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渋谷栄一翻字(C)

  

花 宴

凡例
1 本稿は、『大島本 源氏物語』(1996(平成8)年5月 角川書店)を翻刻した。よって、後人の筆が加わった現状の本文様態である。
2 行間注記は【 】− としてその頭に番号を記した。
2 小字及び割注等は< >で記した。/は改行を表す。また漢文の訓点等は< >で記した。
3 合(掛)点は、\<朱(墨)合点>と記した。
4 朱句点は「・」で記した。
5 本文の校訂記号は次の通りである。
 $(ミセケチ)・#(抹消)・+(補入)・&(ナゾリ)・=(併記)・△(不明文字)
 ( )の前の文字及び( )内の記号の前の文字は、訂正以前の文字、記号の後の文字が訂正以後の文字である。ただし、なぞり訂正だけは( )の前の文字は訂正後の文字である。訂正以前の本行本文の文字を尊重したことと、なぞり訂正だけは元の文字が判読しにくかったための処置である。
6 朱・墨等の筆跡の相違や右側・左側・頭注等の注の位置は< >と( )で記した。私に付けた注記は(* )と記した。
7 付箋は、「 」で括り、付箋番号を記した。
8 各丁の終わりには」の印と丁数とその表(オ)裏(ウ)を記した。
9 本文校訂跡については、藤本孝一「本文様態注記表」(『大島本 源氏物語 別巻』と柳井滋・室伏信助「大島本『源氏物語』(飛鳥井雅康等筆)の本文の様態」(新日本古典文学大系本『源氏物語』付録)を参照した。
10 和歌の出典については、伊井春樹『源氏物語引歌索引』と『新編国歌大観』を参照し、和歌番号と、古注・旧注書名を掲載した。ただ小さな本文異同については略した。

「花のえん」(題箋)

  きさらきのはつかあまり・南殿のさ
  くらの宴せさせ給・后春宮の御つほね・
0001【后】−藤壺(明融臨模本0001)
0002【春宮】−朱雀院(明融臨模本0002)
  左右にして・まうのほりたまふ・弘徽殿の
  女御・中宮のかくておわする越・折ふし
  ことに・やすからすおほせと・ものミにはえ
0003【ことに】−毎ナリ(明融臨模本0003)
  すくし給ハて・まいり給・日いとよくはれて・
  空のけしき・鳥のこゑも・心ちよけなる
  に・みこたちかむたちめよりはしめて・そ
  の道のハみな・たむゐむ給ハりて・ふミつ
0004【たむゐむ】−探韻也 各分一字詩也(明融臨模本0004)
0005【ふミつくり】−作文(明融臨模本0005)
  くり給ふ・宰相中将・春といふもし給は」1オ
0006【宰相中将】−源氏(明融臨模本0006)

  れりと・の給ふこゑさへ・れいの人にこと
  なり・つきに頭中将人のめうつしも・たゝな
  らすおほゆへかめれと・いとめやすく・もう(う$て<朱>)
  く(く$<朱>)しつめて・こハつかひなともの/\しく・す(△&す)
  くれたり・さての人/\ハみな・をくしかち
0007【をくしかち】−臆(明融臨模本0007)
  に・はなしろめるおほかり・地下の人ハ・まし
0008【はなしろめる】−世俗におくしたる事を鼻しろむといふ(明融臨模本0008)
  てみかと春宮の・御さえ・かしこく・す
  くれておハします・かゝるかたにやむゝ(ゝ$こ<朱>)となき
  人おほく・ものし給ふころなるに・はつか
  しく・はる/\とくもりなきにはに・たち」1ウ

  いつるほと・はしたなくて・やすき事なれと・
  くるしけなり・としおいたるはかせともの・なり
0009【はかせ】−博士(明融臨模本0009)
  あやしくやつれて・れいなれたるも・あハれ
0010【なれ】−馴
  にさま/\御らんするなむ・おかしかりける・
  かくともなとハ・さらにもいはす・とゝ(ゝ$と<朱>)のへさせ
0011【かく】−楽(明融臨模本0010)
  給へり・やう/\入日になるほと・春の鴬さへ
0012【春の鴬さへつるといふまひ】−春鴬囀一越調一名天長宝寿楽
  つるといふまひ・いとおもしろく見ゆるに・
  源氏の・御もみちの賀のおり・おほしいてら
  れて・春宮かさしたまハせて・せちにせ
  めのたまハするに・のかれかたくて・たちて」2オ

