《書誌》
「桐壺」の筆跡は、第1丁裏までは、筆線も太くややおおぶりな筆跡である。ところが、第2丁表からは筆線もやや細く丸みを帯びた書体に変わっている。よって、親本の定家本においても藤原定家自筆は、第1丁裏までで、以下は周辺の祐筆の人が書写したものであろう。
《翻刻資料》
凡例
1 本稿は、『源氏物語(明融本)氈x(東海大学蔵桃園文庫影印叢書 1990(平成2)年6月 東海大学出版会)を現状のまま翻刻した。よって、後人の筆が加わった本文様態である。後人の筆を除いた青表紙本復元本文は別途に作成した。
2 行間注記は【 】− としてその頭に番号を記した。また付箋注記は、付箋番号を記した。
3 小字及び割注等は< >で記した。/は改行を表す。また漢文の訓点等は< >で記した。
4 合(掛)点は、\<合点>と記した。朱句点は「・」で記した。
5 本文の校訂記号は次の通りである。
$(ミセケチ)・#(抹消)・+(補入)・&(ナゾリ)・=(併記)・△(不明文字)
( )の前の文字及び( )内の記号の前の文字は、訂正以前の文字、記号の後の文字が訂正以後の文字である。ただし、なぞり訂正だけは( )の前の文字は訂正後の文字である。訂正以前の本行本文の文字を尊重したことと、なぞり訂正だけは元の文字が判読しにくかったための処置である。
6 該本には、朱筆・墨筆による書き入れが存在するが、モノクロ写真版に拠ったために朱と薄墨との差異が不分明であるので区別していない。ただし、注記の位置については、右側・左側・頭注等は< >と( )で記した。私に付けた注記は(* )と記した。
7 各丁の終わりには」の印と丁数とその表(オ)裏(ウ)を記した。
8 なお、該本には、朱点で濁点符号が付いているが、省略した。
「きりつほ」(題箋)
「上冷泉殿為和卿御息明融<定家卿字形/御似せ候哉>琴山(印)」(遊紙表貼紙)
いつれの御時にか・女御更衣あまたさふ
らひ給けるなかに・いとやむことなきゝはには
0001【いとやむことなきゝは】−きハめて上臈の品をいふ無止事と書
あらぬか・すくれて時めき給ありけり・はしめより
0002【すくれて時めき給ありけり】−桐壺更衣也
0003【はしめより我はと】−桐壺更衣より前に入内して我こそ寵を得んと思也
我はと思あかり給へる御方/\・めさましき
0004【御方/\】−弘徽殿の女御抔也
0005【めさましき】−妬さま也
ものにおとしめそねみ給・おなしほと・それより
0006【おとしめそねみ】−わひ消して妬む心也
0007【おなしほと】−桐壺の更衣と同し位也
下らうの更衣たちは・ましてやすからす
あさゆふの宮つかへにつけても・人の心を
0008【人の心をのみうこかし】−下臈の更衣嫉妬の心をうこかす也
のみうこかし・うらみをおふつもりにやありけん・」1オ
0009【うらみをおふつもりに】−人の恨をおひぬれハ苦しき事ある習也
いとあつしくなりゆき・物心ほそけにさと
0010【いとあつしく】−更衣也
0011【あつしく】−異例かち也(*本文「つ」の左下に濁点符号あり)
0012【さとかちなるを】−里住かちにある也
かちなるを・いよ/\あかすあはれなる物におも
0013【いよ/\あかす】−御門の御こゝろ
ほして・人のそしりをも(も#も)えはゝからせ給はす・
世のためしにもなりぬへき御もてなし也・
かむたちめ・うへ人なとも・あいなくめをそ
0014【かむたちめ】−公卿をいふ也(大島本0012)
0015【うへ人】−殿上人をいふ也(大島本0013)
0016【あいなく】−あちきなき心也愛なき也
はめつゝ・いとまはゆき人の御おほえなり・も
0017【いとまはゆき】−人のそねみてうちもむかはぬ形也
ろこしにもかゝることのおこりにこそ世も
0018【かゝることの】−好色を愛する事也
0019【おこりに】−起と驕と両儀也起よし
みたれあしかりけれと・やう/\あめのしたにも」1ウ
0020【やう/\】−心をつくへし
あちきなう・人のもてなやみくさになりて・
0021【あちきなう】−セン方ナキ心也(大島本0015)
0022【くさ】−種
楊貴妃のためしもひきいてつへく(く=う)なりゆ
0023【楊】−\<合点> アクル
くに・いとはしたなきことおほかれと・かたし
0024【かたしけなき御心はへ】−帝の御気色ひとつを頼むはかり也
けなき御心はへのたくひなきをたのみにて
0025【御】−ミ
ましらひ給・ちゝの(の$)大納言はなくなりて・はゝ
0026【ましらひ】−交の字也
0027【大納言】−ヂヤウ 津云よみくせ口伝あり(*「津」は「孟津抄」をさす)
0028【はゝ北の方】−更衣の母きたの方をいふ事也
北の方なむ・いにしへの人のよしあるにて・おや
0029【人のよしあるにて】−故ありてたゝならぬ人にてといふ心也
0030【おやうちくし】−句をきりてよむ也
うちくしさしあたりて世のおほえはなやかなる
0031【はなやか】−声花
御方/\にもいたうおとらす・なにことのきし/きをも」2オ
0032【きしき】−儀式
もてなし給けれと・ゝりたてゝはか/\しき(き+御)うしろ
みしなけれは・事(事+と)ある時は猶より所なく心ほそ
0033【事とある時は】−と晴わさなとある時なるへし
け也・さきの世にも御ちきりやふかゝりけん・世に
0034【さきの世にも】−\<合点>
なくきよらなる・たまのをのこみこさへうまれ
0035【きよらなる】−清の字也ほめたる詞也
0036【たま】−玉
0037【たまのをのこみこ】−光源氏也 誕生也(大島本0020)
給ひぬ・いつしかと心もとなからせ給て・いそきまい
0038【いつしかと】−御門御心也いつかと云心也
0039【まいらせて御覧するに】−源氏の君を御門の御覧する也
らせて御覧するに・めつらかなるちこの御かたち
なり・一のみこは右大臣の女御の御はらにてよせ
0040【よせ】−縁也
越もくうたかひなきまうけの君と世にもてか/しつきゝこゆれと」2ウ
