桐壺(大島本) First updated 2/24/2003(ver.1-1)
Last updated 12/29/2008(ver.2-3)
更新内容:「大島本源氏物語DVD-ROM版」によって朱点及び朱書を確認した。
渋谷栄一翻字(C)

  

桐 壺


《概要》
 大島本は、青表紙本の最善本とはいうものの、現状では、後人の筆によるさまざまな本文校訂跡や本文書き入れ注記、句点、声点、濁点等をもつ。そうした現状の様態をそのままに、以下の諸点について分析していく。
1 大島本と大島本の親本復元との関係 鎌倉期書写青表紙本(池田本・伏見天皇本等)を補助的資料として
2 大島本本文と明融臨模本本文との関係 大島本親本復元と青表紙本復元を比較して
3 大島本の本文校訂に対校された本文系統
4 大島本の句点の関係
5 大島本の後人書き入れ注記
  明融臨模本の書き入れ注記との関係
  その他の書き入れ注記との関係

《書誌》

《翻刻資料》

凡例
1 本稿は、『大島本 源氏物語』(1996(平成8)年5月 角川書店)を翻刻した。よって、後人の筆が加わった現状の本文様態である。
2 行間注記は【 】− としてその頭に番号を記した。
2 小字及び割注等は< >で記した。/は改行を表す。また漢文の訓点等は< >で記した。
3 合(掛)点は、\<朱(墨)合点>と記した。
4 朱句点は「・」で記した。
5 本文の校訂記号は次の通りである。
 $(ミセケチ)・#(抹消)・+(補入)・&(ナゾリ)・=(併記)・△(不明文字)
 ( )の前の文字及び( )内の記号の前の文字は、訂正以前の文字、記号の後の文字が訂正以後の文字である。ただし、なぞり訂正だけは( )の前の文字は訂正後の文字である。訂正以前の本行本文の文字を尊重したことと、なぞり訂正だけは元の文字が判読しにくかったための処置である。
6 朱・墨等の筆跡の相違や右側・左側・頭注等の注の位置は< >と( )で記した。私に付けた注記は(* )と記した。なお朱点及び朱書の確認は「大島本源氏物語DVD−ROM版」によった。
7 付箋は、「 」で括り、付箋番号を記した。
8 各丁の終わりには」の印と丁数とその表(オ)裏(ウ)を記した。
9 本文校訂跡については、藤本孝一「本文様態注記表」(『大島本 源氏物語 別巻』と柳井滋・室伏信助「大島本『源氏物語』(飛鳥井雅康等筆)の本文の様態」(新日本古典文学大系本『源氏物語』付録)を参照した。
10 和歌の出典については、伊井春樹『源氏物語引歌索引』と『新編国歌大観』を参照し、和歌番号と、旧注書名を掲載した。ただ小さな本文異同については略した。

「きりつほ」(題箋)

  いつれの御ときにか・女御更衣あまたふらひ給ひ
0001【いつれの御とき】−延喜ノ御門ニなすらふへし
0002【女御更衣】−我朝ニハシマリタル名ノリ也
  ける中に・いとやんことなききはにはあらぬか・
0003【いとやんことなききは】−上臈ヲ云
  すくれてときめき給ふ有けり・ハしめより我ハと
0004【ハしめより我ハと】−上
  思ひあかりたまひつ(ひつ$△、△#+へ)る御かた/\めさましき物に・
0005【めさましき】−目モヲトロクハカリナルコトヲ云
  おとしめ(△&め)そねみ給ふ・おなし程・それよりけらうの更
0006【おとしめ】−人ヲ見ヲトス心也
0007【そねみ】−猜
0008【おなし程】−中
0009【それよりけらう】−下
0010【けらう】−非参議
  衣たちハましてやすからす朝夕のみやつかへにつけ
  ても・人のこゝろをのみうこかし・うらみをおふつもりにや
  ありけむ・いとあつしくなりゆき・物心ほそけにさと
0011【あつしく】−病コトナリ(*本文「つ」の左上に朱点の濁点符号あり)
  かちなるを・いよ/\あかすあはれなる物におもほし
  て・人のそしり越もえはゝからせ給はす・世のためしにも」1オ

  成ぬへき御もてなしなり・かむたちめうへひとなとも
0012【かむたちめ】−公卿(明融本0014)
0013【うへひと】−殿上人(明融本0015)
  あいなくめ越そはめつゝ・いとまはゆき人の御おほえ
  なり・もろこしにもかゝることのおこりにこそ・世もみたれ
0014【おこりに】−式嬌
  あしかりけれと・やう/\天のしたにもあちきなう人
0015【あちきなう】−センカタナキ心也(明融本0021)
  のもてなやみくさに成て・楊貴妃のためしも
  引いてつへくなり行に・いとハしたなきことおほかれ
0016【ハしたなきこと】−コハ/\シキコトヲ云
  と・かたしけなき事おほかれ(事おほかれ$)御心はへのたくひなき
  をたのみにてましらひ給ふ・ちゝの大納言ハなく成て・
  はゝ北のかたなん・いにしへのひとのよしあるにて・おや
  うちくしさしあたりて世のおほえ花やかなる御かた/\」1ウ
0017【うちくし】−二親

  にもいたうおとらす・なに事のきしき越も・もてなし
  給ひけれと・とりたてゝはか/\しきうしろみしな
  けれハ・ことゝある時ハ猶より所なく心ほそけなり・
  さきの世にも御ちきりやふかゝりけむ・世になくきよら
0018【御ちきりやふかゝりけむ】−\<朱合点> 君ト我イカナルコトヲ契ケン昔ノ世コソキカマホシケレ(和漢朗詠集739、河海抄・休聞抄・孟津抄)
0019【きよら】−清
  なる玉のおの子御子さへむまれ給ひぬ・いつしかと
0020【玉のおの子御子】−光源氏ナリ(明融本0037)
  心もとなからせ給ひていそきまいらせて御覧する
  に・めつらかなるちこの御かたちなり・一の御子は
0021【めつらかなる】−\<朱合点> 梅豆邏珍愛 古今めつらしキ人ヲミントヤシカモセン我下紐ノトケワタルラン(古今730・古今六帖3352、河海抄・孟津抄・岷江入楚)
  右大臣の女御の御はらにて・よせおもくうたかひなきまう
0022【右大臣】−二条
0023【まうけの君】−儲君
  けの君と・世にもてかしつききこゆれと・この御にほひ
  にハならひたまふへくもあらさりけれハ・おほかたのやむ」2オ

  ことなき御おもひにて・この君をハわたくし物におもほしか
  しつき給ふことかきりなし・はしめよりをしなへての
0024【はしめより】−更衣ノ事
  うへ宮つかへし給ふへき・きはにハあらさりき・おほえいとや
0025【うへ宮つかへ】−典侍
  むことなく上すめかしけれと・わりなくまつは(は+さ)せ給ふ
0026【上すめかし】−したりかほなる事なり(明融本0041)
0027【わりなく】−無別同
0028【まつはさせ】−纏
  あまりに・さるへき御あそひのおり/\なにことにもゆへ
  あることのふし/\にハ・まつまうのほり(り$ら)せ賜ふ・あるとき
0029【まうのほらせ】−マイリノホルナリ(明融本0043)
  にはおほとのこもり過して・やかてまいらせ(まいらせ$さふハせ#、さふらハせ)たまひなと
0030【おほとのこもり過して】−夜者専夜昼同車ト長恨哥ニイヘル心ニカヨフ也
  あなかちにおまへさらすもてなさせ給ひし程に・をの
  つからかろきかたにも見えしを・この御子むまれ給て
  後ハ・いと心ことにおもほしをきてたれハ・坊にもよう」2ウ
0031【をきて】−掟
0032【坊にも】−東宮ヲ申也(明融本0046)