  のとかにそてかへすところを・ひとをれけし
  きハかりまひ給へるに・にるへきものなく
  見ゆ・左(左$左<朱>)のおとゝ・うらめしさもわすれて・
0013【左のおとゝ】−摂政(明融臨模本0011)
0014【うらめしさ】−女葵上事(明融臨模本0012)
  涙をとし給ふ・頭中将いつらおそしとあれ
  は・柳花苑といふまひを・これハいますこし
  すくして・かゝる事もやと心つかひや
  しけむ・いとおもしろ(△&ろ)けれは・御そ給
0015【いとおもしろけれは】−花宴事了王卿以下各賜禄也
0016【御そ】−御衣
  ハりて・いとめつらしき事に人をもへり・か
  むたちめ・ミなみたれてまひ給へと・夜に
  入ては・ことにけちめも見えす・ふミなとかう」2ウ
0017【ふミなとかうするにも】−舞楽之後講詩定事也

  するにも・源氏の君の御をハ・かうしもえよミ
0018【御をハ】−御詩也(明融臨模本0014)
  やらす・くことにすしのゝしる・はかせともの
0019【すし】−誦(明融臨模本0015)
  心にもいみしうおもへり・かうやうのおりに
  も・まつこの君をひかりにしたまつ(つ$へ<朱>)れは・
  みかともいかてかをろかにおほされれ(れ#<朱>)ん・中
  宮御めのとまるにつけて・春宮の女御の
0020【春宮の女御】−春宮の母女御也(明融臨模本0016)
  あなかちに・にくみ給らむもあやしう・
  しう(しう$<朱>)わかかうおもふも・心うしとそみつから・
  おほしかへされける
    おほかたに花のすかたを見ましかは」3オ
0021【おほかたに】−藤壺<右>(明融臨模本0018) 古今露ナラヌ心越花ニヲキソメテ風ふくことに物ヲモイソツク(古今589・古今六帖586、河海抄・細流抄・休聞抄・紹巴抄・孟津抄・岷江入楚)

  露も心のおかれましやハ御心のうちなりけん
  こと・いかてもりにけむ・夜いたうふけてな
  むことはてける・上達部をのをのあかれ・后
0022【あかれ】−分散ナリ(明融臨模本0019)
  春宮かへらせ給ひぬれは・のとやかになり
  ぬるに・月いとあかうさしいてゝ・おかしき
  を・源氏の君・ゑい心ちに・見すくしかたく
  おほえ給ひけれハ・うへの人/\もうちやす
  みて・かやうに思ひかけぬほとに・もしさりぬ
  へきひまもやあると・ふちつほわたり
  を・は(は$わ<朱>)りなふしのひて・うかゝひありけと・かたら」3ウ

  ふへきとくちもさしてけれハ・うちなけ
  きて・なをあらしに弘徽殿のほそとのに・
0023【なをあらしに】−\<朱合点> 万なをあらしとことなしくさにいふこと越きゝしれらくハすくなかりけり(万葉1262、河海抄)
0024【ほそとの】−細殿也 廊を細殿といふ一説廂を云(明融臨模本0021)
  たちより給つ(つ$へ<朱>)れハ三のくちあきたり・
0025【三のくち】−弘徽殿に北南へほそくとをりたる戸あり是ハ北より第三間ニアタル戸也格子ヤリ戸也<左>(明融臨模本0023)
  女御ハうへの御つほねに・やかてまうのほり
  給にけれハ・人すくなゝるけハひなり・おく
  のくるゝともあきて・人をともせすかやう
0026【くるゝと】−クルヽ木也或ハタヽキ戸とも号也
  にて・世中のあやまちハするそかしと思ひ
  て・や△(△#<墨>を<朱>)らのほりてのそき給・人ハみなねた
  るへし・いとわかうおかしけなるこゑの・なへ
0027【いとわかうおかしけなるこゑの】−源氏君通朧月夜尚侍事(明融臨模本0025)
  ての人とハきこえぬ・おほろ月夜ににる」4オ
0028【おほろ月夜ににるものそなき】−\<朱合点> 大江千里てりもせすくもりもはてぬ春のヨノヲボロ月ヨニシク物ソナキ(明融臨模本0026・付箋02 新古今55・千里集72、源氏釈・奥入・異本紫明抄・紫明抄・河海抄)是ニヨツテ朧月ヨノ尚侍ノ御門といふ