・この御にほひにはならひ給へくもあらさりけれ
はおほかたのやむことなき御おもひにて・この君
をはわたくし物におもほしかしつき給事かき
りなし(し+はゝ君)はしめよりをしなへての・うへ宮つかへし
給へきゝはにはあらさりき・おほえいとやむことな
く上すめかしけれと・わりなくまつは(は=ワ)させ給あまり
0041【上すめかし】−シタリカホナル事也(大島本0026)
に・さるへき御あそひのおり/\なにことにもゆ
へあることのふし/\にはまつまうのほらせ給
0042【ふし/\】−節々
0043【まうのほらせ給】−マイリノホル也(大島本0029)
・ある時にはおほとのこもりすくしてやかて」3オ
0044【おほとのこもり】−寝事也
0045【やかて】−其マヽ宮ツカエ給也
さふらはせたまひなとあなかちにおまへさらす
もてなさせ給しほとにをのつからかろき方
にも見えしを・このみこうまれ給てのちはいと心
ことにおもほしをきてたれは・坊にもようせす
0046【坊にも】−東宮ヲ申也(大島本0032)
はこのみこのゐ給へきな(な+ン)めりと一のみこの女御は
おほしうたかへり・人よりさきにまいり給て
やむことなき御おもひなへてならす・みこたちな
0047【やむことなき】−「かすしらす君かよはひを/のはへつゝなたゝるやとのつゆと/ならなん」(付箋01 後撰394・伊勢集470 *「野分」または「藤袴」の誤貼付か)
ともおはしませはこの御方の御いさめをのみそ」3ウ
0048【この御方の御いさめ】−更衣ノ御イサメ也
猶わつらはしう心くるしう思ひきこえさせ給
ける・かしこき御かけをはたのみきこえなから
おとしめきすをもとめ給人はおほく・わか身は
0049【わか身は】−更衣
かよはく物はかなきありさまにて中/\なる物
思ひをそし給・御つほねはきりつほ也あまた
0050【御】−ミ
の御方/\をすきさせ給てひまなき御まへわ
たりに人の御心をつくし給もけにことはり
0051【御】−ミ
と見えたり・まうのほりたまふにもあまりうち
しきるおり/\はうちはしわたとのゝこゝ」4オ
かしこのみちにあやしきわさをしつゝ・御をくり
むかへの人のきぬのすそたへかたくまさなき
こともあり・又ある時にはえさらぬめたうのとを
さしこめこなたかなた心をあはせてはした
なめわつらはせ給時もおほかり・事にふれてかす
しらすくるしきことのみまされはいといたう思
わひたるをいとゝあはれと御覧して・後涼殿に
0052【涼】−ラウ
本よりさふらひ給更衣のさうしをほかに」4ウ
0053【さうし】−ツホネ
うつさせたまひてうへつほねにたまはす・その
怨ましてやらむ方なし・このみこみつにな
り給年御はかまきのこと一の宮のたてまつりし
におとらす・くらつかさおさめ殿の物をつくして
0054【おとらす】−ルケチメナク
0055【くらつかさ】−内蔵寮(大島本0045)
0056【おさめ殿】−納殿(大島本0046)
いみしうせさせ給・それにつけても世のそし
りのみおほかれと・このみこのおよすけもてお
0057【およすけ】−オトナヒタル也(大島本0047)
はする御かたち心はへありかたくめつらしきまて
見えたまふをえそねみあへたまはす・物の
こゝろしり給人はかゝる人も世にいて」5オ
おはする物なりけりとあさましきまてめをお
とろかし給・その年の夏みやす(す+ン)所はかなき
0058【みやす所】−桐壺更衣事(大島本0048)
心地にわつらひてまかてなんとし給をいとま
さらにゆるさせ給はす・年ころつねのあつ(つ=ヅ)し
さになりたまへれは御めなれて猶しはし心
見よとのみのたまはするに日々にをもり給て
たゝ五六日のほとにいとよはうなれは・はゝ君
なく/\そうしてまかてさせたてまつりたまふ・」5ウ
かゝるおりにもあるましきはちもこそと心つかひ
してみこをはとゝめたてまつりてしのひてそ
いて給・かきりあれはさのみもえとゝめさせ給はす
・御覧したにをくらぬおほつかなさをいふ方
なくおもほさる・いとにほひやかにうつくしけ
なる人のい(い=イ)たうおもやせていとあはれと物を
思ひしみなから事(事=言)にいてゝもきこえやらす
0059【事にいてゝ】−\<合点>
あるかなきかにきえいりつゝものし給を御覧
するにきし方ゆくすゑおほしめされす」6オ
よろつのことをなく/\ちきりのたまはすれと
御いらへもえきこえ給はす・まみなともいとた
ゆけにていとゝなよ/\とわれかのけしきにて
ふしたれはいかさまにとおほしめしまとはる
・てくるまの宣旨な(な+ン)とのたまはせても又いらせ
給て(て+ハ)さらにえゆるさせ給はす・かきりあらむ
みちにもをくれさきたゝしとちきらせ給けるを・
さりともうちすてゝはえゆきやらしとのたま/はするを」6ウ
女もいといみしと見たてまつりて
0060【いみし】−フカキ心
かきりとてわかるゝ道のかなしきに
いかまほしきはいのちなりけり・いとかく思
たまへましかはといきもたえつゝきこえま
ほしけなる事はありけなれと・いとくるし
けにたゆけなれはかくなから・ともかくもなら
0061【たゆけ】−タヘカタキ也
むを御覧しはてむとおほしめすに・けふ
0062【けふはしむへきいのり】−更衣ノ里ニテノ御祈也
はしむへきいのりとも・さるへき人/\うけたま/はれる」7オ
こよひよりときこえいそかせはわりなくおも
ほしなからまかてさせたまふ・御むね(ね+のみ)つとふ
たかりてつゆまとろまれす・あかしかねさせ給
・御つかひのゆきかふほともなきに猶いふせ
0063【いふせさ】−不審也(大島本0056)
さをかきりなくのたまはせつるを・夜中うち
すくるほとになむたえはて給ぬるとてなき
さはけは・御つかひもいとあえ(え$へ)なくてかへりま
0064【あへなくて】−センナキ心歟
いりぬ・きこしめす御心まとひ・なにこともお」7ウ
0065【御】−ミ
ほしめしわかれす・こもりおはしますみこは
0066【みこは】−源氏君三歳ノ時也
