世の中かはりて後よろつ物うく覚され御身のやん
ことなさもそふにやかる/\しき御忍ひありきもつゝ
ましうてこゝもかしこもおほつかなさの嘆をかさね給
むくひにや猶我に難面人の御心をつきせすのみ覚
しなけく今はまして隙なうたゝ人のやうにてそ
ひおはしますをいま后は心やましう覚すにや内に
のみさふらひ給へは立なら(△&ら)ふ人なふ心やすけ也折
節にしたかひては御あそひなとを(△&を)好ましう世のひ
ひくはかりせさせ給ひつゝ今の御有様しもめてたし
たゝ春宮おそいと恋しう思ひ聞え給御うしろみの」(1オ)
なきをうしろめたう思ひ聞えて大将の君よろつき
こえつけ給かたはらいたき物からうれしと覚すまことや
かの六条の御息所の御はらの前坊の姫君斎宮
に居給ひにしかは大将の御心はへもいと頼もしけなきを
おさなき御ありさまのうしろめたさにことつ(つ+け)てくたり
やしなましとかねて覚しけり院にもかゝることなんとき
こし召て故宮のいとやんことなく覚しときめかし給ひし
物をかる/\しうおしなへたるさまにもてなすなるかい
とおしきこと斎宮おも此み子たちのつらになむ思へ
何方につけてもおろかならさ(△&さ)らむこそよからめ心」(1ウ)
のすさひにまかせてかくすきわさするはいと世のもとき
おひぬへき事也なと御けしきあしけれはわか御心にもけ
にと思ひしらるれはかしこまりてさふらひ給人(△&人)のため
はちかましきことなく何れもなたらかにもてなして女の
恨なおひそとの給ふにもけしからぬ心のおほけなさを
きこしめしつけたらん時とおそろしけれはかしこまりてまか
て給ひぬ又かく院にもきこしめしの給はするに人の御名も
わかためもすきかましういとおしきにいとゝやんことなく心
くるしきすちには思ひきこえ給へと又あらはれてはわ
さともてなし聞え給はす女もにけなき御年の程」(2オ)
をはつかしう(△&う)覚して心とけ給はぬけしきなれはそれに
つゝみたるさまにもてなして院にきこしめし入世中の人も
しらぬなくなりにたるをふかうしもあらぬ御心の程をいみ
しう覚しなけきけりかゝる事を聞給ふにも朝顔の姫
君はいかて人にゝしとふかうおほせははかなきさま成し
御返なともおさ/\なしさりとて人にくはしたなくはも
てなし給はぬ御けしきを君も猶ことなりと覚しわたるお
ほとのにはかくのみ定めなき御心を心つきなしと覚せと
余つ(△&つ)ゝまぬ御けしきのいふかひなけれはにやあ(△&あ)らんふかう
しもえし聞え給はす心くるしき様の御心地になやみ給て」(2ウ)
物心ほそけにおほひたりめつらしう哀と思ひ聞え給は
誰も/\嬉しき物からゆゝしう覚してさま/\の御つゝ
しみせさせ奉り給かやうなる程いとゝ御心のいとまなくて
覚しおこたるとはなけれとと絶おほかるへし其比斎院も
おり居給ひてきさいはらの女三宮ゐ給ぬみかと后いと
ことに思ひ聞え給へる宮なれはすちことに成給をいとく
るしう覚したれとこと宮達のさるへきおはせすきしき
なと常のかむわさなれといかめしうのゝしるまつりの程
限り有おほやけことにそふことおほく見所こよなし人
からと見えたりこけいの日上達めなとかす定まりてつか」(3オ)
うまつり給わさなれと覚えことにかたち有限りした
かさねの色うへのはかまのもむ馬くらまてみなとゝのへた
りとり分たるせむしにて大将の君もつかうまつり給かね
てより物見車心つかひしけり一条の大路所なくむく
つけきまてさはきたり所々の御さしき心/\にしつくしたる
しつらひ人の袖くちさへいみしき物見なりおほと(△&と)のに(△&に)はかや
うの御有きもおさ/\し給はぬに御心地さへなやましけれは
覚しかけさりけるをわかき人/\いてやおのかとち引忍ひ
て見侍らんこそはへなかるへけれおほよそ人たに今日の物
見には大将殿をこそはあやしき山かつさへ見奉らむと」(3ウ)
すなれ遠き国より子を引くしつゝまうてくなるを御覧
せぬはいとあまりも侍るかなといふを大宮聞しめして
御心地もよろ敷隙也さふらふ人/\もさう/\しけなめりと
てにはかにめくらしおほせて見給ふ日たけゆきてきし
きもわさとならぬさまにて出給へり隙もなう立わたり
たるによそおしう引つゝきて立わつらふよき女房車おほ
くてさう/\の人なき隙を思ひ定てみなさしのけさする中
にあむしろのすこしなれたるか下すたれのさまなとよ
しはめるにいたう引入てほのかなる袖くちものすそかさみ
なと物の色いと清らにて殊更にやつれたるけはひしるく」(4オ)
見ゆる車ふたつあり是は更にさやうにさしのけなとすへき
御車にもあらすとくちこはくて手ふれさせす何方に
もわかき物ともゑいすき立さはきたるほとの事はえした
ためあへすおとな/\しき御前の人/\はかくなゝといへとえ
とゝめあへす斎宮の御母宮息所もの覚しみたるゝな
くさめにもやと忍ひて出給へるをなりけりつれなしつくれ
とおのつから見しりぬさはかりにてはさないわせそ大将殿
おそかうけには思ひ聞ゆらんなといふをその御方の人もま
しれゝはいとおしと見なからよう意せむもわつらはしけれ
は知らす顔をつくるつゐに御車ともたてつゝけつ」(4ウ)
れは人たまひの奥におしやられて物も見(見+え)す心やまし
きおはさる物にてかゝるやつれをそれとしられぬるかいみ
しうねたきことかきりなししちなとも見なおしおられ
てすゝろなる車のとうにうちかけたれは又なう人わ
ろくくやしうなにゝきつらんと思ふにかひなし物も見て
かへらんとし給へととおり出ん隙もなきにことなりぬとい
へはさすかにつらき人の御前わたりのまたるゝも心よは
しやさゝのくまにたにあらねはにや難面すき給ふに
つけても中/\御心つくしなりけに常よりも好みとゝ
のへたる車ともの我も/\とのりこほれたる下すたれ」(5オ)
のすきまともさらぬかほなれとほゝゑみつゝしりめにとゝ
め給ふも有大殿のはしるけれはまめたちてわたり給ふ
御供の人/\うちかしこまり心はへありつゝわたるを
おしこたれたり有さまこよなうおほさる
影をのみ御手洗川の難面に身のうき程そ
いとゝしらるゝと涙のこほるゝを人の見るもはしたなけ
れとめもあやなる御さまかたちのいとゝしういてはへをみ
さらましかはとおほさる程ほとにつけてさうそく人の有
さまいみしくとゝのへたりと見ゆる中にも上達部
はいとことなるおひと所の御ゆかりにはおしけたれためり」(5ウ)