  ものそなきと・うちすして・こなたさまに(に+ハ)く
  るものか・いとうれしくて・ふと袖越とらへ
  たまふ・女おそろしと思へるけしきにて・あ
  なむくつけ・こハたそとの給へと・なにかうと
  ましきとて
    ふかき夜のあハれをしるも入月の
0029【ふかき夜の】−宵灯共憐深夜月(明融臨模本0028)
  おほろけならぬ契とそおもふとて・やをら
  いたきおろして・とハをしたてつ・あさまし
0030【とハ】−戸
  きにあきれたるさまいとなつかしう・おかしけなり
  わなゝく/\こゝに人と・のたまへと・まろハみな」4ウ

  人にゆるされたれハ・めしよせたりとも・
  なむてう事かあらん・たゝしのひてこそと
  の給ふこゑに・このきミなりけりときゝ
  さためて・いさゝかなくさめけり・わひしとおもへる
  ものから・なさけなく・こわ/\しうハ見えし
  とおもへり・ゑい心ちやれいならさりけむ・ゆ
  るさん事ハ・くちおしきに・女もわかうた(△△&うた)を
  やきて・つよき心もしらぬなるへし・らう
  たしと見給ふに・ほとなくあけゆけハ・心
  あハたゝし・女ハましてさま/\に・おもひみ」5オ

  たれたるけしきなり・猶なのりしたま
  へ・いかてきこゆへき・かうてやミなむとハ・
  さりともおほされしとの給へハ
    うき身世にやかてき△(△#)え(え+な<朱墨>)はたつねても
0031【うき身世に】−おほろ月夜(明融臨模本0027)
  草のはらをはとはしとやおもふといふさま・
  えむになまめきたり・ことハりやきこえた
  かへたるも・しかなとて
0032【しかなとて】−サソナノ心也
    いつれそと露のやとりをわかむまに
0033【いつれそと】−源氏 いつれそとタツネン程も猶おほつかなかるへしといふナリ(明融臨模本0028)
  こさゝかハらにかせもこそふけわつらハし
  くおほす事ならすは・なにかつゝまむ・もし」5ウ

  すかい給ふかとも・いひあへす・人/\おき
  さハき・うへの御つほねに・まひりちかふけし
  きとも・しけくまよへハ・いとハりなくて・あふき
  ハかりをしるしに・とりかへていて給ひぬ・きりつ
  ほにハ人/\おほくさふらひて・おとろきた
  るもあれハ・かゝるをさもたゆミなき御しのひ
  ありきかなと・つきしろひつゝ・そらねをそ
0034【つき】−突
  しあへる・いり給ひてふし給へれと・ねいられ
  す・おかしかりつる人のさまかな・女御の御
  おとうとたちにこそハあらめ・また世になれぬ」6オ
0035【世になれぬ】−ぬしなきをいふ(明融臨模本0030)

  ハ・五六の君ならんかし・そちの宮の北の
0036【そち】−帥<朱>
  方頭中将のすさめぬ四の君なとこそ・よ
  しときゝしか・なか/\それならましかハ・いま
  すこしおかしからまし・六ハ春宮にたて
0037【六ハ】−朧月夜也(明融臨模本0031)
  まつらんと・心さし給へるを・いとおし(△&し)うもあ
  るへいかな・わつらハしうたつねむ程も・ま
  きらハしさてたえなむとハおもはぬけし
  きなりつるを・いかなれハ・ことかよハすへきさま
0038【こと】−言
  を・ゝしへすなりぬらんなとよろつにおもふも・
  心のとまるなるへし・かうやうなるにつ」6ウ

  けても・まつかのわたりのありさまの・こよ
0039【かのわたり】−葵上
  なうおくまりたるハやと・ありかたふおもひ
  くらへられ給ふ・その日ハ後宴の事ありて・
  まきれくらしたまひつ・さうのことつ
  かうまつり給・きのふの事よりも・なまめ
  かしうおもしろし・ふちつほハあかつきに
  まうのほり給にけり・かのありあけ・いてやし
0040【ありあけ】−尚侍(明融臨模本0032)
  ぬらんと・心も空にて・おもひいたらぬくまな
  きよ(よ+しきよ)これミつを・つけて・うかゝはせ給けれは・
0041【よしきよこれミつ】−良清 惟光(明融臨模本0033)
  おまへよりまかて給ひけるほとに・たゝいま北」7オ

