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あらすじ
双子の姉妹のみどりとあおいの祖母が死んだ。祖母の部屋から、彼女たちはグリーン=ブルーへと行ってしまう。

 本作品は、世界設定ばらしが非常に多く含まれています。他のGreen-Blue talesシリーズを読んでからの方が、いいかもしれません。


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   碧


                            Green-Blue tales

                              斎木 直樹

     序章 二つの鍵

 昨日、表の並木が色づき始めた中であたし達の祖母が他界した。原因は脳の血管が
詰まったとか何とか、医者は言っていた。
 いつも微笑みながらあたし達のことを楽しそうに見守っていてくれたおばあちゃん
は、母が十一年前に病死し、父が一年中世界を飛び回らなくてはならなくなってから、
ずっとあたし達の面倒を見てくれていた。だから、このことはあたし達に相当なショ
ックを与え、今でも信じられないくらいだ。
 外は雨。薄暗い照明の中で立つ、しとしとという微かな音は葬式にふさわしいと言
えるだろう。
「じゃ、もうそろそろ行くよ」
 夕食を食べ終わると、お父さんは少し暗い声でそう言った。献立はカレーと、卵と
ツナのサラダ。
「お父さん、もう行っちゃうの。せめて今日は、一緒にいられると思ったのに」
 お父さんは、うしろめたそうな表情で口元を緩めた。目の下のくまが痛々しい。お
ばあちゃんが倒れたと言われて飛んで帰ってきて、翌日葬式ではたまらない。
「ああ、ちょっと立て込んでてね。ごめんな。側にいてやりたいんだが」
 私は父の顔へ目をやると、悲しそうにならないように微笑みかける。
「大丈夫よ。どうせ二人だもの」
 そうだな、と父はやっと笑みを浮かべた。
 父を送りに門まで出ると、白い月が細い雨に濡れながら灰色の雲間からそっと顔を
覗かせて、ぼんやりと輝いていた。星は全く見えない。
「雨、上がりそうね」
「うん」
 父の仕事は商社のいわゆるエリートで、海外を年中飛び回っているだけのことはあ
り、お金だけは良く入ってくる。そのかわり、私達と過ごせる時間は少ないのだけれ
ど。
 少し寒気がしたような気がして何気なくポケットへ手をやると、何か固いものの感
触がした。取り出してみる。
「どした?……おばあちゃんの鍵、か」
 あたしも出してみる。その古びた赤銅色の鍵は、街灯の明かりに照らされて、遠く
物想いに耽っているかのように鈍く光っている。一体何を想っているのだろう、おば
あちゃんのことかな。
「これ、どこの鍵かな」
「さあ。家の鍵じゃないことは確かだけれど」
 祖母は、亡くなる半日ほど前に私達を枕元へ呼ぶと、父の前でそれぞれにこの鍵を
手渡した。まるで、遺言を伝えるかのように。その時触れた、彼女の手はまだ温かか
った。
 あたし達は顔を見合わせるとにっとし、明かりのついた誰もいない家の中へ戻った。
鍵穴を見つけだすのだ。
 これはお父さんにも秘密なんだけど、あたし達の間には昔から軽いテレパシーのよ
うなものがあるんだ。ちょっと離れていても感情の変化ぐらいは判るし、相手に触れ
ていれば口を利くように会話もできる。他の人とはできないらしいんだけど、これっ
てやっぱり、双子のたまものかな。




 自分たちの部屋、台所、居間と探索していって、私達はおばあちゃんの部屋に到達
した。
「やっぱり、ここよね」
 私達は、少し緊張していた。まだ小さかった頃、母の病の都合でこの祖母の家で暮
らすようになる前から、ここには誰も中にいないときは入っちゃいけませんよ、中に
入る時はノックしてねと厳しく言い聞かされてきていたのだ。ましてや、この部屋の
中にはまだ火葬されていない祖母の死体がある。
 祖母の遺言で、埋葬は二日後に行うことになっている。しかも、業者が来るので誰
も立ち会うな、ということだ。無宗教だからだろうか、祖父と母の時もそうだったら
しい。私達は二人の墓に行ったことも、葬式以外の法事に出たこともない。
 あたしはそっとノックすると、扉を開いた。焦げ茶の木でできた扉は、軽く悲鳴を
あげて開いた。薄闇の中を探って明かりをつけると、藍色と白の配色のなされた、落
ちつきのある部屋が二、三回点滅し、はっきりとしてきた。ベットでは、おばあちゃ
んがぐっすりと永い眠りを味わっている。
 あたし達の心の中を、不思議な懐かしさが通り過ぎていく。変なの、ここには昨日
入ったばかりなのに――おばあちゃんのいた頃に。
 私達は、部屋を探索し始めた。と、それから三分も経たない間に、私達はとある箱
を見つけた。しっかりとした造りの木の机の一番上の引き出しに、鍵穴の付いたオル
ゴールのように見えるその箱はあった。
「こんなに簡単に見つかって、いいのかしら」
「何となく、つまんないね」
 蓋を開けようとすると、開かない。間違いない、この箱だわ。
 その箱には、色々と細かい細工がしてあった。表面には花や蔓、葉などが気が遠く
なりそうなほど丁寧に彫ってあるのだけれど、その上には軽くニスがかかっているだ
けだった。かなり使い込んであるらしく、鈍く輝く金具はつるつるになってしまって
いる。
「いくわよ」
 私は、軽く深呼吸をしてから自分の鍵を鍵穴に差し込んだ。が、回らない。入るに
は入るのだが、回そうとするとびくともしないのだ。私は一つ舌打ちすると、箱を手
渡した。
 この箱の鍵ではないのなら、これは一体何の鍵なのだろう。もう一つ箱があるのか
しら、とか考えながら鍵を上下左右から観察していると、その身体に凸凹があること
に気づいた。
「開けるよ」
「ええ」
 何かしら、英語みたいね。すごい飾り文字。G、i?いいえ、r……。
「グリ、ん」
 あたしは、鍵を鍵穴に差し込んだ。胸が波打っているのが判る。
「グリーン……」
 私は、鍵を夢中になって擦った。なぜだか、無性に気になる。
「ブ、ルー」
 鍵を回す。かちっと金具がかみ合う音がした。
「グリーン、ブルー?」
 ぐらっ。
 突然、部屋が揺れたような気がした。足場がしっかりしない。
「地震?」
「ううん、何か違うっ」
 東京生まれの東京育ち、地震には慣れていた。でもこれは、部屋じゃない。あたし
達以外の、全てのものが揺れているような気がする。ま、地震ってそういうものだけ
ど。それにこれ、大きいっ。
 足下が滑り、身体が一瞬だけ宙を舞った。吐き気と、強く頭を打ったような衝撃が
あたし達を襲う。何か落ちてきた?
 目の前は黒、黒一色となった。

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Last modified 2007.6.12.
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