  せすハ・この御子のゐ(い&ゐ)たまふへきなめりと・一の御子の女御
  ハ覚しうたかへり・人よりさきにまいり給ひて・やん
  ことなき御おもひなへてならす・御子たちなとも
  越はしませハ・この御かたの(の+御イ、御イ#)いさめ越のみそ猶わつ
0033【いさめ】−諌
  らはしう・心くるしうおもひきこえさせたまひける・かし
0034【かしこき御かけを】−\<朱合点>
  こき御かけをたのみきこえなから・おとしめきすをもと
0035【御かけ】−勅ナレハイトモカシコシ鴬ノ
0036【おとしめ】−見ヲトサントスル心也
0037【きすをもとめ】−\<朱合点> 後ナヲキ木ニマカレル枝モ 漢武[言+又]摧抑諸侯王美ス其遇悪吹毛求疵
  めたまふ人はおほく・我身ハかよはく物はかなき有
  さまにて・中/\なる物おもひ越そし給ふ・御つほね
0038【御つほね】−御曹司
  ハきりつほなり・あまたの御かた/\を過させ給ひて・
0039【きりつほ】−淑景舎ヲ云
0040【あまたの御かた/\】−桐壺御殿艮過弘徽殿涼京殿宣曜殿
  ひまなき御まへわたりに・人の御心をつくし給ふも」3オ

  けにことわりと見えたり・まうのほり給ふにもあまり
  うちしきる折/\ハ・うちハしわたとのゝこゝかしこの道
0041【うちはし】−日本記下於天ノ安川又造打橋村上ノ御時宣耀殿ノ女御藤ツホノ御物ネタミノアリシヲヨソヘ云ヘリ
  に・あやしき態越しつゝ御送りむかへの人のきぬ
  のすそたへかたく・まさなきこともあり・またある時に
0042【まさなきこと】−\<朱合点>
  ハえさらぬめたうのと越さしこめ・こなたかなた心
  をあはせて・ハしたなめわつらはせ給ふときもおほ
  かり・ことにふれて数しらすくるしき事のみまされ
  ハいといたう思ひわひたるを・いとゝあはれと御覧して
  後涼殿にもとよりさふらひ給かういのさうしをほかに
0043【後涼殿】−コウラウテンハ御テンノニシニアタレル殿ナレハ常ノ御前ニチカキ也
  うつさせ給て・うへつほねに給はす・そのうらみましてやらん」3ウ
0044【うへつほね】−非対屋号上ニ局昼御座ノ傍二間号上局是中宮ナト参昇時用之

  方なし・この御子三に成たまふとし御はかまきの事・一
  のみやのたてまつりしにおとらす・くらつかさおさめ殿の物
0045【くらつかさ】−内蔵寮(明融本0055)
0046【おさめ殿】−納殿有後△(△#涼)殿(明融本0056)
  をつくして・いみしうせさせ給ふそれにつけても・世
  のそしりのみおほかれと・この御子のおよすけもて越ハ
0047【およすけ】−ヲトナヒタル也(明融本0057)
  する御かたち心はへ有かたくめつらしきまてみえ給ふを・
  えそねみあえ給はす物の心しりたまふ人ハ・かゝるひとも
  世にいて越はする物成けりと・あさましきまてめ越お
  とろかし給ふ・そのとしのなつみやすん所ハかなき心ち
0048【みやすん所】−キリツホ更衣事(明融本0058)
  にわつらひてまかてなんとし給ふ越・いとまさらにゆる
  させ給はす・としころ常のあつしさになり給へれは・」4オ

  御めなれて猶しはし心みよ(し&よ)とのみのたまはする
  に・日々におもり給てたゝ五六日の程に・いとよはく(く$う)
  なれハはゝきみなく/\そうしてまかてさせたてまつ
  り給・かゝる折にもあるましきはちもこそと心つ
  かひして御子越ハ・とゝめたてまつりて忍ひてそ出た
  まふ・かきりあれハさのみもえとゝめさせ給はす
  御覧したに送らぬおほつかなさをいふかたなくお
  ほさる・いとにほひやかにうつくしけなる人のいたう
  おもやせていとあはれと物越思ひしみなから・ことに
0049【ことにいてゝ】−\<朱合点> 古今言にいてゝいはぬはかりそ水無瀬川下ニかよひて恋しき物を(古今607・古今六帖2651・友則集48、河海抄、休聞抄、孟津抄)
  いてゝ(ゝ+も)きこえやらす・あるかなきかにきえいりつゝものし」4ウ

  給ふを御覧するに・きしかた行すゑをおほしめされ
  す・よろつのこと越なく/\契のたまはすれと・御いら
  へもえきこえ給はす・まみなともいとたゆけにて・
0050【まみ】−目見
  いとゝなよ/\と我かのけしきにてふしたれは・いか
0051【なよ/\と】−タユケナルスカタ也
0052【我かのけしき】−人心モナキテイ也
  さまにとおほしめしまとはる・手くるまのせむし
0053【手くるま】−輦
  なとのたまはせてもまたいらせ給ひて・ハ(ハ$)さらにも(も$)
  えゆるさせ給はすかきりあらんみちにもをくれ
  さきたゝしとちきらせ給ひける越さりともうちすて
  てハ・えゆきやらしとのたまはするを女もいといみし
  とみたてまつりて」5オ

    かきりとてわかるゝみちのかなしきにいかまほしきハ
0054【かきりとて】−更衣
  いのちなりけりいとかく思ひたまへましかハ(ハ+と)いきもたえ
0055【思ひたまへましかは】−ヲモフヤウナラマシカハノ心也
  つゝきこえまほしけなることハありけなれと・いとくる
  しけなれは(なれは$)にたゆけなれハかくなから・(ら+と)もかくもな
  覧を御覧しはてんとおほしめすに・けふハしむへき
  御(御#<朱>)いのりともさるへき人々うけたまはれる・こよひより
  ときこえいそかせハ・わりなくおもほしなからまかてさせ
  たまふ(ふ+つイ、イ#)・御むねつとふたかりて露まとろまれす・あかしかね
  させ給ふ御つかひの行かふ程もなきに猶いふせさ
0056【いふせさ】−不審#<右> 不審トカケリ<左>(明融本0063)
  を・かきりなくのたまはせつる越・夜中うちすくる」5ウ

  程になんたえはて給ぬるとて・なきさはけハ御つかひも
  いとあえなくてかへりまいりぬ・きこしめす御心まとひ
  なに事もおほしめし分れす・こもり越はします御
0057【御子はかくても】−源氏君三歳之時ナリ
  子ハかくてもいと御覧せまほしけれと・かゝる程に
  さふらひたまふ例なきことなれハまかて給ひなん
0058【例なきこと】−ならひ別出之
  とす・なにことかあらむともおほしたらすさふらう人々
0059【なにことか】−御子ノ心(明融本0067)
  のなきまとひうへも御涙のひまなく・なかれ越ハし
  ますを・あやしと見たてまつり給へる越・よろしき
  ことにたにかゝるわかれの悲しからぬハなきわさなるを・
  まして哀にいふかひなし・かきりあれハれいのさほうにおさ」6オ