  のちんより・かねてよりかくれたちて侍つ(つ#つ)る
  車とも・まかりいつる・御かた/\のさと人侍つる
  中に・四位の少将・右中弁なと・いそきいてゝ・
0042【四位の少将右中弁】−両人二条太政大臣子(明融臨模本0033)
  をくりし侍つるや・弘徽殿の御あかれならん
0043【御あかれ】−女御御里ヘいて給ふ也(明融臨模本0035)
  と見給へつる・けしうハあらぬけハひともし
  るくて・くるまみつはかり侍つときこゆる
  にも・むねうちつふれ給ふ・いかにして・いつれ
  としらむ・ちゝおとゝなときゝて・こと/\しう
  もてなさんも・いかにそや・また人のありさま
  よく見さためぬほとは・わつらハしかるへし・」7ウ

  さりとてしらてあらんハた・いとくちおし
  かるへけれハ・いかにせましとおほしわつ
  らひて・つく/\となかめふし給へり・ひめ
0044【ひめ君】−紫上(明融臨模本0036)
  君いかにつれ/\ならん・ひころになれハ・くし
  てや・あらむと・らうたくおほしやる・かのしる
  しのあふきハ・さくらかさねにて・こきか
0045【さくらかさねにて】−\<朱合点> 檜扇ノ両方ノうへ三枚つゝをうす様ニテツヽミテいろ/\の糸にてトチテすへニあはひにむすひたる也五重の扇も同<右> 清少納言枕草子ナマメカシキ物三へかさねのあふき五へニナリヌレハあまりあつくて
  たにかすめる月越かきて・水にうつしたる
  心はへめなれ(れ+たる事なれ)と・ゆへなつ(△&つ)かしう・もてならし
  たり・くさのハらをハといひしさまのミ(△&ミ)・心
  にかゝり給へハ」8オ

    世にしらぬ心ちこそすれ有明の
0046【世にしらぬ】−源氏(明融臨模本0037)
  月のゆくゑをそらにまかへてとかきつけ
  給ひてをき給へり・おほいとのにも・ひさしうな
  りにけるとおほせと・わか君も・心くるしけれ
0047【わか君】−紫上(明融臨模本0038)
  ハ・こしらへむとおほして・二条院へおハし
  ぬ・見るまゝにいとうつくしけにおひなりて・
0048【見るまゝに】−紫上十二歳也(明融臨模本0039)
  あいきやうつきらう/\しき心はえ・いと
  ことなり・あかぬ所なう・わか御心のまゝに・をしへ
  なさんとおほすに・かなひぬへし・おとこの御
  をしへなれハ・すこし人なれたる事やまし」8ウ

  らむとおもふこそ・うしろめたけれ・日ころ
  の御ものかたり・御ことなと・をしへくらして
  いて給ふを・れいのとくちおしくう(くう$う<朱>)おほせと・
  いまハいとようならハされて・わりなくハしたひ
  まつハさす・おほいとのにハ・れいのふともたいめん
0049【たいめん】−葵上(明融臨模本0041)
  したまハす・つれ/\と・よろつおほしめくらさ
  れて・さうの御ことまさくりて・やハらかに・ぬる
0050【やハらかにぬる夜ハなくて】−\<朱合点>(明融臨模本0042) ヌキ川ノせゝノタマクラヤワラカニヌルヨワナクテヲヤサクルツマ貫河律哥
  夜ハなくて
・うたひ給・おとゝわたり給ひて・
  一日の・けふありし事きこえ給ふ・こゝらの
  よハひにて・めいわうの御代・四代をなんミ侍」9オ

  ぬれと・このたひのやうに・ふミとも・きやう
0051【きやうさくに】−[辷-一+景]迹也 あらハなる心也 一云さとくしるき心也 一説警策也(明融臨模本0043)
  さくに・まひ・かくものゝねともとゝ(ゝ$と<朱>)のほりて・よ
  ハひのふる事なむ・侍らさりつる・道/\の・もの
  の上手とも・おほかるころをひ・くハしうしろし
  めし・とゝのへさせ給へるけなり・おきなもほと
0052【ほとほと】−殆
  ほとまひいてぬへき・心ちなんし侍しときこ
  え給へハ・ことにとゝのへおこなふ事も侍らす・
0053【ことに】−源氏(明融臨模本0044)
  たゝおほやけ事にそしうなるものゝしとも
  を・こゝかしこにたつね侍しなり・よろつのこと
  よりハ・柳花苑・まことにこうたいのれいとも」9ウ