大将の御かりの随身に殿上のそうなとする事は常の
事にもあらす珍敷行幸なとの折のわさなるを今日
は右近のそうつかうまつれりさらぬ御随身共かたち
すかたまはゆくとゝのへて世にもてかしつかれ給へるさま木
草なひかぬは有ましけなりつほさうそくなといふ
すかたにて女房のいやしからぬにや又尼なとの世をそ
むきけるなともたうれまろひつゝ物見に出たるもれ
いはあなかちなりやあなにくと見ゆるにけふは理り
に口うちすけみてかみきこめたるあやしの物共の手を
つくりてひたひにあてつゝ見たてまつりあけたるも」(6オ)
おこかましけなるしつのおまておのかかほのならんさまを
はしらてゑみさかえたり何共見入給ましきゑせす
両のむすめなとさへ心のかきりつくしたる車共にのり
さまことさらひ心けさうしたるなむおかしきやう/\の
見物なりけるましてこゝかしこにうち忍ひてかよひ給所々
もおほかり式部卿の宮さしきにてそ見給ひけるいと
まはゆきまてねひゆく人のかたちかな神なとはめもこ
そとまり給へとゆゝ敷おほしたりひめ君は年比聞え
わたり給御心はへの世の人にゝぬをなのめならむにて
たに有ましてかうしもいかてと御心とまりけりいと近くて」(6ウ)
見えむまてはおほしよらすわかき人/\はきゝにくきまてめて
きこえあへりまつりの日は大殿には物も見たまはす大将
の君はかの御車の所あらそひをまねひ聞ゆる人有けれ
はいと/\おしううしと覚して猶あたらおもりかにおはす
る人の物に情をくれてすく/\しきところつき給へる
あまりにみつからはさしもおほさゝりけめともかゝるなから
ひは情かはすへき物ともおほいたらぬ御おきてにしたかひ
てつき/\よからぬ人のせさせたらむならむかし宮息所
は心はせのいとはつかしくよし有ておはする物をいかに
おほしうむしにけんといとおしうてまうて給へりけれと」(7オ)
斎宮のまたもとの宮におはしませは榊の葉はかりに事
つけて心やすくも対面し給はす理りとは覚しなから
なそやかく形見にそは/\しからておはせよかしと打つふや
かれ給ふ今日は二条院にはなれおはしてまつり見にゐて
給ふにしのたいにわたり給ひてこれ光に車の事おほ
せたり女房いてたつやとの給ひて姫君のいとうつくし
けにつくろひたてゝおはするをうちゑみて見たて(△&て)まつり
給君はいさたまへもろともに見んよとて御くしの常
よりも清らに見ゆるをかきいて給ひて久しうそき給
はさめるをけふはよき日ならんかしとてこよみのはかせ召」(7ウ)
て時とはせなとし給ふほとにまつ女房出ねとてわ
らはのすかたとものおかしけなるを御らんすいとらうた
けなるかみ共のすそはなやかにそきわたしてうきも
むのうへのはかまにかゝれるほとけさやかに見ゆ君の
御くしは我そかむとてうたて所せうも有かなとて
いかにおひやらんとすらんとそきわらひ給ふいとな
かき人もひたひかみはすこしみしかうそあめるをむ
けにおくれたるすちのなきやあまり情なからんとて
そきはてゝちいろといはひ聞え給ふを少納言
あはれにかたしけなしと見たてまつる」(8オ)
はかりなき千尋の底のみるふさのおひ
ゆく末は我のみそみむと聞え給へは
千尋ともいかてかしらむ定めなくみちひるしほ
ののとけからぬにと物にかきつけておはするさまらう/\
しき物からわかうおかしきをめてたしと覚すけふも
ところもなくたちにけりむまはのおとゝの程にたて
わらひて上達部の車ともおほくて物さはかしけなるわ
たりかなとやすらひ給ふによろしき女車のいたうの
りこほれたるより扇をさしいてゝ人をまねきよせて
こゝにやはたゝせ給はぬ所さり聞えむときこえたり」(8ウ)
如何なるすき物ならんとおほされて所もけによきわた
りなれは引よせさせたまひていかてえ給へる所そと
ねたさになんとの給へはよし有扇のつまをおりて
はかなしや人のかさせるあふひゆえ神のゆるし
のけふをまちけるしめのうちにはとあるてをおほし
いつれはかの内侍のすけのなりけり浅ましうふりかた
かたくもいまめくかなとにくさに
かさしける心そあたにおもほゆるやそうち人になへて
あふひを女わつらしと思ひ聞えけり
くやしくもかさしけるかな名のみして人頼めな」(9オ)
る草葉はかりをと聞ゆ人とあひのりてすたれをたに
あけ給はぬを心やましう思ふ人おほかり一日の御ありさ
まのうるはしかりしにけふは打みたれてありき給かし
たれならんのりならふ人けしうはあらしはやとおしはかり
聞ゆいとましからぬかさしあらそひかなとさう/\しく
おほせはかやうにいとおもなからぬ人はたひとあひ
のり給へるにつゝまれてはかなき御いらへも心やすく
聞えむもまはゆしかし宮息所は物を覚しみたる
る事年比よりもおほくそひにけりつらきかたに思
はて給へといまはとてふりはなれくたり給ひなむは」(9ウ)
いと心ほそかりぬへくよその人聞も人わらへにならん
事とおほすさりとて立とまりぬへく覚しなるには
かくこよなきさまにみな思ひくたすへかめるもやすから
すつりする海士のうけなれやとおきふし覚しわつらふ
けにや御心ちもうきたるやうにおほされてなやましう
し給ふ大将殿にはくたり給はむ事をもてはなれて(△&て)
有ましきことなともさまたけきこえ給はすかすならぬ身
をまうく覚しすてんも理りなれと今は猶いふかひ
なきにても御らむしはてむや浅からぬにはあらむと聞
えかゝつらひ給へは定めかね給へる御心もやなくさむと」(10オ)
立いて給へ(△&へ)りし御祓河のあらかりしせにいとゝよろつ
いとうく覚しいられたり大殿には御物のけめきて
いたうわつらひ給へは誰も/\おほしなけくに御あり
きなとひんなき比なれは二条院にもとき/\そわた
り給さはいへとやむことなき方はことに思ひ聞え給へ
る御なやみなれは心くるしうおほしなけきてみすほ
うやなにやなと我御かたにておほくをこなはせ給物
のけいきすたまなといふ物おほく出きてさま/\の
なのりする中に人にも更にうつらすたゝみつからの
御身につとそひたるさまにてことにおとろ/\しうわつ」(10ウ)
らはしう聞ゆる事もなけれと又かたときはなるゝおりも
なき物ひとつ有いみしきけむさ共にもしたかわすしう
ねきけしきおほろけの物にあらすとみえたり大将の君
の御かよひ所こゝかしことおほしあえるに此宮す所二条
の君なとはかりこそはをしなへてのさまには覚したらさ