  めたてまつるを・はゝ北のかたおなし煙にのほりなん
  となきこかれ給ひて御送りの女はうの車にしたひ
  のり給ひて・おたきといふところにいといかめしうその
0060【おたき】−愛宕
  さほうしたるに越はしつきたる心ちいかはかりかは
0061【さほう】−火ヤナト用意シタル事也
  ありけむ・むなしき御から越みる/\猶越はする物と
0062【御からをみる/\】−\<朱合点> 古今空蝉ハカラヲミツヽモナクサミ<左>(古今831・新撰和歌166・遍昭集13、異本紫明抄・紫明抄・河海抄・弄花抄・休聞抄・孟津抄・岷江入楚)
  思ふかいとかひなけれハはひになり給はんをみたてまつ
0063【はひになり給はん】−\<朱合点> 拾遺モエイテヽハヒニ成ナン時ニコソ人ヲオモヒノヤマンコニセメ(拾遺929、孟津抄・岷江入楚)
  りていまハなき人とひたふるに思ひなりなむとさかし
0064【ひたふるに】−\<朱合点> 伊せみよしのゝたのむの雁もひたふるに君か方にそよると鳴なる(古今六帖4380・業平集14・伊勢物語14、異本紫明抄・紫明抄・河海抄・孟津抄)
  うのたまへれと・車よりも落ぬへうまろひ給へは・
  (+さハ)思ひつ・かしと・人々もてわつらひきこゆ・内より御使
0065【思ひつかし】−思ツル也
  あり三位のくらひ(ひ+をイ、をイ#)送り給ふよし勅使きたり(たり$)てその」6ウ
0066【三位】−従三

  宣命よむなんかなしき事成ける・女御とたにいはせす
0067【宣命よむ】−少納言墓所ニテヨムサホウアリ(明融本0072)
  なりぬるか(か#<墨>)あかすくち越しうおほさるれハ・いま一き
  さみのくらひ越たにと送らせ給ふなりけり・是に
  つけてもにくみ給ふ人々おほかり・物おもひしり給ふ
  ハ・さまかたち(ち+なと)のめてたかりし事・心はせのなたら
0068【心はせの】−\<朱合点> 古今いさゝめに時まつまにそ日ハへぬる心(古今454、河海抄・孟津抄)
  かにめやすく・にくみかたかりしことなといまそおほし
  いつるさまあしき御もてなしゆへこそ・すけなうそ
0069【すけなう】−無人気
  ねみ給ひしか・人からのあはれに情有し御心越・うへ
  の女はうなとも恋しのひあへり・なくてそとはかゝる
0070【なくてそとは】−\<朱合点> ある時ハありのすさミにゝくかりきなくてそ人ハ恋しかりける(出典未詳、源氏釈・奥入・異本紫明抄・紫明抄・河海抄 明融本付箋02)
  折にやとみえたりハかなく日ころ過てのちのわさなと(と+に<朱>)も」7オ

  こまかにとふ(ふ+ら<朱>)はせ給・ほとふるまゝにせむかたなうかなし
  うおほさるゝに・御かた/\の(の+御)殿ゐなともたえてし給は
  す・たゝ涙に・ひちてあかしくらさせ給へハみたてまつる
0071【ひちて】−\<朱合点> 古今ねに泣テひちにしかとも春雨にぬれにし袖とゝハゝこたへん
  人さへ露けき秋なり・なき跡まて人のむねあく
0072【露けき秋】−\<朱合点> 後人ハいさことそともなきなかめにそ我ハ露けき秋としく(く$ら)るゝ(後撰287、異本紫明抄・紫明抄・河海抄・孟津抄)
  ましかりける人の御おほえかなとそ・弘徽殿なとに
  ハ猶ゆるしなうのたまひける・一の宮をみたてまつ
  らせ給ふにもわか宮の御こひしさ越(越$)のみおもほし出
  つゝ・したしき女房御めのとなと越つかはしつゝ・有
  さまをきこしめす野分たちて・にハかにはたさむき
0073【野分たちて】−達也野分ノヤウナル風也
0074【はたさむき】−\<朱合点> 拾遺朝ほらけ荻の上葉ノ露みたれ良はたさむし秋の初かせ(*「拾遺」は誤り、好忠集192・新古今311、河海抄・孟津抄)
  夕暮の程常よりもおほしいつることおほくて・ゆけ」7ウ
0075【ゆけいの命婦】−衛門督<ユケイノカミ><右> <ミカキモリ><左> 靭負<ユキヲウ>トカキテゆつけとよめり靭ハ矢を入るシコヲ云左衛門督ハ弓矢ヲ帯スルツカサ/ナルニヨリテゆけいといへり円融院御時此名のりせし女房アリキ新古今集ノ詞ニ見えたり

  いの命婦といふ越つかはす・夕附夜のおかしき程に
  出したてさせ給て・やかてなかめ越はします・かうやう
  のおりは・御あそひなとせさせ給ひしに心ことなる
  物の音越かきならし・ハかなくきこえいつることの葉も・
  人よりハこと成しけはひかたちのおもかけにつとそひてお
  ほさるゝにも・やみのうつゝにハ猶おとりけり・命婦かしこ
0076【やみのうつゝには】−\<朱合点> 古今むは玉のやみのうつゝはさたかなる夢にいくらもまさらさりけり(古今647・古今六帖2034、源氏釈・奥入・異本紫明抄・紫明抄・河海抄 明融本付箋03)
  にまてつきて・門ひきいるゝよりけはひあはれなり・やもめ
0077【ひきいるゝ】−車事也(明融本0085)
0078【やもめ】−鰥女 寡男
  すみなれと人ひとりの御かしつきに・とかくつくろひ
  たてゝめやすき程にて過したまひ(ひ=△△をイ#)つる・やみにくれて・
  ふししつみたまへるほとに・くさもたかく成暴風に」8オ

  いとゝあれたる心ちして・月かけはかりそ八重むくらにも
0079【月かけはかりそ】−\<朱合点> 拾遺八へむくらしけれる宿ノさひしきニ人こそみえね秋ハきにけり 貫之集とふ人もなきやとなれとくる春ハ八へむくらにもさハらさりけり 此二首ノ心をとりてかけり(「八重葎」拾遺140・拾遺抄89・恵慶集109、源氏釈・奥入・異本紫明抄・紫明抄・河海抄 「問ふ人も」新撰和歌7・古今六帖1306・貫之集207、奥入・異本紫明抄・紫明抄・河海抄 明融本付箋04)
  さはらすさしいりたる・南おもてにおろしてはゝきみ
  もとみに(に+え)物ものたまはす・いまゝてとまり侍るか・
  いとうき越かゝる御つかひの蓬生のつゆ分いり給ふ
0080【蓬生のつゆ】−\<朱合点> 拾いかてかハ尋きぬらん蓬生ノ人もかよハぬ我宿ノ道(拾遺集1203・拾遺抄458・高光集36、河海抄・孟津抄・岷江入楚)
  につけてもいとはつかしうなんとて・けに(に+え)たふましく
0081【たふましく】−絶
  ないたまふ・まいりてハいとゝ心くるしう御(御$、+心)きもゝつくるやう
0082【まいりては】−命婦内侍ノスケノ奏セシ事ヲ心中ニおもひあハせ侍る心也
  になんと・内侍の典侍のそうし給しを・物おもふたまへ
0083【内侍の典侍のそうし】−命婦よりさきニ御使シタル人也いまの典侍<スケ>ノ事也
  しらぬ心ちにも・けにこそいとしのひかたく(く$<朱>う)侍けれと
  て・やゝためらひておほせ事つたへきこゆ・しはしハ
0084【ためらひて】−扶行<タメライ>白氏
0085【しはしハ】−命婦詞勅定
  夢かとのミたとられしを・やう/\思ひしつまるにし」8ウ

