First updated 8/16/2005
Last updated 2/2/2012(ver.1-2)
渋谷栄一翻字(C)
凡例
+:補入 例「も(も+と)の殿に」(1ウ4)は「も」の次にその傍らに「と」を補入したもの
=:併記 例「こはつくり(り=る)也」(15オ4)は「り」の傍らに「る」と併記したもの
$:ミセケチ訂正 例「給ける(る$んこ)そ」(15ウ6)は元の文字「る」をミセケチにしてその傍らに「んこ」と訂正したもの
例「おほめ(め$)く」(41オ4)は元の文字「る」をミセケチにしたもの
&:重ね書き訂正 例「つゝむ所なく扨(△&扨)」(47ウ4)は元の文字「△(判読不能)」を擦り消してその上に重ね書きして「扨」と訂正したもの
斎宮の御くたりちかう成ゆくまゝに宮息所物心ほそく
おもほすやんことなくわつらはしき物に覚え給へりし大
殿の君もうせ給て後さりともとよ人もきこえあつかひ
宮の内にも心ときめきせしをそのゝちしもかきたえあ
さましき御もてなしを見給に誠にうしとおほすことこ
そ有けめとしりはて給ひぬれはよろつの哀をおほし
すてゝひたみちに出たち給おやそひてくたり給れいもこと
になけれといとみはなちかたき御ありさまなるに事つけて
うき世を行はなれなんとおほすに大将の君さすかに今はと
かけはなれ給なんも口おしくおほされて御せうそこはかり」(1オ)
あはれなるさまにてたひ/\かよふたいめし給はんことをは
今さらにあるましきことゝ女君もおほす人は心つきなしと
思ひおき給事も有けんに我は今すこしおもひみたるゝこと
のまさるへきをあひなしと心つよくおほす成へしも(も+と)の殿に
はあからさまにわたり給折もあれといたう忍ひ給へは大将殿え
しり給はすたはやすく心にまかせてまうて給ふへき御す
みかにはたあらねはおほつかなく月日もへたゝりぬるに院
の上おとろ/\しき御なやみにはあらてれいならす時/\
なやませ給へはいとゝ御こゝろのいとまなけれとつらき物に思ひ
はて給なんもいとおしく人きゝなさけなくやとおほしをこして」(1ウ)
野ゝ宮にまうて給九月七日はかりなれはむけにけふあすと
おほすに女かたも心あはたゝしけれと立なからとたひ/\
御せうそこ有けれはいてやとはおほしわつらひなからいとあまり
うもれいたきをものこしはかりのたいめはと人しれす待きこえ
給けりはるけき野へをわけ入給よりいと物哀也秋の花みな
おとろへつゝあさちか原もかれ/\なる虫の音に松風すこく
吹あはせてそのことゝもきゝわかれぬほとにものゝ音ともた
え/\聞えたるいとえんなりむつましき御せん十よ人はかり
みすいしんこと/\しきすかたならていたう忍ひたまへれと
ことに引つくろひ給へる御ようひいとめてたくみえ給へは御供」(2オ)
なるすき物とも所からさへ身にしみておもへり御心にもなとて
今まて立ならさゝりつらんと過にけるかたくやしう覚さる
物はかなけなる小柴かきをおほかきにていたやともあたり/\
いとかり初なめりくろ木の鳥居ともはさすかにかう/\しく
みえわたされてわつらはしきけしきなるにかんつかさのものとも
こゝかしこにうちしはふきてをのかとち物うちいひたるけはひ
なとも外にはさまかはりてみゆひたきやかすかにひかりて
人けすくなくしめ/\としてこゝに物おもはしき人の月日
をへたて給へらんほとをおほしやるにいといみしう哀にこゝろ
くるし北のたいのさるへき所に立かくれ給て御(御+せう)そこ聞え」(2ウ)
給にあそひはみなやめて心にくきけはひあまたきこゆ何
くれの人つての御せうそこはかりにてみつからはたいめし給
へきさまにもあらねはいとものしと覚してかうやうのありきも
いまはつきなきほとに成にて侍るをおほししらはかうしめの外
にはもてなし給はていふせう侍事をもあきらめ侍にしかなとま
めやかに聞え給へは人/\けにいとかたはらいたうたちわつらはせ給に
いとをしうなとあつかひきこゆれはいさやこゝの人めも見くるし
うかのおほさんこともわか/\しう出いんに今さらにつゝましき事
とおほすに物うけれとなさけなうもてなさんにもたけからね
はとかくうちなけきやすらひてゐさり出給へる御けはひいと」(3オ)
心にくしこなたはすのこはかりのゆるされは侍りやとてのほり
ゐ給へりはなやかにさし出たる夕月夜にうちふるまひ給へる
さま匂ひにも物なくめてたし月比のつもりをつき/\しう
きこえたまへんもまはゆきほとになりにけれはさか木を
いさゝか折てけるをさし入てかはらぬ色をしるへにてこそいかき
も越侍にけれさも心うくときこえ給へは
神かきはしるしの杉もなき物をいかにまかへておれる
さかきそときこえ給へは
乙女子かあたりと思へは榊葉の香をなつかしみとめ
てこそをれ大かたのけはひもわつらはしけれとみすはかりはひ」(3ウ)
きゝてなけしにをしかゝりてゐ給へり心にまかせてみ奉り
つへく人もしたひさまにおほしたりつる年月はのとかなりつる
御心おこりにさしもおほされさりきまたこゝろのうちにいかに
そやきす有て思聞え給ひにしのちはた哀もさめつゝかく御
なかもへたゝりぬるをめつらしき御たいめのむかし覚えたる
に哀と覚しみたるゝこと限りなしきし方行さきおほし
つゝけられて心よはくなき給ぬ女はさしもみえしと覚ししつ
むめれとえ忍ひ給はぬ御けしきをいよ/\心くるしうなを
おほしとまるへきさまにそ聞え給める月もいりぬるにや哀な
る空をなかめつゝ恨聞え給にこゝらおもひあつめ給へるつらさも」(4オ)
きえぬへしやう/\今はと思ひはなれ給へるにされはよと中
なか心うこきておほしみたる殿上のわかきんたちなとうちつ
れてとかく立わつらふなる庭のたゝすまひもけにえむ
なるかたにうけはりたる有さまなりおもほし残す事なき
御なからひに聞えかはし給こと(と+と)もまねひやらん方なしやう/\
明ゆく空のけしきことさらにつくり出たらんやなり
暁の別はいつも露けきにこは世にしらぬ秋の空
かな出かてに御手をとらへてやすらひ給へるいみしうなつか
し風いとひやゝかに吹て松虫の啼からしたる声も折しり
かほなるをさしておもふことなきたにきゝ過しかたけなるに」(4ウ)
ましてわりなき御心まとひともに中/\こともゆかぬにや
大かたの秋のわかれもかなしきに啼音なそへそ野への
松むしくやしきことおほかれとかひなけれは明ゆく空もはし
たなうて出給みちのほといと露けし女もえ心つよからすな
こり哀にてなかめ給ほのみ奉り給へる月影の御かたち猶とま
れる匂ひなとわかき人/\は身にしめてあやまちしつへく
めてきこゆいか斗のみちにてかゝる御有さまを見すてては
別きこえんとあひなく泪くまる御ふみつねよりもこまやかな
るはおほしなひく斗なれと又うちかへしさためかね給へきことな
らねはいとかひなしおとこはさしもおほさぬことをたになさけの」(5オ)
ためにはよくいひつゝけ給へかめれはましてをしなへてのつらには
思ひきこえたまはさりし御なかのかくてそむき給なんとするを
くちおしうもいとをしうもおほしなやむへし旅の御さうそくより