めれは恨の心もふかゝらめとさゝめきて物ととはせ給へと
さして聞えあつる事もなし物の気とてもわさとふ
かき御かたきときこゆるもなしすきにける御めのとた
つ人もしはおやの御かたにつけつゝつたわりたる物のよ
はめに出きたるなとむね/\しからすそみたれあら」(11オ)
はるゝつく/\と音をのみ啼給ひて折/\はむねをせ
きあけつゝいみしう絶かたけにまとふわさをし給へはい
かにおはすへ(△&へ)きにかとゆゝしうかなしうおほしあはてたり
院よりも御とふらひ隙なく御祈の事まて覚しよらせ
給ふさまのかたしけなきにつけてもいとゝおしけなる人
の御身なり世中あまねくおしみ聞ゆるを聞給ふ
にも宮す所はたゝならすおほさる年ころはいとかくし
もあらさりし御いとみ心をはかなかりし所の車あら
そひに人の御心のうこきにけるをかの殿にはさまて
も覚しもよらさりけりかゝる御物思ひのみたれに御」(11ウ)
心地の猶例ならすのみ覚さるれはほかにわたり給ひて
御すほうなとせさせ給ふ大将殿聞給ひて如何なる
御心ちにかといとおしう覚しおこしてわたり給へりれい
ならぬたひ所なれはいたうしのひ給心より外なるおこ
りなとつみゆるされぬへく聞えつゝけ給ひてなやみ給人
の御ありさまもうれへ聞え給みつからはさしも思ひいれ侍
らねとおやたちのいとこと/\しう思ひまとはるゝか心くる
しさにかゝるほとを見すくさむとてなむよろつを覚
しのとめたる御心ならはいと嬉しうなむなとかたらひ
聞えたまふ常よりも心くるしけなる御けしきをこと」(12オ)
わりに哀に見奉り給打とけぬ朝ほらけにいて給御
さまのおかしきにも猶ふりはなれむことはおほしかへさるや
むことなきかたにいとゝ心さしそひ給へきことも出きに
たれはひとつかたに覚ししつまり給ひなむをかやうに
待聞えつゝあらむも心のみつきぬへき事中/\物思
ひのおとろかさるゝ心地し給に御ふみはかりそ暮つかた
ある日ころもすこしおこたるさまなりつる心地のには
かにいたうくるしけに侍をえひきよかてなんと有を
れいのことつけと見給ふ物から
袖ぬるゝ恋地とかつはしりなからおりたつたこのみつ」(12ウ)
からそうき山の井の水もことはりにとそ有御手は猶
こゝろの人の中にすくれたるかしと打見給ひつゝいかにそ
やも有よかな心もかたちもとり/\にすつへくもなく又思ひ
定むへきもなきをくるしう覚さる御返いとくらふなり
にたれと袖のみぬるゝやいかにふかゝらむ御事になむ
浅みにや人はおりたつ我かたは身もそほつまてふ
かき恋地をおほろけにてや御返をみつから聞えさせぬ
なと有大殿には御物のけいたうおこりていみしうわつ
らひ給この御いきすたま故ちゝおとゝの御らうなとい
ふも有ときゝ給につけてもおほしつゝくれは身ひとつの」(13オ)
うき嘆よりほかに人をあしかれなと思ふ心もなけれと物思
ひにあくかるなるたましゐはさもやあらむと覚ししら
るゝ事も有年比よろつに思ひ残侍事なくすくしつ
れとかうしもくたけぬをはかなき事のおりに人の思ひけ
ちなき物にもてなすさま成しみそきのゝちひとふし
にうしと覚しうかれにし心しつまりかたふおほさるゝけにやす
こし打まとろみ給ふ御夢にはかの姫君と覚しき人のい
と清らにて有所にいきてとかくひきまさくりうつゝにも
にすたけくいかきひたふる心いてきてうちかなくるなと
みえ給ふことたひかさなりにけりあな心うやけに身を」(13ウ)
捨てやいにけむとうつし心ならす覚え給折/\もあれはさ
ならぬ事たに人の御ためにはよさまのことをしもいひ出ぬ
世なれはまして是はいとよういひなしつへきたよりなり
とおほすにいとなたゝしうひたすら世になくなりて後に
恨残すは尋常の事なりそれたに人のうへにてはつみ
ふかうゆゝしきをうつゝの我身なからさるうとましき
事をいひつけらるゝすくせのうきことすへて難面人にい
かて心もかけ聞えしと覚しかへせと思ふも物をなり斎宮
はこそうちにいり給ふへかしをさま/\さはること有て此秋
入給ふ九月にはやかて野の宮にうつろひ給ふへけれはふ」(14オ)
たゝひの御いらへのいそきとりかさねて有へきにたゝあや
しうほけ/\しうてつく/\とふしなやみ給ふを宮人
いみしきたいしにて御祈りなとさま/\つかうまつる
おとろ/\しきさまにはあらすそこはかとなくて月日を
すくし給ふ大将殿もつねにとふらひ聞え給へとま
さるかたのいたうわつらひ給へは御心のいとまなけなり
又さるへきほとにもあらすとみな人も絶み給へるにゝは
かに御けしき有てなやみ給へはいとゝしき御いのりのかすを
尽してせさせ給へれと例のしうねき御物の気ひとつ
更にうこかすやんことなきけむさ共めつらかなりともて」(14ウ)
なやむさすかにいみしうてうせられて心くるしけになき
わひてすこしゆるへ給へや大将に聞ゆへき事有との給
されはよあるやうあらむとて近きみき帳のもとに入れた
てまつりたりむけにかきりのさまに物し給ふを聞えお
かまほしき事もおはするにやとておとゝも宮もすこししそ
き給へりかちの僧とも声しつめて法華経を読たる
いみしうたうとし御丁のかたひらひきあけて見奉り
給へはいとおかしけにて御はらいみしうたかうてふし給
へるさまよそ人たに見奉らんに心みたれぬへしまして
おしうかなしと覚す理りなりしろき御そに色あひいと」(15オ)
花やかにて御くしのいとなかうこちたきをひきゆひて
うちそへたるもかうてこそらうたけになまめきたるかた
そひておかしかりけれと見ゆ御てをとらへてあないみしき心う
きめを見せ給ふかなとて物も聞え給はすなき給へは
れいはいとわつらはしうはつかしけなる御まみをいとたゆ
けに見あけて打まもり聞え給ふに涙のこほるゝさまを
見給ふはいかゝ哀の(△&の)浅からんあまりいたうなき給へは心くるし
きおやたちの御事を覚し又かく見給ふにつけて口おし
う覚え給にやとおほして何事もいとかうな覚しいれそ
さり共けしうはおはせしいかなりともかならすあふ瀬あな」(15ウ)
れは対面は有なむおとゝ宮もふかき契ある中はめくりて
も絶さなれは逢見るほと有なむとおほせとなくさめ
給にいてあらすや身のうへのいとくるしきをしはしや
すめ給へと聞えむとてなむかくまいりこむ共更におも
はぬを物思ふ人のたましゐはあくかるゝ物になん有け
るとなつかしけにいひて
