  たり・さふらふ人/\たかきもいやしきも
  あまたあり・されとおとゝの御めのとたち
0221【おとゝ】−源
0222【御めのと】−秋ー
  たに・こゝろにまかせたる事ひきいたしつ(つ+かう)
  まつるなゝと・おやかり申給へハ・いとはつかし
0223【いとはつかしき】−乳母
  き御ありさまに・ひんなき事きこしめ
0224【ひんなき】−便
  しつけられしといひおもひつゝ・はかなき
  事のなさけも更につくらす・院にもかの
0225【院】−朱
  くたり給し大極殿の・いつかしかりしき
  しきに・ゆゝしきまてみえ給し・御かたち」39オ

  をわすれかたうおほしをきけれは・まいり
0226【まいり給て】−朱詞
  給て斎院なと御はらからの宮/\・おハし
0227【斎院】−女三
0228【御はらからの】−朱
  ますたくひにて・さふらひ給へと・みやす所
0229【みやす所】−六条
  にもきこえ給き・されとやむことなき
0230【されと】−故御息所詞
  人/\さふらひ給ふに・かす/\なる御うしろ
  ミもなくてやとおほしつゝみ・うへハいと
0231【うへハ】−朱
  あつしうおはしますも・おそろしう又も
  のおもひやくハへ給ハんと・はゝかりすくし
  給しを・いまハまして・たれかはつかうまつら
  むと・人/\おもひたるを・ねむころに院」39ウ
0232【院】−朱

  にハおほしのたまはせけり・おとゝきゝ給
0233【おとゝ】−源
  て・院より御けしきあらむを・ひきたかへ
0234【院】−朱
  よことり給ハむを・かたしけなき事と
  おほすに・人の御ありさまのいとらうたけ
0235【人の】−秋ー
  に・見はなたむハ又くちをしうて・入道の
0236【入道の宮】−藤つほ
  宮にそきこえたまひける・かう/\のこと
0237【かう/\のこと】−源詞
  をなむおもふ給へわつらふに・はゝみやすむ
  所いとおも/\しく・心ふかきさまに・も
  のし侍しを・あちきなきすき心にまかせ
  て・さるましきな越もなかし・うきもの」40オ

  におもひをかれ侍にしをなん・よにいとおし
  くおもひたまふる・この世にてそのうらみ
  の心とけすすき侍にしを・いまハとなり
0238【いまハとなりて】−御息所
  てのきはに・この斎宮の御事をなむ・
0239【この斎宮】−秋ー
  ものせられしかは・さもきゝをき・心に
  ものこすましうこそハ・さすかにみを
  き給けめと・おもひ給ふるにも・しのひかた
  う・おほかたのよにつけてたに・心くるし
  き事ハ見きゝすくされぬわさに侍
  を・いかてなきかけにても・かのうらみわす」40ウ

  るハかりとおもひ給ふるを・うちにもさ
  こそおとなひさせ給へと・いときなき
  御よハひにおハしますを・すこし物の心
  しる人ハ・さふらハれても・よくやとおもひ
  給ふるを・御(御+さ)ためになときこえたまへはい
0240【いとよう】−藤つほ御詞
  とようおほしよりけるを・院にもおほ
  さむ事ハ・けにかたしけなういとをし
  かるへけれと・かの御ゆひこむをかこちて・
  しらすかほに・まいらせたてまつりたまへ
  かし・いまはたさやうの事・わさともおほ」41オ

  しとゝめす・御をこなひかちになり給て
  かうきこえ給を・ふかうしもおほしとかめ
  しとおもひたまふる・さえ(え$ら<朱>)は御けしき
0241【さらは】−源詞
  ありて・かすまへさせ給ハゝ・もよをしは
  かりのことをそふるになし侍らむ・とさま
  かうさまにおもひたまへのこす事な
  きに・かくまてさはかりの心かまへもま
  ねひ侍るによ人やいかにとこそ・はゝかり
  侍れなと・きこえたまてのちには・けに
  しらぬやうにて・こゝにわたしたてまつりて」41ウ

  むとおほす・女君にもしかなん思ひかた
0242【女君】−紫上ニかたり給事也
  らひきこえて・すくひ給ハむに・いとよき
  ほとなるあハひならむときこえしらせ
  たまへは・うれしきことにおほして・御
  御(御#)わたりのことをいそき給ふ・入道の宮・
  兵部卿の宮の姫君をいつしかと・かし
0243【姫君】−王女御紫姉
  つきさハき給ふめるを・おとゝのひまあ
0244【おとゝのひま】−けん与仲悪
  る中にて・いかゝもてなしたまハむと心
  くるしくおほす・権中納言の御むすめ
0245【権中納言】−後致仕
  ハ・こき殿の女御ときこゆ・おほとのゝ御こ」42オ
0246【こき殿】−テン

  にていとよそほしう・もてかしつきたま
  ふ・うへもよき御あそひかたきにおほいたり・
  宮の中の君もおなしほとにおハすれは・う
0247【中の君】−王女御
  たてひゐなあそひの心ちすへきを・おとな
  しき御うしろ見ハ・いとうれしかる(る$<墨朱>)へいことゝお
  ほしの給て・さる御けしききこえ給つゝ・
  おとゝのよろつにおほしいたらぬことなく・お
0248【おとゝ】−源
0249【おほやけかたの】−冷
  ほやけかたの御うしろ見ハ・さらにもいはす
  あけ暮につけて・こまかなる御心はへの
  いとあハれにみえ給ふをたのもしきものに」42ウ

  おもひきこえ給て・いとあつしくのミおは
0250【いとあつしく】−入道宮
  しませハ・まいりなとし給ても心やすくさふ
  らひたまふこともかたきを・すこしおとなひ
0251【おとなひ】−御門ハ十一歳秋好中宮ハ廿ニなり給ふ也
  てそひさふらハむ・御うしろミハかならすある
  へきことなりけり

  イ本
  以歌為巻名源氏廿七歳ノ十月ヨリ廿八歳ノ八月マテノ
  事アリ廿七歳ハ明石ノ巻ノ末同年也」43オ

  一校畢<朱>(後見返し)
  二校了<朱>(前遊紙1オ)