はしめ人/\のまて何くれの御てうとなといかめしきさまにて
とふらひ聞え給へと何ともおほされすあは/\しう心うき名の
みなかしてあさましき身のありさまを今はしめたらむやに
ほとちかくなるまゝにおきふし嘆給さい宮はわかき御心ちに
ふちやなりつる御出たちのかくさたまりゆくをうれしとのみ
おほしたりよのひとは例なき事ともとき哀かりもさま/\
にきこゆへし何事も人にもときあつかはれぬきはゝやす」(5ウ)
けなりなか/\世にぬけ出ぬる人の御あたりは所せき事
おほくなん十六日かつら川にて御はらへし給つねのきしきには
まさりて長ふそうしなとさらぬかんたちめもやんことなく
覚えあるをえらせ給へり院の御心よせもあれはなるへし
大将殿よりは例のつきせぬことゝも聞え給へりかけまくもかしこ
きおまへにとてゆふにつけてなる神たにこそ
やしまもる国つみ神も心あらはあかぬ別の中を
ことはれ思ふ給ふるにあかぬ心ちし侍かなとありいとさはかしき
ほとなれと御返ありみやの御は別当してかゝせ給へり
国つかみ空にことはる中ならはなをさりことをまつ」(6オ)
やたゝさん大将は有さまゆかしうてうちにも参らまほしう
おほせとうち捨られてみをくらんも人わろう心ちもし給へは
覚しとまりてつれ/\に詠ゐ給へり宮の御返のおとな/\し
きをほゝゑみてみゐ給へり御としのほとよりはおかしうもお
はすへきかなとたゝならすかうやうにれいにたかへるわつ
らはしさにかならす心かゝる御くせにていとようみ奉りつ
へかりしいはけなき(き+御)ほとをみすなりぬるこそねたけれ世中
さためなけれはたいめするやうも有なんかしなと覚す心
にくくよしある御けはひなれはもの見車おほかる日也さる
のときにうちに参り給宮息所御こしにのり給へるにつけ」(6ウ)
てもちゝおとゝのかきりなきすちに覚し心さしていつき
奉り給ひし有様かはりて末のよにうちをみ給につけても
物のみつきせす哀におほさる十六にて故宮に参り給て
廿にておくれ奉り給卅にてけふまたこゝのへをみ給ひける
その神をけふはかけしと忍ふれと心のうちに
物そかなしき斎宮は十四にそなり給けるいとうつくしうをは
するさまをうるはしうしたて奉り給へるそいとゆゝしき
まて見え給を御かとみ心うこきてわかれの御くし奉り給ほと
いと哀にてしほたれさせ給ひぬ出給ふを待奉るとて八省
にたてつゝけたるいたしくるまともの袖くち色あひもめなれ」(7オ)
さまに心にくきけしきなれは殿上人ともゝわたくしの別おし
むおほかりくらう出給ひて二条より洞院のおほちをおれ給
ほと二条院の前なれは大将殿いと哀におほされてさか
木にさして
ふり捨てけふは行とも鈴鹿川や八十瀬の波に袖は
ぬれしやときこえ給へれといとくらう物さはかしきほとなれは又の
日せきのあなたより御返しあり
鈴鹿川八十瀬の波にぬれ/\す伊勢まてたれか
おもひおこせんことそきてかき給へるしも御手いとよし/\
しくなまめきたるに哀なるけをすこしそへ給へらましかはと」(7ウ)
おほす霧いたうふりてたゝならぬ朝ほらけにうちなかめ
てひとりこちおはす
行かたをなかめもやらんこの秋は相坂山を霧なへ
たてそにしのたいにもわたり給はて人やりならす物さひ
しけに詠暮し給まして旅の空はいかに御心つくしなる事
おほかりけん院の御なやみ神無月になりてはいとおもくをはし
ます世中にをしみきこえぬ人なしうちにもおほしなけき
て行幸ありよわき御心ちにも春宮の御事をかへす/\
聞えさせ給てつきには大将の御こと侍りつる世にかわらす大小の
ことをへたてす何ことも御うしろみとおほせよはひの程よりは世」(8オ)
をまつりこたんにもおさ/\はゝかり有ましうなんみ給ふるかなら
す世中たもつさうある人也さるによりてわつらはしさにみこにも
なさすたゝ人にておほやけの御うしろみをせさせんと思給へ
し也その心たかへさせ給なと哀なる御ゆいこんともおほかり
けれと女のまねふへきことにしあらねは此かたはしたにかたはら
いたしみかともいとかなしとおほしてさらにたかへきこえさすま
しきよしをかへす/\きこえさせ給御かたちもいときよらにね
ひまさらせ給へるをうれしくたのもしくみ奉らせ給かきり
あれはいそきかへらせ給にも中/\なることおほくなん春宮も
ひとたひにとおほしめしけれと物さはかしきにより日をかへて」(8ウ)
わたらせ給へり御年のほとよりはおとなひうつくしき御さま
にて恋しと思ひきこえさせ給けるつもりに何心もなく
うれしとおほして見たてまつらせ給御けしきいと哀なり
中宮はなみたにしつみたまへるをみ奉らせ給もさま/\
御こゝろみたれておほしめさるよろつのことをきこえし
らせ給へといとものはかなき御ほとなれはうしろめたくかな
しとみたてまつらせ給大将にもおほやけにつかまつらせ
たまふへき御心つかひこの宮の御うしろ見し給へき事
をかへす/\のたまはすよふけてそかへらせ給のこる人なく
つかうまつりてのゝしるさま行かうにおとるけちめなし」(9オ)
あかぬほとにて帰らせ給をいみしうおほしめすおほきさき
も参りたまはんとするを中宮のかくそひおはするに
御心をかれておほしやすらふほとにをとろ/\しきさま
にもおはしまさてかくれさせ給ぬあしをそらにおもひま
とふ人おほかり御位をさらせ給といふはかりにこそあれ
よのまつりことをしつめさせ給へることもわか御代の
おなしことにておはしまいつるをみかとはいとわかうをはし
ますおほちおとゝいときうにさかなくをはしてその御
まゝになりなんよをいかならむとかんたちめ殿上人みな
おもひなけく中宮大将とのなとはましてすくれて物もお」(9ウ)
ほしわかれすのち/\の御わさなとけうしつかうまつり
給ふさまもそこらの御こたちの御中にすくれたまへる
をことわりなからいと哀によ人もみ奉るふちの御そにやつ
れたまへるにつけてもかきりなくきよらに心くるしけ也
こそことしとうちつゝきかゝる事を見たまふによもいと
あちきなうおほさるれとかゝるつゐてにもおほしたゝる
ることはあれとまたさま/\の御ほたしおほかり御四十九日ま
ては女御宮す所たちみな院につとひ給へりつるを過ぬ
れはちり/\にまかてたまふしはすの廿日なれは大かたの
世中とちむる空のけしきにつけてもましてはるゝよな」(10オ)
き中宮の御心のうちなりおほきさきの御こゝろもしり
たまへれは心にまかせたまへらむ世のはしたなく住う
からんをおほすよりもなれきこえたまへる年比の御あり
さまをおもひ出きこえたまはぬときのまなきにかくてもお
はしますましうみなほか/\へと出たまふほとにかなしき
事かきりなし宮は三条のみやにわたり給御むかへに
兵部卿の宮まいりたまへり雪うちゝり風はけしう
て院のうちやう/\人めかれゆきてしめやかなるに大将殿
こなたに参り給ひてふるき御物かたりきこえ給おまへの
五えうのゆきにしほれて下葉かれたるをみ給てみこ」(10ウ)
かけひろみたのみし松やかれにけん下葉ちり行
年のくれかななにはかりのことにもあらぬに折から物あは