嘆わひ空にみたるゝわか玉を結ひとゝめよした
かへのつまとの給ふ声けはひその人にもあらすかはり給へり
いとあやしと覚しめくらすにたゝかの宮息所なりけり
浅ましう人のとかくいふをよからぬ物共のいひ出る事」(16オ)
々聞にくうおほしての給ひけつをめに見す/\世にはかゝる
事こそ有けれとうとましう成ぬあな心うとおほされてかくの
給へはたゝそれなる御有さまに浅ましとはよの常なり人/\
近うまいるもかたはらいたう覚さるすこし御声もしつまり
給へれは隙おはするにやとて宮の御ゆもてよせ給へるにか
きおこされ給ひて程なく生れ給ひぬ嬉しと覚す事
かきりなきに人にかりうつし給へる御物のけ共のねたかり
まとふけはひいと物さはかしうて後の(△&の)事またいと心もとな
しいふかきりなき願共たてさせ給ふけにやたいらかにことなり
はてぬれは山の座主何くれとやんことなき僧ともしたりかほ」(16ウ)
にあせおしのこひつゝいそきまかてぬおほくの人の心を尽し
つる日比の名残すこし打やすみて今はさりともと覚す
御す法なとは又はしめそへさせ給へとまつはけう有珍し
き御かしつきにみな人ゆるへり院をはしめ奉りて
御こたち上達部残るなきうふやしなひともの珍らかに
いかめしきをよことに見のゝしるおとこにてさへおはす
れはそのほとのさほうにきはゝ敷めてたしかの宮す所
はかゝる御ありさまを聞給ひてもたゝならすかねてはいと
あやうく聞えしをたいらかにてはたとうちおほしけり
あやしう我にもあらぬ御心地を覚しつゝくるに」(17オ)
御そなともたゝけしのかにしみかへりたるあやしさに(△△$さに)
御ゆするまいり御そきかへなとし給ひて心み給へと猶
同しやうにのみあれはわか身なからたにうとましう
覚さるゝにまして人のいひ思はむ事なと人にの給ふ
へき事ならねは心ひとつに覚しなけくにいとゝ御
心かはりもまさりゆく大将殿は心地すこしのとめ給て
浅ましかりしほとのとはすかたりも心うく覚し出られつ
ついと程へにけるも心くるしう又けちかう見奉らん
にはいかにそやうたて覚ゆへきを人の御ためいとおし
うよろつにおほして御ふみはかりそ有けるいたう」(17ウ)
わつらひ給ひし人の御名残ゆゝしう心ゆるひなけに
誰もおほしたれはことはりにて御ありきもなし猶いとなやま
しけにのみしたまへはれいのさまにても又たいめむし
給はすわか君のいと床敷まて見え給御ありさまをいま
からいとさまことにもてかしつき聞え給ふさまおろかなら
すことあひたる心地しておとゝもいと嬉しういみしう思ひ
聞え給へるにたゝこの御心地おこたりはて給はぬを心
もとなくおほせとさはかりいみしかりし名残にこそはと
覚していかてかはさのみは心をもまとはし給はむわか
君の御まみのうつくしきなとの春宮にいみしう」(18オ)
にたてまつり給へるを見奉り給ひてもまつ恋しう思ひ
いてられさせ給に忍ひかたくてまいり給はむとて内
なとにもあまり久しうまいり侍らねはいふせさにけふ
なむうひたちし侍をすこしけちかきほとにて聞えさ
せはやあまりおほつかなき御心のへたてかなと恨聞え給へ
れはけにたゝひとへにえむにのみ有へき事にもあ
らぬをいたうおとろえ給へりといひなから物こしにてな
とあへきかはとてふし給へる所におましちかう参り給へ
れはいりて物なと聞え給ふ御いらへとき/\給ふも猶
いとよはけなりされとむけになき人と思ひ聞えし御」(18ウ)
有さまを覚し出れは夢の心地してゆゝしかりし程の
事共なと(△&と)も聞え給ついてにもかのむけにいきも絶た
るやうにおはせしかひきかへしつふ/\との給ひし事共覚し
出るに心うけれはいさや聞えまほしき事いとおほかれとま
たいとたゆけに覚しためれはこそとて御ゆまいれな
とさえあつかひきこえ給をいつならひ給ひけむと人/\
哀かりきこゆいとおかしけなる人のいたうよはりそこなはれ
て有かなきかのけしきにてふし給へるさまいとらうたけに
心くるしけなり御くしのみたれたるすちもなくはら/\と
かゝれる枕のほと有難まて見ゆれは年比何事を」(19オ)
あかぬ事ありて思ひつらんとあやしきまてうちまもられ給
ふ院なとにまいりていととうまかてなむかやうにておほ
つかなからす見奉らは嬉しかるへきを宮のつとおはするに
心なくやとつゝみてすくしつるもくるしきを猶やう/\心
つよくおほしなしてれいのおまし所にこそあまりわかくも
てなし給へはかたへはかく物したまふそなと聞えおき
給ひていと清けにうちさうそきていて給ふを常より
はめとゝめて見いたしてふし給へり秋のつかさめし有へき
定めにて大殿もまいり給へは君たちもいたはりの
そみ給ふ事共有てとのゝ(△△&のゝ)御あたりはなれ給はねは」(19ウ)
皆ひきつゝきいて給ひぬとのゝうち人すくなにしめやか
なるほとににはかにれいの御むねをせきあけていといたうま
とひ給ふうちに御せうそこ聞え給ふほともなく絶入給ぬ
あしを空にて誰も/\まかて(て+給)ぬれはちもくの夜成けれ
とかくわりなき御さはりなれはみな事やふれたるやう也
のゝしりさはくほと夜なかはかりなれは山のさすなにくれ
の僧たちもえさうしあへ給はす今はさりともと思ひ絶み
たりつるに浅ましけれはとのゝ内の人物にそあたる所々
の御とふらひのつかひなとたちこみたれとえ聞えつかす
ゆすりみちていみしき御心まとひともいとおそろしきまて」(20オ)
見え給ふ御物の気たひ/\とりいれ奉りしを覚し御枕
なともさなから二三日も見奉り給へとやう/\かはり給ふ
事共のあれはかきりとおほしはつるほと誰も/\いといみし
大将殿は悲しき事にそへて世の中いとうき物に覚し
しみぬれはたゝならぬ御あたりのとふらひともゝ心うとの
みそなへて覚さるゝ院におほしなけきとふらひきこえさ
せ給ふさまかへりておもたゝしけなるを嬉しき瀬も
ましりておとゝは御涙のいとまなし人の申にしたかひて
いかめしき事もをいきやかへり給とさま/\に残る事
なくかつそこなはれ給事ともの有を見る/\(△&/\)もつき」(20ウ)
せす覚しまとへとかひなくて日比になれはいかゝはせむ
とて鳥辺野にいてたてまつるほといといみしけなる事
共おほかりこなたかなたの御おくりの人共寺々の念仏の
僧なとそこら広き野に所もなし院をは更にも申さす
きさいの宮春宮なとの御つかひさらぬ所々のもまいりち