かくてもいと御覧せまほしけれとかゝるほとに
さふらひ給・れいなき事なれはまかて給な
むとす・なにことかあらむともおほしたらす
0067【なにことかあらむ】−御子ノ思心也(大島本0059)
・さふらふ人/\のなきまとひうへも御なみた
のひまなくなかれおはしますをあやしと
見たてまつり給へるを・よろしきことにたにかゝ
るわかれのかなしからぬはなきわさなるを
・ましてあはれにいふかひなし・かきりあれは」8オ
0068【ましてあはれに】−死別声ヲノムナカレモセヌ也
れいのさほうにおさめたてまつるを・はゝ北の方
おなしけふりに(に+も)のほりなむとなきこかれ給
て御をくりの女房のくるまにしたひのり
給ておたきといふ所にいといかめしうそのさほ
0069【おたきといふ所】−御ヲクリノ女房車ニシタヒノリ給テ
うしたるにおはしつきたる心地いかはかりかは
ありけむ・ゝなしき御からを見る/\猶おはする
物とおもふか・いとかひなけれははひになり
0070【はひになり】−\<合点>
たまはむを見たてまつりていまはなき人と」8ウ
ひたふるに思なりなんとさかしうのたまひつれ
と・くるまよりもおちぬへうまろひ給へは
・さは思つ・かしと人/\もてわつらひきこゆ
・内より御つかひあり三位のくらひをくり給
0071【三位】−ミツ
よし勅使きてその宣命よむなんかなし
0072【宣命よむ】−少納言墓所ニテヨムサホウアリ(大島本0067)
きことなりける・女御とたにいはせすなりぬる
かあかすくちおしうおほさるれはいまひと
きさみの位をたにとをくらせ給なりけり」9オ
・これにつけてもにくみ給人/\おほかり物思ひ
しり給(給+フ)は・さまかたちな(な+ン)とのめてたかりし事
心はせのなたらかにめやすく・にくみかた(かた$所な)かり
しことな(な+ン)といまそおほしいつる・さまあしき
御もてなしゆへこそすけなうそねみ給
しか・人からのあはれになさけありし御心を・
うへの女房なともこひしのひあへり・なくて
0073【なくてそとは】−\<合点>「ある時はありのすさひににくかり/き/なくてそ人ハこひしかりける」(付箋02 出典未詳、源氏釈・奥入・異本紫明抄・紫明抄・河海抄 大島本0069)
そとはかゝるおりにやと見えたり・はかなく」9ウ
日ころすきて・のちのわさなとにもこま(ま+や)かに
0074【のちのわさ】−弔ノ事也
とふらはせ給・ほとふるまゝにせむ方なう
かなしうおほさるゝに御方/\の御とのゐなと
0075【とのゐ】−宿直也
もたえて(たえて$)し給はす・たゝなみたにひちて
あかしくらさせたまへは見たてまつる人さへ
つゆけき秋也・なきあとまて人のむねあ
0076【つゆけき秋也】−\<合点>
くましかりける人の御おほえかなとそ弘
0077【弘】−コウ
徽殿なとには猶ゆるしなうのたまひける・」10オ
一の宮を見たてまつらせ給にもわか宮の御こひ
しさのみおもほしいてつゝしたしき女房
御めのとなとをつかはしつゝありさまをきこ
しめす・野わきたちてにはかにはたさむき
0078【野わきたちて】−清濁両説
0079【はたさむき】−清濁両義清用
ゆふくれのほとつねよりもおほしいつること
おほくてゆけひの命婦といふをつかはす・ゆ
0080【ゆけひの命婦】−左衛門女
0081【命婦】−\<合点>
ふつくよのおかしきほとにい(い=イ)たしたてさせ給
てやかてなかめおはしますかう(う=カ)やうのおりは」10ウ
御あそひなとせさせ給しに心ことなる物のねを
0082【こと】−琴
かきならし・はかなくきこえいつる事のはも
人よりはことなりし・けはひ・かたちのおもかけ
につとそひておほさるゝに(に$)も・やみのうつゝには
0083【やみのうつゝには】−\<合点>「むはたまのやみのうつゝハさたか/なる/夢にいくらもまさらさりけり」(付箋03 古今647・古今六帖2034、源氏釈・奥入・異本紫明抄・紫明抄・河海抄 大島本0075)
猶おとりけり(り$る、る#)・命婦かしこにま(ま+か)てつきて
かとひきいるゝよりけはひあはれ也・やもめ
0084【かと】−門
0085【ひきいるゝ】−車事也(大島本0077)
すみなれと人ひとりの御かしつきにとかくつ
0086【人ひとりの御かしつき】−更衣一人ニテツクロイ給シ也
くろひたてゝめやすきほとにてすくし給つる」11オ
0087【めやすきほと】−目安程ハ無見苦ホト也<左>
・やみにくれてふしゝつみ給へるほとに草もたか
くなり野わきにいとゝあれたる心地して月影
はかりそやへむくらにもさはらすさしいりたる
0088【やへむくらにも】−\<合点>「とふ人もなきやとなれとくる春ハ/やへむくらにもさハらさりけり」(付箋04 新撰和歌7・古今六帖1306・貫之集207、奥入・異本紫明抄・紫明抄・河海抄 大島本0079)
みなみ越もてにおろしてはゝ君もとみにえ
0089【とみに】−急
物ものたまはす・いまゝてとまり侍かいとうきを
0090【とまり侍】−ナカラウルコト也
・かゝる御つかひのよもきふのつゆわけいり給につ
けてもいとはつかしうなんとて・けにえたふま
0091【たふましく】−堪マシキ也
しくない給・まいりてはいとゝ心くるしう心きもゝ
0092【まいりては】−命婦詞
つくるやうになんと内侍のすけのそうし給し」11ウ
を物おもふ(ふ$ひ)たまへしらぬ心地にもけにこそ
いとしのひかたう侍けれとてやゝためらひて
おほせことつたへきこゆ・しはしはゆめかとのみ
0093【しはしは】−勅院
たとられしをやう/\思ひしつまるにしもさむ
へき方なくたへかたきはいかにすへきわさにか
とも・とひあはすへき人たになきを・しのひて
はまいり給ひなんや・わか宮のいとおほつかなく
つゆけきなかにすくし給も・心くるしうおほさ
るゝを・とくまいり給へなとはか/\しうものたま/はせ」12オ
やらす・むせかへらせ給つゝ・かつは・人も心よはく
見たてまつるらんとおほしつゝまぬにしもあら
ぬ御けしきの心くるしさにうけたまはり(り+も)は