れにて大将の御袖いたうぬれぬ池のひまなうこほれるに
さえわたるいけのかゝみのさやけきにみなれしかけを
見ぬそかなしきとおほすまゝにあまり/\わか/\しうそあ
るや王命婦
歳暮て岩井の水もこほりとちみし人影のあせ
もゆく哉そのつゐてにいとおほかれとさのみかきつゝく
へきことかはわたらせ給きしきかはらねとおもひなしに哀に
てふるきみやはかへりて旅心ちしたまふにも御さと住」(11オ)
たえたる年月のほとおほしめくらさるへしとしかへりぬ
れとよのなかいまめかしきことなくしつか也まして大将殿
はものうくてこもり居給へりちもくの比なと院の御時をは
さらにもいはすとし比おとるけちめなくてみかとのわたり
所なくたちこみたりしむまくるまうすらきてとのゐ物
の袋おさ/\みえすしたしきけいしはかりことにいそく
事なけにあるを見給にもいまよりはかくこそはと思ひやら
れて物すさましくなんみくしけとのは二月にないしのかみ
に成給ぬ院の御思ひにやかてあまになりたまへるかはり
なりけりやんことなくもてなして人からもいとよくおはす」(11ウ)
れはあまたまいりあつまり給中にもすくれてと
きめき給后はさとかちにおはしまいて参り給とき
の御局には梅つほをしたれはこき殿にはかんの
君すみ給とう花殿のむもれたりつるにはれ/\しう
なりて女房なともかすしらすつとひ参りていまめ
かしうはなやき給へと御心のうちは思ひのほかなりし
ことゝもを忘れかたくおもひ嘆き給いと忍ひてかよ
はしたまふ事はなを同しさま成しものゝきこえもあ
らはいかならんとおほしなから例の御くせなれはいまし
も御心さしまさるへかめり院のおはしまいつるよこそはゝ」(12オ)
かりたまひつれきさきの御心いちはやくてかた/\おほ
しつめたることゝものむくひせんとおほすへかめり事
にふれてはしたなきことのみ出くれはかゝるへき
事とはおほししかとみしり給はぬよのうさにたちまふ
へくもおほされす左の大臣とのもすさましき心ちし
たまひてことにうちにも参り給はすこひめ君をひ
きよきてこの大将の君にきこえつけ給ひし御心
をきさきはおほしをきてよろしうもおもひきこえ
たまはすおとゝの御なかももとよりそは/\しうおは
するこ院の御よにはわかまゝをせしを時うつりて」(12ウ)
したりかほにおはするをあちきなしとおほしたる
もことはり也大将はありしにかはらすわたりかよひて
さふらひし人/\をもなか/\こまかにおほしおきてわか
君をかしつきおもひ聞えたまへる事かきりなけれは
哀に有かたき御心といとゝいたつききこえたまふこと
ともおなしさま也かきりなき御おほえのあまりもさ
はかしきまていとまなけに見えたまひしをかよひ
給し所ところもかた/\にたえ給ことゝもあるかる
かるしき御しのひありきもあひなうおほしなりて
ことにしたまはねはいとのとやかにいましもあらま」(13オ)
ほしき御有さま也西のたいの姫君そ御さいはひを
よひともめてきこゆ少納言なとも人しれすこあま
うへの御いのりのしるしと見奉るちゝみこもおもふ
さまにきこえかはし給むかひはらのかきりなくとお
ほすははる/\しうもえあらぬにねたけなること
おほくてまゝ母の北のかたはやすからすおほすへし
物かたりにこと更につくり出たるやうなる御有さま也
斎院は御ふくにておりゐたまひにしかは朝顔のひめ君
かわりにゐ給ひにき賀茂の斎にはそわうのゐ給
例おほくもあらさりけれとさるへき女みこやおはせ」(13ウ)
さりけん大将の君とし月ふれとなを御心はなれ
たまははさりつるをかうすちことになり給ぬれはくち
おしとおほす中将にをとつれ給ことも同しことに
て御ふみなとは絶さるへし昔にかわる御ありさまな
とをはことになにとおほしたらすかやうのはかなし
事ともをまきるゝことなきまゝにこなたかなたと
おほしなやめりみかとは院の御ゆいこんたかへす哀
におほしたれとわかうおはしますうへに御心なよひたる
かたに過てつよき所おはしまさぬなるへし母后おほち
おとゝとり/\にしたまふ事はそむき給はすよのま」(14オ)
つりこと御心にかなはぬやうなりわつらはしさのみまさ
れとかむの君は人しれぬ御心しかよへはわりなくても
おほつかなくはあらす五たんのみすほうのはしめにて
つゝしみおはしますひまをうかゝひて例の夢のやうに
きこえ給かのむかしおほえたるほそとのゝ局に中
納言の君まきらはしていれ奉る人めもしけきころ
なれはつねよりもはしちかなる空おそろしうおほゆ
朝夕に見奉る人たにあかぬ御ありさまなれはまし
てめつらしきほとにのみある御たいめのいかてかはを
ろかならん女の御さまもけにそめてたき御さかりなる」(14ウ)
おもりかなる方はいかゝあらむおかしうなまめきわたる
こゝちしてみまほしき御けはひ也ほとなくあけ行にや
とおほゆるにたゝこゝにしもとのゐ申さふらふとこ
はつくり(り=る)也またこのわたりにかくろへたるこのへつかさそ
あるへきはらきたなきかたへのをしへおこするそかしと
大将はきゝ給もおかしき物からわつらはしこゝかしこ尋あ
りきてとらひとつと申也女君
こゝろからかた/\袖をぬら(ら+す)かなあくとをしふる
声につけてものたまふはかなたちていとおかし
嘆きつゝ我世はかくてすくすとやむねのあく」(15オ)
へき時そともなくしつこゝろなくて出給ぬよふか
きあか月つきよのえもいはす霧わたれるにいといと
うやつれてふるまひなし給へるしもにる物なき
御ありさまにて承香殿の御せうとの頭の少将藤
つほより出て月のすこしくまあるたてしとみの
もとにたてりけるをしらて過給ける(る$んこ)そいとをし
けれもときゝこゆるやうも有けんかしかやうの事
につけてももてはなれつれなき人の御心をかつは
めてたしとおもひ聞え給ものから我心のひく方に
てはなをつらうこゝろうしとおほえ給おりおほかり」(15ウ)
うちに参り給はんことはうゐ/\しく所せくおほし
なりて春宮を見たてまつり給はぬをおほつかな
くおもほえ給またゝのもしき人もものしたまはぬ
たゝこの大将の君をそよろつにたのみきこえ給へる
に猶このにくき御心のやまひ(ひ$ぬ)にともすれは御むねを
つふし給つゝいさゝかもけしき御覧ししらすなりにし
を思たにいとおそろしきに今更にまたさる事のき
こえありて我身はさる物にて春宮の御ためにかな
らすよからぬ事いてき南とおほすにいとをそろし
けれは御いのりをさへせさせてこの事おもひやませた」(16オ)
てまつらむとおほしいたらぬことなくのかれ給をいかなる
折にかありけんあさましうてちかつき参りたまへり
こゝろふかくたはかり給けんことをしるひとなかりけれは
ゆめのやうにそありけるまねふへきやうもなくき
こえつゝけたまへと宮いとこよなくもてはなれきこえ
給てはて/\は御むねをいたうなやみたまへはち
かうさふらひつる命婦弁なとあさましうみたて
まつりあつかふおとこはうしつらしとおもひきこえ給こと
かきりなきに来し方行さきかきくらし(し$す)心ちしてうつ
しこゝろうせにけれはあけはてにけれと出たまは」(16ウ)