かひてあかすいみしき御とふらひを聞え給おとゝえたち
もあかり給はすかゝるよはひの末にわかくさかりのこにおくれ
奉りてもこよふことゝはちなき給をこゝらの人かなしう見奉
る終夜いみしうのゝしりつるきしきなれといともはかなき
御かはねはかりを御名残にて暁ふかく帰給ふ常の」(21オ)
事なれと人独かあまたしも見給はぬことなれはにやたく
ひなく覚しこかれたり八月廿よひの有明なれは空
のけしきも哀すくなからぬにおとゝのやみにくれまとひ給
へるさまを見給ふにも理りにいみしけれは空のみ詠られ給て
のほりぬる煙はそれとわかね共なへて雲井の哀
なるかなとのにおはしつきても露まとろまれ給はす年
比の御有さまを覚し出つゝなとてついにはおのつから見な
をし給ひてんとのとかに思ひて猶さりのすさひにつけて
もつらしと覚えられ奉りけむ世の中をへてうと
くはつかしき物に思ひてすきはて給ぬるなとくやし」(21ウ)
き事おほく覚しつゝけらるれとかひなしにはめるさそ
奉れるも夢の心地して我さきたゝましかはふかくそ染
たまはましと覚すさへ
かきりあれはうす墨衣浅けれと涙そ袖を淵とな
しけるとてねんすし給へるさまいとゝなまめかしさまりて経
忍ひやかによみ給つゝ法界三昧普賢大士とうちの給
へるおこなひなれたる法師よりはけなりわか君を見奉
り給も何にしのふのといとゝ露けゝれとかゝる形見さへなか
らましかはと覚しなくさむ宮は沈み入てそのまゝにおき
あかり給はすあやうけに見え給を又覚しさはきて御祈(△&祈)」(22オ)
なとせさせ給はかなう過行は御わさのいそきなとせ
させ給も覚しかけさりしことなれは尽せすいみしう
なんなのめにかたほなるをたに人のおやはいかゝ思めるまし
て理り也又たくひおはせぬをたにさう/\しく覚し
つるに袖のうへの玉のくたけたりけむよりも浅ましけ也
大将の君は二条院にたにあからさまにも渡り給は
す哀に心ふかう思ひ嘆ておこなひをまめにし給つゝ
明し暮し給所々には文はかりそ奉り給かの宮す所そ
斎宮の佐衛門のつかさにいり給にけれはいとゝいつくし
き御き(き+よ)まはりにことつけて聞えも通ひ給はすうし」(22ウ)
と思ひしみにし世もなへていとはしう成給ひてかゝるほ
たしたにそはさらましかは願はしきさまにもなりなまし
と覚すにはまつ代の姫君のさう/\しくて物し給らんあり
さまそふと覚しやらるゝ夜は御(△&御)帳のうちに独ふし給
にとのゐ(ゐ+の)人/\は近うめくりてさふらへとかたはらさひ敷て
時しもあれとね覚かちなるに声すくれたるかきりえりさ
ふらはせ給ふ御念仏の暁かたなと忍ひかたしふかき秋のあ
われまさりゆく風の音身にしみけるかなとならはぬ御独
ねにあかしかね給へる朝朗の霧渡れるに菊のけしき
はめる枝にこきあをにひの紙なる文つけて指おき」(23オ)
ていにけり今めかしうもとてみ給へは宮す所の御手なり
聞えぬほとは覚ししるや(や$)らんや
人の世を哀と聞も露けきにおくるゝ袖を思ひ社
やれ唯今の空に思ひ給へあまりてなんと有常よりもゆう
にもかひ給へるかなとさすかに置かたふ見給ふ物からつれ
なの御とふらひやと心うしさりとてかき絶音なう聞え
さらんもいとおしく人の御名の朽ぬへきことを覚しみたる
過にし人はとてもかくてもさるへきにこそ物し給ひけめ
なにゝさる事をさた/\とけさやかに見聞けむとくやし
きはわか心なから猶え覚しなをすましきなめりかし」(23ウ)
斎宮の御きよまはりもわつらはしくやなと久しう思ひ
わつらひ給へとわさとある御返なくは情なくやとて紫の
にはめる紙にこよなふ程へけるをおもひ給へおこたらす
なからつゝましきほとはさらは覚ししるらむやとてなむ
とまる身も消しも同し露の世に心おくらん程そはかな
きかつは覚しけちてよかし御らんせすもやとて是にもと
聞え給へりさとにおはする程成けれは忍ひて見給ひてほ
のめかし給へるけしきを心のおにゝしるく見給ひてされ
はよと覚すもいといみしなをいとかきりなき身のうさ成
けりかやうなる聞え有て院にもいかに覚さん故前坊の」(24オ)
同しき御はらからといふ中にもいみしう思ひかはし聞えさせ
給て此斎(△&斎)宮の御事をも懇に聞えつけさせ給しかはそ
の御かはりにもやか(△&か)てうちすみし給へとたひ/\聞えさせ給ひし
をたにいと有ましき事と思ひはなれにしをかく心より外
にわか/\しき物思ひおしてつゐにうき名をさへなかしはつへき
ことゝ覚しみたるゝに猶例のさまにもおはせすさるは大方
の世につけて心にくゝよし有聞え有て昔より名たかく
物し給へは野の宮の御うつろひの程にもおかしう今めきたるこ
とおほくしなして殿上人ともの好ましきなとは夕への露分
ありくをその比のやくになむするなと聞給ひても大将の」(24ウ)
君は理りそかしゆへはあくまてつき給へる物をもし世の中に
あきはてゝくたり給なはさうしくも有へきかなとさすかに
覚されけり御ほうしなと過ぬれは(は$と)正日まては猶こもりおは
すならはぬ御つれ/\を心くるしかり給ひて三位中将は常にま
いり給ひつゝ世中の御物語なとまめやかなるも又例のみたり
かはしき事おも聞え出つゝなくさめ聞え給にかの内侍そ
打わらひ給ふくさはひにはなるめる大将の君はあないとおし
やおはおとゝのうへないたうかろめ給ひそといさめ給物から
常におかしと覚したりかのいさよひのさやかならさりし
秋のことなとさらぬもさま/\のすき事共をかたみにくま」(25オ)
なくいひあらはし給ふはて/\は哀なる世をいひ/\てうち
なきなともし給けり時雨うちして物哀なる暮つかた(△&た)
中将の君にひ色のなをしさしぬきうすらかにころもか
へしていとおゝしうあさやかに心はつかしきさまして参り
給へり君は西のつま戸の高欄におしかゝりて霜枯の
せんさい見給ふほとなりけり風のあらゝかに吹しくれさとし
たるほと涙もあらそふ心地して雨となり雲とやなりにけん
今はしらすと打独こちてつらつえつき給へる御さまおん
なには見すてゝならん玉しゐかならすとまりなむかしと色め
か敷心地にうちまもられつゝ近うつい居給へれはしとけ」(25ウ)
なく打みたれ給へるさまなからひもはかりを指なおし
給是は今すこしこまやかなる夏の御なをしにくれ
なゐのつやゝかなるひきかさねてやつれ給へるしも見
てもあかぬ心地そする中将もいと哀なるまみに詠(△&詠)め給へり