てぬやうにてなん・まかて侍ぬるとて・御ふみたて
0094【御ふみ】−勅書
まつる・めも見え侍らぬに・かくかしこきおほせこと
0095【めも見え侍らぬに】−母君事
をひかりにてなん・とて見給・ほとへはすこしう
ちまきるゝこともやとまちすくす月日にそへて
いとしのひかたきはわりなきわさになん・いは/けなき人を(を$も)」12ウ
いかにと思ひやりつゝもろともにはくゝまぬおほ
つかなさを・いまは猶むかしのかたみになすら
へてものしたまへな(な+ン)とこまやかにかゝせたまへり
宮木のゝつゆふきむすふ風のをとに
こはきかもとを思ひこそやれとあれとえ
見たまひはてす・いのちなかさのいとつらう
思給へしらるゝに松のおもはむことたにはつ
0096【松のおもはむこと】−\<合点> 北方住セ給アタリノ様也
かしう思給へ侍れは・もゝしきにゆきかひ侍(侍+へ)
らむことは(は=ワ)・ましていとはゝかりおほくなん」13オ
・かしこきおほせことをたひ/\うけたまはりなか
らみつからはえなん思たまへたつましき・わか宮
はいかにおもほしゝる(る=ル)にかまいりたまはむ事を
のみなんおほしいそくめれは・ことはりにかな
しう見たてまつり侍(侍+ル)な(な+ン)とうち/\に思たまふ(ふ$へ)る
0097【うち/\に】−内/\也
さまをそうし給へ・ゆゝしき身に侍れは・かくて
0098【ゆゝしき】−イマ/\シキ心也(大島本0093)
おはしますもいま/\しうかたしけなくなんと
のたまふ・宮はおほとのこもりにけり・見たてま
つりてくはしう(う=く)御ありさまもそうし侍」13ウ
0099【御】−ミ
らまほしきを・まちおはしますらむに夜ふ
け侍ぬへしとていそく・くれまとふ心のやみも
0100【心のやみも】−北方詞 \<合点>「ひとのおやの心はやみにあらねとも/こを思道に迷ぬる哉」(付箋05 後撰1102・古今六帖1412・兼輔集127・大和物語61、源氏釈・奥入・異本紫明抄・紫明抄・河海抄 大島本0096)
たへかたき・かたはしをたに・はるく(く$る)許にきこえ
0101【たへかたき】−カタエハルヽ
0102【かたはしをたに】−少ナリトモト也
0103【きこえまほしう侍を】−物語聞マホシキ也
まほしう侍を・わたくしにも心のとかにまかて
0104【わたくしにも】−命婦私ニ也
たまへ・年ころうれしくおもたゝしきついて
0105【おもたゝしき】−面目シキ心也(大島本0098)
にてたちより給し物を・かゝる御せうそこにて
見たてまつる返/\つれなきいのちにも侍かな
・むまれし時より思ふ心ありし人にて故大
0106【むまれし時より】−更衣生シ時也
納言いまはとなるまてたゝこの人の宮」14オ
0107【いまはとなるまて】−又遺言ニハ我ナクナリヌトモ大内ヘ宮ツカヘニマイラセヨト也<左>
つかへのほいかならすとけさせたてまつれ我なく
なりぬとてくちおしう思くつをるなと・返々い
さめをかれ侍(侍+ツ)しかは・はか/\しう・ゝしろみ思
へき(へき$)人もなきましらひはなか/\なるへき事と
思給へなから・たゝかのゆいこんをたかへしと許に
いたしたて侍しを・身にあまるまての御心さしの
よろつにかたしけなきに・人けなきはちをかく
0108【かくし】−隠
しつゝ・ましらひ給ふめりつ(りつ$)るを・人のそねみ
0109【つゝ】−乍
ふかくつもりやすからぬことおほくなりそひ」14ウ
侍つ(つ$)るによこさまなるやうにて・つゐにかく
なり侍ぬれはかへりてはつらくなむ・かしこき
御心さしを思(思+フ)給へられ(られ$)侍(侍+ル)これもわりなき心の
0110【御】−ミ
やみになむといひもやらす・むせかへり給ほとに
夜もふけぬ・うへもしかなん・わか御心なから・あ
0111【うへもしかなん】−命婦詞(大島本0100)
0112【御】−ミ
なかちに人めおとろく許おほされしも・なかゝ
るましきなりけりと今はつらかりける人のち
0113【人のちきりに】−命婦北方ヘ返答ノ詞也
きりになん・世にいさゝかも人の心をまけたる事
はあらしと思ふを・たゝこの人のゆへにて」15オ
あまたさるましき人のうらみをおひしはて/\
は・かう(かう$)ゝちすてられて・心おさめむ方なきに
いとゝ・人わろう・かたくなになりは(は+ン)つ(つ$へ)るも・さき
の世ゆかしうなむと・うち返しつゝ御しほ
たれかちにのみおはしますとかたりてつき
せすなく/\夜いたうふけぬれは・こよひ
すくさす御返(返+リ)そうせむといそきまいる・月
はいりかたのそら・きようすみわたれるに」15ウ
風いとすゝしくなり(なり$吹)てくさむらのむしのこゑ/\
もよほしかほなるもいとたちはなれにくき
草のもと也
すゝむしのこゑのかきりをつくしても
0114【すゝむしの】−ユケイノ命婦(大島本0102)
なかき夜あかすふるなみた哉えも
のりやらす
0115【のりやらす】−車
いとゝしく虫のねしけきあさちふに
0116【いとゝしく】−更衣ノ母(大島本0104)
つゆをきそふるくものうへ人」16オ
0117【くものうへ人】−昇殿シタル人ヲ男女ニカヨハシ云也(大島本0105)
かこともきこえつへくなむといはせ給ふ・おか
しき御をくり物なとあるへきおりにもあらねは
・たゝかの御かたみにとてかゝるようもやとのこ
したまへりける・御さうそくひとくたり・御くし
0118【御】(後出)−ミ
あけのてうとめく物そへ給ふ・わかき人/\
かなしきことは(は=ワ)・さらにもいはす内わたりを(を=ヲ)
あさゆふにならひ(ひ=イ)ていとさう/\しくうへの御
ありさまなと思ひいてきこゆれはとくまいり
0119【とくまいりたまはん事】−若宮ノ参給コト也
たまはん事を・そゝのかしきこゆれと・かく」16ウ
いま/\しき身のそひたてまつらむもいと人
きゝうかるへし・又見たてまつらてしはしも
あらむはいとうしろめたう思ひきこ江(江=え)給て
・すか/\ともえまいらせたてまつり給はぬなりけり・