  もさむへき方(方+なく・たへかたきハ、ハ#)ハいかにすへきわさにかとも・とひ
  あはすへきひとたになき越忍ひてハまいり給なん
  や・若宮のいとおほつかなく露けき中にすくし
  給ふも心くるしうおほさるゝを・とくまいりたまへなと・
  はか/\しうも・のたまはせやらす・むせかへらせ給つゝ・
  かつハひとも心よはくみたてまつらんとおほしつゝまぬ
  にしもあらぬ御けしきの心くるしさに・うけ給はり
  はてぬやうにてなんまかて侍りぬるとて・御ふミたて
  まつる・めもみえ侍らぬに・かくかしこき仰こと越光にて
0086【めもみえ侍らぬに】−母君詞
  なむとて見たまふ・程へハすこし打まきるゝこともや」9オ
0087【程へハすこし】−御書ノ詞

  と待すくす月日にそへて・いと忍ひかたきハわりなき
  わさになん・いはけなき人をいかにと思ひやりつゝ・もろ
  ともにはくゝまぬおほつかなさ越・今ハ猶むかしの
  かたみになすらへて・ものしたまへなとこまやかにかゝせた
  まへり
    宮城野のつゆふきむすふ風の音にこはきか本を
0088【宮城野の】−御門更衣母ノモトヘ 宮禁ニたとふ
0089【つゆ】−涙をいふ
0090【こはきか本】−若宮ノ御事也
  思ひこそやれとあれと・えみたまひはてす・いのちなかさ
  のいとつらう思ふたまへしらるゝに・まつの思はんこと
0091【まつの思はんこと】−\<朱合点> いかにしてあるとしられしたかさこの松のおもはん事もはつかし(古今六帖3057、源氏釈・奥入・異本紫明抄・紫明抄・河海抄)
  たにはつかしうおもふたまへ侍れハ・もゝしきに行かひ
0092【もゝしきに】−もゝのつかさの座ヲシク心也
0093【行かひ侍らんことハ】−\<朱合点> 古今からきめのゆきかひちとそ思こし<左>(古今862・大和物語233、河海抄・孟津抄・岷江入楚)
  侍らんことハ・ましていとはゝかりおほくなむ・かしこき」9ウ

  おほせ事をたひ/\うけ給なから・身つからハえなむ
  思ひたまへたつましき・若ミやハいかにおもほししるにか・ま
  いり給はんこと越のミなんおほしいそくめれハ・ことハり
  にかなしうみたてまつり侍るなと・うち/\に思ふたまへ
  るさまをそうしたまへ・ゆゝしき身に侍れハかくて
0094【ゆゝしき身に】−\<朱合点> こゝにハいま/\しき心也又よき事にもいへり 拾ーゆゝしとていむとも今ハかひもあらしうきをハ風ニつけてやミなん(拾遺集1270、河海抄・休聞抄・孟津抄・岷江入楚)
  越はしますも・いま/\しうかたしけなくなむとの
  たまふ・ミやハおほとのこもりにけりみたてまつりてくハし
  う御ありさまもそうし侍らまほしき越・待越はしま
  す覧に夜ふけ侍ぬへしとていそく・くれまとふ心の
0095【くれまとふ】−母君詞
0096【心のやみも】−\<朱合点> 後撰集人のおやの心ハやみにあらねとも子をおもふ道にまよひぬるかな(後撰1102・古今六帖1412・兼輔集127・大和物語61、源氏釈・奥入・異本紫明抄・紫明抄・河海抄 明融本付箋05)
  やみもたへかたき片ハし越たにはるくハかりに・きこえ」10オ
0097【片はし】−諸をかたへとよむハ別もろ/\の心也こゝのかたへハかたはしの心也

  まほしう侍越・わたくしにも・心のとかにまかてたまへとし
  ころうれしくおもたゝしきついてに(に$<朱>)にて立より給ひし
0098【おもたゝしき】−面目しき心也(明融本0105)
  物越・かゝる御せうそこにてみたてまつる・かへす/\つれなき
  いのちにも侍るかな・むまれし時より思ふ心有し人
  にて・故大納言いまはとなるまてたゝこの人のミやつかへ
  のほいかならすとけさせたてまつれ・われなく成ぬと
  てくち越しう思ひくつをるなと・返々いさめをかれ
  侍しかハ・はか/\しううしろミ思ふ人もなきましらひ
  ハ中/\成へきことゝ・思ひたまへなから・たゝかのゆいこむ
  をたかへしとはかりにいたしたて侍しを・身にあまるまて」10ウ

  の御心さしのよろつにかたしけなきに人けなきはちを
  かくしつゝ・ましらひたまふめりつるを・ひとのそねミふ
  かくつもり・やすからぬことおほくなりそひ侍りつるに・
  よこさまなるやうにてつゐにかく成侍ぬれハ・かへりてハ
0099【よこさま】−しぬへき年にてもなきも横死ナリ
  つらくなんかしこき御心さしを思ひたまへられはへる・
  これもわりなきこゝろのやみになんといひもやらす
  むせかへり給程によもふけぬ・うへもしかなん・我御心
0100【うへもしかなん】−命婦詞(明融本0111)
  なからあなかちに人めおとろくハかりおほされしも・なかゝ
  るましきなりけりと・いまハつらかりけるひとの契り
  になむ世にいさゝかも・ひとの心越まけたることハあ」11オ
0101【まけ】−曲

  らしと思ふ越・たゝこの人のゆへにてあまたさるましき
  人のうらみをおひし・はて/\ハ・かう打すてられて心
  おさめむかたなきに・いとゝ人わろうかたくなになり侍
  るも・さきの世ゆかしうなむと・うちかへしつゝ御しほ
  たれかちにのミ越はしますとかたりて・つきせすなく/\
  夜いたうふけぬれハ・こよひすくさす御返そうせむ
  といそきまいる・月はいりかたにそらきようすみわた
  れるに風いとすゝ敷成てくさむらの虫のこゑ/\もよほし
  かほなるもいとたちはなれにくきくさの本なり
    鈴むしのこゑのかきりをつくしてもなかき夜あかす」11ウ
0102【鈴むしの】−ゆけいの命婦(明融本0114)

  ふるなみたかなえものりやらす
0103【えものりやらす】−車ノ事也
    いとゝしく虫の音しけき浅茅生に露をきそふる
0104【いとゝしく】−更衣母(明融本0116)
  雲のうへひとかこともきこえつへくなむといはせ給ふ・おか
0105【雲のうへひと】−昇殿シタル人を男女ニかよハし云なり(明融本0117)
0106【かことも】−\<朱合点> アマタノ心アリ一ハかこつ事也二ニハちかき事也三ニハいさゝかの事也こゝにハかこつことを云へり 伊せあつさ弓ま弓つき弓年をへて(伊勢物語53、河海抄・孟津抄)
  しき御送り物なと有へき折にもあらねハ・たゝかの御
  かたみにとてかゝるようもやと残したまへりける・御さうそく
  一くたり・御くしあけのてうとめく物そへたまふ・わかき人々
0107【くたり】−領事也
0108【わかき人々】−若宮ノかいしやくの人々を云
  悲しきことハさらにもいはす・うちわたりを夕(夕$)あさゆふに
  ならひていとさう/\しくうへの御ありさまなとおもひ
0109【さう/\しく】−寂寞<サウサウシ>
  いてきこゆれハ・とくまいりたまはんこと越そゝのかし聞
  ゆれと・かくいま/\しき身のそひたてまつらんもいと人」12オ
0110【かくいま/\しき身の】−母君心中詞