すなりぬ御なやみにおとろきて人/\ちかう参りて
しけうまかへは我にもあら(ら+て)ぬりこめにおしいれら
れておはす御そともかくしもたる人/\の心ちとも
いとむつかし宮はものをいとわひしとおほしけるに御けあか
りて猶なやましうせさせ給兵部卿宮大夫なと参り
てそうめせなとさはくを大将いとわひしうきゝおはす
からうして暮ゆくほとにそおこたりたまへるか
くこもり居たまへらむとはおほしもかけす人/\も又
御こゝろまとはさしとてかくなんとも申さぬなるへし
ひるのおましにいさり出てをはしますよろしうおほさるゝ」(17オ)
なめりとて宮もまかてたまひなとしておまへ人すく
なになりぬれいもけちかくならさせ給人すくなけれは
こゝかしこのものゝうしろなとにそさふらふ命婦の君
なとは如何にたはかりていたしたてまつらんこよひ
さへ御けあからせ給はんいとおしうなとうちさゝめきあ
つかふ君はぬりこめのとのほそめにあきたるを
やおらおしあけてみひやうふのはさまにつたひいり
給ぬめつらしき(き$く)うれしきにも泪は落てみたてまつり
給なをいとくるしうこそあれよやつきぬらんとてとの
かたを見いたしたまへるかたはらめいひしらすなまめかしう」(17ウ)
見ゆ御くた物をたにとてまいりすへたり箱のふた
なとにもなつかしきさまにてあれと見いれ給はす世中
をいたうおほしなやめるけしきにてのとかになかめ入
たまへるいみしうらうたけ也かんさしかしらつき御くし
のかゝりたるさまかきりなきにほはしさなとたゝかのたい
の姫君にたかふ所なし年比すこしおもひ忘れ給へ
りつるをあさましきまておほえたまへるをとみた
まふまゝにすこしものおもひのはるけ所ある心ちし給
けたかうはつかしけなるさまなとも更にこと人とも
思ひわきかたきを猶かきりなくむかしよりおもひしめに(に$)き」(18オ)
こえてし心のおもひなしにやさまことにいみしうね
ひまさり給にけるかなとたくひなくおほえ給に心まと
ひしてやをらみちやうのうちにかゝつらひいりて御
そのつまをひきならし給けはひしるくさと匂ひた
るに浅ましうむくつけうおほされてやかてひれふし
たまへりみたにむき給へかしと心やましくてひきよせ
たまへるに御そをき(き$す)へしのきてゐさりのき給にこゝ
ろにもあらす御くしのとりそへられたりけれはいと心
うくすく世のほとおほししられていみしとおほし
たり男もこゝら世をもてしつめ給御心みたれて」(18ウ)
うつしさまにもあらすよろつのことをなく/\うらみ
きこえたまへとまことに心つきなしとおほしていらへも
きこえ給はすたゝ心ちのいとなやましきをかゝらぬ折
もあらはきこえてむとのたまへとつきせぬ御心のほと
をいひつゝけ給さすかにいみしときゝたまふしもましる
らんとあらさりし事にはあらねとあらためていと
口おしうおほさるれはなつかしき物からいとようの
たまひのかれてこよひも明ゆくせめてしたかひ
きこえさらんもかたしけなく心はつかしき御けはひな
れはたゝかはかりにても時/\いみしきうれへをた」(19オ)
にはるけはへりぬへくは何のおほけなき心も侍ら
しなとたゆめきこえたまふへしなのめなることたに
かやうなるなからひは哀なることもそふるなるをまし
てたくひなけなり明はつれはふたりしていみしきこと
ともをきこえ宮はなかはゝなきやうなる御けしきの
心くるしけれは世中にありときこしめされんもいとは
つかしけれはやかてうせはへり南もまたこの世なら
ぬつみとなり侍ぬへき事なと聞え給もむくつけす
きておほしいれたり
あふことのかたきをけふにかきらすは今いく夜」(19ウ)
をかなけきつゝへん御ほたしにもこ(こ+そ)と聞え給へは
さすかにうち嘆たまひて
長きよのうらみをひとに残してもかつは心を
あたとしらなんはかなくいひなさせ給へるさまのいふ
よしなきこゝちすれと人のおほさん所もわか御ため
もくるしけれは我にもあらて出たまひぬいつこをゝ
もてにてかはまたもみえたてまつらんいとおしとおほし
しるはかりとおほして御ふみもきこえ給はすうち絶
てうち春宮にも参り給はすこもりおはしておき
ふしいみしかりける人の御心かなとひとわろく恋」(20オ)
しうかなしきにこゝろたましゐもうせにけるにや
なやましうさへおほさるもの心ほそくなそや世に
ふれはうさこそまされとおほしたつにはこの女君の
いとらうたけにて哀にうちたのみ聞えたまへる
をふりすてん事いとかたし宮もそのなこり例にも
おはしまさすかうこと更めきてこもり居をとつれ
たまはぬを命婦なとはいとおしかりきこゆ宮も
春宮の御ためをおほすには御心おき給はん事いと
おしく世をあちきなきものに思ひなりたまはゝひ
たみちとおほしたつこともやとさすかにくるしうお」(20ウ)
ほさるへしかゝることたえすはいとゝしきよにう
き名さへもりいて南おほ后のあるましきことにのたまふ
なる位をもさりなんとやう/\おほしなる院のおほし
のたまはせしさまのなのめならさりしを思し出るにも
よろつのことありしにもあらすかわりゆく世に
こそあめれ戚夫人のみけむめのやうにはあらすとも
かならす人わらへなる事は有ぬへき身にこそあ
めれなとうとましく過しかたうおほさるれはそむき
なんことをおほしとるに東宮見たてまつらん(ん$て)おも
かわりせんこと哀におほさるれは忍ひやかに参りた」(21オ)
まへり大将の君はさらぬことたにおほしよらぬ事
なくつかうまつり給を御こゝちなやましきにことつけ
て御おくりにもまいりたまはす大方の御とふらひおな
しやうなれとむけにおほしくしにけると心しると
ちはいとおしかりきこゆ宮はいみしううつくしうおと
なひたまひてめつらしう嬉しとおほしてむつれき
こえ給をかなしと見奉り給ふにもおほしたつ
すちはいとかたけなれとうちわたりを見たまふにつ
けても世のありさま哀にはかなくうつりかわること
のみおほかり大后の御こゝろもいとわつらはしうてかく」(21ウ)
出入給にもはしたなく事にふれてくるしけれは
宮の御ためにもあやうくゆゝしうよろつにつけて
おほしみたれて御覧せて久しからむほとにかたちの
ことさまにてうたてけにかわりて侍らはいかゝおほさ
るへきときこえ給へは御かほをうちまもりたまひてし
きふかやうにやいかてさはなりたまはんとゑみて
のたまふいふかひなく哀にてそれは老て侍れはみ
にくきそさはあらてかみはそれよりもみしかくてく
ろききぬなとをきてよゐの僧のやうに成侍なん
とすれはみたてまつらん事もいとゝ久しかるへき」(22オ)
そとてなきたまへはまめたちて久しうおはせぬは
恋しきをとて泪のおつれははつかしとおほして
さすかにそむきたまへる御くしはゆら/\ときよらに
てまみのなつかしけにゝほひ給へるさまおとなひ
たまふまゝにたゝかの御かほをぬきすへたまへり御
くちのうちくろみてゑみ給へるかほりうつくしきは
女にて見たてまつらまほしうきよら也いとかうし
もおほえたまへるこそこゝろうけれと玉のきす
におほさるゝも世のわつらはしさの空おそろし
