ねられ給はぬまゝに我はかく人ににくまれてもならはぬ
をこよひなんはしめてうしと世を思ひしりぬれははつ
かしうてなからふましくこそ思ひ成ぬれなとの給へは泪を
さへこほしてふしたりいとらうたしと覚すてさくりの
ほそくちいさきほとかみのいとなかゝらさりしけはひのに
かよひたるも思ひなしにや哀也あなかちにかゝつらひた
とりよらんも人わろかるへくまめやかにめさましと覚し
あかしつゝれいのやうにもの給ひまつはさす夜ふかく出
たまへはこの子はいと/\をしくさう/\しとおもふ女も
なみ/\ならすかたはらいたしと思ふに御せうそこ」(1オ)
もたえてなし覚しこりにけると思ふにもやかてつ
れなくてやみ給ひなましかはうからまししゐていと
をしき御ふるまひのたえさらんもうたてあるへし
よきほとにてかくてとちめてんと思ふ物からたゝなら
すなかめかち也君は心つきなしと覚しなからかくて
はえやむましう御心にかゝり人わろくおもほしわひて
こ君にいとつらふもうれたくも覚ゆるにしゐて
おもひかへせと心にしもしたかわすくるしきを
さりぬへきおりを見てた(た+はか)れとの給ひわたれはわつら
はしけれとかゝるかたにてものたまひまつはすは」(1ウ)
うれしう覚えけりおさなき心ちにいかならんおり
にと待わたるにきのかみ国にくたりなとして女とち
のとやかなる夕やみみちたと/\しけなるまきれに
我車にていれ奉るこの子もおさなきをいかならんと
おほせとさのみもえ覚しのとむましかりけれは
さりけなきすかたにて門なとさゝぬさきにといそき
おはす人みぬかたより引いれておろし奉るわらはな
れはとのゐ人なともことに見いれついそうせす心やす
しひんかしの妻戸にたて奉りて我は南のすみの
間よりかうしたゝきのゝしりていりぬこたちあらはな」(2オ)
りといふなりなそかうあつきにこのかうしをはお
ろされたるとゝへはひるよりにしの御かたわたらせ給て
こうたせたまふといふさてむかひゐたらむを見はや
とおもひてやをらあゆみ出てすたれのはさまにい
り給ぬこのいりつるかうしはまたさゝねはみゆるにより
てにしさまに見とをし給へはこのきはにたてたる
屏風をはしのかたおしたゝまれたるにまきるへき
几丁なともあつけれはにやうちかけていとよく見
いれらる火ちかうともしたりもやのなか柱にそはめる
人やわかこゝろかくるとまつめとゝめ給へはこきあやの」(2ウ)
ひとへかさねなめり何にかあらんうへにきてかしらつき
ほそやかにちいさき人の物けなきすかたそしたる
かほなともさしむかひたる人なとにもわさとみゆましう
もてなしたりてつきやせ/\にていたう引かくしため
りいまひとりはひんかしむきにてのこる所なくみゆし
ろきうすものゝひとへかさねふたあひのこうちきたつ
ものないかしろにきなしてくれなゐのこし引ゆへる
きはまてむねあらはにはうそくなるもてなし也いとし
ろうおかしけにつふ/\とこえてそゝろかなるひとの
かしらつきひたいつきものあさやかにまみくちつき」(3オ)
いとあいきやうつきはなやかなるかたち也かみはいとふさ
やかにてなかくはあらねとさかりはかたのほときよ
けにすへてねちけたる所なくをかしけなる人とみえ
たりむへこそおやのよになくは思ふらめとおかしく
みたまふこゝちそなをしつかなるけをそへはやとふと
みゆるかとなきにはあるましこうちはてゝけちさす
わたりこゝろとけにみえてきは/\しうさうとけはおく
の人はいと静にのとめてまち給へやそこはちにこそ
あらめこのわたりのこをこそなといへといてこのたひは
まけにけりすみの所々いて/\とおよひをかゝめて」(3ウ)
とをはたみそよそなとかそふるさまいよのゆのゆ
けたもたと/\しかるましう見ゆすこししなをく
れたりたとしへなくくちおほひてさやかにもみせね
とめおしつとつけたれはをのつからそはめにみゆ
めすこしはれたる心ちしはなゝともあさやかなる所
なうねひれてにほはしき所もみえすいひたつれ
はわろきによれるかたちをいといたうもてつけて
このまされる人よりは心あらむとめとゝめつへきさ
ましたりにきはゝしうあひきやうつきをかしけ