  きゝうかるへし・また見たてまつらてしはしもあらむは
  いとうしろめたう思ひきこえ給て・すか/\ともえまいらせ
0111【うしろめたう思ひきこえ給て】−\<朱合点> 古今女郎花うしろめたくも見ゆる哉あれたる庭に<左>(古今237・古今六帖3664、河海抄・孟津抄)
0112【すか/\】−ハヤ/\也
  たてまつり給はぬなりけり・命婦ハまたおほとのこもら
  せ給ハさりけると・あはれにみたてまつる・おまへのつほ前栽
0113【おまへのつほ前栽】−清涼殿三方草花うへられたるをいふ
  のいとおもしろきさかりなる越・御覧するやうにて忍ひや
  かに心にくきかきりの女房四五人さふらはせ給て・御物
  かたりせさせ給ふ成けり・このころ明くれ御覧する長
  恨哥の御ゑ・亭子院のかゝせ給て伊せつらゆきによ
0114【亭子院】−宇多院ノ御事也(明融本0120)
0115【伊せつらゆきに】−もみちはの色ニわかれすふる物ハ物おもふ秋ノ涙成ケリ 玉スタレあくるもしらすねし物を夢にも見しとおもひけるかな 此二首ハ伊勢カヨメル長恨哥ノ哥也貫之にもあるへし<左>(「もみちはの」伊勢集52、紫明抄・河海抄・一葉抄・休聞抄・紹巴抄・孟津抄・岷江入楚 「玉スタレ」伊勢集55、異本紫明抄・休聞抄・紹巴抄)
  ませたまへるやまと哥(哥$)言の葉をも・もろこしの歌越も
  たゝそのすち越そ・まくらことにせさせ給ふ・いとこまやかに」12ウ
0116【まくらことに】−あけくれのことくさをいへり枕双紙なといふかことし<左>

  ありさまとはせ給ふ・あはれなりつること忍ひやかにそうす
  御返御覧すれハ・いともかしこきハをき所も侍らす・
0117【いともかしこき】−御返事詞
  かゝるおほせことにつけても・かきくらすみたりこゝちになむ
    あらきかせふせきしかけの枯しより小萩かうへそ
0118【あらきかせ】−更衣母返し(明融本0124)
0119【ふせきしかけ】−更衣
  しつこゝろなきなとやうにみたりかはしきを・心おさめさりけ
  る程と御覧しゆるすへし・いとかうしも見えしと覚し
  しつむれと・さらにえしのひあへさせ給はす・御覧しハし
  めしとし月のことさへかきあつめよろつにおほしつゝ
  けられて・ときのまもおほつかなかりしをかくても月日ハ
  へにけりと・あさましうおほしめさる・故大納言のゆい」13オ

  こむあやまたす宮つかへのほいふかく物したりしよろ
  こひハ・かひあるさまにとこそ思ひわたりつれ・いふかひなし
  やとうちのたまはせて・いとあはれにおほしやる・かくても
  をのつから若ミやなとおひ出たまはゝ・さるへきつゐても
  有なんいのちなかくとこそ・思ひねんせめなとのたまハ
  す・かの送り物御らんせさす・なき人のすみかたつねいて
  たりけむ・しるしのかむさしならましかハとおもほすもい
0120【かむさし】−金釵
  とかひなし
    たつねゆくまほろしもかなつてにても玉のありかを(は&を、を=を<朱>)
0121【たつねゆく】−御門(明融本0126)
  そことしるへくゑにかける楊貴妃のかたちハ・いみしき絵し」13ウ

  といへとも筆かきり有けれハいとにほひすくなし・大
  液芙蓉未央柳もけにかよひたりしかたちを・
  からめいたるよそひハうるはしうこそ有けめ・なつかし
0122【からめいたる】−からやうのをんなのかたち也
  うらうたけ成しをおほしいつるに花とりのいろにも
0123【らうたけ成し】−ほけ/\とシタル也(明融本0131)
0124【花とりの】−\<朱合点> 後撰花鳥の色をも音をもいたつらに物うかる身ハすくはかりなり 玄宗美人をもとめられし時の使ヲ花鳥とめされし也(後撰212、異本紫明抄・紫明抄・河海抄・休聞抄・岷江入楚)
  音にもよそ(そ+ふ)へきかたそなき・あさ夕のことくさにはね
0125【かたそなき】−滅後をいへり
  をならへ枝をかはさんと契らせ給ひしに・かなハさりける
  いのちの程そつきせすうらめしき・かせの音むしの
  音につけて物のみかなしうおほさるゝに・弘徽殿に
  ハ久しく・うへの御つほねにもまうのほりたまはす・月
  のおもしろきによふくるまてあそひ越そし給ふ(ふ+ナルイ<朱>、イ#)・いとす」14オ

  さましう物しときこしめす・このころの御けしき越み
  たてまつるうへ人女はうなとハ・かたはらいたしと聞けり・
  いと越し・たち・かと/\しき所ものし給ふ御かたにて・
0126【いと越したち】−最 押 立
0127【かと/\しき】−才 カト/\シ日本
  ことにもあらすおほしけちてもてなし給ふ成へし
  月もいりぬ
    雲のうへも涙にくるゝ秋の月いかに(に$て<朱>)住らむ
0128【雲のうへも】−御門
  浅茅生の宿おほしめしやりつゝともし火越かゝけつ
  くしておき越はします・右近のつかさのとのゐ申の
  こゑきこゆるハうしに成ぬるなるへし・人め越おほして・
  よるのおとゝにいらせたまひても・まとろませ給ふことかたし・」14ウ

  あしたにおきさせ給ふとても・あくるもしらてとおほしい
0129【あくるもしらて】−\<朱合点> 玉スタレアクルモシラスねしものを夢にも見しとおもひかけきや伊せ(伊勢集55、源氏釈・奥入・異本紫明抄・紫明抄・河海抄 明融本付箋08)
  つるにも・猶朝まつりことハをこたらせ給ぬへかめり・物
  なともきこしめさす・あさかれゐのけしきはかりふれ
0130【あさかれゐ】−アサカレイノマ二間アリ日ニ三ト御センヲ供スル也
  させたまひて・大正しのおものなとハいとはるかにおほし
0131【大正しのおもの】−はれの御せんをすゆる物也日ニ二ト昔ハタテマツリシ也<右> 供御也 膳ヲモノ<左>
  めしたれハ・はいせんにさふらうかきりハ心くるしき
  御けしき越みたてまつりなけく・すへてちかうさふらうか
  きりハ男女いとわりなき態かなといひあはせつゝ
  なけく・さるへきちきりこそハ越はしけめそこらの人の
  そしりうらみをもはゝからせ給ふ(ふ$)はす・この御ことにふれ
  たること越ハ・たうり越もうしなはせ給ふ(ふ$ひイ<朱>、イ#)・いまはた」15オ