うおほえ給なりけり大将の君は宮をいと恋しう」(22ウ)
思ひきこえ給へとあさましき御こゝろのほとを時
/\はおもひしるさまにも見せ奉らんとねんしつゝ
すこし給に人わろくつれ/\におほさるれは秋野ゝも
見たまひかてら雲林院にまうて給へりこはゝ宮
すん所の御せうとのりしのこもり給へるはう
にて法文なとよみおこなひせんとおほして二三日
おはするに哀なることおほかり紅葉やう/\色つき
わたりて秋の野ゝいとなまめきたるなとみたまひ
て古郷も忘れぬへくおほさる法しはらのさえ有
かきりめし出てろんきせさせてきこしめさせ給ふ」(23オ)
所からにいとゝ世中のつねなさを思しあかしても
猶うき人しも(も+そ)とおほし出らるゝおし明かたの月影に
法師はらのあか奉るとてから/\とならしつゝきく
の花こきうすき紅葉なと折ちらしたるもはか
なけれとこのかたのいとなみこの世もつれ/\ならす後
のよはたたのもしけ也さもあちきなき身をもてなや
むかならすとおほしつゝけ給りしのいとたうとき
声にて念仏衆生摂取不捨とうちのへておこなひ
たまへるかいと浦山しけれはなそやとおほしなるに
先ひめ君のこゝろにかゝりておもひ出られ給ふそ」(23ウ)
いとわろき御心なるやれいならぬ日かすも心もとなく
のみおほさるれは御ふみはかりそしけうきこえたまふ
なる行はなれぬへしやと心み侍みちなれとつれ/\
もなくさめかたうこゝろほそさまさりてなんきゝさし
たることありてやすらひ侍ほとをいかになとみち
のくかみにうちとけかき給へるさへそめてたき
あさちふの露のやとりに君をゝきてよも
の嵐そしつこゝろなきなとこまやかなるに女君
もうちなきたまひぬ御返白きしきしに
風ふけはまつそみたるゝ色かわるあさちか」(24オ)
露にかゝるさゝかにとのみあり御手はいとをかしう
のみなりまさる物かなとひとりこちてうつくしと
ほゝゑみ給常にかきかはしたまへは我御手に
いとよくにて今すこしなまめかしう女しきところ
かきそへ給へり何事につけてもけしうはあらす
おほしたてたりかしとおもほす吹かふ風もちかき
ほとにて斎院にきこえたまひけり中将の君にかく
旅の空になんもの思ひにあくかれにけるをおほし
しるにもあらしかしなと恨たまひておまへには
かけまくもかしこけれともその神の秋お」(24ウ)
もほゆるゆふたすきかな昔をいまにと思給ふも
かひなくとりかへされんものゝやうにとなれ/\しけに
からのあさみとりのかみに榊にゆふつけなとかう/\
しうしなしてまいらせ給御かへり中将まきるゝこと
なくて来し方のことをおもひたまへいつるつれ/\の
まゝにはおもひやり聞えさすることおほく侍れとかひ
なくのみなんとすこしこゝろとゝめておほかりおまへ
のはゆふのかたはしに
そのかみはいかゝはありしゆふたすきこゝろに
かけて忍らんゆへちかき世にそある御てこまやかに」(25オ)
はあらねとらう/\しうさうなとおかしう成にけり
まして朝かほもねひまさりたまへらんかしとおもひ
やるもたゝならすおそろしや哀この比そかしのゝ
宮の哀なりしことゝおほしいてゝあやしうやうの
ものとかみうらめしうおほさるゝ御くせのみくるしき
そかしわりなうおほさはさも有ぬへかりし年
ころはのとかにすくいたまひて今はくやしうおもほ
さるへかめるもあやしき御心はへをみしりきこえた
まへれはたまさかなる御かへりなとはえしももては
なれきこえたまふましかめりすこしあひなきこと」(25ウ)
なりし六十巻といふ文よみたまひおほつかなき所/\
とかせなとしておはしますを山寺の(の$に)はいみしき光お
こなひいたし奉れりと仏の御めんほくありとあやし
のほうしはらまてよろこひあへりしめやかにて世中
をゝもほしつゝくるにかへらん事もものうかりぬへ
けれは人ひとりの御ことおほしやるかほたしなれはひ
さしうもえおはしまさて寺にもみす経いかめしう
せさせ給あるへきかきりかみしもの僧ともそのわ
たりの山賎まてものたひたうとき事のかきりを
つくして出たまふみ奉りおくるとてこのもかの」(26オ)
もにあやしきしはふる人ともゝあつまり居て泪
をゝとしつゝ見奉るくろき御車のうちにて藤の
御たもとにやつれ給へれはことにみえたまはねと
ほのかなる御ありさまをよになく思ひきこゆへかめり
女君は日ころのほとにねひまさり給へるこゝちして
いといたうしつまりたまひて世中いかゝあらんと
おもへるけしきのこゝろくるしう哀におほえたまへは
あひなき心のさま/\みたるゝやしるからむ色かわる
と有しもらうたうおほえてつねよりことにかたら
ひきこえ給山つとにもたせたまへりし紅葉おまへの」(26ウ)
に御覧しくらふれはことに染ましける露の心
も見過しかたうおほつかなさも人わろきまておほ
えたまへはたゝ大方にて宮にまいらせ給命婦
のもとにいらせ給にけるをめつらしきことにうけたまはる
に宮のあいたのことおほつかなくなり侍にけれはしつ
心なくおもひ給なからをこなひもつとめんなとおもひ
たち侍し日数をこゝろならすやなん日ころに成侍り
にけるもみちはひとり見侍ににしきくらうおもひたまふ
れはなん折よくて御覧せさせ給へなとありけに
いみしき枝ともなれは御めとまるに例のいさゝかなる物」(27オ)
ありけりひと/\見奉る御顔の色もうつろひて猶
かゝるこゝろのたえ給はぬこそいとうとましけれあたら
おもひやりふかうものしたまふ人のゆくりなくかう
やうなることおり/\ませ給を人もあやしと見る覧かし
とこゝろつきなく(く=う)おほされてかめにさゝせてひさしの
柱のもとにおしやらせ給つ大方のことゝも宮の御ことに
ふれたることなとをはうちたのめるさまにすくよか
なる御かへりはかりきこえ給へるをさもこゝろかしこく
つきせすもとうらめしうは見給へと何ことも後見きこえ
ならひ給にたれはひとあやしと見とかめもこそす」(27ウ)
れとおほしてまかてたまふへき日参り給へりまつ
うちの御かたにまいりたまへれはのとやかにをはします
ほとにて昔今の御物語きこえたまふ御かたちも院
にいとよう似たてまつりたまひていますこしなま
めかしきけはひそひてなつかしうなこやかにそおはし
ますかたみに哀とみたてまつり給かんの君の御事
も猶たえぬさまにきこしめしけしき御覧するおりも
あれと何かはいまはしめたることならはこそあらめあり
そめにけることなれはさもこゝろかはさむににけな
かるましきひとのあはひなりかしとそおほしなして」(28オ)
とかめさせ給はさりけるよろつの御物かたりふみの道
のおほつかなくおほしめさるゝことともなとゝはせた
まひてまたすき/\しき哥かたりなとも形見にき
こえかはさせ給ついてに彼斎宮のくたり給し日のこと
かたちのおかしくおはせしなとかたらせ給に我もうちと
けて野ゝ宮の哀なりし明ほのも皆きこえいて
たまひてけり廿日の月やう/\さしいてゝおかしき
ほとなるにあそひなともせまほしきほとかなとのたま
はす中宮のこよひまかてたまふなるとふらひにものし
侍らむ院のゝたまはせをくことはへりしかは又後見つ」(28ウ)