雨となりしくるゝ空のうき雲を何れのかたとわき
て詠めむ行ゑなしやと独ことのやうなるを
見し人の雨と成にし雲ゐさへいとゝ時雨にかき
くらす比との給御けしきも浅からぬほとしるく見ゆれは
あやしう年比はいとしもあらぬ御心さしを院なとゐたち
てのたまはせおとゝのもてなしも心くるしう大宮の」(26オ)
御かたさまにもてはなるましきなとかた/\にさしあひたれ
はえ(△&え)しもふり捨給はて物うけなる御けしきなから有へ
たまふなめりかしといとおしう見ゆるおり/\有つるを
まことにやんことなくおもきかたはことに思ひ聞え給ひける
なめりとみしるにいよ/\口おしう覚ゆよろつにつけ
てひかりうせぬる心地してくしいたかりけり枯たる
した草の中にりんたうなてしこなとのさき出たるをお
らせ給ひて中将の立給ひぬるのちにわか君の御めのとの
さい相の君して
草枯のまかきに残るなてしこをわかれし秋の形」(26ウ)
見とそみるにほひおとりてや御覧せらるらんと聞え給へり
けに何心なき御ゑみかほそいみしううつくしきみやは吹風
につけてたに木葉よりけにもろき御涙はましてとりあ
えたまはす
今も見てなか/\袖をくたすかなかきほあれにし山と
なてしこ猶いみしうつれ/\なれは朝顔の宮にけふの哀は
さりとも見しり給ふらんおしはからるゝ御心はへなれはくらきほと
なれと聞え給絶ま遠けれとさの物となりにたる御文な
れはとかなくて御らんせさす空の色したる紙に
分てこの暮こそ袖は露けけれ物思ふ秋はあま」(27オ)
たへぬれはいつもしくれはとあり御てなとの心とゝめてかき
給ひたる常よりも見所ありてすくしかたきほとなりと人
ひとも聞えみつからも覚されけれは大内山を思ひや
りきこえなからえやはとて
秋霧に立おくれぬと聞しより時雨るゝ空もいかゝ
とそ思ふとのみほのかなる墨つきにていとあてに思ひなし
心にくし何事につけてもみまさりはかたきよなめるを
つらき人しもこそ哀に覚え給ふ人の御心さまなるつれ
なゝからさるへき折/\の哀を(△&を)すくし給はぬこれこそかたみに
情も見はつへきわさなれ猶ゆへつきよし過て人めに見」(27ウ)
ゆはかりなるはあまりのなむもいてきけりたいの姫君(△&君)
をさは覚したてしと覚すつれ/\にて恋しと思らんかしと
忘るゝ折なけれとたゝめおやなきこをおきたらん心地して
見ぬほとうしろめたくいかゝ思らんとおほえぬそ心安きわさ
成ける暮はてぬれはおほとなふら近くまいらせ給ぬ
中納言の君といふは年比忍ひ覚ししかと此比御おもひ
のほとはなか/\さやうなるすちにもかけ給はす哀なる御心かな
と見奉るおほ方にはなつかしう打かたらひ給てかう此比
有しよりけに誰も/\まきるゝかたなく見なれ/\てえし
も常にかゝらすは恋しからしやいみしき事(事+お)はさる物にてた」(28オ)
た打思ひめくらすこそ絶かたき事おほかりとの給へはいとゝ
みななきていふかひなき御事はたゝかき暮す心地し侍
はさる物にて名残なきさまにあくかれはてさせ給らんほと
思ひ給ふるこそと聞えもやらす哀と見わたし給ひて名残
なくはいかにか心浅くもとりなし給かな心なかき人たにあらは見
はて給ひなむ物を命こそはかなけれとて火を打詠め給へる
まみの内ぬれ給へるほとそめてたきとり分てらうたくし
給ひしちいさきわらはのおや共もなくいと心ほそけにておもへ
ることはりに見給ふてあてきは今は我こそはおもふへき
人なめれとの給へはいみしうなくほとなきあこめ人よりはく」(28ウ)
ろう染て黒きかさみくわんさうのはかまなときたるもおかしき
すかたなり昔を忘れさらん人はつれ/\を忍ひてもおさなき
人を見すてす物し給へ見し世の名残なく人/\さへかれなは
たつきなさもまさりぬへくなんなとみな心なかかるへき事
共をの給へといてやいとゝ待遠にそ成給はんと思ふにいとゝ心ほそ
し大殿は人/\にきは/\をきつゝはかなきもてあそひ物共
又まことにかの御形見なるへき物なとわさとならぬさまに
とりなしつゝみなくはらせ給けり君はかくてのみもいかてか
つく/\とすくし給はむとて院へ参り給御車さしいてゝ
御せんなとまいりあつまるほと折しり顔なる時雨打そゝき」(29オ)
て木の葉さそふ風あはたゝしう吹はらひたるに御前にさふ
らふ人/\物いと心ほそくてすこし隙有つる袖共うるひわた
ぬ夜さりはやかて二条院にとまり給ふ(△&ふ)へしとてさふらひの人/\も
かしこにて待聞えむと成へしおの/\立出るにけふにしも
とちむましき事なれと又なく物かなしおとゝも宮もけふのけ
しきに又かなしさあらためて覚さる宮の御まへに御せうそこ聞
え給へり院におほつかなかりのたまするによりけふなん参り侍
るあからさまに立出侍るにつけてもけふまてなからへ侍り
にけるよと見たり心地のみうこきてなん聞えさせんも中/\
に侍るへけれはそなたにもまいり侍らぬとあれはいとゝしく宮」(29ウ)
はめも見え給はすしつみ入て御返も聞え給はすおとゝそや
かて渡り給へるいと絶かたけに覚して御袖も引はなち給は
す見奉る人/\もいとかなし大将の君は世を覚しつゝくる事
いとさま/\にてなき給さま哀に心深き物からいとさまよ
くなまめき給へりおとゝ久しうためらひ給てよはひのつもり
にはさしも有ましき事につけてたに涙もろか(△&か)なるわさに
侍るをましてひる夜なう思ひ給へまとはれ侍る心をえのとめ侍
らねは人めもいとみたりかはしう心よはきさまに侍へけれは院なと
にもえ参り侍らぬなりことのついてにはさやうにおもむけ
そうせさせ給へいくはくも侍ましき老の末にうち捨られ」(30オ)
たるかつらうも侍かなとせめて思ひしつめての給ふけしきいと
わりなし君もたひ/\はなうちかみておくれさきたつほとの
定めなさは世のさかと見給へしりなからさしあたりて覚え
侍る心まとひはたくひあるましきわさになん院にも有
さまそうし侍らんにおしはからせ給てんと聞え給ふさらは時雨
も隙なく侍めるをくれぬ程にとそゝのかし聞え給うち見
まはし給に御木丁のうしろさうしのあなたなとのあきと
おりたるなとに女房卅人はかりおしこりてこきうすきにひ
色ともをきつゝみないみしう心ほそけにてうちしほた
れつゝ居あつまりたるをいと哀と見給ふ覚しす(△&す)つ」(30ウ)
ましき人もとまり給へれはさり共物のついてには立よらせ給は