命婦はまたおほとのこもらせたまはさり
けると(と=を)あはれに見たてまつる・おまへのつほ
せんさいのいとおもしろきさかりなるを御覧
するやうにてしのひやかに心にくきかきりの
女房四五人さふらはせ給て御物かたりせさせ」17オ
給なりけり・このころあけくれ御覧する長
恨哥の御ゑ亭子院のかゝせ給て伊勢つらゆき
0120【亭子院】−テイジノイン 宇多院ノ御事也(大島本0114)
によませ給へるやまとことのはをもゝろこしの
うたをもたゝそのすちをそまくらことにせ
0121【まくらことに】−\<合点>
させ給・いとこまやかにありさま(ま+を)とはせたまふ
あはれなりつる事しのひやかにそうす・御返(返+リ)
御覧すれはいともかしこきはをき所も侍らす
0122【いともかしこき】−北方文章
0123【所】−トコロ
かゝるおほせことにつけてもかきくらすみたり」17ウ
心地になん
あらき風ふせきしかけのかれしより
0124【あらき風】−更衣母返し(大島本0118)
こはきかうへそしつ心なきな(な+ン)とやうにみた
りかはしきを心おさめさりけるほとゝ御覧
しゆるすへし・いとかうしも見えしと・おほ
しゝつむれとさらにえしのひあへさせ給はす・
御覧しはしめし年月の事さへ・かきあ
つめよろつにおほしつゝけられて・時の
まもおほつかなかりしをかくても月日は」18オ
へにけりとあさましうおほしめさる・故大
さし
納言のゆいこんあやまたす宮つかへのほいふか
くものしたりしよろこひは・かひあるさまに
とこそ思(思+わたり)つれいふかひなしやとうちのたまは
せていとあはれにおほしやる・かくてもをのつから
わか宮なとおひいて給はゝ・さるへきついてもあ
りなむいのちなかくとこそ思ねむせめな(な+ン)との
たまはす・かのをくり物御覧せさすなき人
0125【なき人のすみか】−\<合点>
のすみかたつねいてたりけんしるしのかむ」18ウ
たつねゆくまほろしも哉つてにても
0126【たつねゆく】−御門(大島本0121)
0127【まほろし】−方士
たまのありかをそことしるへく
ゑにかける(ける$きたる)楊貴妃のかたちはいみしきゑしと
いへともふてかきりありけれはいとにほひす
くなし・大液芙蓉未央柳もけにかよひ
0128【大液芙蓉未央柳】−\<合点>
0129【央】−ワウ<右> ヤウ<左>
たりしかたちを・からめいたるよそひは・うる
0130【から】−唐
わしうこそありけめありけめ(後出ありけめ$)なつかしうらう
0131【らうたけなりし】−ホケ/\トシタル也(大島本0123)
たけなりしを・おほしいつるに花とりのいろ」19オ
にもねにもよそふへき方そなき・あさゆふの
ことくさにはねをならへ枝をかさはむとち
0132【はねをならへ枝をかさはむ】−\<合点>
「在天願作比翼鳥/在地願為連理枝」(付箋06 白氏文集「長恨歌」)
きらせ給しにかなはさりけるいのちのほと
そ(そ=ソ)つきせすうらめしき・風のをとむしのねに
つけて物のみかなしうおほさるゝに・弘徽殿
には久しく(く$う)うへの御つほねにも・まうのほり
0133【うへの御つほねにもまうのほり給はす】−御門へ参給ハヌ也
0134【御】−ミ
給はす月のおもしろきに夜ふくるまてあそ
ひをそし給なる・いとすさましうものしと
きこしめす・このころの御けしきを見たて」19ウ
0135【御】−ミ
まつる・うへ人女房なとはかたはらいたしときゝ
0136【かたはらいたしときゝけり】−笑止ト思也
けり・いとをしたちかと/\しき所ものしたまふ
0137【をしたちかと/\しき所ものしたまふ御方】−コウキテンノ御心カト/\シキ也
御方にて事にもあらすおほしけちてもて
0138【事にもあらす】−御門ノ愁歎ヲ事ニモアラス思ケチ給也
なし給なるへし月もいりぬ
雲のうへもなみたにくるゝ秋の月
いかてすむらんあさちふのやとおほしめし
やりつゝともし火をかゝけつくしておきお
0139【ともし火をかゝけつくして】−\<合点>「夕殿蛍飛思悄然/秋灯挑尽未能眠」(付箋07 白氏文集「長恨歌」)
はします・右近のつかさのとのゐ申のこゑ
0140【右近のつかさのとのゐ申】−\<合点>
0141【申】−マウシ
きこゆるは・うしになりぬるなるへし・」20オ
人めをおほしてよるのおとゝにいらせ給ても
まとろませ給ことかたし・あしたにおきさせ
給とてもあくるもしらてとおほしいつるにも
0142【あくるもしらて】−\<合点>「たますたれあくるもしらすねし/物を/ゆめにも見しと思ひかけきや」(付箋08 伊勢集55、源氏釈・奥入・異本紫明抄・紫明抄・河海抄 大島本0129)
猶あさまつりことはをこたらせ給ひぬへか(か+ン)めり・
0143【あさまつりことは】−\<合点>「春宵苦短日高起/従此君王不早朝」(付箋09 白氏文集「長恨歌」)
物なともきこしめさすあさかれひのけしき許
ふれさせ給て・大正しのおものな(な+ン)とはいと
0144【正し】−床子
0145【おもの】−御膳
はるかにおほしめしたれははいせんにさふ
らふかきりは心くるしき御けしきを見たて
0146【御】−ミ
まつりなけく・すへてちかうさふらふかきりは」20ウ
おとこ女いとわりなきわさかなといひあはせつゝ
なけく・さるへきちきりこそはおはしましけめ
そこらの人のそしりうらみをもはゝからせ
給はす・この御事にふれたる事をはたう
りをもうしなはせ給ひいまはたかく世中
のことをもおもほしすてたるやうになり
ゆくは・いとたい/\しきわさなりと人のみ
0147【たい/\】−退々
かとのためしまてひきいてさゝめきなけき
0148【さゝめき】−耳言(大島本0134)
けり・月日へてわか宮まいり給ひぬいとゝ」21オ
この世の物ならすきよらにおよすけ給へれは
いとゆゝしうおほしたり・あくる年の春坊さ
たまり給にもいとひきこさまほしうおほせ
と御うしろみすへき人もなく又世のう
けひくましき事なりけ(りけ$)れはなか/\あやう