かうまつる人も侍らさめるに東宮の御ゆかりいとおし
うおもひたまへられ侍りてとそうし給東宮をは
今の御こになしてなとのたまはせおきしかはとりわきて
心さしものすれとことにさしわきたるさまにも何事を
かはとてこそ年のほとよりも御手なとのわさとかまし
こうそものしたまふへけれ何ことにもはか/\しから
ぬみつからのおもておこしに南とのたまはすれは大かた
したまふわさなといとさとくおとなひたるさまにものし
たまへとまたいとかたなりになとその御有さまなとそう
し給てまかて給ふにおほみやの御せうとの藤大納言の」(29オ)
この頭弁といふかよにあひ花やかなるわか人にておもふ
ことなき成へしいもうとのれいけい殿の御かたにゆくに
大将の御さきを忍ひやかにをへはしはし立とまりて
白虹日をつらぬけり太子をちたりといとゆるゝかに
うちすしたるを大将いとまはゆしと聞たまへとゝ
かむへきことかは后の御けしきはいとおそろしうわつらはし
けにのみ聞ゆるをかうしたしき人/\もけしきたち
いふへかめることゝもゝ有にわつらはしうおほされけれとつ
れなうのみもてなし給へりおまへにさふらひていまゝて
ふかし侍にけると聞え給月の花やかなるに昔か」(29ウ)
やうなるおりは御あそひせさせたまひていまめかしう
もてなさせ給しなとおほし出るに同しみかきのうち
なからかわれる事おほくかなし
九重に霧やへたつる雲の上の月をはる
かにおもひやるかなと命婦してきこえつたへ給
御けはひもほのかなれとなつかしうきこゆるにつらさも
わすられて先泪そ落る
月影はみしよの秋にかはらぬをへたつる霧
のつらくも有かな霞も人のとかむかしも侍ける
ことにやと聞え給宮は東宮をあかすおもひ聞えた」(30オ)
まひてよろつのことを聞えさせ給へとふかうもおほし
いれたらぬをいとうしろめたく思ひきこえ給例はいとゝ
おほとのこもるを出給まてはおきたらむとおほす成へし
うらめしけにおほしたれとさすかにえしたひ聞え
給はぬをいと哀と見奉り給ふ大将頭弁のすしつる
ことを思ふに御こゝろの鬼に世の中わつらはしうおほ
え給てかんの君にも音伝きこえたまはて久しう
なりにけり初時雨いつしかとけしきたつ日いかゝお
ほしけんかれより
木枯のふくにつけつゝ待しまにおほつかなさの」(30ウ)
ころもへにけりと聞え給へり折も哀にあなかちに忍
ひかきたまひつらむと御心はへもにくからねは御つかひ
とゝめてからの紙共いれさせ給へるみつしあけさせ
給てなへてならぬをえりいてつゝ筆なともこゝろことに
ひきつくろひ給へるけしきえむ成をお前なる人/\
たれはかりならむとつきしろふきこえさせてもかひ
なき物こりにこそむけにくつをれにけれ身のみう
きほとに
あひ見すて忍ふるころの泪をもなへての
秋のしくれとやみるこゝろのかよふならは如何になかめ」(31オ)
の空も物忘れし侍らんなとこまやかになりにける
かやうにおとろかし聞ゆるたくひおほかめれと情
なからすうちかこちたまひて御心にはふかうしま
さるへし中宮は院の御はてのことにうちつゝき御
八かうのいそきをさま/\にこゝろつかひせさせ給けり
霜月のついたちころ御こきなるに雪いたうふり
たり大将殿より宮にきこえ給
別にし今日ふはくれともみし人に行あふほと
をいつとたのまんいつくにも物かなしうおほさるゝほ
とにて御かへりあり」(31ウ)
なからふるほとはうけれと行廻り今日はその
よにあふ心ちしてことにつくろひてもあらぬ御書
さまなれとあてにけたかきはおもひなし成へしす
ちかわりいまめかしうはあらねと人にはことにかゝせ給
へりけふは此御こともおもひけちて哀なる雪のし
つくにぬれ/\おこなひ給十二月十よ日はかり中
宮の御八講也いみしうたうとし日々に供養せ
させ給御経よりはしめ玉のちく羅のへうしちすの
かさりも世になきさまにとゝのへさせ給へりさらぬ事
のきよらたによの常ならすおはしませはまして」(32オ)
ことはり也仏の御かさりはなつくゑのおほひなとまて
まことの極楽おもひやらる初の日は先帝の御れう
つきの日ははゝきさきの御ため又の日は院の御れう五
巻の日なれはかんたちめなとも世のつゝましさをえ
しもはゝかり給はていとあまた参り給へり今日の
かうしは心ことにえらせ給へれは薪こるほとより打
初め同しういふことの葉もいみしうたうとしみこ
達もさま/\のほうもちさゝけてめくり給に大将殿
の御ようゐなと猶似る物なし常におなしことの
やうなれと見奉るかひことに珍敷からむをはいかゝは」(32ウ)
せむはての日我御事をけちくわんにて世をそ
むきたまふよし仏に申させ給に皆人/\おとろきた
まひぬ兵部卿の宮大将の御心もうこきて浅ましと
おほすみこはなかはのほとにたちていり給ぬこ/\ろつ
ようおほし立さまをのたまひてはつるほとに山の座
主めしていむことうけ給へきよしのたまはす御をち
の横川の僧都ちかう参りたまひて御くしおろし
給ほとに宮のうちゆすりてゆゝしうなきみちたり
何となき老おとろへたる人たに今はと世をそむく
ほとはあやしう哀なるわさをまして兼ての御けし」(33オ)
きにもいたし給はさりつることなれはみこもいみしう
なき給参りたまへるひと/\も大方のことのさまも
哀にたうとけれは皆袖ぬらしてそ帰りたまひ
ける古院の御子たちは昔の御有さまをおほし
いつるにいとゝ哀にかなしうおほされて皆とふらひ
聞え給大将は立とまり給て聞え給へきかたもくれ
まとひておほさるれとなとかさしもとひと見た
てまつるへけれはみこなといて給ひぬる後に
そおまへに参り給へる漸人しつまりて女房とも
はなうちかみ所々にむれ居たり月はくまなきに」(33ウ)
雪の光あひたる庭のありさまも昔の事お
もひやらるゝにいとたへかたうおほさるれといとよう
おほししつめて如何やうにおほしたゝせたまひ
てかうにはかにはと聞えたまふ今初ておもひ
給ることにもあらぬを物さはかしきやうなりつれは
こゝろ乱れぬへくなと例の命婦して聞え給
みすのうちのけはひそこらつとひさふらふ人のきぬ
の音なひしめやかにふるまひなして打みしろきつゝ
かなしけさのなくさめかたけ也(也$に)もり聞ゆるけしき
ことはりにいみしと聞給風はけしう吹ふゝきて」(34オ)
みすのうちの匂ひいと物ふかきくろほうにしみて
名香の煙もほのか也大将の御匂ひさへかほりあひめて
たく極楽のおもひやらるゝ夜のさま也東宮の御
つかひも参れりのたまひしさまおもひいて聞え
させ給に御こゝろつよさもたえかたくて御返もき
こえさせやらせ給はねは大将そことくはへ聞え給
けるたれも/\ある限りこゝろおさまらぬほとな
れはおほす事ともゝえうち出給はす
月のすむ雲井をかけてしたふともこの
世の闇になをやまとはんとおもひたまへらるゝこそ」(34ウ)
かひなくおほしたゝせ給つる浦山しさは限なう
とはかり聞えたまひて人/\ちかうさふらへはさ
ま/\みたるゝ心のうちをたにえ聞えあらはし給
はすいふせし
大方のうきにつけてはいとへともいつかこの世を
そむきはつへきかつにこりつゝなんとかたへは御つかひ