  かく世中のこと越もおもほしすてたるやうに成行ハ・
  いとたい/\しきわさなりと・人のみかとのためしまて
0132【たい/\しき】−たえ/\しきといふ心也
0133【人のみかと】−漢朝
  引いてさゝめきなけきけり・月日へて若みやまいり
0134【さゝめき】−さゝやきこと也 耳言万(明融本0148)
  給ぬ・いとゝこの世の物ならす・きよらに・およすけたまへれ
  ハいとゆゝしうおほしたり・あくるとしの春坊さた
  まり給にも・いと引こさまほしうおほせと・御うしろミ
  すへき人もなく・又世のうけひくましきこと成けれハ・
  なか/\あやうくおほしはゝかりて・色にもいたさせ給
  はす成ぬるを・さはかりおほしたれと・かきりこそ有けれ
  と・世人もきこえ・女御も御心越(越$)をちゐ給ぬ・かの御」15ウ
0135【世人も】−のもしをそへてよむ也 世人後宇多御諱(*後宇多天皇、諱は世仁、亀山天皇の第二子、在位1284〜87年)


  をハ北のかたなくさむ方なくおほししつミて・越はすらん
0136【をは】−うはをいふ(明融本0151)
  所に・たつねゆかむとねかひ給ひししるしにやつゐに
  うせ給ひぬれハ・またこれを悲しひおほす事かき
  りなし・御子むつになり給ふとしなれハ・このたひハ
  おほししりてこひなきたまふ・年ころなれむつひき
  こえたまへる越・みたてまつりをく悲しひをなむ返々の
  給ひける・今ハ内にのミさふらひたまふ・なゝつに成給へ
0137【なゝつに】−七歳御書始例村上一条ー
  ハ(ハ+御イ)ふミハしめなとせさせたまひて・世にしらすさとうかし
0138【ふみはしめ】−こちう孝経或貞観政要なと儒者タル人さつけ奉ル
  こく越はすれハ・あまりおそろしきまて御覧す・いまハ
  たれも/\えにくみ給はし母きみなくてたにらう」16オ

  たうし給へとて・弘徽殿なとにもわたらせたまふ御
  ともにハ・やかてみすの内にいれたてまつり給ふ・いみ
  しきものゝふ・あたかたきなりとも・みてハうちゑま
0139【あた】−敵
  れぬへきさまの(の+△&し)たまへれハ・えさしはなちたまはす・女
0140【女御子たち】−一品宮前斎院
  御子たちふた所この御はらに越はしませと・なす(す+ら<朱>)ひ
  給へきたにそなかりける・御かた/\もかくれたまはす・今
  より・なまめかしうはつかしけにおはすれハ・いとおかし
0141【なまめかしう】−\<朱合点> 二ノ心アリ嬌タルことをなまめくと云又生ノ字もなまめくといふ<右> 古今秋のゝになまめきたてる女郎花あなかしかまし花も一時<左>(古今1016・古今六帖3659・遍昭集26、河海抄・孟津抄)
  う・打とけぬあそひくさにたれも/\思ひきこえ
  たまへり・わさとの御かくもんハさる物にて・こと笛の音
  にもくもゐをひゝかし・すへていひつゝけはこと/\しう・う」16ウ

  たてそ成ぬへき人の御さま成ける・そのころこまうとのま
  いれる(る+なか)に・かしこきさう人有ける越きこしめして・宮
  の中にめさんことハ・宇多のみかとの御いましめあれハ・
0142【宇多のみかとの御いましめ】−寛平遺誡曰外蕃之人必可召奥者在簾中見之不可直対耳
  いみしう忍ひて・この御子をこうろくわんにつかはす(す$し)た
0143【こうろくわん】−玄蕃寮ノコト也七条しゆしやくニアリ ホツシマラウトノツカサ也
  り・御うしろ見たちてつかうまつる右大弁の(の$<朱>)子のやうに思
  ハせて・ゐてたてまつるに・さう人おとろきて・あまたたひ・
0144【ゐてたてまつる】−つれたてまつる心也
  かたふきあやしふ・国のおやと成て・帝王のかミなき
0145【国のおやと成て】−太上天皇の尊号をえ給へる事をいへり
  くらゐにのほるへきさう越はします人の・そなたにて見
  れハみたれうれふることやあらむ・おほやけのかためと成て・天
0146【みたれうれふること】−須磨ノ浦へうつされ給へると也
  下をたすくるかたにてみれハ又そのさうたかふへしと云・」17オ

  弁もいとさえ(え$え<朱>)かしこきはかせにて・いひかはしたることゝ
  もなむ・いとけうありけるふみなとつくりかはして・
0147【ふみ】−詩文
  けふ明日かへり(り+さり)なんとするにかくありかたきひとにたい
  めむしたるよろこひかへりてハ・悲しかるへき心はへ越
  おもしろくつくりたるに・御子もいとあはれなる句を
0148【御子】−親王をいふ
  つくりたまへるを・かきりなうめてたてまつりて・いみしき
0149【めてたてまつりて】−感情 メテ玉フ<左>
  送り物とも越さゝけたてまつる・おほやけよりもおほくの
  ものたまはす・をのつからことひろこりて・もら(ら+さ)せたまはねと・
  春宮のおほちおとゝなといかなることにかとおほしう
0150【おとゝ】−二条右
  たかひてなん有ける・みかとかしこき御こゝろにやまとさう」17ウ
0151【やまとさう】−我国ニツタヱテ人を相スル事也藤仲直ハ光孝天相廬平ハ高明公相(明融本0158)

  をおほせて覚しよりにけるすちなれハ・いまゝてこの
  君越御子にもなさせ給はさりける越・さう人ハまこと
  にかしこかりけりとおほして・無品の親王の外戚の
0152【無品の親王】−五位也
0153【外戚】−母方ノ事也
  よせなきにてハ・たゝよはさし・我御世もいとさため
0154【よせ】−縁也
  なき越・たゝ人にておほやけの御うしろみ越するなむ・
  行さきもたのもしけなめることゝおほしさためて・い
  よ/\みち/\のさえをならはせ給ふ・きはことにかしこく
  て・たゝ人にハいとあたらしき(き$)けれと・みこと成たま
  ひなハ世のうたかひ越(越$)をひ給ぬへく物し給へは・
  すくようのかしこき道のひとに・かむかへさせたまふにも」18オ
0155【すくよう】−宿曜師事廿八宿ハ九曜行度助人運命(明融本0163)

  おなしさまに申せハ・けむしになしたてまつりて(りて$る)へく
0156【けむしになしたてまつる】−姓を給てたゝ人ニなり給事さかの天皇ノ御時ヨリハしまれり延喜御時高明御子ト申ハ更衣周<チカ>子ノ御腹ニテ源ノ姓を給り侍りそれをひかる源氏ニなそらへ侍り(明融本0164)
  おほしをきてたり・とし月にそへてみやす所の御ことを・
  おほし忘るゝ折なし・なくさむやとさるへき人々
  をまいらせたまへと・なすらひにおほさるゝたにいと
  かたき世かなと・うとましうのミよろつにおほし成
  ぬるに・先帝の四の宮の御かたちすくれたまへるきこえ
0157【先帝】−光孝
0158【四の宮】−薄雲女院御事(明融本0166)
  たかく・をハします・母きさき世になくかしつき・きこえ
  給ふ越・うへにさふらう内侍のすけハ・先帝の御ときの
  人にて・かの宮にもしたしうまいりなれたりけれハ・いはけ
  なく越はしましゝ時よりみたてまつり・いまもほのみたて」18ウ