しやなとなくさめ侍るをひとへに思ひやりなき女房なとは
けふをかきりに覚しすてつるふるさとゝ思ひくんしてな
かく別ぬるかなしひよりもたゝとき/\なれつかうまつる
年月の名残なかるへきをなけき侍るめるなん事はか
なるうちとけおはしますことは侍らさりつれとさり共つゐには
とあいなたのめし侍つるをけふこそ心ほそき夕へに侍
れとてもなき給ひぬいとまはかなる人/\の嘆にも侍
なるかなまことにいかなり共とのとかに思ひ給へつる程は
おのつから御めおりも侍りつらんとて出給ふをおとゝ」(31オ)
見送り給ひて入給へるに御しつらひよりはしめ有しにかは
る事もなけれとうつせみのむなしき心地そし給ふ御丁のまへ
に御硯なと打ちらして手ならひすて給へるをとりてめ
をしほりつゝ見給ふをわかき人/\はかなしき中にもほゝゑ
むも有へし哀なるふること共か(△&か)らのもやまとのもかきけか
しつゝさうにもまなにもさま/\珍しきさまにかきませ給
へりかしこの御てやと空をあふきて詠め給ふこそ人に見
奉りなさ(△&さ)むかおしきなるへし古き枕ふるきふすま誰と
ともにかとある所に
なき玉そいとゝ悲しき寝し床のあくかれかたき心」(31ウ)
ならひに又霜の花しろしと有所に
君なくて塵つもりぬる床夏の露うちはらひ
いく夜ねぬらん一日の花なるへしかれてましれり宮に御覧
せさせ給ていふかひなきことをはさる物にてかゝるかなしきた
くひよになくやはと思ひなしつゝ契なかゝらてかく心をまと
はすへくこそは有けめとかへりてはつらくさきの世を思ひやり
つゝなんさまし侍をたゝ日比にそへて恋しさの絶かたきと
此大将の君の今はとよそなり給はんなむあかすいみし
く思ひ給へらるゝ一二日も見え給はすかれ/\におはせしを
たにあかすむねいたうおもひ侍しを朝夕のひかりうしな」(32オ)
ひてはいかてかなからふへからんと御声もえ忍あえ給はす
ない給に御まへなるおとな/\しき人なといとかなしくてさと
打なきたるそゝろ寒き夕へのけしき也わかき/\は所々に
むれ居つゝをのかとち哀なる事共を打かたらひてとのゝ覚
しの給はするやうにわか君を見奉りてこそはなくさむへかめ
れと思ふもいとはかなき程の御形見にこそとておの/\あからさ
まにまかてゝ参らんといふも哀かたみに別おしむほとおの
かしゝ哀なる事共おほかり院えまいり給へれはいといたうおも
やせにけりさうしにて日をふるけにやと心くるしけに思しめ
して御まへに物なとまいらせ給てとやかくやと覚しあつかひ」(32ウ)
聞えさせ給へるさま哀にかたしけなし中宮の御かたにまいり
給へれは人/\めつらしかり見奉る命婦の君めして思ひ尽せ
ぬ事共をほとふるにつけてもいかにと御せうそこ聞え給へり
常なき世は大方にも思ひ給へしりにしをめに近く見侍つ
るにいとはしきことおほく思ふ給へみたれしもたひ/\の御せう
そこになくさめ侍てなんけふまてもとてさらぬ折たに
ある御けしきとりそへていと心くるしけなりむもんのうへの
御そににひ色の御したかさねえいまき給へるやつれすかた
花やかなる御よそひよりもなまめかしさまさり給へり春宮
にも久しうまいらぬおほつかなさなと聞え給て夜ふけてそ」(33オ)
まかて給二条院にはかた/\はらひみかきておとこおんな待聞え
たり上臈ともみなまうのほりて我も/\とさうそきけそ
うしたるを見るにつけてもかのいなみくむしたりつるけしき
ともそ哀に思ひ出られ給御せうそこ奉りかへて西の台に
渡り給へり衣かへの御しつらひくたりなくあさやかに見えて
よきわか人わらはへなりすかためやすくとゝのへて少納言かも
てなし心もとなき所なう心にくしとみ給姫君いとうつ
くしう引つくろひておはす久しかりつる程にいとこよなうこ
そおとなひ給ひにけれとてちいさきみ木丁引あけてみ奉
り給へはうちそはみてはちらひ給へる御さまあかぬと所な」(33ウ)
しほかけの御かたはらめかしらつきなとたゝかの心つくし
聞ゆる人のさまにたかふ所なくもなりゆくかなと
見給にいとうれし近くより給(△&給)ておほつかなかりつる
ほとのこと共かなと聞え給ひて日比の物かたりのとかに
きこえまほしけれと今/\しう覚え侍れはしはしことかた
にやすらひて参りこん今はと絶なく見奉るへけ
れはいとはしうさへや覚されんとかたらひ聞え給を少
納言は嬉しと聞物から猶あやうく思ひ聞ゆやんむことな
き御忍ひ所おほうかゝつらひ給へれは又わつらはしき
や立かはり給らんと思ふそにくき心なるや御かたに渡り」(34オ)
給て中将の君といふに御あしなとまいりすさひてお
ほとのこもりぬあしたにはわか君の御本に御ふみ奉
り給哀なる御返を見給ふにもつきせぬ事とものみ
なんいとつれ/\になかめかちなれと何となき御ありきも
物うく覚しなりて覚しもたゝれす姫宮の何事もあらま
ほしうとゝのひはてゝいとめてたうのみみえ給ふをにけ
なからすほとにはた見なし給へれはけしきはみたる事
なと折/\聞え心み給へと見もしり給はぬけしき也つれ/\
なるまゝにたゝこなたにてこうちへんつきなとしつゝ日を
暮し給に心はへのらう/\しくあいきやうつきはかなき」(34ウ)
たはむれことのなかにもうつくしきすちをしいて給へは覚し
はなちたる年月こそたゝさるかたのらうたさのみは有つ
れ忍ひかたくなりて心くるしけれといかゝ有けん人のけちめ見奉
りわくへき御なかにもあらぬにおとこ君はとくおき給ひ
て女君は更におき給はぬあした有人/\いかなれはかくおは
しますならん御心地のれいならす覚さるゝにやと見奉り嘆く
に君は渡り給とて御硯のはこをみ丁のうちにさし入てお
はしにけり人まにからうしてかしらもたけ給へるにひき結ひ
たる文御枕のもとにあり何心もなく引あけて見給へは
あやなくもへたてけるかな夜をかさねさすかになれし」(35オ)
中のころもをとかき結ひ給へるやう也かゝる御心おはす覧と
はかけても覚しよらさりしかはなとてかう心うかりける御心を
うらなく頼もしき物に思ひ聞えけむと浅ましうおほさる
ひるつかたに渡り給てなやましけにし給らんはいかなる御心地そ
けふはこもうたてさう/\しやとてのそき給へはいよ/\御そ引かつ
きてふし給へり人/\はしりそきつゝさふらへはより給てなとか
くいふせき御もてなしそ思ひの外に心うくこそおはしけれ
な人もいかにあやしと思ふらんとて御ふすまを引やり給へれは