なるをいよ/\ほこりかにうちとけてわらひなとそ」(4オ)
ほれるはにほひおほくみえてさる方にいとおかし
き人さまなりあはつけしとは覚しなからまめなら
ぬ御心はこれもえおほしはなつましかりけりみた
まふかきりの人はうちとけたるよなく引つくろひ
そはめたるうはへをのみこそみ給へくうちとけた
る人のありさまかいま見なとはまたし給はさりつる
ことなれはなに心もなうさやかなるはいとをしなから
久しう見給へまほしきにこ君いてくる心ちすれは
やをら出給ひぬわたとのゝ口によりゐ給へりいとかたし
けなしと思てれいならぬ人侍てちかうもより侍ら」(4ウ)
すさてこよひもやかへしてむとするいとあさましう
からうこそあへけれとの給へはなとてかあなたにかへり
侍なはたはかり侍なんときこゆさもなひかしつへ
きけしきにこそはあらめわらはなれと物の心はへ人の
けしき見つへくしつまれるをと覚すなりけり
こうちはてつるにやあらんうちそよめく心ちして
人/\あかるゝけはひなとすなりわか君はいつくに
おはしますらんこのみかうしはさしてんとてならす也
しつまりぬなりいりてさらはたはかれとの給このこも
いもうとの御心はたはむ所なくまめたちたれはいひ」(5オ)
あはせんかたなく人すくなゝらむ折にいれ奉ら
むと思ふ也けりきのかみのいもうともこなたに
あるか我にかいまみせさせよとの給へはいかてかさは侍ら
むかうしには木丁そへて侍ときこゆさかしされとも
とおかしくおほせとみつとはしらせしいとをしと覚
してよふくる心もとなさをの給このたひは妻戸をた
たきている皆人/\しつまりねにけりこのさうし
くちにまろはねたらん風ふきとをせとてたゝみひろ
けてふすこたち東のひさしにいとあまたねたるへし
とはなちつるわらはもそなたにいりてふしぬれは」(5ウ)
とはかりそらねして火あかきかたに屏風をひろけ
てかけほのかなるにやをらいれ奉るいかにそおこかまし
き事もこそと覚すにいとつゝましけれとみちひ
くまゝにもやの几丁のかたひら引あけていと入給ふと
すれとみなしつまれるよの御そのけはひやはらかなる
しもいとしるかりけり女はさこそわすれ給うをう
れしきにおもひなせとあやしく夢のやうなること
を心にはなるゝ折なき比にてこゝろとけたるいたに
ねられすなんひるはなかめよるはね覚かちなれは春な
らぬこのめもいとなくなけかしきに五うちつる君」(6オ)
こよひはこなたにといまめかしくうちかたらひてねに
けりわかき人には何心なくいとようまとろみたるへし
かゝるけはひのいとかうはしくうち匂ふにかほをもたけた
るにひとへうちかけたる木丁のすきまにくらけれと
うちみしろきたるけはひいとしるしあさましく覚え
てともかくも思わかれすやをらおき出てすゝし
なるひとへをきてすへり出にけり君はいり給てたゝ
ひとりふしたるを心やすく覚すゆかのしもに二人
はかりそふしたるきぬをゝしやりてより給へるに
ありしけはひよりはもの/\しく覚ゆれとおもほし」(6ウ)
もよらすかしいきたなきさまなとそあやしくか
はりてやう/\見あらはし給てあさましく心やま
しけれと人たかへとたとりてみえむをおこかまし
くあやしと思へしほいの人をたつねよらむもかはか
りのかるゝ心あめれはかひなくおこにこそおもはめと
覚すかのをかしかりつるほかけならはいかゝはせんに
おほしなるもわろき御心あさゝなめりかしやう/\めさ
めていと覚えすあさましきにあきれたるけしき
にて何の心ふかくいとをしきよういもなし世中を
また思しらぬほとよりはされはみたるかたにてあえ」(7オ)
かにも思ひまとはす我ともしらせしとおほせと
いかにしてかゝる事そとのちにおもひめくらさんも
我ためにはことにもあらねとあのつらき人のあ
なかちに世をつゝむもさすかにいとおしけれはたひ
/\の御かたたかへにことつけ給しさまをいとようい
ひなし給たとらむ人はえ心えつへけれとまたわ
かきこゝちにさこそさしすきたるやうなれとえしも
思ひわかすにくしとはなけれと御心とまるへきゆへ
もなき心ちして猶かのうれたき人のこゝろをいみ
しく覚すいつこにはひまきれてかたくなしと」(7ウ)