の心しらひなるへし哀のみつきせねはむねくるしう
てまかて給ぬ殿にてもわか御かたに独(独+うち)ふし給ひて
御めもあはす世中いとはしうおほさるゝにも春宮
の御事のみそ心くるしきはゝ宮をたにおほやけ」(35オ)
さまにとおほしをきてしをよのうさにたへす
なり給へれはもとの御位にてもえおはせし我さへ
見奉りすてゝはなとおほしあかすもかきりなし
今はかゝるかたさまの御てうとゝもをこそはとおほせは
年のうちにといそかせ給命婦の君も御供に
なりにけれはそれもこゝろふかうとふらひ給く
はしういひつゝけんにこと/\しきさまなれはもらし
てけりなめりさるはかうやうの折こそおかしき哥な
といてくるやうもあれさう/\しや参り給ふもい
まはつゝましさうすらきて御みつから聞え給折も」(35ウ)
有けりおもひしめてしことは更に御心にはなれねと
ましてあるましき事なりかし年もかわりぬれは
内わたり花やかに内えむたうかなと聞給もものゝ
み哀にて御おこなひしめやかにし給つゝ後の
世のことをのみたのもしくむつかしかりしことはなれ
ておほさる常の御ねんすたうをはさる物にて
ことに建られたる御堂の西のたいの南にあた
りてすこしはなれたるにわたらせ給てとりわきた
る御おこなひせさせ給大将参りたまへりあら
たまるしるしもなく宮のうちのとかに人め」(36オ)
稀にて宮つかさ共のしたしき計うちうなた
れて見なしにやあらむくしいたけにおもへり
あを馬はかりそ猶ひきかえぬ物にて女房なと
のみける所せう参りつとひ給し上達めなと道
をよきつゝ引過てむかひの大いとのにつとひ給を
かゝるへき事なれと哀におほさるゝに千人
にもかへつへき御さまにてふかう尋参り給へる
を見るにあいなく泪くまるまらうともいともの
哀成けしきにうちみはし給ひてとみにものも
のたまはすさまかはれる御すまゐにみすの」(36ウ)
はしみ木帳もあをにひにてひま/\よりほしみ
えたるうすにひ口なしの袖くちなと中/\なま
めかしう奥ゆかしうおもひやられ給とけわたる池
のうす氷きしの柳のけしきはかりは時を忘れぬな
とさま/\なかめられ給てむへも心あると忍ひやか
に打すし給へる又なうなまめかし
なかめかる海士のすみかとみるからに先しほ
たるゝ松かうらしまと聞えたまへはおくふかうも
あらす皆仏にゆつりきこえたまへるおまし所なれ
はすこしけちかき心ちして」(37オ)
ありし世の名残たになきうら嶋にたちよる
波のめつらしきかなとのたまふもほのきこゆれは
忍ふれと泪のほろ/\とこほれ給ぬ世をおもひす
ましたるあま君たちのみるらむもはしたなけれは
ことすくなにて出給ぬさもたくひなくねひまさ
り給かな心もとなき所なく世にさかへ時にあひ
給しときはさるひとつものにて何につけてか世を
おほししらむとをし斗られたまひしを今はいと
いたうおほししつめてはかなきことにつけても
物哀なるけしきさへそはせ給へるはあいなう心」(37ウ)
くるしうも有かななとおひしらへる人/\うちな
きつゝめて聞ゆ宮もおほし出ることおほかるつかさ
めしのころこの宮の人は給はるへきつかさもえす大
かたのたうりにても宮の御給はりにてもかなら
すあるへきかゝいをたにえせすなとしてなけくたく
ひおほかりかくてもいつしかと御位をさりみふなと
のとまるへきにもあらぬをことつけてかわることお
ほかり皆兼て覚しすてしよなれと宮人ともゝ
より所なけにかなしとおもへるけしきともにつけて
そ御こゝろうこく折/\あれと我身をなきにな」(38オ)
しても春宮の御世をたいらかにおはし
まさはとのみおほしつゝ御おこなひたゆみなくつ
とめさせ給人しれすあやうくゆゝしう思ひ聞え
させ給ことしあれはわれにそのつみをかろめて
ゆるし給へと仏を念しつゝ聞え給によろつをなく
さめ給大将もしか見奉り(り$ら)せ給てことはりに覚す
このとのゝ人ともゝ又同しさまにからきことのみあれは
世中はしたなくおほされてこもりおはす左のおとゝ
も大やけわたくしひきかへたるよの有さまに
物うく覚してちしのへう奉り給を御門は故」(38ウ)
院の止事なくおもき御後見と覚してなかき世の
かためと聞えおき(き+給)し御ゆい言をおほしめすに
すてかたきものに思ひ聞え給へるかひなきことゝた
ひ/\もち居させ給はねとせめてかへさひ申給て
籠居給ぬ今はいとゝひとそうのみかへす/\さ
かえ給こと限なし世のおもしとものし給へるお
とゝのかく世をのかれ給へは大やけも心ほそうおほ
され人もこゝろあるかきりは嘆ける御こともはい
つれともなく人からめやすくよにもちゐられて
心ちよけにものしたまひしをこよなうしつま」(39オ)
りて三位中将なとも世を思しつめるさまこよ
なし彼四の君をもなをかれ/\にうち通ひつゝ
めさましうもてなされたれはこゝろとけたる
御むこのうちにもいれ給はす思ひしれとにやこの
たひのつかさめしにももれぬれといとしもおもひ
いれす大将殿かうしつかにておはするに世は
はかなきものと見えぬるをましてことはりと覚し
なして常に参りかよひ給つゝ学文をもあそ
ひをも諸友にし給に古しへもゝのくるをしきま
ていとみ聞えたまひしをおほし出てゝかたみに」(39ウ)
今もはかなき事につけつゝさすかにいとみ給へり
春秋のみと経をはさる物にてりんしにもさま
/\たうときことゝもをせさせ給なとして又徒に
いとまありけなるはかせ共めしあつめて文造り
ゐんふたきなとやうのすさひわさともをもしなと
心をやりて宮仕をもおさ/\し給はす御こゝろに
任てうちあそひておはするを世中にはわつらはし
き事ともやう/\いひ出る人/\あるへし夏の雨
のとやかにふりてつれ/\なるころ中将さるへき
しふともあまたもたせて参り給へりとのにもふとの」(40オ)
あけさせ給てまたひらかぬみつしとものめつらし
き古き集のゆへなからぬすこしゑり出させ給て
その人/\わさとはあらねと餘多めしたり殿上人
も大学のもおほうつとひて左右にこまとりにかた
わかせ給へるかけものともなといとになくていとみ
あへりふたきもて行まゝにかたきゐんのもしとも
いとおほくておほえ有はかせともなとのまとふ
所/\をとき/\うちの給さまいとこよなき御さ
えのほと也いかてかうしもたらひ給けん猶さるへ
きにてよろつのこと人にはすくれ給へるなりけりと」(40ウ)
めて聞ゆつゐに右負にけり二日計ありて
中将まけわさしたまへりこと/\しうはあらてなまめ
きたるひはりこともかけ物なとさま/\にてけふ
も例の人/\おほめ(め$)くめして文なとつくらせ給はし
のもとのさやうひけしき計咲て春秋の花さかり
よりもしめやかにおかしきほとなるにうちとけ
あそひ給中将の御このことし初る殿上するやつ
こゝのつはかりにて声いとおもしろくさうの笛吹
なとするをうつくしひもてあそひ給四の君はら
の二らうなりけり世の人のおもへるよせおもくてお」(41オ)
ほえことにかしつける心はへもかと/\しう
かたちもおかしくて御あそひのすこしみたれ
行ほとに高砂をいたしてうたふいとうつくし