  なりぬへく見たまつ(つ$へ<朱>)しに・ましてさめ(め$か<朱>)
0054【さかゆくはるに】−\<朱合点> 古今今コソアレ我モ昔ハ男山サカユク時モ有コシ物ヲ(古今889・新撰和歌353、奥入・異本紫明抄・紫明抄・河海抄 明融臨模本0045・付箋03)
  ゆくはるに・たちいてさせ給へましかハ・世の
  めんほくにや侍らましと・きこえ給ふ・弁中将・
  なとまいりあひて・かうらむにせなかをし
  つゝ・とり/\にものゝねとも・しらへあハせてあ
  そひ給ふ・いとおもしろし・かのありあけの
0055【ありあけの君】−朧月夜尚侍(明融臨模本0046)
  君ハ・はかなかりし夢をおほしいてゝいとも
  のなけかしう・なかめ給ふ・春宮にハ・卯月
  はかりとおほしさためたれハ・いとわりなうお
  ほしみたれたるを・おとこもたつね給ハむ」10オ

  に・あとはかなくハあらねと・いつれともしらて・こと
  にゆるし給ハぬあたりに・かゝ(ゝ$か<朱>)つらハむも・人わ
  るくおもひわつらひ給ふにやよひの廿余日(△△&余日)
  右大殿の・ゆミのけちに・かむたちめみこ
0056【右大殿のゆミのけち】−二条右大臣藤花宴事(明融臨模本0047)
0057【けち】−結也(明融臨模本0048)
  たち・おほくつとへ給て・やかてふちの宴し
0058【たち】−殿上人
  給ふ・花さかりハすきにたるを・ほかのちりなむ
  とや・をしへられたりけむ・をくれてさくさくら・
  ふた木そ・いとおもしろき・あたらしう
  つくり給へる殿を・宮たちの御もきの日・
0059【宮たちの御もき】−弘徽殿女御の御腹の宮達也(明融臨模本0051)
  みかきしつらハれたりはな/\とものし」10ウ

  給殿のやうにて(て+ヰトイ、ヰトイ#<朱>)・なに事もいまめかしう(う=くイ、くイ#<朱>)も
  てなし給へり・源氏の君にも・一日うちにうく(うく$て<朱>)
  御たいめんのついてに・きこえ給しかと・おハせね
  ハ・くちおしうものゝハへなしとおほして・御
0060【ハへなし】−光也 栄也
0061【御】−ヲン
  この四位の少将を・たてまつりたまふ
0062【四位の少将】−軒ハの荻の夫也(軒ハの荻の夫也#)(明融臨模本0052)
    わかやとの花しなへての色ならは
0063【わかやとの】−右大臣(明融臨模本0053)
  なにかハさらに君をまたまし内におはする
  ほとにてうへにうこ(うこ$そう<朱>)し給ふ・したりかほなり
  やと・わらハせ給て・わさとあめるを・はやうもの(の#)
  せよかし・女御(御#<墨>み<朱>)こたちなとも・おいひ(ひ$い<朱>)つる」11オ
0064【女みこたち】−弘キ殿ノ御腹の宮たち也(明融臨模本0054)

  所なれハ・なへてのさまにハ思ましき越な
  との給ハす・御よそひなと・ひきつくろひ給
0065【御よそひ】−粧(明融臨模本0055)
  て・いたうくるゝほとに・またれてそ・わたり給さ
  くらのからのきの御な越し・えひそめのした
0066【からのき】−綺 うすきからあや也(明融臨模本0056)
0067【えひそめ】−蒲陶染(明融臨模本0057)
0068【したかさね】−下襲
  かさね・しりいとなかくひきて・みな人ハうへの
0069【しり】−裾(明融臨模本0058)
  きぬなるに・あされたる・おほきミすかたのな
0070【あされたる】−鮮也又宿老之義歟あハたすけ詞也宿の字越されたるといへり(明融臨模本0059)
  まめきたるにて・いつかれいりたまへる御さま・
  けにいとことなり・花のにほひもけおされて・な
  か/\ことさましになむ・あそひなといとおも
  しろうし給て・夜すこしふけゆく程に・」11ウ