  まつりて・うせ給ひにしミやす所の御かたちににたまへ
  る人を三代のみやつかへにつたはりぬるに・えみたて
0159【三代】−光孝 宇多 醍醐(明融本0167)
  まつりつけぬ越・きさいの宮の姫君(君$)みやこそ・いとよう
  おほえてをいり(り$)出てさせ給へりけれ・ありかたき御
  かたち人になんとそうしけるに・まことにやと御心とま
  りてねんころにきこえさせ給ひけり・はゝきさきあ
  なおそろしや春宮の女御のいとさかなくて・きり壺
  の更衣のあらはにはかなくもてなされにしためしも・
  ゆゝしうと覚しつゝみて・すか/\しうもおほしたゝ
  さりける程に・きさきもうせ給ひぬ・心ほそきさま」19オ

  にて越はしますに・たゝわか女み子たちのおなしつ
  ら(ら+に)思ひきこえんと・いとねんころにきこえさせたまふ・
  さふらふ人々御うしろ見たち御せうとの兵部卿の
0160【御せうと】−薄雲女院御あになり(明融本0171)
  御子(御子=△△イ、イ#)なと(と+△イ、イ#)・かく心ほそくて越はしまさむよりハ・内すみ
  せさせ給て御こゝろもなくさむへくなとおほし成て
  まいらす(す$)せたてまつり給へり・藤つほときこゆ・けに御
  かたちありさまあやしきまてそおほえたまへる・これハ
  人の御きハまさりて・そおほえたまへる(そおほえたまへる$)思ひなしめてた
  く・ひともえおとしめきこえ給はねハ・うけはりてあかぬ
0161【うけはりて】−うけ引心也 承諾<ウケハリ>(明融本0174)
  事も(も$)なし・かれは人のゆるしきこえさりしに・御心」19ウ
0162【かれは】−更衣(明融本0175)

  さしあやにく成しそかし・おほしまきるとハなけれと・
0163【おほしまきる】−御門御気色
  をのつから御心うつろひてこよなうおほしなくさむやうな
  るに(に$)も・あはれなるわさ成けり・けむしの君ハ御
  あたりさりたまはぬをましてしけくわたらせたまふ
  御かたハえはちあへたまはす・いつれの御かたも・我人
  におとらんとおほいたるやハある・とり/\にいとめて
  たけれと・うちおとなひたまへるに・いとわかううつくしけ
  にて・せちにかくれ給へと・をのつからもりみたてまつる・はゝ
  ミやす所もかけたにおほえ給はぬ越・いとようにたまへり
0164【かけたにおほえ給はぬ】−\<朱合点> 後撰なき人のかけたにみえぬやり水ノソコハ涙をなかしてそこし(後撰1402・伊勢集469、花鳥余情・休聞抄・孟津抄・岷江入楚)
  と内侍のすけのきこえけるを・わかき御心ちにいと哀と」20オ
0165【わかき御心ち】−源氏(明融本0178)

  思ひきこえ給て・常にまいらまほしくなつさい(い=ひイ、ひイ#)みたてま
0166【なつさい】−なるゝ心也 昵近
  つらはやとおほえたまふ・うへもかきりなき御おもひとちに
0167【御おもひとち】−おもふとし也 共也万(明融本0180)
  て・なうとみ給そあやしくよそへきこえつへき心ちなん
  する・なめしとおほさてらうたくし給へ・つらつきま
0168【なめし】−無礼 軽(明融本0181)
  みなとハいとようにたりしゆへかよひてみえ給ふも・
  にけなからすなむなときこえつけ給つれハ・おさなこ
  こちにも・はかなき花もみちにつけても・心なしと(なしと$さしをイ、イ#)みえたて
  まつるこよなう心よせきこえたまへれハ・こきてんの女御
  又この宮とも・御なかそは/\しきゆへうちそへて・本より
  のにくさもたちいてゝ(ゝ+ものし)と(と+おほしたり・世にたくひなしとイ、イ#)みたてまつりたまひ・名たかう」20ウ

  越ハするみやの御かたちにも・猶にほはしさハたとへん方
  なく・うつくしけなる越・世のひとひかるきみときこゆ・
0169【ひかるきみ】−亭子院第四ノ御子アツヨシノ親王玉ヒカル宮ト申ニタトフル也
  藤つほならひたまひて・御おほえもとり/\なれは・
  かゝやく日の宮ときこゆ・この君の御わらハすかた・いとかへ
0170【かゝやく日の宮】−上東門院世人カヽヤク藤ツホト申
  まうくおほせと・十二にて御けんふくし給ふ・ゐたちおほ
0171【十二にて御けんふく】−漢朝十二冠為本一条院十二宇治関白十二歳ヲ一周源氏准親王元家
0172【ゐたち】−いつたちつする也(明融本0185)
  しいとなみて・かきりあることに事をそへさせ給ふ・
  ひとゝせの春宮の御元服南殿にて有しきしき・
0173【南殿】−於紫宸殿例冷泉院花山院
  よそほしかりし御ひゝきにおとら(ら$さ<朱>)せ給はす・ところ
0174【よそほしかりし】−粧
  /\の饗なとくらつかさ・こくさう院なとおほやけこと
0175【くらつかさ】−内蔵寮
0176【こくさう院】−穀倉院(明融本0187)
  につかうまつれる・おろそかなる事もそと・とりわき」21オ

  おほせ事ありてきよら越つくしてつかうまつ(つ+れ)り越
  ハします殿のひむかしのひさし・ひんかしむきにいし
0177【殿】−テン(明融本0189)
0178【ひんかしむきに】−親王元服ニハ大床子立二脚出御源氏元服ニハ移殿上侍子シ
0179【いし】−御門御座事也(明融本0190)
  たてゝ・くわんさの御座ひきいれの大臣の御座・御
0180【くわんさの御座】−元服スル人ノ座也(明融本0191)
0181【ひきいれの大臣】−加くわんの人ナリ 摂政
  まへにあり・さるの時にて(て&て)源氏まいりたまふ・みつ
0182【みつら】−総角
  らゆいたまへるつらつき・かほの匂ひ・さまかへ給はん事
  おしけなり・大蔵卿くら人つかうまつる・いときよらな
0183【大蔵卿くら人】−蔵人頭の大蔵卿と云心也理髪ノ人をいふ一説両人歟
  る御くしをそく程心くるしけなるを・うへハミやす所のミ
  ましかハと・おほしいつるにたへかたき越・心つよくねんし
  かへさせ給ふ・かうふりし給て・宮す(宮す$御やすみ<朱>)ところにまかて給
0184【御やすみところ】−休所下侍殿上無明門脚也
  て・御そたてまつりかへて・おりてはいしたてまつり給ふ」21ウ
0185【御そたてまつりかへて】−童体赤闕腋無為袍黄本式云説アリテ近代用之アサキ黄ナルヲ浅黄トヨム源氏時代黄袍宜歟