大将の君御そぬきてかつけ給例よりうち乱れ
たまへる御顔のにほひにる物なくみゆうす
ものゝなをしひとへをきたまへるにすきて(て$た)まへ
るはたつき増ていみしう見ゆるをとし老たる
はかせ共なと遠く見奉りて泪おとしつゝ居た
りあはまし物をさゆり葉のとうたふとちめに
中将御かわらけ参り給」(41ウ)
それもかと今朝ひらけたる初花におとら
ぬ君か匂ひをそみるほゝゑみてとり給
時ならて今朝さく花は夏の雨にしほれに
けらし匂ふほとなくおとろへにたる物をとうち
さうときてらうかはしくきこしめしなすをとかめ
いてつゝしみ聞え給おほかめりしことゝもゝかうやう
なる折のまほならぬこと数/\かきつくるこゝち
なきわさとかつらゆきかいさめたうるゝかたにてむつ
かしけれはとゝめつ皆此御ことをほめたるすちに
のみやまとのもからのもつくりつゝけたるわか御心ち」(42オ)
にもいたう覚しおこりて文王の子武王のおとゝと
うちすし給へる御名乗さへそけにめてたき成王
のなにとかのたまはんとすらむそれ計やまた
こゝろもとなからむ兵部卿の宮も常に渡り給
つゝ御遊なともおかしき御あはひ共也そのころかん
の君まかて給へりわらはやみにひさしうなやみ給て
ましなゐなとも心やすくせんとて成けりす法
なとはしめておこたり給ぬれは誰も/\うれしう
おほすに例のめつらしきひまをと聞えかわし
給てわりなきさまにてよな/\たいめし給いと」(42ウ)
さかりにゝきはゝしきけはひし給へる人のすこし
うちなやみてやせ/\に成たまへるほといとおかし
け也后の宮もひと所におはするころなれはけはひ
おそろしけれとかゝる事しもまさる御くせなれは
いと忍ひてたひかさなりゆけはけしき見る人/\
も有へかめれとわつらはしうて宮にはさなんとは
けいせすおとゝはたおもひかけ給はぬに雨にはかに
おとろ/\しうふりて神いたうなりさわくあか月
にとのゝきん達宮つかさなとたちさわくこなた
かなたのひとめしけく女はう共もをちまとひて」(43オ)
ちかう(う+つとひ)参りにいとわりなく出給はん方なくて明
はてぬ御帳のめくりにも人/\しけくなみゐたれは
いとむねつふらはしくおほさる心ちしりの人ふたり
はかり心をまとはす神なりやみ雨すこしおやみ
ぬるほとにおとゝわたり給て先宮の御方におはし
けるをむら雨のまきれにてえしり給はぬにかろら
かにふとはひいり給てみすひきあけ給まゝに
如何にそいとうたて有つるよのさまにおもひやり
聞えなから参りこて南中将宮のすけなとさふ
らひつやなとの給けはひのしたとにあはつけきを」(43ウ)
大将はものゝまきれにも左のおとゝの御ありさま
ふと覚しくらへられてたとしへなうそほゝゑ
まれ給けにいりはてゝものたまへかしなかんの君いと
侘しうおほされてやをらゐさり出たまふにおもての
いたうあかみたるを猶なやましうおほさるゝにやと
見奉りたまうてなと御けしきの例ならぬものゝ
けなとのむつかしきをすほうのへさすへかりけりと
のたまふにうすふたあひなる帯の御そにま
つはれてひき出られたるを見つけ給てあやしと
おほさるゝにまたたゝむかみの手習なとしたる」(44オ)
御木帳のもとに落たりけり是は如何なるものとも
そと御心おとろかれてかれはたれかそけしき
ことなるものゝさまかなたまへそれとりてたかそと
み侍らむとの給にそうちみかへりて我も見つけ
給へるまきらはすへきかたもなけれはいかゝはいらへき
こえ給はん我にもあらておはするを子なからもはつ
かしとおほす覧かしとさはかりの人はおほしはゝ
かるへきそかしされといときうにのとめたる所おはせ
ぬおとゝのおほしもまはさすなりてたゝう紙をとり
給まゝに木帳より見いれ給へるにいといたうなよひ」(44ウ)
てつゝましからすそひふしたるおとこもあり今そ
やをら顔ひきかくしてとかうまきらはす浅ましう
めさましう心やましけれとひたおもてにはいかてか
あらはし給はんめもくるゝこゝちすれはこのたゝん
紙をとりてしん殿にわたり給ぬかんの君はわれかの
心ちしてしぬへくおほさる大将殿もいとおしう
つゐにようなきふるまゐの積りて人のもときを
をはんとすることゝおほせと女君のくるしき御けし
きをとかくなくさめ聞え給おとゝは思ひのまゝにこ
めたる所おはせぬ本上にいとゝ老の(の+御)ひかみさへそひ」(45オ)
給にたれは何事にかはとゝこほりたまはん行
ゆくと宮にも愁え聞え給かう/\のこと南侍この
たゝん紙は右大将の御手也むかしもこゝろ
ゆるされて有初にけることなれとひとからに
よろつのつみをゆるしてさてもみんといひ
侍りしおりは心もとゝめす目さましけにもてなさ
れにしかはやすからす思ひ給しかとさるへきにこ
そはとて世にけかれたりとも覚しすつま
しきをたのみにてかく本意のことくたてまつ
りなから猶其はゝかりありてうけはりたる女御」(45ウ)
なともいはせ侍らぬをたにあかす口惜う思給ふるに
又かゝる事さへ侍けれは更にいと心うくなんおもひ
なり侍ぬるおとこのれいとはいひなから大将もいとけ
しからぬみこゝろ成けり斎院をも猶聞えをかしつゝ
忍ひに御文かよはしなとしてけしき有ことゝ人の
かたり侍しをも世のためのみにもあらす我た
めもよかるましきことなれはよもさるおもひやり
なきわさしいてられしと南時のいうそくとあめ
のしたをなひかし給へるさまことなめれは大将のみ心
をうたかひ侍らさりつるなとの給に宮はいとゝしき御心」(46オ)
なれはいとものしき御けしきにてみかとときこゆれ
と昔より皆人おもひおとし聞えてちしのおとゝも又
なくかしつくひとつ娘をこのかみの坊にておはす
るには奉らておとゝの源氏にていときなきか元ふく
のそひふしにとりわき又この君をも宮つかへにと心さ
して侍しにおこかましかりし有さま成し誰/\も
あしとやはおほしたりし皆彼みかたにこそ御心
よせ侍めりしをそのほゐたかうさまにてこそ
はかくてもさふらひ給めれといとおしさにいかて
さる方にても人におとらぬさまにもてなし聞えん」(46ウ)
さはかりねたけなりし人のみるところもありなと
こそはおもひ侍りつれとしゐて我心のいるかた
になひき給にこそは侍らめ斎院の御ことはましてさも
あらむ何ことにつけても大やけの御かたにうしろ
やすからす見ゆるは東宮の御世心よせことなる
ひとなれはことはりになんあめるとすく/\しう
のたまひつゝくるにさすかにいとをしうなと聞えつる
事そとおほさるれはさわれしはしこのこともら
し侍らしうちにもそうせさせ給なかくのことつみ
はへりともおほしすつましきをたのみにてあまへ」(47オ)
て侍るなるへしうち/\にせいしのたまはんに
聞侍らすはそのつみにたゝみつからあたり侍らん
なときこえ直し給へとことに御けしきもなをらす
かくひと所におはしてひまもなきにつゝむ所なく扨(△&扨)
いりものせらる覧はこと更にかろめろうせらるゝにこそ
はとおほしなすにいとといみしう目さましく
このつゐてにさるへき事ともかまへいてんによきた
よりなりとおほしめくらすへし」(47ウ)