  源氏のきミ・いたくゑいなやめるさまにもて
  なし給て・まきれたち給ひぬ・しむ殿に・
  女一宮・女三宮の・おハします・ひむかしのと
0071【女一宮女三宮】−皆弘キ殿女御の御腹也(明融臨模本0060)
0072【とくち】−ツマ戸ノクチ也(明融臨模本0061)
  くちにおハして・よりゐたまへり・ふちハ
  こなたのつまにあたりてあれハ・みかうし
  ともあけわたして・人/\いてゐたり・
  そてくちなと・たうかのおりおほえて・ことさ
0073【たうか】−男踏哥(明融臨模本0062)
  らめきもていてたるを・ふさハしからす
0074【ふさハしからす】−不祥日本紀(明融臨模本0063)
  と・まつふちつほわたりおほしいてらる・
  なやましきに・いといたうしひられて・わひにて」12オ
0075【わひにて】−ワヒタル也ニハ詞也(明融臨模本0064)

  侍り・かしこけれと・このおまへにこそハ・かけ
0076【かしこけれ】−をそれねと也
0077【かけにもかくさせ】−\<朱合点> いせ物かたりサク花の下ニカクルヽ人ヲホミ有シニマサル藤ノカケカモ(業平集32・伊勢物語177、河海抄・花鳥余情・一葉抄・紹巴抄・岷江入楚)
  にもかくさせ給ハめとて・つまとのみすを・ひ
  きゝたまへハ・あなわつらハし・よからぬ人こそ・
  やむことなきゆかりハ・かこち侍なれといふけし
0078【ゆかりハ】−源氏のイモウトノ宮タチヲワシマス也(明融臨模本0066)
  きを・見給ふに・おも/\しうハあらねと・
  をしなへてのわかうとともにハあらす・あ
  てにおかしきけハひしるし・そらたきも
  のいとけふたうくゆりて・きぬのをとなひ・い
  とはなやかにふるまひなして・心にくゝをく
  まりたるけハひハ・たちをくれ・いまめかしき」12ウ

  事を・このミたるわたりにて・やむことなき
  御方/\・ものミ給とて・このとくちハ・しめた
  まへるなるへし・さしもあるましき事
  なれと・さすかにおかしうおもほされて・いつれ
0079【いつれならむ】−あり明君(明融臨模本0067)
  ならむと・むねうちつふれて・あふきをとら
0080【あふきをとられて】−石川ノこまう人ニおひをとられてからきハヒスルいかなるおひそ花田ノ帯の中ハたえたる催馬楽石川(明融臨模本0068)
  れて・からきめ越見る
うち・おほとけたるこ
  ゑに・いひなして・よりゐたまへり・あやし
  くもさまかへける・こまうとかなといらふるは・
0081【こまうと】−\<朱合点>
  心しらぬにやあらん・いらへハせて・たゝとき/\
  うちなけくけハひするかたに・よりかゝり」13オ

  て・き丁こしに・手越とらへて
    あつさゆミいるさのやまにまとふ哉
0082【あつさゆミ】−源氏 弓の結の日なれハかくよめり<右>(明融臨模本0069) アツサ弓入サノ山ハ朝キリノアタルコトニヤイロマサルラン宗于(後撰379、河海抄・孟津抄)
  ほの見し月のかけや見ゆるとなにゆへかと・
  をしあてにのたまふを・えしのはぬな
  るへし
    心いるかたならませハゆみはりの
0083【心いる】−おほろ(大島本0070)
  月なき空にまよハ(ハ+ま<朱>)しやハといふこゑたゝそ
  れなりいと・うれしきものから

  任師説加首書已下 良鎮」13ウ

【奥入01】なをあらしに詞 万葉集第七
  黙然不有 なをあらしと事なしくさにいふ事ウ
       きゝれハすくなかりけり(戻)
【奥入02】貫河律
  ぬ支可波乃世々のノや波良多末久良
  也波良加尓 ぬ留与波名久天 於也左久留
  川末於や左久留川末波末之天留波之
  之加左良波や波々 千加伊乃保曽之支乎
  可戸 左之波支天 宇波毛と利支天
  美や知加与波牟(戻)」14オ

【奥入03】石川呂
  伊之加波の己末宇と尓 於比乎と良礼
  天可良支久以須留 己比須留
  伊可奈留以可奈留於比曽 波奈多の
  於比の奈可波多伊礼太留加可や留可
  あや留加奈可波太 伊礼太留可(戻)」14ウ

  二校了<朱> 一校了<朱>(表表紙蓋紙)