くおほしはゝかりていろにもいたさせ給はす
なりぬるをさはかりおほしたれとかきりこそあ
りけれと世(世+の)人もきこえ女御も御心おちゐた
0149【世の人】−口伝
0150【御】−ミ
まひぬ・かの御をは北の方なくさむ方なく」21ウ
0151【をは】−ウハヲ云(大島本0136)
おほしゝつみておはすらむ所にたつねゆ
かむとねかひ給ひしゝるしにやつゐにうせ給ひ
ぬれは又これをかなしひおほすことかきりなし
・みこむつになり給年なれはこのたひはお
ほしゝりてこひなき給・年ころなれむつひ
きこえ給つ(つ=へ)るを見たてまつりをくかなしひを
なむ返々のたまひける・いまは内にのみさふ
らひ給・なゝつになり給へはふみはしめなと
せさせ給て世にしらすさとうかしこく」22オ
おはすれはあまり(り+に)おそろしきまて御覧す・
いまはたれも/\えにくみ給はし・はゝきみ
なくてたにらうたうし給へとて弘徽殿なと
にもわたらせ給御ともにはやかてみすの内に
いれたてまつり給・いみしき物のふあたかたきな
りとも見てはうちゑまれぬへきさまのし給
へれはえさしはなち給はす・女(女$)みこたちふ
た所この御はらにおはしませとなすらひ給
へきたにそなかりける・御方/\もかくれ給はす」22ウ
いまよりなまめかしうはつかしけにおはすれは
いとおかしうゝちとけぬあそひくさにた
れも/\思きこえ給へり・わさとの御かくもんは
さる物にてことふえのねにもくもゐをひゝ
かしすへていひつゝけはこと/\しうゝたてそ
0152【こと/\しう】−イト
なりぬへき人の御さまなりける・そのころ
こまうとのまいれるなかにかしこきさうにん
ありけるをきこしめして宮のうちにめさむ/ことは」23オ
宇多のみかとの御いましめあれはいみし
0153【宇多のみかと】−\<合点> 寛平法皇
うしのひてこのみこをこうろくわんにつか
0154【こうろくわん】−鴻臚舘
はしたり・御うしろみたちてつかうまつる
右大弁の子のやうにおもはせてゐてたてま
0155【ゐて】−将
つるに・相人おとろきてあまたゝひかたふき
あやしふ(ふ=ウ)・くにのおやとなりて帝王のかみなき
くらゐにのほるへきさうおはします人のそ
なたにて見れはみたれうれふる事やあらむ
おほやけのかためとなりて天下を(を$)たすくる」23ウ
0156【天】−アメ
方にて見れは又そのさうたかふへしといふ
弁もいとさえかしこきはかせにていひかは
したる事ともなむいとけうありけるふ
みなとつくりかはしてけふあすかへりさり
なむとするにかくありかたき人にたいめん
したるよろこひかへりてはかなしかるへき
心はへをおもしろくつくりたるに・みこもいと
あはれなる句をつくりたまへるをかきり
なうめてたてまつりていみしきをくり物と/もを」24オ
さゝけたてまつる・おほやけよりもおほくの物
たまはす・をのつから事ひろこりてもらさせ
給はねと春宮のおほちおとゝなといかなる
事にかとおほしうたかひてなんありける
みかとかしこき御心にやまとさうをおほせて(て=て)
0157【御】−ミ
0158【やまとさう】−我国ニツタヘテ人ヲ相スル事也(大島本0151)
おほしよりにけるすちなれはいまゝてこの君
をみこにもなさせたまはさりけるを相人は
まことにかしこかりけりとおほして無品の(の$)親
王の外尺(尺=戚イ)のよせなきにてはたゝよはさし」24ウ
0159【外尺】−ケ(戚=サヱ)<右> クワイセキ<左>
わか御世もいとさためなきをたゝ人にておほ
0160【人】−ウト
やけの御うしろみをするなむゆくさきも
たのもしけなめ(め$)ることゝおほしさためて・
いよ/\みち/\のさえをならはさ(さ$)せ給・きは
0161【さえ】−才
ことにかしこくてたゝ人にはいとあたらし
0162【人】−ウト
けれとみことなり給なは世のうたかひおひ
給ぬへく・ものし給へは・すくえうのかしこき
0163【すくえう】−宿曜師事(大島本0155)
みちの人にかむかへさせ給にもおなしさまに
申せは・源氏になしたてまつるへくおほし」25オ
0164【源氏になしたてまつる】−姓ヲ給ハリテ只人ニナリ給事サカノ天皇ノ御時ヨリ始マレリ(大島本0156)
をきてたり・年月にそへてみやす所の御事
をおほしわするゝおりなし・なくさむやと
さるへき人/\(/\+を)まいらせ給へとなすらひにおほ
さるゝたにいとかたき世かなとうとましうの
みよろつにおほしなりぬるに・先帝の四
0165【帝】−タイ
0166【四の宮】−薄雲ノ女院御事(大島本0158)
の宮の御かたちすくれ給へるきこえたかく
おはしますはゝ后世になくかしつきゝこ
えたまふをうへにさふらふ内侍のすけは
先帝の御時の人にてかの宮にもした」25ウ
しうまいりなれたりけれはいはけなくおは
しましゝ時より見たてまつりいまもほの見
たてまつりてうせ給にしみやす所の御かた
ちにゝたまへる人を三代のみやつかへにつ
0167【三代】−光孝 宇多 醍醐(大島本0159)
たはりぬるにえ見たてまつりつけぬを(を=に)・き
さいの宮のひめ宮こそいとようおほえて
おひいてさせ給へりけれありかたき御か
たち人になんとそうしけるにまことにや
と御心とまりてねむころにきこえさせ給けり・」26オ
はゝきさきあなおそろしや春宮の女御の
いとさかなくてきりつほのかういのあらはに
0168【いとさかなくて】−御心
はかなくもてなされにしためしもゆゝしう
0169【ゆゝしう】−アシキコト也
とおほしつゝみてすか/\しうもおほしたゝ
さりけるほとに后もうせ給ひぬ・心ほそき
さまにておはしますにたゝわか女みこ(女みこ$宮)た
ちのおなしつら(おなしつら$やう)に思きこえむといとねむ
ころにきこえさせ給さふらふ人/\御うしろ
0170【さふらふ】−候
みたち御せうとの兵部卿のみこなとかく」26ウ
0171【御せうと】−薄雲ノ女院ノアニ也(大島本0160)
0172【みこ】−宮
心ほそくておはしまさむよりは・うちすみ
0173【うちすみ】−内住