  さまに・みな人涙おとし給ふ・御かとはたましてえ
  忍ひあえ給はすおほしまきるゝ折もありつる・昔
  の事・とりかへし悲しくおほさる・いとかうきひは
0186【きひは】−いとけなき心也 稚(明融本0193)
  なる程ハあけおとりやとうたかはしくおほされつる
0187【あけおとり】−元服してわるくなるをいふ(明融本0194)
  を・あさましううつくしけさそひ給へり・ひきいれ
0188【うつくしけさ】−愛常<ウツクシ>万
  の大臣の御子はらにたゝひとり・かしつきたまふ御むすめ
0189【御子はら】−御門姓也
0190【御むすめ】−葵上事也(明融本0195)
  春宮よりも・御けしきある越覚しわつらふ事あり
  けり・こ(こ+の)きみにたてまつらんの御心なりけり・うちにも
  御けしき給はらせ給へりけれハ・さらハこのおりのうしろミ
  なかめる越・そひふしにもと・もよほさせ給けれハ・さ」22オ

  おほしたりさふらひにまかて給て・人々おほミきなとまい
0191【さふらひ】−内殿上事(明融本0198)
0192【おほみき】−御酒<ミキ>
  る程に(に$<朱墨>)・御子たちの御さのすゑにけむしつきたま
  へり・おとゝけしきはみきこえ給ふ事あれと・物の
  つゝましき程にて・ともかくもあへしらいきこえたま
  ハす・御まへより内侍宣旨うけたまはりつたへて・おと
  とまいりたまへきめしあれハまいりたまふ・御ろくの物
  うへのみやうふとりて給ふ・しろきおほうちきに御そ
0193【うへのみやうふ】−うへの女房なといふにおなし
0194【しろきおほうちき】−白大褂ニ女房ノ衣一領そへて加冠の禄に給ふなり
  ひとくたりれいのことなり・御さか月のつゐてに
    いときなきはつもとゆひになかき世を契るこゝろハ
0195【いときなき】−御門(明融本0201)
0196【いとき】−或け
  むすひこめつや御心はへありておとろかさせ給ふ」22ウ
0197【むすひ】−副臥

    むすひつる心もふかきもとゆひにこきむらさきの
0198【むすひつる】−おとゝ(明融本0203)
0199【もとゆひにこきむらさきの】−本結色昔男女共以累糸
  いろしあせすハとそうしてなかハしよりおりて・ふたう
0200【あせす】−替
0201【なかはしよりおりて】−清殿より南殿へかよふ廊をいふ下階アリ
  し給ふ・ひたりのつかさの御馬・蔵人ところのたかすへ
0202【ひたりのつかさ】−左馬寮
0203【たかすへて】−於禁中鷹引御事無例歟以私之儀書之歟
  てま(ま$)たまはり給ふ・みはしのもとに御子たちかむたちめ
  つらねてろくとも・品々にたまはり給ふ・そのひのおまへ
  のおりひつもの・こ物なと右大弁なんうけたまはりて
0204【おりひつ】−折櫃
0205【こ物】−籠物
  つかうまつらせける・とむしき・ろくのからひつともなと
0206【とむしき】−屯食のつゝミいゝとてきしきの時しよしにくめるいゝナリ(明融本0206)
  所せきまて・春宮の御元ふくのおりにも数まされ
  り・なか/\かきりもなくいかめしうなむ・その夜おとゝ
  の御さとにけむしのきみまかてさせ給ふ・さほう世にめつ」23オ

  らしきまて・もてかしつききこえ給へり・いときひは
0207【きひは】−稚
  にて越はしたるをゆゝしう・うつくしと思ひきこえ
  たまへり・女きみハ・すこし・すこ(こ$<朱>クイ、イ#)したまへる程・いとわ
0208【女きみはすこしすくしたまへる程】−源氏ハ十二あふひの上ハ十六なる事をいふ(明融本0207)
  かうをハすれハにけなふはつかしとおほいたり・此お
  とゝの御おほえいとやむことなきに・はゝ宮内のひとつ
  きさいはらになんをハしけれハ・いつかたにつけても
  いと花やかなるに・この君さへこ(こ$か<朱>)くをはしそひぬれハ・
  東宮の御おほちにて・つゐに世中をしり給へき右の
0209【御おほち】−二条
  おとゝの御いきをひハ物にもあらすおされたまへり・御ことも
  あまたはら/\にものしたまふ・宮の御はらハ蔵人の少将にて・」23ウ
0210【御はら】−兄弟
0211【蔵人の少将】−後致仕太政大臣(明融本0209)

  いとわかうおかしきを・右のおとゝの御なかハ・いとよからねと
0212【右のおとゝ】−二条
  え見過したまはて・かしつき給ふ四の君にあはせ給へり・
  おとらすもてかしつきたるハ・あらまほしき御あはひともになん・
  けむしの君ハうへの常にめしまつはせは・心やすくさとすみも
  えし給はす・心のうちにハ・たゝ藤つほの御ありさまをたくひ
  なしと思ひきこえて・さやうならん人越こそ見め・にる人なく
  もをハしけるかな・おほいとのゝ君いとをかしけにかしつかれ
  たるひとゝハみゆれと・心にもつかすおほえ給て・おさなきほと
  の心つか(つか$)ひとつにかゝりて・いとくるしきまてそ越ハしける・
  おとなに成給て後ハ・有しやうにみすのうちにもいれたまはす・」24オ
0213【有しやうに】−此段詞十二ヨリ後事含也

  御あそひの折/\・こと笛の音にきこえかよひ・ほのかなる御声
  をなくさめにて・うちすみのミこのましうおほえ給・五六日さ
  ふらひ給て・おほい殿に二三日なとたえ/\(/\+に<朱>)まかて給へと・たゝ今ハ
0214【今は】−源氏<左>
  おさなき御程につミなく覚しなして・いとなミかしつき聞え給ふ・御
  かた/\の人々・世中にをしなへたらぬをえりとゝのへを(を$す<朱>)くりてさふ
  らはせ給ふ・御心につくへき御あそひをし・おほな/\おほしいた
0215【おほな/\】−わさとかましき事(明融本0210)
  つく・うちにハ本のしけいしや(や+を<朱>)御さうしにて・はゝミやす所の御
0216【しけいしや】−淑景舎(明融本0211)
0217【さうし】−曹司
  かたの人々まかてちらすさふらはせ給ふ・さとのとのハ・修理(修理=もくすりイ)
0218【さとのとの】−法興院二条京極之様也
0219【修理】−ー寮
  しきたくミつかさに・宣旨くたりて・になうあらためつく
0220【たくみつかさ】−内匠<タクミ>寮
  らせ給ふ・もとの木たち山のたゝすまひおもしろき」24ウ

  所なりける越・いけの心ひろくしなして・めてたくつくり
0221【いけの心ひろく】−\<朱合点> ちりぬともかけをやとハん藤の花池の心そあるかひもなき躬恒(躬恒集91、河海抄・休聞抄・孟津抄・岷江入楚)
0222【いけの心】−池ノ中をいふ
  のゝしる・かゝるところに思ふやうならん人をすへてすまはや
0223【かゝるところに】−つゐにハねかひのことく紫上のちにハ二条院にすみ給へるなり
  とのミ・なけかしうおほしわたる・ひかる君と云名ハこ
0224【こまうと】−高麗人
  まうとのめてきこえて・つけたてまつりけるとそ・いひ
  つたへたるとなむ」25オ

彼源氏物語事於長府書畢従京都豊藝為和談上使
聖護院殿様御下向候然者人々御在府候桐壺巻大門跡
様御筆候夢(△&夢)浮橋巻新門跡様御筆候大門跡
様御名道増様與申新門跡様御名道澄様與申也
永禄七年七月八日 吉見大蔵大輔正頼(花押)」25ウ

二校了<朱>(表表紙蓋紙)
桐ツボヨリ梅かえ迄/巻一校了(16丁袋綴中紙片)