あせにおしひたしてひたいかみもいたうぬれ給へりあなうた
て是はいとゆゝしきわさそとてよろつにこしらえ聞え給へ」(35ウ)
とまことにいとつらしと思ひ給ひて露の御いらへもし給はす
よし/\更にみえ奉らしいとはつかしなとゑし給て御すゝりあ
けて見給へと物もなけれはわかの御ありさまやとらうたく見奉
り給ひて日ひとひ入居てなくさめ聞え給へととけかたき御
けしきいとゝらたけなりその夜さりゐのこもちゐまいらせ
たりかゝる御思ひのほとなれはこと/\しきさまにはあらてこ
なたはかりにおかしけなるひはりこなとはかりを色/\にて参
れる見給ひて君南のかたに出給てこれ光をめして此も
ちゐかうかす/\にところせきさまにはあらてあすの暮に
まいらせよけふはいま/\しき日なりけりとうちほゝゑみての」(36オ)
給ふ御けしきを心とき物にてふと思ひよりぬ惟光たし
かにもうけたまはらてけにあいきやうのはしめは日ゑりし
てきこしめすへき事にこそ扨もねのこはいくつかつかう
まつらすへう侍らんとまめたちて申せはみつかひとつにて
もあらんかしとの給ふに心えはてゝたちぬ物なれのさまや
と君は覚す人にもいわて手つからといふはかりさとにてそつ
くり居たりける君はこしらへわひ給て今はしめてぬすみも
てきたらん人の心地するもいとおかしくて年比哀と思ひ聞え
つるはかたはしにもあらさりけり人の心こそうたて有物はあれ今
は一夜もへたてん事のわりなかるへき事と覚えるのた」(36ウ)
まひしもちゐ忍ひていたう夜ふかしてもてまいれり
少納言はおとなしくてはつかしくやおほさむと思ひやりふかく心
しらひてむすめの弁といふをよひ出て是忍ひてまいら
せ給へとてかうこのはこをひとつさし入たりたしかに御枕
かみにまいらす(△&す)へきいはひの物にて侍あなかしこあたにな
といへはあやしと思へとあたなることはまたならはぬ物をとてと
れはまことにいまはさるもしいませ給へよまもましり侍らし
といふわかき人にてけしきもえふ深く思ひよらねはもてま
いりて御枕かみの木丁よりさし入たるを君そ例の聞え
しらせ給ふらんかし人はえしらぬにつとめてこのはこをま」(37オ)
かてさせ給へるにそしたしきかきりの人/\思ひ合する事共も
有ける御さら共なといつのまにかしいてむ花そくいと清ら
にしてもちゐのさまもことさらひいとおかしうとゝのへたり少納言
はいとかうしもやはと思ひ聞えさせつれ哀にかたしけなく覚
しいたらぬ事なき御心はへをまつ打なかれぬ扨もうち/\にのた
まはせよかしなかの人もいかに思ひつらんとさゝめきあへりかくて後は
うちにも院にもあからさまに参り給へる程たにしつ心なく
面影に恋しけれはあやしの心やとわかなからおほさるかよひ給し
所々よりは浦めしけにおとろかし聞えなとすれはいと/\おしと
覚すもあれと新手枕の心くるしくて夜をやへたてんと覚」(37ウ)
しわつらはるれはいと物うくてなやましけにのみもてなし
給ひて世中のいとうく覚るほとすくしてなん人にも見へた(△&へた)
てたつるへきとのみいらへ給ひつゝすくし給ふ今きさきは
御匣とのなを此大将にのみ心つけ給へるをけにはたかく
やんことなかりつるかたもうせ給ぬめるを扨もあらむになとか口
惜からむなとおとゝの給ふにいとにくしと思ひ聞え給て宮つ
かへもおさ/\しくたにしなし給へらはなとかあしからんとまいらせ
奉らん事を覚しはけむ君もおしなへてのさまには覚へさり
しを口惜とはおほせとたゝ今は事さまにわくる御心もなくて
何かはかはかり見しかゝめる世にかくて思ひ定りなん人の恨も」(38オ)
おふましかりけりといとゝあやうくおもほしこりにたりかの(△&かの)
宮す所はいと/\おしけれとまことのよるへと頼み聞えむには
かならす心おかれぬへし年比のやうにて見すくし給はゝさる
へき折ふしに物聞えあはする人にてはあらんなとさすかに
事の外には覚しはなたす此姫君(△&君)を今まてよ人もその
人とも知り聞えぬも物けなきやう也ちゝ宮にしらせ聞
えてんとおもほしなりて御もきのこと人にあまねくはの給
ねとなへてならぬさまに覚しまうくる御よふいなといと
有難けれとおんな君はこよなううとみ聞え給て年比
よろつに頼み聞えてまつはし聞えけるこそ浅ましき心なり」(38ウ)
けれとくやしうのみ覚してさやうにも見合せ奉り給はす
聞えたはふれ給もいとくるしうわりなき物に覚し結ほふれて
有しにもあらすなり給へる御有さまおゝかしもいとおしくも覚され
て年比思ひ聞えしほいなく様はまさらぬ御けしきの心う
き事と恨きこえ給程に年もかへりぬついたちの日はれいの院
に参り給ひてそ内春宮なとにもまいり給それよりおほ殿
にまかて給へりおとゝ新しき年ともいはす昔の御事とも聞
え出給てさう/\しくかなしと覚すにいとゝかくさへ渡り給
へるにつけ奉てねんしかへし給へと絶かたふ覚したり御年
のくはゝるけにや物/\しき気さへそひ給ひて有しよりけ」(39オ)
に清らに見え給立出て御かたに入給へれはひと/\も珍しう見
奉りて忍ひあえすわか君見奉りたまへはこよなうおよ
けてわらひかちにおはするも哀なりまみくちつきたゝ春宮
の同しさまなれは人もこそ見奉り(△&り)とかむれと見給御しつ
らひなともかはらすみそかけの御しやうそくなとれいのやう
にしかけられたる(る+に)をんなのかならはぬこそさう/\しくはへなけ
れ宮の御せうそこにてけふはいみしく思ひ給へしのふるを
かく渡らせ給へるになんなか/\なと聞え給て昔になら
ひ侍りにける御よそひも月比はいとゝ涙に霧ふたかりて
色あひなく御覧せられ侍らんと思ひ給ふれとけふは」(39ウ)
かりはなをやつれさせ給へとていみしくしつくし給へる
物共又かさねて奉り給へりかならすけふ奉るへきと覚
しける御下かさねは色もおりさまもよのつねならす心
ことなるをかひなくやはとてきかへ給ふこさらましかは
くちおしうおほされましとこゝろくるし御かへりに
は春や来ぬるともまつ御覧せられすなんまいり
侍りつれとおもひたまへいてらるゝこともおほくてえき
こえさせ侍らす
あまたとしけふあらためしいろころもきて
はなみたそふる心地するえこそおもひたまへしつめ」(40オ)
ねと聞え給へり御返
新しき年ともいはすふる物はふりぬる人の
涙なりけりおろかなるへき事にそあらぬや」(40ウ)