思ひ(ひ+ゐ)たらんかくしうねき人はありかたき物をと覚
すにしもあやにくにまきれかたうおもひ出られ給
この人の何心なくわかやかなるけはひも哀なれはさ
すかになさけ/\しく契をかせ給人しりたること
よりもかやうなるはあはれそふことゝなん昔人もいひ
けるあひ思給へよつゝむことなきにしもあらねは身な
から心にもえまかすましくなむ有けるまたさるへき
人/\もゆるされしかしとかねてむねいたく忘れて
待給へよとなを/\しくかたらひ給人の思ひ侍らん事
のはつかしきになんえきこえさすましきとうらも」(8オ)
なくいふなへて人にしらせはこそあらめこのちいさき
うへひとなとにつたへきこえんけしきなくもてなし
給へなといひをきてかのぬきすへしたるうすきぬ
をとりて出給ぬこ君ちかうふしたるをおこし給へは
うしろめたう思ひつゝねけれはふとおとろきぬ戸をやを
らをしあくるにおいたるこたちのこゑにてあれは
たそとおとろ/\しくとふわつらはしくてまろそと
いらふ夜中にこはなそありかせ給とさかしかりて
とさまへくいとにくくてあらすこゝもとへ出るそと
て君をゝしいて奉るに暁ちかき月くまなくさし」(8ウ)
出てふと人かけ見えけれはまたおはするはたそと
とふ民部のをもとなめりけしうはあらぬおもとのたけ
たちなりなといふたけたかき人のつねにわらはるゝを
いふ也おい人これをつらねてありきけると思ひていま
たゝ今たちならひ給なんといふ/\我もこのとより
いてゝくわひしけれとえはたをしかへさてわた殿の
くちにかひそひてかくれたち給へれはこのおもと
さしよりておもとはこよひはうへにやさふらひ給つる
おとゝひよりはらをやみていとわりなけれはしもに
侍つるを人すくなゝりとてめししかはまうのほりし」(9オ)
かとなをえたふましくなんとうれふいらへもきかてあ
なはら/\今きこえんとて過ぬるにからうして出
給う猶かゝるありきはかる/\しくあやうかりけりとい
よ/\覚しこりぬへしこ君御車のしりにて二条院
におはしましぬ有さまの給ひてをさなかりけりとあ
はめ給てかの人の心をつまはしきをしつゝうらみ給
いとをしうて物もきこえすいとふかうにくみ給へかめれは
身もうくおもひはてぬなとかよそにてもなつかしき
いらへはかりはし給うましきいよのすけにおとりける身
こそなと心つきなしとおもひての給うありつるこ」(9ウ)
うちきをさすかに御そのしたにひきいれておほと
のこもれりこ君をおまへにふせてよろつにうらみかつは
かたらひ給あこはらうたけれとつらきゆかりにこそ
えおもひはつましけれとまめやかにの給うをいとわひ
しとおもひたりしはしうちやすみ給へとねられ給は
す御硯いそきめしてさしはへたる御ふみにはあらてたゝ
手ならひのやうにかきすさひ給
空蝉の身をかへてける木のもとに猶人からのなつ
かしきかなとかき給へるをふところに引入てもたりかの
人もいかに思らんといとをしけれとかた/\おもほしかへして」(10オ)
御ことつけもなしかのうすきぬはこうきのいとなつかしき
人かにしめるを身ちかくならして見ゐ給へりこ君かしこ
にいきたれはあね君まちつけていみしくの給あさまし
かりしにとかうまきらはしても人のおもはんことさり
所なきにいとなんわりなきいとかう心おさなき心はへを
かつはいかにおほすらんとてはつかしめ給ひたりみきに
くるしくおもへと彼御てならひとり出たりさすかに
とりて見給かのもぬけをいかに伊勢をのあまの塩
なれてやなと思もたゝならすいとよろつにおもひ
みたれたりにしの君も物はつかしき心ちしてわたり」(10ウ)
給にけりまたしる人もなき事なれは人しれすうち
なかめてゐたりこ君のわたりありくにつけてもむね
のみふたかれは(は$と)御せうそこもなしあさましとおもひうる
かたもなくてされたる心に物あはれなるへしつれなき
人もさこそしつむれ(れ+い)とあさはかにもあらぬ御けしき
をありしなからの我身とならはととりかへす物ならねと
忍ひかたけれはこの御たゝうかみのかたつかたに
うつせみのはにをく露の木かくれてしのひ/\に
ぬるゝ袖かな」(11オ)