せさせ給て御心もなくさむへくなとおほし
なりてまいらせたてまつり給へり・ふちつほと
きこゆ・けに御かたちありさまあやしきまて
そおほえ給へる・これは人の御きはまさり
て思ひなしめてたく人もえおとしめきこえ
給はねはうけはりてあかぬことなし・かれは
0174【うけはりて】−承諾(大島本0161)
0175【かれは】−更衣(大島本0162)
人のゆるしきこ江(江=え)さりしに御心さしあや
にくなりしそかし・おほしまきるとは」27オ
なけれとをのつから御心うつろひてこよなう(う$く)
おほし(おほし$)なくさむやうなるもあはれなるわさ
なりけり・源氏のきみは御あたりさり給はぬ
をましてしけくわたらせ給御方はえはち
あへたまはす・いつれの御方も我人におとらむ
とおほいたるやはあるとり/\にいとめてたけ
れとうちおとなひ給へるにいとわかうゝつくし
0176【いとわかう】−藤壺
けにてせちにかくれ給へとをのつからもり見た
0177【もり見たてまつる】−源氏
てまつる・はゝみやす所もかけたにおほえた」27ウ
まはぬをいとように給へりと内侍のすけの
きこえけるをわかき御心地にいとあはれと
0178【わかき御心地】−源氏(大島本0165)
思きこ江給てつねにまいらまほしく(く=う)なつ
0179【なつさひ】−ナレムツフ也
さひ見たてまつらはやとおほえ給・うへも
かきりなき御おもひとちにてなうとみ給
0180【とち】−共(大島本0167)
そあやしくよそへきこ江(江=え)つ(つ+へ)へき心地なん
する・なめしとおほさてらうたくし給へつ
0181【なめし】−無礼(大島本0168)
0182【らうたく】−イタハル労
らつきまみなとはいと(いと$)ようにたりしゆへ
0183【ゆへ】−由
かよひて見え給(給=給)もにけなからすなむな(な+ン)と」28オ
0184【にけなからす】−ニクカラヌ也<左>
きこえつけ給へれは・おさな心地にもはかなき
花もみちにつけても心さしを・見えたてま
つる(る=り)こよなう心よせきこ江(江=え)給へれは・弘徽殿
女御・又この宮とも御なかそは/\しきゆへ
うちそへて本よりのにくさもたちいてゝもの
しとおほしたり・世にたくひなしと見たて
まつり給ひ・なたかうおはする宮の御かたちにも
猶にほはしさはたとへむ方なくうつく
しけなるを世の人・ひかるきみときこゆ」28ウ
ふちつほならひ給て御おほえもとり/\なれ
はかゝ(ゝ=く)やく日の宮ときこゆ・このきみの御わら
は(は=ワ)すかたいとかへまうくおほせと十二にて
御(御+ン)元服したまふ・ゐたちおほしいとなみて
0185【ゐたち】−居ツタツツスル也(大島本0172)
かきりある事に事をそへさせ給・ひとゝせ
の春宮の御元服南殿にてありしきしき
よそほしかりし御ひゝきにおとさ(さ$ら)せ給はす・
ところ/\のきやうなとくらつかさこくさうゐん/なと」29オ
0186【きやう】−饗
0187【こくさうゐん】−穀倉院(大島本0176)
おほやけことにつかうまつれるおろそかなる
ことも(も+こ)そとゝりわきおほせことありてきよ
らをつくしてつかうまつれり(り=ル$)・おはします
0188【おはします殿】−おハします殿ハ清涼殿
殿のひむかしのひさしひむかしむきにいし
0189【殿】−テン(大島本0177)
0190【いし】−御門ノ御座事イスト云モノヽコト(大島本0179)
たてゝ火んさの御座・ひきいれの大臣の御さ
0191【火んさの御座】−クハン 元服スル人ノ座也 冠者(大島本0180)
御前にあり・さるの時にて源氏まいり給み
つらゆひたまへるつらつきかほのにほひ
さまかへたまはむ事おしけなり・大蔵卿」29ウ
くらひ(ひ=ウ)とつかうまつるいときよらなる御く
0192【御くしをそく】−理髪
しをそくほと心くるしけなるを・うへは
みやす所の見(見+給ハ)ましかはとおほしいつるに
たへかたきを心つよくねむしかへさせ給・
かうふりし給て・御やすみ所にまかてたまひて
御そたてまつりかへておりて(おりて$)はいしたてまつり
給(給+フ)さまにみな人なみたおとし給・みかとは
たましてえしのひあへ給はすおほしまき
る(る=ル)ゝおりもありつるむかしのことゝり返し」30オ
かなしくおほさる・いとかうきひわ(わ=ハ)なるほとは
0193【きひわ】−イトケナキ心也(大島本0186)
あけ越とりやとうたかはしくおほされ
0194【あけをとり】−元服シテワルクナルヲ云(大島本0187)
つるを・あさましうゝつくしけさそひ給
へりひきいれの大臣のみこはらにたゝひと
りかしつき給・おほむ女春宮よりも御け
0195【女】−ムスメ 葵上事(大島本0190)
0196【御】−ミ
しきあるをおほしわつらふ事ありける(る+ハ)この
きみにたてまつらむの御心なりけり・内
にも御けしきたまはらせ給へり(へり$)けれは」30ウ
0197【御】−ミ
さらはこのおりのうしろみなかめるをそ
ひふしにもともよほさせ給けれはさお
ほしたり・さふらひにまかて給て人/\お
0198【さふらひ】−内殿上事(大島本0191)
ほみきなとまいるほと・みこたちの御(御+ン)さのす
0199【みこたちの御さ】−\<合点>
ゑに源氏つき給へり・おとゝけしきはみ
きこ江給事あれと物のつゝましきほとにて
ともかくも(も+え)あへしらひきこ江給はす・おまへ
より内侍せんしうけたまはりつたへて/おとゝまいりたまふへき」31オ
めしあれはまいり給・御ろくの物うへの
0200【うへの命婦】−内命婦也
命婦とりてたまふしろきおほうちきに
御そひとくたりれいの事也御さかつきの
ついてに
いときなきはつもとゆひになかき世を
0201【いときなき】−御門(大島本0195)
ちきる心はむすひこめつや
御心はえありておとろかさせ給
0202【御】−ミ
むすひつる心もふかきもとゆひに」31ウ
0203【むすひつる】−おとゝ(大島本0198)
こきむらさきの色しあせすは
とそうして・なかはしよりおりてふた
うし給・ひたりのつかさの御むまくら人
0204【人】−ウト
所のたかすへてたまはり給・みはしの
もとにみこたちかむたちめつらねて
ろくともしな/\にたまはり給・その日の
おまへのおりひ(ひ=ウ)つものこものなと右大弁
0205【おまへ】−御
なむうけたまはりてつかうまつらせける」32オ
とんしきろくのからひつともなと所せきまて
0206【とんしき】−ツカミイヽトテキシキノ時シヨシニクメルハヽ也(大島本0206)
春宮の御元服のおりにもかすまされり・
なか/\かきりもなくいかめしうなん・その
夜おとゝの御さとに源氏のきみまかて
させたまふさほう世にめつらしきまても
てかしつきゝこえ給へり・いときひはにて
おはしたるをゆゝしうゝつくしと思きこ江(江=え)
給へり・女きみはすこしすくし給へるほと/に」32ウ
0207【女きみはすこしすくし給へるほと】−源氏ハ十二葵ノ上ハ十六ナル事ヲ云(大島本0208)
いとわかうおはすれはにけなくはつかしと
おほいたり・このおとゝの御おほえいとやむ
ことなきに・はゝ宮内のひとつきさいは
らになむおはしけれはいつかたにつけても
いとはなやか(いとはなやか$ものあさやか)なるに・この君さへかくおはし
そひぬれは・春宮の御おほちにてつゐに
世中をしり給へき右のおとゝの御いきをひは
0208【をひ】−ホヒ
物にもあらすをされ給へり・御こともあまた」33オ
はら/\にものし給・宮の御はらは蔵人
0209【蔵人少将】−ウトノ 後致仕太政大臣(大島本0211)
少将にていとわかうおかしきを・右のおとゝ
の御なかは(は=ワ)いとよからねとえ見すくし給
はてかしつき給四の君にあはせ給へり・
おとらすもてかしつきたるはあらまほ
しき御あはひともになん・源氏の君
はうへのつねにめしまつはせは心やすく
さとすみもえし給はす・心のうちには」33ウ
たゝふちつほの御ありさまをたくひな
しと思きこえてさやうならむ人をこそ
見めにる人なくもおはしけるかな・おほ
いとのゝきみいとおかしけにかしつかれ
たる人とは見ゆれと心にもつかすおほえ
給ておさなきほとの(の+御ヒトヘ)こゝろひとつ(ひとつ$)にかゝりて
いとくるしきまてそおはしける・おとなに
なり給てのちはありしやうにみすの内/にも」34オ
いれたまはす・御あそひのおり/\ことふえの
ねにきこえ(こえ$き)かよひほのかなる御こゑをなく
さめにて内すみのみ(のみ$)このましうおほえ給・
五六日さふらひ給ておほいとのに二三日な
とたえ/\にまかて給へとたゝいまはおさ
なき御ほとに(に+よろつ)つみなくおほしなして
いとなみかしつきき(き=キ)こ江(江=え)給・御方/\の人/\
世中にをしなへたらぬをえりとゝのへす」34ウ
くりてさふらはせ給・御心につくへき御(御$)
あそひをしおほな/\おほしいたつく・
0210【おほな/\】−ワサトカマシキ事(大島本0215)
内にはもとのしけいさを御さうしにて・
0211【しけいさ】−淑景舎(大島本0216)
0212【御】−ミ
はゝみやす所の御方(方+/\)の人/\まかてちらす
さふらはせ給・さとの殿はすりしきた
0213【さとの殿】−二条院
くみつかさに宣旨くたりてになうあら
ためつくらせたまふ・もとのこたち山のたゝ
すまひおもしろき所なりけ(りけ$)るを池の」35オ
こゝろひろくしなしてめてたくつくりのゝ
しる・かゝる所におもふやうならむ人をすへ
てすまはやとのみなけかしうおほし
わたる・ひかるきみといふ(ふ+御)名はこまうとの
めてきこえてつけたてまつりけるとそい
ひつたへたるとなむ」35ウ
【奥入01】対此如何 芙蓉似面柳如眉(戻)
【奥入02】在天願作比翼鳥 在地願為連理枝(戻)
【奥入03】たますたれあくるもしらすねし物を
ゆめにも見しと思ひかけきや(戻)
書加之
【奥入04】寛平遺誡
外蕃之人必所召見<シム>者<モノ>在簾中見之
不可直<タヽチニ>対<ムカフ>耳李環<クワイニ>朕已失<セリ>之慎之(戻)」36オ
【奥入05】<古哥也可用此一両首>(小字)
今更にとふへき人もおもほえす
やへむくらしてかとさせりてへ
とふ人もなきやとなれとくる春は
やへむくらにもさはらさりけり(戻)
【奥入06】ま(ま=マ)くらことに あけくれのことくさといふ心也(戻)
【奥入07】かたみのかむさし
長恨哥 伝
指碧衣女取金釵鈿合各折其中
授使者曰為我謝太上皇謹献是物尋(戻)」36ウ
【奥入08】ともし火をかゝけつくして 同長恨哥
夕殿蛍飛思悄然 秋灯挑尽未能眠(戻)
【奥入09】あさまつりことはをこたらせ給
春夜苦<イト>短<ミシカクシテ>日高<タケテ>起<オク> 従是<コレヨリ>君王不早朝<アサマツリコトシタマ>(戻)
【奥入10】右近のつかさのとのゐ申
亥一刻左近衛夜行官人初奏時<終子/四刻>
丑一刻右近衛宿申事至卯一刻
内竪亥一刻奏宿簡(戻)」37オ
【奥入11】延長七年二月十六日当代源氏二人元服垂
母屋壁代撤昼御座其所立倚子御座孫庇第
二間有引入左右大臣座其南第一間置円座二枚
為冠者座<並西面円座前置円座又其/下置理髪具皆盛柳筥>先両大臣被召
着円座引入訖還着本座次冠者二人退下
於侍所改衣装此間両大臣給禄於庭前拝
舞<不着/沓>出仙華門於射場着沓撤禄次冠者二人
入仙華門於庭中拝舞退出参仁和寺帰参先是
宸儀御侍所倚子親王左右大臣已下同候有盃酒御遊」37ウ
両源氏候此座<候四位親王/之次依仰也>深更大臣已下給禄両源
氏宅各調屯食廿具令分諸陣所々(戻)
【奥入12】天慶三年親王元服日屯食事
内蔵寮十具穀倉院十具已上検校太政大臣仰調之衛府
五具<督仰/調之>列立南殿版位東其東春興殿西立辛櫃
十合件等物有宣旨自長楽門出入上卿仰弁官分所々
史二人勾当其事仰検非違使令分給弁官三大政官二
左右近三左右兵衛二左右衛門二蔵人所二内記所一薬殿一
御書所一内竪所一校書殿一作物所一内侍所四
采女一内教坊一糸所一匣殿一(戻)」38オ